早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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やっと立てるようになった頃には、昼休みが終わる数分前だった。那月は頬の熱さを手で抑えながら中庭を出る。先程のことを思い出すたび、抑えた熱が湧き出てきてしまうようだった。

一一一さっきの話からすると、彩世先輩は僕に対して独占欲があるってこと…?なんで僕!?それにあんな首とか耳にキス…されるとか、人生で初めてすぎて訳分からない…!!

「それに、しばらく中庭に来ないって言ってた…ああ!もう、なんで…」

未だに離れない唇の感覚と彩世の言葉に支配されるまま、顔の熱が収まらないまま那月は廊下を歩き進める。出来るだけ冷静を装って教室に入ったが、中にいた2人だけが那月の様子に気が付いたようだった。

「那月~?どうしたの?それ」
「め、明衣!!なにが!?」
「りんごみたいにほっぺが真っ赤。大丈夫?熱ぶり返したとかじゃない?」
「ああ、大丈夫大丈夫!何ともないよ。これは熱とかじゃなくて…」
「じゃなくて?」
「な、何でもない!あはは…。席戻るね!次の準備しなきゃ」

一一一落ち着けてきたはずなのに、どれだけ赤いんだ僕の顔は!!とにかく今は教室だしあんな事話せない…。後で明衣に相談してみようかな…。

そうして明衣に手を振り後ずさりした時、よそ見をしていたせいで後ろから近付く人影に気付かなかった。

「わっっ!」

背中に誰かとぶつかった衝撃を感じ、那月はよろけて手に持っていた携帯を床に落としてしまった。ぶつかった相手は那月の体を咄嗟に両手で掴んで支える。

那月が驚いてその顔を見上げると、ぶつかったのは相野だった。

「ごめん、大丈夫?篠井くん」
「あ!相野くん!!ご、ごめ…!ごめんね!ぶつかっちゃって…」
「ううん、大丈夫。俺も前見てなかった、ごめんね」

一一一びっくりした…!さっきから注意力散漫になっててやばいな…。あ、しかも携帯の画面つけたまま落としちゃった…。あそこまで吹っ飛んでる!!

「あ、篠井くんの携帯が…俺拾うね!」
「ええ!あっ、ありが……」
「……あっ」
「えっ?はっ…!!」

離れた所に落ちた那月の携帯を拾った相野は、不意にその画面を見てしまったようで慌てて目を逸らす。そして那月にゆっくり差し出した。

「ごめん、携帯見えちゃって…」
「……!!!」

一一一忘れてた!!!携帯で色々調べてたままだった!!!検索欄とんでもないことになってたし、さっきも「キス 男同士」とか「独占欲 男 なぜ」「男同士 好きとは」とか調べちゃってたんだ!!!

「あ、え、えっと…、み、見た、よね?」
「うん…あ!でも俺は…」
「ちょ、ちょ、ちょっとこっち来てください!!」
「え、あ…」

那月は慌てて廊下に相野を呼び、明衣の「何してんだ?」という視線を感じながら扉を閉めた。

「あの、えっと、今見たやつは…その…特に何かあるとかではなくて、」
「検索欄のやつ?すごいたくさん調べてたね」
「ひっ!あ、うん…何となく…だ、だからさっき見たことは気にしないで…」
「でもそんな慌ててるし、わざわざ廊下でそれを言うってことは何かあるんじゃないの?」
「えっ…」

一一一相野くん鋭い…。ていうか爽やかに笑ってるけど、目が笑ってないような…。

「やばいと思ったから俺を呼び出したんじゃない?」
「……っそ、それは」
「そんな焦らなくても大丈夫だよ。別に他の奴には喋らないし。それに今時男の子同士なんて珍しくもないよ」
「そ、そうなの…?」

一一一ネットにはそういう事も書いてあったけど、実際にそう聞くって事は…珍しくないって本当なんだ。自然なことなのかな。

「そうだよ。だからわざわざ言いふらさないけど…んー、ただ…」
「た、ただ…?」
「教えてほしいな。さっき検索してたの…誰とのことなのか」
「……えええ!?」

相野はニコニコと微笑みながら、驚く那月に「しーっ」と指を口の前に立てた。

「教えてくれたら、誰にも言わないよ」
「そっ、それは…えーっと。な、なんでそんなこと聞きたいの?僕の、そんな話…」
「んー…友達の恋バナって気になるじゃん?だから聞きたいだけだよ」
「!!と、友達……」
「そう、俺らもう友達なんだから。だから篠井くんのこと知りたいなって。ダメかな?」

一一一僕に男の子の友達…。いつぶりだろう、小学生の時以来だ…。友達なんて言ってもらえるの。

「…っう、ダメじゃない!う、嬉しい…」

「よかった…。それで、好きな人のことで検索してたの?」

「い!いや、好きな人…っていうか、僕は、今まで好きな人いたことないから…よく分からなくて…。ただ、一緒にいると他の人とは全然違うように感じる人がいて…、そ、それを調べてたんだ」

「へぇ…そうなんだ。それって誰?誰のことで悩んでるの?」

「え、えっと…先輩…」

「先輩…?それって、もしかしてこの前保健室に来た風紀委員の先輩?仲良いって言ってた…あの時篠井くんを送っていった…」

「あ…う、うん。その人なんだ…」

那月の言葉を聞いて相野は穏やかな表情とは一変し、口元をひくっと震わせた相野。

「…キスもなんだ」

そしてボソッと聞こえない程の声で小さく呟いた。那月は友達と言われたことの嬉しさと初めて明衣以外に話した恥ずかしさで、それに気付かず俯いたままだ。

相野はそれ以上聞かずに、顔を上げた那月に笑いかけた。

「そっか…あの人か。ありがとう、教えてくれて」
「あっ、うん…」
「教室戻ろっか。授業始まるし」
「えっ、そ、そうだね」

一一一あ、あれ、驚かれたりせずに、特に何も言われなかった…。本当に聞きたかっただけだったんだ。友達って…嬉しかったし、男友達に先輩のこと話せる時が来るなんて…。

一一一でも、口に出すと余計に感じる。先輩はやっぱり他の人とは違うって…。本当にどうにかしたい、このモヤモヤ…。

「……風紀委員の荻川先輩、か」
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