23 / 107
1 ルーンカレッジ編
023 帝国への使者2
しおりを挟む
王宮へ着くと、すでにゼノビアが弔問団の一行をまとめて出発の準備を整えていた。ジルたちはその一行に加わり帝国を目指す。弔問団はゼノビア、ジル、ガストン、サイファーに加え、ゼノビアの部下の近衛騎士が2名、そして護衛の騎士が4名という構成であった。もちろん全員馬に騎乗している。ジルとガストンは一応馬に乗ることはできるが、普段乗り慣れていないのでいささか危なっかしい。
シュバルツバルト王国から帝国へと向かうには幾つかのルートがある。今回は両国が外交を行うときに通常使うルートを通る。つまりロゴスから国境の街ランスまで出て、河を渡り帝国側の砦ベルンを通過するルートである。
帝国との東部国境にはアム河が流れ天然の国境を形成している。王国と帝国はランスからベルンまでの間に橋を架け、互いに国境の出入りを管理・警備している。アム河はかなり河幅が広く、水深も深いため、橋を通らずに渡るのは困難である。
一行はその日のうちにランスに到着すると、ランスの行政庁の中に部屋を用意してもらい一夜を明かした。むろんランスに到着するとすぐにベルンへ使者を送り、翌日訪れる旨を通告してある。
ジルは帝国へ行くのは初めてであった。本を読んで知識として知っていることは多かったが、実際にこの目で見たわけではない。こんな機会でもなければ、なかなか訪れる機会はなかったであろう。
帝国の歴史ある都ドルドレイの古いにしえからの街並みはどんなだろうか、レミアの兄が亡くなる原因を作った「魔獣の森」には何が生息しているのか、興味は尽きなかった。不謹慎かもしれないが、ジルは自分がやや興奮しているのを自覚していた。
そして翌日。よく晴れた爽やかな日であった。弔問団はランスを出て、帝国側へ架かる橋を進んだ。すると向こう側に厳重に防備が固められた関所が見えてくる。これが帝国側の砦、ベルンである。先頭を行くゼノビアの部下が大声で来訪の目的を伝える。するとガラガラガラ、と大きな音とともに関所の門が開かれていった。
「ようこそおいでくださいました。御役目ご苦労さまです」
そう出迎えた男は、爽やかな笑顔の裏でひとクセありそうな人物であった。
「申し遅れました、私は帝国宮廷から派遣されましたキルクスと申します。こたび帝国側領土において皆様の案内役を務めることになりました。どうぞなにかご不明な点などがございましたら何なりとお聞きください」
「ご好意いたみいる。我々は帝国領内の事は何も分からぬ身、シュライヒャー領までの道中ご案内宜しくお願いいたす」
ゼノビアが丁重に協力を要請する。
「分かりました。すべてこの私にお任せください」
一行はベルンを抜け、帝国領内へと入る。キルクスはゼノビアの隣で何かと帝国の状況について話をしている。ただし本当に重要な事は当然言わないはずだ。
「あの男のことどう思う?」
サイファーがジルにたずねる。
「案内役と言っているが、監視役というところだろうな」
「………」
「帝国としても我々がスパイ活動をしないという保証はないわけだから、監視役をつけるというのは理解できる話だ」
他国の使節が自国領を通過するとなれば、どうぞ御勝手にというわけにはいかないのが普通である。
「それだけだと良いのだがな」
サイファーはもうその可能性については考慮していたようだ。その上でなお気がかりがあるというのだろう。
「どういう意味だ?」
「何か他に目的があるのではないか、ということさ」
「監視役の他にか? まさか我々を襲撃するということはないだろうに」
そのようなことになれば帝国とのシュバルツバルトとの戦争になる。現状では帝国がそんな態度に出るとは考えにくい。
「監視役と言っても何を監視するのか、その目的は我々が考えていることとは違うかもしれないぞ」
「うーむ……」
「まあ考えても分からないだろう。だがあのキルクスという男はこちらも目を離さないようにしておかないとな。何を考えているか分からん男だ」
サイファーはキルクスをかなり警戒しているようだ。
道は次第に緑の多い美しい景色になっていく。視界の先に綺麗な水をたたえた湖があり、緑との対比が美しい。
「ここからがシュライヒャー家の領地になります。エルンスト殿の邸宅は、ここからあと1時間ほどした所にありますからそう遠くありません」
キルクスがゼノビアに説明している。
シュライヒャー邸は、一般的な貴族の邸宅であった。領民が住む地域とは少し離れた、小高い場所に大きく壮麗な屋敷が建っている。馬車が来ることは事前に使者で知らせてある。屋敷の前に到着する時には、初老の執事が召使の女性たちを引き連れて出迎えの準備を済ませていた。
「ようこそ、遠くからいらっしゃました。私はこの屋敷の執事を務めるハンスと申します。ご滞在の間精一杯勤めさせていただきます。主は屋敷でお待ちしております。どうぞこちらへ」
ゼノビアを先頭に、隣にキルクス、その左右を近衛騎士が固め、その後からジル、サイファー、ガストンが続いて屋敷へと入った。
シュバルツバルト王国から帝国へと向かうには幾つかのルートがある。今回は両国が外交を行うときに通常使うルートを通る。つまりロゴスから国境の街ランスまで出て、河を渡り帝国側の砦ベルンを通過するルートである。
帝国との東部国境にはアム河が流れ天然の国境を形成している。王国と帝国はランスからベルンまでの間に橋を架け、互いに国境の出入りを管理・警備している。アム河はかなり河幅が広く、水深も深いため、橋を通らずに渡るのは困難である。
一行はその日のうちにランスに到着すると、ランスの行政庁の中に部屋を用意してもらい一夜を明かした。むろんランスに到着するとすぐにベルンへ使者を送り、翌日訪れる旨を通告してある。
ジルは帝国へ行くのは初めてであった。本を読んで知識として知っていることは多かったが、実際にこの目で見たわけではない。こんな機会でもなければ、なかなか訪れる機会はなかったであろう。
帝国の歴史ある都ドルドレイの古いにしえからの街並みはどんなだろうか、レミアの兄が亡くなる原因を作った「魔獣の森」には何が生息しているのか、興味は尽きなかった。不謹慎かもしれないが、ジルは自分がやや興奮しているのを自覚していた。
そして翌日。よく晴れた爽やかな日であった。弔問団はランスを出て、帝国側へ架かる橋を進んだ。すると向こう側に厳重に防備が固められた関所が見えてくる。これが帝国側の砦、ベルンである。先頭を行くゼノビアの部下が大声で来訪の目的を伝える。するとガラガラガラ、と大きな音とともに関所の門が開かれていった。
「ようこそおいでくださいました。御役目ご苦労さまです」
そう出迎えた男は、爽やかな笑顔の裏でひとクセありそうな人物であった。
「申し遅れました、私は帝国宮廷から派遣されましたキルクスと申します。こたび帝国側領土において皆様の案内役を務めることになりました。どうぞなにかご不明な点などがございましたら何なりとお聞きください」
「ご好意いたみいる。我々は帝国領内の事は何も分からぬ身、シュライヒャー領までの道中ご案内宜しくお願いいたす」
ゼノビアが丁重に協力を要請する。
「分かりました。すべてこの私にお任せください」
一行はベルンを抜け、帝国領内へと入る。キルクスはゼノビアの隣で何かと帝国の状況について話をしている。ただし本当に重要な事は当然言わないはずだ。
「あの男のことどう思う?」
サイファーがジルにたずねる。
「案内役と言っているが、監視役というところだろうな」
「………」
「帝国としても我々がスパイ活動をしないという保証はないわけだから、監視役をつけるというのは理解できる話だ」
他国の使節が自国領を通過するとなれば、どうぞ御勝手にというわけにはいかないのが普通である。
「それだけだと良いのだがな」
サイファーはもうその可能性については考慮していたようだ。その上でなお気がかりがあるというのだろう。
「どういう意味だ?」
「何か他に目的があるのではないか、ということさ」
「監視役の他にか? まさか我々を襲撃するということはないだろうに」
そのようなことになれば帝国とのシュバルツバルトとの戦争になる。現状では帝国がそんな態度に出るとは考えにくい。
「監視役と言っても何を監視するのか、その目的は我々が考えていることとは違うかもしれないぞ」
「うーむ……」
「まあ考えても分からないだろう。だがあのキルクスという男はこちらも目を離さないようにしておかないとな。何を考えているか分からん男だ」
サイファーはキルクスをかなり警戒しているようだ。
道は次第に緑の多い美しい景色になっていく。視界の先に綺麗な水をたたえた湖があり、緑との対比が美しい。
「ここからがシュライヒャー家の領地になります。エルンスト殿の邸宅は、ここからあと1時間ほどした所にありますからそう遠くありません」
キルクスがゼノビアに説明している。
シュライヒャー邸は、一般的な貴族の邸宅であった。領民が住む地域とは少し離れた、小高い場所に大きく壮麗な屋敷が建っている。馬車が来ることは事前に使者で知らせてある。屋敷の前に到着する時には、初老の執事が召使の女性たちを引き連れて出迎えの準備を済ませていた。
「ようこそ、遠くからいらっしゃました。私はこの屋敷の執事を務めるハンスと申します。ご滞在の間精一杯勤めさせていただきます。主は屋敷でお待ちしております。どうぞこちらへ」
ゼノビアを先頭に、隣にキルクス、その左右を近衛騎士が固め、その後からジル、サイファー、ガストンが続いて屋敷へと入った。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
「やはり鍛えることは、大切だな」
イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」
その日、一つのお見合いがあった。
ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。
クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。
そして互いに挨拶を交わすその場にて。
ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。
けれども……――。
「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる