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理由
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彩世は、どもってしまう那月を鬱陶しがらないどころかいつも話せるまで待つ。言いたいことが上手くまとまらないと、「一一ってこと?」と要約して分かろうとしてくれている。
態度や話し方はぶっきらぼうでも、やはりこの人は優しい人だと思いながら、那月は自然とそれに応えられるようになっていた。現に、ここまで世間話ができるのも今までの事を考えたら奇跡に近い。
この遠くて近い距離は、2人しか知らない心地良さと雰囲気が纏っている気がした。
だけど、那月はずっと疑問に思っていた。なぜ彩世は、ここへ来て自分と一緒にいてくれるのか。話してくれるのか。年下の、ましてや男が怖くて他の人より関わりづらい自分とどうして関わってくれるのか。
「……あ、あっえっと、あの、い、彩世先輩」
「なに?食べ終わった?」
「は!!は、はい。それは、なん、は、はい…あの。聞きたい、ことが…」
「ん?なんて?」
「せ、先輩は……なん、で、ここに来て……その、ぼ、僕と…っこうやって…?」
思えば、こうなる前から。那月は彩世に聞きたいことが色々とあった。会っただけで尻餅をついていた時は一言も聞けなかったが。今こうして自分から口を開けられるのも、彩世に慣れてきたということだろう。
失礼な例え方をするなら、襲ってきたり脅かしてくるお化けは怖い。だが、優しかったり普通に話してくれるお化けなら、怖いながらも何度も接していれば慣れてくるような。そんな感覚だと思う。
「あー…、なんでって特に理由はない」
「…えっ」
「ああ、別にからかってる訳じゃないよ。俺も何となくここに来たいだけ」
「あ……そ、ですか、」
質問の答えに拍子抜けていると、彩世は音を立てて立ち上がった。那月がそれに驚いて肩を跳ね上げると、彩世の足はこちらを向く。
「ナツくんのためとかじゃないし、気遣ってる訳でもない。俺が来たい時に来てる。そこに偶然ナツくんがいる。それだけ」
「……は、あ、はい」
「じゃ、また」
ザクザクと足音を立てて、彩世は木々に隠れながら中庭を出て行った。あんなに怖かった男の人と過ごす時間。だが、いつしか那月の中で恐怖とは違う変化が起こっていたのだろう。
気を遣って欲しいわけじゃない。ただ、さっきの彩世の回答は、自分との時間に理由は無いと言われたようなもので。それに少し心がザワザワしている。
一一一そうだ。僕だってここに来るのが好きで、そこに先輩がいるだけ。初めは戸惑ったし怖かったけど、明衣の言ってた通り、もしかしたらこのまま男の人に慣れるかもって頑張ってた。
一一一僕の理由だって、その程度なのに。先輩が僕といる時間に理由なんてあるわけない。別にそれでいいのに、僕は男の人に慣れて克服できればいいのに。先輩が僕をどう思ってるかなんて気にすることないんだ。だけど…
「彩世先輩が何考えてるか分からない以上に、自分が何を思ってるのか分からない…」
綺麗に空になった弁当箱を見つめながら、那月の独り言は風の音でかき消されていく。
慣れる、克服する以上に、那月は彩世の存在から目が離せないような気がした。怖いのに、目を手で覆って見えなくしたいのに、指の隙間からつい覗いて見てしまうような。
そんな初めての感覚に、胸をぎゅっと握りしめた。
態度や話し方はぶっきらぼうでも、やはりこの人は優しい人だと思いながら、那月は自然とそれに応えられるようになっていた。現に、ここまで世間話ができるのも今までの事を考えたら奇跡に近い。
この遠くて近い距離は、2人しか知らない心地良さと雰囲気が纏っている気がした。
だけど、那月はずっと疑問に思っていた。なぜ彩世は、ここへ来て自分と一緒にいてくれるのか。話してくれるのか。年下の、ましてや男が怖くて他の人より関わりづらい自分とどうして関わってくれるのか。
「……あ、あっえっと、あの、い、彩世先輩」
「なに?食べ終わった?」
「は!!は、はい。それは、なん、は、はい…あの。聞きたい、ことが…」
「ん?なんて?」
「せ、先輩は……なん、で、ここに来て……その、ぼ、僕と…っこうやって…?」
思えば、こうなる前から。那月は彩世に聞きたいことが色々とあった。会っただけで尻餅をついていた時は一言も聞けなかったが。今こうして自分から口を開けられるのも、彩世に慣れてきたということだろう。
失礼な例え方をするなら、襲ってきたり脅かしてくるお化けは怖い。だが、優しかったり普通に話してくれるお化けなら、怖いながらも何度も接していれば慣れてくるような。そんな感覚だと思う。
「あー…、なんでって特に理由はない」
「…えっ」
「ああ、別にからかってる訳じゃないよ。俺も何となくここに来たいだけ」
「あ……そ、ですか、」
質問の答えに拍子抜けていると、彩世は音を立てて立ち上がった。那月がそれに驚いて肩を跳ね上げると、彩世の足はこちらを向く。
「ナツくんのためとかじゃないし、気遣ってる訳でもない。俺が来たい時に来てる。そこに偶然ナツくんがいる。それだけ」
「……は、あ、はい」
「じゃ、また」
ザクザクと足音を立てて、彩世は木々に隠れながら中庭を出て行った。あんなに怖かった男の人と過ごす時間。だが、いつしか那月の中で恐怖とは違う変化が起こっていたのだろう。
気を遣って欲しいわけじゃない。ただ、さっきの彩世の回答は、自分との時間に理由は無いと言われたようなもので。それに少し心がザワザワしている。
一一一そうだ。僕だってここに来るのが好きで、そこに先輩がいるだけ。初めは戸惑ったし怖かったけど、明衣の言ってた通り、もしかしたらこのまま男の人に慣れるかもって頑張ってた。
一一一僕の理由だって、その程度なのに。先輩が僕といる時間に理由なんてあるわけない。別にそれでいいのに、僕は男の人に慣れて克服できればいいのに。先輩が僕をどう思ってるかなんて気にすることないんだ。だけど…
「彩世先輩が何考えてるか分からない以上に、自分が何を思ってるのか分からない…」
綺麗に空になった弁当箱を見つめながら、那月の独り言は風の音でかき消されていく。
慣れる、克服する以上に、那月は彩世の存在から目が離せないような気がした。怖いのに、目を手で覆って見えなくしたいのに、指の隙間からつい覗いて見てしまうような。
そんな初めての感覚に、胸をぎゅっと握りしめた。
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