シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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1 ルーンカレッジ編

028 ゼノビアとの約束2

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 ゼノビアの為人ひととなりは誘拐事件と弔問団の際にともに行動したことで、おおよそのことは分かっているつもりだ。卑怯なことは決してできないタイプの人間だ。ゼノビアはジルがそのことを知っていると分かっていて、からかっているのである。

「もっとも私の家は男爵家だが、家はすでに兄が継いでいる。私は女一人、近衛騎士として務めるだけの気楽なものさ」

「……それで先ほどの方はどなたなのです?」

「さっきのはブライスデイルだ。本来ならお前が直接話せるような身分ではないぞ」

 侯爵とは公爵につぐ身分である。公爵は王族に連なる貴族にだけ許される身分であり、侯爵はそれ以外の貴族にとっての最高位の身分である。

「高位の貴族だと思っていましたが、そんなに偉い方だったとは……」

「貴族というものは常に勢力争いをしているようなものでな。王の寵愛を受ける者がいたりすると、自派に引き入れようと画策しあうものなのさ。先ほどのことも、きっと偶然を装って君に近づいたのだぞ。侯自ら動いたのは意外だったがな」

「王の寵愛? 私がですか?」

「そうだ。君たちのために今日晩餐会が開かれる。これは見ようによっては、君たちが王に気に入られたように見えるわけだ」

 自分をとりまく環境は、自分一人の思惑で決まるものでもない。野次馬根性の旺盛な貴族たちの眼を通して見た場合、ジルたちはこれから力を得ようとしている有望株に見えるのだろう。

「それでブライスデイル侯はどのような方なのですか? 宮廷における立場は?」

 取り込まれるとしても、ブライスデイル侯の立場を知っておく必要がある。

「あの男は、現王が即位する際、別の候補を擁立して王と対立したんだ。そして現在も、多くの不平貴族を糾合きゅうごうして最大勢力を築き、王室に何かと圧力を加える厄介な存在だ。なにしろ貴族の3分の1をまとめているのだから、力で取り潰すこともできないのさ」

「あの男」、という言い方からゼノビアがブライスデイル侯に好感を持っていないのは明らかだ。ゼノビアの政治的な立場は、侯とは逆の側にあるらしい。近衛騎士なのだから、王と対立するブライスデイル侯に批判的なのはある意味当然だろう。

「要するにゼノビアさんは、ブライスデイル侯を敵視しているのですか?」

「敵視? 別に敵視しているわけじゃない。信用ならない下衆……いや、下品な奴だというだけだ」

 ジルは思わず頬をゆるませた。自分とは違うタイプだが、ゼノビアのような裏表の無い人間は好感が持てる。もちろんゼノビアは単に正直なだけの愚か者ではない。

「お話は分かりました。これから貴族との付き合いも増えるでしょうから、気をつけることにしますよ」

「そうしてくれ。姫が“友達”と思っている奴を敵には回したくないからな」

 どうやらゼノビアは姫の希望も知っているらしい。

「……それも知っていたんですか」

「私は近衛騎士団では珍しい女騎士だろう? だからか自然と姫の護衛につくことが多くなり、姫とは幼い頃から親しかったんだ。姫から色々な相談事を持ちかけられることもある。姫からみたら私は歳上のお姉さんみたいなものさ」

 姫は自分には“友達”は居ないと言った。しかし友人はいないとしても、家臣でもいいから何でも相談できる存在が必要だったのだろう。気さくなゼノビアはそんな姫にとって大切な存在のようだ。

「なるほど、それで私と姫のことを“監視”していたんですね」

「ははは、気を悪くするな。君が姫を救ってくれたことは感謝しているんだ。あの時姫にもしものことがあれば、私は死んで償わなければならなかった。いま首がつながっているのは君のおかげだ」

 ゼノビアは笑顔を浮かべて感謝の言葉を述べる。

「そうだ、私からも君に何かお礼がしたいな。何が良い?」

 ゼノビアの突然の質問に、ジルはいささか戸惑った。

「そうですね、すぐには思いつかないのですが……。それではゼノビアさんの時間がある時に、王都の案内をお願いできますか? まだ王宮にしか来ていないので、何も分からないんです」

「そんなことで良いのか? 良いだろう。王宮にはいつまでいるのだ?」

「明後日カレッジに帰ることになっています」

「ちょうど明日は非番の日だ。明日案内してやろう」

「助かります。面白いところを案内してください」

「ははは、考えておこう」
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