シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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1 ルーンカレッジ編

023 帝国への使者2

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 王宮へ着くと、すでにゼノビアが弔問団の一行をまとめて出発の準備を整えていた。ジルたちはその一行に加わり帝国を目指す。弔問団はゼノビア、ジル、ガストン、サイファーに加え、ゼノビアの部下の近衛騎士が2名、そして護衛の騎士が4名という構成であった。もちろん全員馬に騎乗している。ジルとガストンは一応馬に乗ることはできるが、普段乗り慣れていないのでいささか危なっかしい。

 シュバルツバルト王国から帝国へと向かうには幾つかのルートがある。今回は両国が外交を行うときに通常使うルートを通る。つまりロゴスから国境の街ランスまで出て、河を渡り帝国側の砦ベルンを通過するルートである。

 帝国との東部国境にはアム河が流れ天然の国境を形成している。王国と帝国はランスからベルンまでの間に橋を架け、互いに国境の出入りを管理・警備している。アム河はかなり河幅が広く、水深も深いため、橋を通らずに渡るのは困難である。

 一行はその日のうちにランスに到着すると、ランスの行政庁の中に部屋を用意してもらい一夜を明かした。むろんランスに到着するとすぐにベルンへ使者を送り、翌日訪れる旨を通告してある。

 ジルは帝国へ行くのは初めてであった。本を読んで知識として知っていることは多かったが、実際にこの目で見たわけではない。こんな機会でもなければ、なかなか訪れる機会はなかったであろう。

 帝国の歴史ある都ドルドレイの古いにしえからの街並みはどんなだろうか、レミアの兄が亡くなる原因を作った「魔獣の森」には何が生息しているのか、興味は尽きなかった。不謹慎かもしれないが、ジルは自分がやや興奮しているのを自覚していた。

 そして翌日。よく晴れた爽やかな日であった。弔問団はランスを出て、帝国側へ架かる橋を進んだ。すると向こう側に厳重に防備が固められた関所が見えてくる。これが帝国側の砦、ベルンである。先頭を行くゼノビアの部下が大声で来訪の目的を伝える。するとガラガラガラ、と大きな音とともに関所の門が開かれていった。

「ようこそおいでくださいました。御役目ご苦労さまです」

 そう出迎えた男は、爽やかな笑顔の裏でひとクセありそうな人物であった。

「申し遅れました、私は帝国宮廷から派遣されましたキルクスと申します。こたび帝国側領土において皆様の案内役を務めることになりました。どうぞなにかご不明な点などがございましたら何なりとお聞きください」

「ご好意いたみいる。我々は帝国領内の事は何も分からぬ身、シュライヒャー領までの道中ご案内宜しくお願いいたす」

 ゼノビアが丁重に協力を要請する。

「分かりました。すべてこの私にお任せください」

 一行はベルンを抜け、帝国領内へと入る。キルクスはゼノビアの隣で何かと帝国の状況について話をしている。ただし本当に重要な事は当然言わないはずだ。

「あの男のことどう思う?」

 サイファーがジルにたずねる。

「案内役と言っているが、監視役というところだろうな」

「………」

「帝国としても我々がスパイ活動をしないという保証はないわけだから、監視役をつけるというのは理解できる話だ」

 他国の使節が自国領を通過するとなれば、どうぞ御勝手にというわけにはいかないのが普通である。

「それだけだと良いのだがな」

 サイファーはもうその可能性については考慮していたようだ。その上でなお気がかりがあるというのだろう。

「どういう意味だ?」

「何か他に目的があるのではないか、ということさ」

「監視役の他にか? まさか我々を襲撃するということはないだろうに」

 そのようなことになれば帝国とのシュバルツバルトとの戦争になる。現状では帝国がそんな態度に出るとは考えにくい。

「監視役と言っても何を監視するのか、その目的は我々が考えていることとは違うかもしれないぞ」

「うーむ……」

「まあ考えても分からないだろう。だがあのキルクスという男はこちらも目を離さないようにしておかないとな。何を考えているか分からん男だ」

 サイファーはキルクスをかなり警戒しているようだ。

 道は次第に緑の多い美しい景色になっていく。視界の先に綺麗な水をたたえた湖があり、緑との対比が美しい。

「ここからがシュライヒャー家の領地になります。エルンスト殿の邸宅は、ここからあと1時間ほどした所にありますからそう遠くありません」

 キルクスがゼノビアに説明している。

 シュライヒャー邸は、一般的な貴族の邸宅であった。領民が住む地域とは少し離れた、小高い場所に大きく壮麗な屋敷が建っている。馬車が来ることは事前に使者で知らせてある。屋敷の前に到着する時には、初老の執事が召使の女性たちを引き連れて出迎えの準備を済ませていた。

「ようこそ、遠くからいらっしゃました。私はこの屋敷の執事を務めるハンスと申します。ご滞在の間精一杯勤めさせていただきます。主は屋敷でお待ちしております。どうぞこちらへ」

 ゼノビアを先頭に、隣にキルクス、その左右を近衛騎士が固め、その後からジル、サイファー、ガストンが続いて屋敷へと入った。
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