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1 ルーンカレッジ編
004 レニとメリッサ
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レニは、自分のため用意された323号室と書かれた部屋まで来た。女子学生用宿舎に入り、宿舎の管理人ロズウェルに名前を告げると、323号の部屋を使うよう指示されたのだ。男子と同じく、女子用の宿舎も2人部屋だ。つまりこの部屋にもルームメイトがいるわけである。
(もう来ているかしら?)
若干緊張した面持ちで、レニは部屋のドアを開けた。
「あなたが私のルームメイト? 私はメリッサ=ダルースっていうの。寮の生活もルームメイトも初めてなんだ。よろしくね」
いきなり元気のよい声で挨拶された。メリッサはレニよりやや背が高く、燃えるような紅い髪をしたエキゾチックな印象を受ける少女だった。
「こちらこそ、よろしくね。すごいキレイな紅い髪だね」
「ありがとう。そう言われるとうれしいな。私の育ったところだとそんなに珍しくないから、ほめられるたこと多くないの」
メリッサは照れたように笑いながらこたえた。
「私はレニ=クリストバインっていうんだ。シュバルツバルトの生まれよ。あなたはこの辺りの人ではないの?」
「そう、私はモングーの生まれなの。この辺じゃ珍しいわよね」
モングーとはシュバルツバルトのはるか東方に位置するモングー部族国のことである。モングーは草原に住む遊牧民族で、騎馬技術に長けた剽悍な民族である。幾つかの部族に分かれ、部族長により構成される部族会議が最高意思決定機関となっている。モングーの人々はもともと草原にテントを張り生活していたが、豊かな平地の都市を征服した後、貴族など上流階級では都市に住むものも多い。
モング-はもともと文化レベルが高くなかったが、都市に定住するようになった結果、教養ある人間も輩出するようになってきている。しかしそれでもモングーで魔法を扱えるものは極めて少ないのであるが……。
「お話に聞いただけなんだけど、モングーでは魔法に関心のある人や使える人は少ないっていうのは本当?」
「本当よ。モングーの文化、伝統的な考え方では武力、力こそが正義なの。だから戦士でない者は一人前ではない、なんて考えがあるのよ。ま、脳筋ってやつよねー。私からしたら馬鹿じゃないの、と思うけど」
「ははは」
どのように反応してよいか分からないレニは愛想笑いをしてしまう。
「いまモングーはキタイの豊かな都市や土地を支配しているわけだけど、キタイを統治するためには力じゃだめなのよ。そんなことも分からない年寄りたちが部族会議に勢揃いしているのが国のガンだわ」
メリッサは挑戦的な目をしつつニヤリと笑った。
キタイとは、モングーがもともと住んでいた草原地帯から南に位置する豊かな地域である。ホルハ河という長大な河が流れ、太古の昔、その河を中心に文明が発達したという。高い文化を持ち、キタイ自身も国を作っていたが、約50年前に北から侵入したモングーたちの武力に屈し、支配されているのが現状である。
「メリッサって難しい話をするのね。お父さまは偉い人なのかしら?」
「ええ、モングーの部族会議を構成する七氏族の一つ、ジュセン族の長よ。父はモングーでは数少ない開明派でね、これからは魔法が大事になるから私に魔法を学ぶように言ってくれたの。ここに来れたのも父のおかげ」
「そうなんだ、立派なお父様なのね」
レニは自分と父との関係になぞらえてイメージしていたが、それは必ずしも正しい理解ではないかもしれない。
「たぶん、あたなには分からないと思うけど、モングーで魔法を学ぶってことは本当に難しいことなのよ。普通なら絶対親に反対されるし、周りからも軽蔑されるんだから」
メリッサが言ったように、モングーでは武の力こそが求められ、一般的に魔法は胡散臭い妖術のようなイメージが持たれているのである。
「あなたは大丈夫なの?卒業したらモングーに帰るんでしょう?」
「うん、私はこの学校を卒業したらモングーの宮廷魔術師になるわ。その頃には父がモングーの考え方を変えてくれてると信じるしか無いわね。ま、どのみち今のままではモングーに未来はないわ」
「って、なんだか変な話ばっかりしちゃったね。あなたのことも聞かせてよ」
メリッサが親しみを込めて逆襲してきた。
「私の家はシュバルツバルトの伯爵家なの」
「伯爵って詳しくはわからないけど、結構偉い身分の貴族よね?」
メリッサの育ってきた文化では伯爵なる身分はなかったので、分からないのも無理はない。そんなメリッサにレニは好感を持つ。
「まあそうね。侯爵の一つ下の身分よ。父は戦争で活躍して軍人としても結構有名なの」
「へー、凄いわね。でも私の父も負けないわよ」
モングーのメリッサからすれば、やはり強いというのは重要な要素らしい。
「それで学校卒業したらどうするつもりなの?」
「わたしはシュバルツバルトの宮廷魔術師になりたいんだ。父とは違うところで、国に貢献したいの」
やや眼に真剣な色を漂わせてレニは答えた。
「いや、わかるよー。レニもいろいろしょってるものがあるんだね。私たち結構似てるじゃない。仲良くしましょ」
「ええ、私もメリッサと仲良くしたいと思ってるの」
二人は顔を見合わせるとフフっと笑いあった。
(もう来ているかしら?)
若干緊張した面持ちで、レニは部屋のドアを開けた。
「あなたが私のルームメイト? 私はメリッサ=ダルースっていうの。寮の生活もルームメイトも初めてなんだ。よろしくね」
いきなり元気のよい声で挨拶された。メリッサはレニよりやや背が高く、燃えるような紅い髪をしたエキゾチックな印象を受ける少女だった。
「こちらこそ、よろしくね。すごいキレイな紅い髪だね」
「ありがとう。そう言われるとうれしいな。私の育ったところだとそんなに珍しくないから、ほめられるたこと多くないの」
メリッサは照れたように笑いながらこたえた。
「私はレニ=クリストバインっていうんだ。シュバルツバルトの生まれよ。あなたはこの辺りの人ではないの?」
「そう、私はモングーの生まれなの。この辺じゃ珍しいわよね」
モングーとはシュバルツバルトのはるか東方に位置するモングー部族国のことである。モングーは草原に住む遊牧民族で、騎馬技術に長けた剽悍な民族である。幾つかの部族に分かれ、部族長により構成される部族会議が最高意思決定機関となっている。モングーの人々はもともと草原にテントを張り生活していたが、豊かな平地の都市を征服した後、貴族など上流階級では都市に住むものも多い。
モング-はもともと文化レベルが高くなかったが、都市に定住するようになった結果、教養ある人間も輩出するようになってきている。しかしそれでもモングーで魔法を扱えるものは極めて少ないのであるが……。
「お話に聞いただけなんだけど、モングーでは魔法に関心のある人や使える人は少ないっていうのは本当?」
「本当よ。モングーの文化、伝統的な考え方では武力、力こそが正義なの。だから戦士でない者は一人前ではない、なんて考えがあるのよ。ま、脳筋ってやつよねー。私からしたら馬鹿じゃないの、と思うけど」
「ははは」
どのように反応してよいか分からないレニは愛想笑いをしてしまう。
「いまモングーはキタイの豊かな都市や土地を支配しているわけだけど、キタイを統治するためには力じゃだめなのよ。そんなことも分からない年寄りたちが部族会議に勢揃いしているのが国のガンだわ」
メリッサは挑戦的な目をしつつニヤリと笑った。
キタイとは、モングーがもともと住んでいた草原地帯から南に位置する豊かな地域である。ホルハ河という長大な河が流れ、太古の昔、その河を中心に文明が発達したという。高い文化を持ち、キタイ自身も国を作っていたが、約50年前に北から侵入したモングーたちの武力に屈し、支配されているのが現状である。
「メリッサって難しい話をするのね。お父さまは偉い人なのかしら?」
「ええ、モングーの部族会議を構成する七氏族の一つ、ジュセン族の長よ。父はモングーでは数少ない開明派でね、これからは魔法が大事になるから私に魔法を学ぶように言ってくれたの。ここに来れたのも父のおかげ」
「そうなんだ、立派なお父様なのね」
レニは自分と父との関係になぞらえてイメージしていたが、それは必ずしも正しい理解ではないかもしれない。
「たぶん、あたなには分からないと思うけど、モングーで魔法を学ぶってことは本当に難しいことなのよ。普通なら絶対親に反対されるし、周りからも軽蔑されるんだから」
メリッサが言ったように、モングーでは武の力こそが求められ、一般的に魔法は胡散臭い妖術のようなイメージが持たれているのである。
「あなたは大丈夫なの?卒業したらモングーに帰るんでしょう?」
「うん、私はこの学校を卒業したらモングーの宮廷魔術師になるわ。その頃には父がモングーの考え方を変えてくれてると信じるしか無いわね。ま、どのみち今のままではモングーに未来はないわ」
「って、なんだか変な話ばっかりしちゃったね。あなたのことも聞かせてよ」
メリッサが親しみを込めて逆襲してきた。
「私の家はシュバルツバルトの伯爵家なの」
「伯爵って詳しくはわからないけど、結構偉い身分の貴族よね?」
メリッサの育ってきた文化では伯爵なる身分はなかったので、分からないのも無理はない。そんなメリッサにレニは好感を持つ。
「まあそうね。侯爵の一つ下の身分よ。父は戦争で活躍して軍人としても結構有名なの」
「へー、凄いわね。でも私の父も負けないわよ」
モングーのメリッサからすれば、やはり強いというのは重要な要素らしい。
「それで学校卒業したらどうするつもりなの?」
「わたしはシュバルツバルトの宮廷魔術師になりたいんだ。父とは違うところで、国に貢献したいの」
やや眼に真剣な色を漂わせてレニは答えた。
「いや、わかるよー。レニもいろいろしょってるものがあるんだね。私たち結構似てるじゃない。仲良くしましょ」
「ええ、私もメリッサと仲良くしたいと思ってるの」
二人は顔を見合わせるとフフっと笑いあった。
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