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1 ルーンカレッジ編
007 ジルとロクサーヌ
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カツン、カツンと階段を登る足音が聞こえる。音は段々と近づいてくるのが分かる。ジルはその音を立てている人物に心当たりがあった。
「あら、君も屋上に居たのね」
声をかけたのはロクサーヌである。初級クラスに顔を出した後、その足で屋上に登ってきたのである。この2人、なぜか屋上で一緒になることがよくある。
「先生は初級クラスで講演ですか? 可愛い新入生との触れ合いお疲れさまです」
ロクサーヌがニヤリと笑う。ロクサーヌが魔法への欲求の固まりで、事務的な仕事に全く関心がないことをジルは知っていて言っているのである。学園長といいジルといい、皮肉の言える人間がロクサーヌは好きなのだ。人間関係というものはヒリヒリするくらいが調度良いのである。
「そうよ、ちょっと話をしただけだけどね。あとはマリウス先生に任せてきたわ」
「どうせ新入生相手に大上段から話をしたのでしょう? 僕はそんな先生が好きですけど」
ジルは笑顔を見せていたが、レニに見せるのとはまた別の笑みであった。
「あら嬉しいけれど、教員に向いていないのは自分でもよく分かっているわ。マリウス先生は魔術師としては私に遥かに及ばないけど、教育者としては確かに私より上よ。毎年学生たちの人気を集めているわ。だから私としては力のある先生に、教育を任せているというわけ」
「それは否定はしませんけど、先生も一部では絶大な人気がありますけどね」
「どんな人気?」
「尊大だけど、絶大な力を持つ魔導師として。……と、これは冗談ですが、実際カレッジで上級魔法を学ぶとしたら先生に習うしかないでしょう? 中級までならマリウス先生でも良いでしょうが」
聞きようによってはマリウスに失礼なことを言う。
「まあね。でも私に教えを請う資格のある学生がどれだけ居るかしら? 君の他には……、あとはミアセラとサイファーぐらいじゃないかしら」
なるほど、とミアセラとサイファーの顔を思い浮かべる。どちらもカレッジでよく知られた優秀な学生である。
「その資格のある学生の数に入れてもらえて光栄ですよ。ミアセラさん、サイファーさんは優れた人ですから」
「結局……カレッジを卒業するだけなら第二位階までで良いのだから、私など必要ないのよ。私に指導を求めようという学生は、魔法の深淵を更に覗きたいとする学生だけ。そんな学生何人も居ないわ」
ルーンカレッジの最低限の卒業要件には、第二位階の魔法を習得すること、というのがある。
「単に教えられたまま魔法を使うだけなら、魔法を打ち出す機械のようなものです。カレッジは魔術師を量産するだけの機関ではないのでしょう? わずか1人、2人でも魔法を独自に探求できる、未来の魔導師を養成すること、それもカレッジに課された役割なのではないですか?」
「まるで自分がその1人になることを疑っていないような言い草ね」
2人はシニカルな笑いを浮かべ合う。
「指導といえば、君も指導する立場になったそうじゃないか。指導生になったのだろう?」
「耳が早いですね。僕のことが気になりますか?」
ジルが他人といるよりもくだけた物言いなのは、ロクサーヌには気を使う必要がない、というよりそれが喜ばれることを知っているからである。とはいえ、他人に恐れられることの多いロクサーヌとこんな話ができるのは、カレッジでジルだけだろう。
「バカをいえ。これも教育者としての役割というものさ。君はまだ若いが、カレッジで君の才能を認めないものはいないだろう。指導生にならない方がおかしいと言うものだ」
「セードルフさんは認めてないんじゃないですか?」
セードルフはジルと決闘をした上級生であり、ジルが新入生だったころの指導生である。
「あれは、ただ君を嫉妬しているだけに決まっておろう」
「僕は別に対抗意識を持っているわけじゃないんですけどね」
肩をすくめてやれやれと言った面持ちでジルが答える。
「君も指導する立場になれば、指導者の大変さが分かるというものさ。上を目指すなら、人を指導する経験を今から積んでおくのだな」
「恐れいります。ありがたくその経験を積ませていただきますよ」
再びシニカルな笑みを浮かべ合いながら、二人は屋上を離れた。ジルはともかく、ロクサーヌにはカレッジ内でやることがたくさんあるのだ。
「あら、君も屋上に居たのね」
声をかけたのはロクサーヌである。初級クラスに顔を出した後、その足で屋上に登ってきたのである。この2人、なぜか屋上で一緒になることがよくある。
「先生は初級クラスで講演ですか? 可愛い新入生との触れ合いお疲れさまです」
ロクサーヌがニヤリと笑う。ロクサーヌが魔法への欲求の固まりで、事務的な仕事に全く関心がないことをジルは知っていて言っているのである。学園長といいジルといい、皮肉の言える人間がロクサーヌは好きなのだ。人間関係というものはヒリヒリするくらいが調度良いのである。
「そうよ、ちょっと話をしただけだけどね。あとはマリウス先生に任せてきたわ」
「どうせ新入生相手に大上段から話をしたのでしょう? 僕はそんな先生が好きですけど」
ジルは笑顔を見せていたが、レニに見せるのとはまた別の笑みであった。
「あら嬉しいけれど、教員に向いていないのは自分でもよく分かっているわ。マリウス先生は魔術師としては私に遥かに及ばないけど、教育者としては確かに私より上よ。毎年学生たちの人気を集めているわ。だから私としては力のある先生に、教育を任せているというわけ」
「それは否定はしませんけど、先生も一部では絶大な人気がありますけどね」
「どんな人気?」
「尊大だけど、絶大な力を持つ魔導師として。……と、これは冗談ですが、実際カレッジで上級魔法を学ぶとしたら先生に習うしかないでしょう? 中級までならマリウス先生でも良いでしょうが」
聞きようによってはマリウスに失礼なことを言う。
「まあね。でも私に教えを請う資格のある学生がどれだけ居るかしら? 君の他には……、あとはミアセラとサイファーぐらいじゃないかしら」
なるほど、とミアセラとサイファーの顔を思い浮かべる。どちらもカレッジでよく知られた優秀な学生である。
「その資格のある学生の数に入れてもらえて光栄ですよ。ミアセラさん、サイファーさんは優れた人ですから」
「結局……カレッジを卒業するだけなら第二位階までで良いのだから、私など必要ないのよ。私に指導を求めようという学生は、魔法の深淵を更に覗きたいとする学生だけ。そんな学生何人も居ないわ」
ルーンカレッジの最低限の卒業要件には、第二位階の魔法を習得すること、というのがある。
「単に教えられたまま魔法を使うだけなら、魔法を打ち出す機械のようなものです。カレッジは魔術師を量産するだけの機関ではないのでしょう? わずか1人、2人でも魔法を独自に探求できる、未来の魔導師を養成すること、それもカレッジに課された役割なのではないですか?」
「まるで自分がその1人になることを疑っていないような言い草ね」
2人はシニカルな笑いを浮かべ合う。
「指導といえば、君も指導する立場になったそうじゃないか。指導生になったのだろう?」
「耳が早いですね。僕のことが気になりますか?」
ジルが他人といるよりもくだけた物言いなのは、ロクサーヌには気を使う必要がない、というよりそれが喜ばれることを知っているからである。とはいえ、他人に恐れられることの多いロクサーヌとこんな話ができるのは、カレッジでジルだけだろう。
「バカをいえ。これも教育者としての役割というものさ。君はまだ若いが、カレッジで君の才能を認めないものはいないだろう。指導生にならない方がおかしいと言うものだ」
「セードルフさんは認めてないんじゃないですか?」
セードルフはジルと決闘をした上級生であり、ジルが新入生だったころの指導生である。
「あれは、ただ君を嫉妬しているだけに決まっておろう」
「僕は別に対抗意識を持っているわけじゃないんですけどね」
肩をすくめてやれやれと言った面持ちでジルが答える。
「君も指導する立場になれば、指導者の大変さが分かるというものさ。上を目指すなら、人を指導する経験を今から積んでおくのだな」
「恐れいります。ありがたくその経験を積ませていただきますよ」
再びシニカルな笑みを浮かべ合いながら、二人は屋上を離れた。ジルはともかく、ロクサーヌにはカレッジ内でやることがたくさんあるのだ。
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