21 / 94
2
いいこと
しおりを挟む
「那月、最近何かいい事とかあった?」
その日の夜。食卓について夕食を食べていた時、母がふと那月にそう問いかけた。焼き魚を食べていた手を止めて那月が顔を上げると、母は正面で柔らかい笑顔を浮かべている。
「なっ、なんで?急にそんなこと」
「何となく…、今日はいつもより表情が強ばってないから」
「え…そうかな」
「だから学校でいいことでもあったのかと思ってさ」
自覚がなかった。そんなに自分の表情は強ばっていたのかと、那月は今までを思い返した。何より母に勘づかれないように家では笑っていたはずなのに、強ばっていると思われていたなんて。
「…あ、ちょっとね色々あって。あ、最近は勉強で疲れてたのかも。ほら高校の授業って中学とは違うからさ。でもだんだん慣れてきたから…気持ちが落ち着いたかな」
出来るだけ不安にさせないようにそう言うと、母は少し含み笑いをしてから目尻を下げた。よくそっくりだと言われる母のタレ目が細くなる。
「そっか。大変だもんね、高校の勉強も。無理しないでね」
「う、うん」
「でも、那月が嬉しいと思ったこととかさ、母さんに話したくなったらいつでも話してね。あと辛いことはダメになっちゃう前にね」
那月は、ああやっぱり誤魔化しても母には敵わないなと思った。理由こそ気付いていないと思うが、那月が何か苦悩していることは勘づいているように見える。
でも、母は無理には聞いてこない。あの小学生の時もそうだった。何も言っていなかったのに、突然学校が辛い?と聞いてきた、あの日。
初めは深く理由を聞いてきたが、同級生から嫌がらせをされていて馴染めないという以上のことは話せなかった。トイレで友達にされたことも、それがきっかけだということも。
母は絶対何かあると思ったはず。でも那月が頑なに言おうとしなかったから、母は問いただすのをやめた。そこから転校してからも学校でのことは必要以上に話さなかったが、きっと心配していたんだろう。
自分でも分からないくらいの表情の変化なはず。そんな些細な変化も、母は気付いていた。那月から何か話してくれるのを待っているのだと思う。
「…母さん、心配かけてごめんね」
「んー?何を気にしてんの。母親なんだから心配するのは当然」
「僕、今頑張りたいって思ってるんだ…。だから話せる時が来たら…聞いてくれる?」
那月の問いかけに、母はまたニコリと包むような微笑みを浮かべて「もちろん」と頷いた。
それにホッと胸を撫で下ろし、那月はふと思った。今まで顔が強ばっていたのは、理由が分かる。じゃあ今日急にあんなことを聞かれたのは何故だろう。
表情が強ばっていないのは…、今日何かあったせいか。
そう考えた時、特にいつもと違う出来事、印象に残るようなことなんて1つしか思い当たらなかった。
“覚えなくてもいいけど、とりあえず怖くないよってことで名乗っとくね”
ああ言われても、那月の中に強く焼き付いていて覚えていないはずがない。頭の中に刻印でもされたかのように、彩世の名前がずっと浮かんでいるのだから。
それが表情が強ばっていない理由だとしたら、あれだけ体は緊張していたが、もしかしたら嬉しかったのかもしれないと、と思いながら那月は茶碗の白飯をかきこんだ。
その日の夜。食卓について夕食を食べていた時、母がふと那月にそう問いかけた。焼き魚を食べていた手を止めて那月が顔を上げると、母は正面で柔らかい笑顔を浮かべている。
「なっ、なんで?急にそんなこと」
「何となく…、今日はいつもより表情が強ばってないから」
「え…そうかな」
「だから学校でいいことでもあったのかと思ってさ」
自覚がなかった。そんなに自分の表情は強ばっていたのかと、那月は今までを思い返した。何より母に勘づかれないように家では笑っていたはずなのに、強ばっていると思われていたなんて。
「…あ、ちょっとね色々あって。あ、最近は勉強で疲れてたのかも。ほら高校の授業って中学とは違うからさ。でもだんだん慣れてきたから…気持ちが落ち着いたかな」
出来るだけ不安にさせないようにそう言うと、母は少し含み笑いをしてから目尻を下げた。よくそっくりだと言われる母のタレ目が細くなる。
「そっか。大変だもんね、高校の勉強も。無理しないでね」
「う、うん」
「でも、那月が嬉しいと思ったこととかさ、母さんに話したくなったらいつでも話してね。あと辛いことはダメになっちゃう前にね」
那月は、ああやっぱり誤魔化しても母には敵わないなと思った。理由こそ気付いていないと思うが、那月が何か苦悩していることは勘づいているように見える。
でも、母は無理には聞いてこない。あの小学生の時もそうだった。何も言っていなかったのに、突然学校が辛い?と聞いてきた、あの日。
初めは深く理由を聞いてきたが、同級生から嫌がらせをされていて馴染めないという以上のことは話せなかった。トイレで友達にされたことも、それがきっかけだということも。
母は絶対何かあると思ったはず。でも那月が頑なに言おうとしなかったから、母は問いただすのをやめた。そこから転校してからも学校でのことは必要以上に話さなかったが、きっと心配していたんだろう。
自分でも分からないくらいの表情の変化なはず。そんな些細な変化も、母は気付いていた。那月から何か話してくれるのを待っているのだと思う。
「…母さん、心配かけてごめんね」
「んー?何を気にしてんの。母親なんだから心配するのは当然」
「僕、今頑張りたいって思ってるんだ…。だから話せる時が来たら…聞いてくれる?」
那月の問いかけに、母はまたニコリと包むような微笑みを浮かべて「もちろん」と頷いた。
それにホッと胸を撫で下ろし、那月はふと思った。今まで顔が強ばっていたのは、理由が分かる。じゃあ今日急にあんなことを聞かれたのは何故だろう。
表情が強ばっていないのは…、今日何かあったせいか。
そう考えた時、特にいつもと違う出来事、印象に残るようなことなんて1つしか思い当たらなかった。
“覚えなくてもいいけど、とりあえず怖くないよってことで名乗っとくね”
ああ言われても、那月の中に強く焼き付いていて覚えていないはずがない。頭の中に刻印でもされたかのように、彩世の名前がずっと浮かんでいるのだから。
それが表情が強ばっていない理由だとしたら、あれだけ体は緊張していたが、もしかしたら嬉しかったのかもしれないと、と思いながら那月は茶碗の白飯をかきこんだ。
20
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる