シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

文字の大きさ
7 / 107
1 ルーンカレッジ編

007 ジルとロクサーヌ

しおりを挟む
 カツン、カツンと階段を登る足音が聞こえる。音は段々と近づいてくるのが分かる。ジルはその音を立てている人物に心当たりがあった。

「あら、君も屋上に居たのね」

 声をかけたのはロクサーヌである。初級クラスに顔を出した後、その足で屋上に登ってきたのである。この2人、なぜか屋上で一緒になることがよくある。

「先生は初級クラスで講演ですか? 可愛い新入生との触れ合いお疲れさまです」

 ロクサーヌがニヤリと笑う。ロクサーヌが魔法への欲求の固まりで、事務的な仕事に全く関心がないことをジルは知っていて言っているのである。学園長といいジルといい、皮肉の言える人間がロクサーヌは好きなのだ。人間関係というものはヒリヒリするくらいが調度良いのである。

「そうよ、ちょっと話をしただけだけどね。あとはマリウス先生に任せてきたわ」

「どうせ新入生相手に大上段から話をしたのでしょう? 僕はそんな先生が好きですけど」

 ジルは笑顔を見せていたが、レニに見せるのとはまた別の笑みであった。

「あら嬉しいけれど、教員に向いていないのは自分でもよく分かっているわ。マリウス先生は魔術師としては私に遥かに及ばないけど、教育者としては確かに私より上よ。毎年学生たちの人気を集めているわ。だから私としては力のある先生に、教育を任せているというわけ」

「それは否定はしませんけど、先生も一部では絶大な人気がありますけどね」

「どんな人気?」

「尊大だけど、絶大な力を持つ魔導師として。……と、これは冗談ですが、実際カレッジで上級魔法を学ぶとしたら先生に習うしかないでしょう? 中級までならマリウス先生でも良いでしょうが」

 聞きようによってはマリウスに失礼なことを言う。

「まあね。でも私に教えを請う資格のある学生がどれだけ居るかしら? 君の他には……、あとはミアセラとサイファーぐらいじゃないかしら」

 なるほど、とミアセラとサイファーの顔を思い浮かべる。どちらもカレッジでよく知られた優秀な学生である。

「その資格のある学生の数に入れてもらえて光栄ですよ。ミアセラさん、サイファーさんは優れた人ですから」

「結局……カレッジを卒業するだけなら第二位階までで良いのだから、私など必要ないのよ。私に指導を求めようという学生は、魔法の深淵を更に覗きたいとする学生だけ。そんな学生何人も居ないわ」

 ルーンカレッジの最低限の卒業要件には、第二位階の魔法を習得すること、というのがある。

「単に教えられたまま魔法を使うだけなら、魔法を打ち出す機械のようなものです。カレッジは魔術師を量産するだけの機関ではないのでしょう? わずか1人、2人でも魔法を独自に探求できる、未来の魔導師を養成すること、それもカレッジに課された役割なのではないですか?」

「まるで自分がその1人になることを疑っていないような言い草ね」

 2人はシニカルな笑いを浮かべ合う。

「指導といえば、君も指導する立場になったそうじゃないか。指導生になったのだろう?」

「耳が早いですね。僕のことが気になりますか?」

 ジルが他人といるよりもくだけた物言いなのは、ロクサーヌには気を使う必要がない、というよりそれが喜ばれることを知っているからである。とはいえ、他人に恐れられることの多いロクサーヌとこんな話ができるのは、カレッジでジルだけだろう。

「バカをいえ。これも教育者としての役割というものさ。君はまだ若いが、カレッジで君の才能を認めないものはいないだろう。指導生にならない方がおかしいと言うものだ」

「セードルフさんは認めてないんじゃないですか?」

 セードルフはジルと決闘をした上級生であり、ジルが新入生だったころの指導生である。

「あれは、ただ君を嫉妬しているだけに決まっておろう」

「僕は別に対抗意識を持っているわけじゃないんですけどね」

 肩をすくめてやれやれと言った面持ちでジルが答える。

「君も指導する立場になれば、指導者の大変さが分かるというものさ。上を目指すなら、人を指導する経験を今から積んでおくのだな」

「恐れいります。ありがたくその経験を積ませていただきますよ」

 再びシニカルな笑みを浮かべ合いながら、二人は屋上を離れた。ジルはともかく、ロクサーヌにはカレッジ内でやることがたくさんあるのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

処理中です...