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1 ルーンカレッジ編
030 晩餐会2
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侍従の大きな声とともに、ドレスを着たアルネラが隣に男を従えて入場してきた。男はアルネラの手をとってエスコートする。アルネラはやや胸元の開いた純白のドレスに、肩口を赤いストールで飾った衣装である。
「ジル、ここに居たか。ちょうど姫が着いたようだな」
ゼノビアがジルを見つけて話しかけてきた。ゼノビアは会場の警備も兼ねているようだが、今日は場に合わせてドレスを着ている。彼女の金髪に生える赤のドレスで、戦士の筋肉質な身体を魅力的に見せている。
「ゼノビアさん。姫の隣にいる方はどなたです?」
「ははは、気になるか?」
ゼノビアは何やら誤解をしているらしい。
「からかわないで下さい」
「隣の方はフランツ=ヘルマン伯爵だ。姫の従兄いとこにあたる。姫の母、つまり王妃さまは伯の叔母にあたるのだ。まあ、いとこと言っても大分歳の差があるがな。王室と婚姻を結んでいるだけに、王室に友好的な貴族の筆頭だな」
より正確に言うなら、現王妃はヘルマン伯の父の妹である。現王は王位継承を争っていた時、先代のヘルマン伯を味方につけるため婚姻を結んだのである。
「なるほど、ブライスデイル侯とは対極的な立場にある方なのですね」
「そういうことだ。国王派の中でも最も頼りになる御仁だ。さて、それじゃ我々も姫に挨拶しにいこう。伯のことも紹介しよう」
ゼノビアがジルたちを引き連れて姫の前まで進み出る。
「姫、今宵こよいもお美しゅうございます」
「ゼノビア殿、ごきげんよう。御役目ご苦労ですね」
「王女殿下、ジルフォニア=アンブローズ御前に参りました」
「まあ! ジル殿、よくいらっしゃいました。今宵の宴は私ではなく、ジル殿たちが主賓。楽しんで下さいましね」
ジルはアルネアの眼を見た。公式の立場とは別に、2人には別の関係がある。アルネアの眼には好意が含まれていた。
ゼノビアは、姫の隣に立つ貴族にジルたちを紹介する。
「ヘルマン伯、今日の主賓を紹介しましょう。こちらが王女を助けていただいたジルフォニア=アンブローズ殿、サイファー=バイロン殿、ガストン=ラル殿です。ジル、こちらはフランツ=ヘルマン伯爵だ。アルネラ様の従兄弟にあたられる」
「今日の主賓にお会いできて光栄だ。私はフランツ=ヘルマンという。アルネラ様を救っていただき感謝している。アルネラ様は私にとっても他人ではないのだよ。何か私にできることがあれば、なんなりと言ってくれたまえ」
フランツと名乗った男は優しい笑みを浮かべていた。歳は30前半といったところか、ブライスデイル侯に比べれば大分若い。身分が違うとはいえ、比較的歳が近いのでまだ話が合いそうな気がする。しかし貴族の外面が信用出来ないとすれば、この男の笑みもそうなのだろうか。ジルは目の前のフランツを見て、そんなことを考えていた。
貴族と話をするジルたちを国王が遠くから眺めている。それは若者を暖かく見守る大人の目であった。
「あのジルという少年ですか? 彼のことを大分かっておられるご様子ですな」
王の隣へと来たブライスデイル侯が話しかける。
「あの眼がな」
「眼?」
「あの野心的な眼が気になってな。ふぉふぉ、ただの無謀な野心家なら掃いて捨てるほどいる、特にこの王宮にはな。だが、野心的でありながら細心の注意深さを持っているように思える。この2つを併せ持つような者に、最近はとんと会っていないのじゃ」
「なるほど。新たな時代を切り開く者になりますかな?」
「ふぉふぉ、それはまだ分からんが、今のような戦乱の時代にはあのような者が生まれてくる。ミルフェン、そなたのようにな」
「ははは、お戯れを……」
この2人、親しく話しているようだが、王位継承の時からの敵同士である。今日の敵は明日の友、そして逆もまたしかり。貴族同士の関係は、表面的な言葉だけでは計り知れない。
「ジル、ここに居たか。ちょうど姫が着いたようだな」
ゼノビアがジルを見つけて話しかけてきた。ゼノビアは会場の警備も兼ねているようだが、今日は場に合わせてドレスを着ている。彼女の金髪に生える赤のドレスで、戦士の筋肉質な身体を魅力的に見せている。
「ゼノビアさん。姫の隣にいる方はどなたです?」
「ははは、気になるか?」
ゼノビアは何やら誤解をしているらしい。
「からかわないで下さい」
「隣の方はフランツ=ヘルマン伯爵だ。姫の従兄いとこにあたる。姫の母、つまり王妃さまは伯の叔母にあたるのだ。まあ、いとこと言っても大分歳の差があるがな。王室と婚姻を結んでいるだけに、王室に友好的な貴族の筆頭だな」
より正確に言うなら、現王妃はヘルマン伯の父の妹である。現王は王位継承を争っていた時、先代のヘルマン伯を味方につけるため婚姻を結んだのである。
「なるほど、ブライスデイル侯とは対極的な立場にある方なのですね」
「そういうことだ。国王派の中でも最も頼りになる御仁だ。さて、それじゃ我々も姫に挨拶しにいこう。伯のことも紹介しよう」
ゼノビアがジルたちを引き連れて姫の前まで進み出る。
「姫、今宵こよいもお美しゅうございます」
「ゼノビア殿、ごきげんよう。御役目ご苦労ですね」
「王女殿下、ジルフォニア=アンブローズ御前に参りました」
「まあ! ジル殿、よくいらっしゃいました。今宵の宴は私ではなく、ジル殿たちが主賓。楽しんで下さいましね」
ジルはアルネアの眼を見た。公式の立場とは別に、2人には別の関係がある。アルネアの眼には好意が含まれていた。
ゼノビアは、姫の隣に立つ貴族にジルたちを紹介する。
「ヘルマン伯、今日の主賓を紹介しましょう。こちらが王女を助けていただいたジルフォニア=アンブローズ殿、サイファー=バイロン殿、ガストン=ラル殿です。ジル、こちらはフランツ=ヘルマン伯爵だ。アルネラ様の従兄弟にあたられる」
「今日の主賓にお会いできて光栄だ。私はフランツ=ヘルマンという。アルネラ様を救っていただき感謝している。アルネラ様は私にとっても他人ではないのだよ。何か私にできることがあれば、なんなりと言ってくれたまえ」
フランツと名乗った男は優しい笑みを浮かべていた。歳は30前半といったところか、ブライスデイル侯に比べれば大分若い。身分が違うとはいえ、比較的歳が近いのでまだ話が合いそうな気がする。しかし貴族の外面が信用出来ないとすれば、この男の笑みもそうなのだろうか。ジルは目の前のフランツを見て、そんなことを考えていた。
貴族と話をするジルたちを国王が遠くから眺めている。それは若者を暖かく見守る大人の目であった。
「あのジルという少年ですか? 彼のことを大分かっておられるご様子ですな」
王の隣へと来たブライスデイル侯が話しかける。
「あの眼がな」
「眼?」
「あの野心的な眼が気になってな。ふぉふぉ、ただの無謀な野心家なら掃いて捨てるほどいる、特にこの王宮にはな。だが、野心的でありながら細心の注意深さを持っているように思える。この2つを併せ持つような者に、最近はとんと会っていないのじゃ」
「なるほど。新たな時代を切り開く者になりますかな?」
「ふぉふぉ、それはまだ分からんが、今のような戦乱の時代にはあのような者が生まれてくる。ミルフェン、そなたのようにな」
「ははは、お戯れを……」
この2人、親しく話しているようだが、王位継承の時からの敵同士である。今日の敵は明日の友、そして逆もまたしかり。貴族同士の関係は、表面的な言葉だけでは計り知れない。
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