6 / 19
6
しおりを挟む散々遊んだあと、指を振ると、伯爵とエスポーサの拘束が顔から上だけ解かれた。
「ねぇ、お前たち」
にこりと微笑む白析の男は、とんでもないことを二人に告げる。
「僕はこれが気に入ったから、持って帰ってもいいかい?」
「だ、ダメに決まっているでしょう!」
「そんなこと受け入れられるはずがない…!」
二人とも同時に拒否をする。
カロルはタダとは言わない、と更に説得を募る。
「そうだな…この土地を、この子が死ぬまでずっと繁栄させてあげるならどう?」
「ダメです!」
「う、うむ…そうだ!ダメだ!」
夫は少し言い淀んだが、ハッキリと首を振った。
しかし、カロルに諦める気配はない。
「じゃあ、望む願いをなんでも3つ叶えてあげるよ。それなら?」
「それでいいなんて言う親なんていないわ!」
夫は更に言い淀み、言葉なく首をただ振った。
「えぇ?それでもダメ?じゃあ…」
エスポーサはまったく頼りない夫に少し残念に思いながら、私だけは頑として断り続けると決意する。
カロルが次の条件を出そうとしたところで、ウッ…という短い詰まるような声がした。
三人は一斉に声の在りかに目をやった。
フォワレだ。
彼女はついに、自分を抱く者がいつもの者ではないことに気付いたようで、ウゥーっと唸り出して泣き始めた。
「あっ、あっ…どうしよう…。泣かないでフォワレちゃん」
わたわたと慌てる彼はフォワレの口に指をやって魔法をかけると、無理矢理泣き声を止めて見せた。
フォワレは途端に顔が真っ赤になった。
それを見て怒りの頂点に達したのがエスポーサだ。
「信じられません!ありえないっ!無理矢理泣くのを止めさせるなんて虐待よ!」
「虐待…?すまない、慣れていなくて…」
口を閉ざされても呻いたまま涙が止まらないので、涙も止めてしまおうと振るいかけた指が止まる。
殊勝になったカロルに、エスポーサは言いくるめるチャンスを得たことに気付く。
「よいですか、まず私を自由にしなさい!」
「うん」
カロルはすぐに魔法を解いた。
「では早くフォワレにかけた魔法を解いて、私に返して」
またも、言われた通りにフォワレを返す。
エスポーサはあまりに素直なその態度に瞠目した。
"それほどまでにフォワレのことを気に入ったのだろうか"と思いながら、解放された口を大いに使って泣き叫ぶ我が子をよくあやす。
「…僕では母親にはなれるまいね。母親になる勉強なんて今までしてこなかったし」
「当然です」
「お…ああ、すごいな。すぐに泣き止んだ」
「これでおわかりでしょう?泣き止ませるのに魔法など使う親などいないのですよ」
「いや、反省した。無理矢理泣き止ませたのは悪いことだったね。赤ちゃんって難しいんだねぇ」
反省して感心した様子の彼に、ようやく少しばかり理解されたかと安堵したエスポーサだったが、次の言葉に固まった。
「では、その子に分別が備わるまで待つことにしよう。対価を決めあぐねているなら、後払いにしてあげるから」
ニッコリと笑う彼は指を振る。
果たして、拒絶の言葉をぶつけようと口を開いたエスポーサは、カロルが瞬く間に掻き消えてしまった事に深い絶望を感じる羽目となってしまった。
エスポーサは唇を噛み締める。
死の森の滞在により体調を崩した夫、そして台頭した己自身。全てがカロルの思う壺だった。
常に側に居続けたのはフォワレを守るためだったというのに。
親から無理矢理引き離されたと知れば、フォワレはカロルを心底嫌うだろう。カロルにとってそれは避けたい事のはずだと、その可能性にかけたことは間違いではない。
今だって、できうる限り側にいたのに。
まとめあげた髪を振り乱し、エスポーサは祈念しながら舞踊を始める。
精霊への願いはフォワレの手助けだ。
どうにかフォワレが逃げられるように、今持てる全ての力でエスポーサは踊り、精霊を呼び出し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる