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1 ルーンカレッジ編
031 晩餐会3
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レント伯クリスティーヌ、彼女はブライスデイル侯にも、国王派にもついていない。貴族社会の中では中立派と目されている。現在26歳、結婚はまだしていない。
領地はシュバルツバルト南部に位置し、貴重な鉱物資源を産出することから王国の経済にとっても重要な存在となっていた。ゆえにブライスデイル侯も、そして国王派からも、自派への勧誘がひっきりなしになされている。クリスティーヌは自分の立ち位置を十二分に理解していたし、それを最大限の高値で売りつけようと考えている。むろん自分の結婚もその商品の一つである。
クリスティーヌの見る所、現王の治世はそう長くない。齢60を超えているのだから当然だ。そう遠くないうちに後継者の問題が起こるだろう。いや、既に水面下では貴族たちが動き出しているのだ。
現在王位は長男のユリウスが継ぐと見られているが、ユリウスはあまり良い評判のない人物である。いや、それには語弊があるかもしれない。悪い噂も無い代わりに、評価する声も聞こえてこないと言った方が良い。
王の嫡男というものは、たとえそれほど優れた才がないとしても、周囲が過剰に褒めそやすのが普通である。未来の王に良い印象を持ってもらえるかどうかは、家臣として己の出世に関わってくるからである。しかしそのような過剰評価さえないのは、ユリウスが真に凡庸な人物であることを示している。
平和な時代であれば、王の器量などさして問題ではない。政治など、家臣に任せておけば大過なく在位期間を過ごすことができるだろう。しかし、近年バルダニアとの争いが深刻化し、王国の舵取りは年々難しくなりつつある。
アルネラ姫の誘拐事件も何らかの陰謀の結果なのではないか、クリスティーヌはそう見ていた。そのような時、君主が凡庸であれば国威を著しく傷つけることになるかもしれない。そう遠くない時期、自分の価値は一層釣り上がるに違いない、そんな予感がしていた。
面白い時代になってきた、クリスティーヌはそう思う。平和な時代など、貴族はただくだらぬ舞踏会や恋愛に明け暮れるしかない。クリスティーヌは、自分がそんなことに明け暮れているのを想像するとぞっとする。退屈で死にたくなってくるに違いない。
クリスティーヌは壁に寄りかかって、腹を探りあい、人脈を作ろうとする貴族たちの動きを観察していた。酒を勧める給仕の少年から、シャンパンのグラスに手を伸ばし口をつける。今日の主賓は確かアルネラを救出したという少年たちであった。サイファーという男は、もう少年とはいえない歳だろう。体格を見ると優れた戦士になりそうだ。
そしてジルフォニアという少年。そう、まだ少年なのだ。大人びて見えるが、おそらく16を越えていないのではないか。しかしその少年のところに人の輪ができている。どうやら王の覚えもめでたいらしい。ブライスデイル侯も自ら話しかけていたところを見ると、自派に引き入れようとしているのだろう。とりあえず話してみて損はないだろう。クリスティーヌはジルを取り囲む貴族たちの輪に入っていく。
領地はシュバルツバルト南部に位置し、貴重な鉱物資源を産出することから王国の経済にとっても重要な存在となっていた。ゆえにブライスデイル侯も、そして国王派からも、自派への勧誘がひっきりなしになされている。クリスティーヌは自分の立ち位置を十二分に理解していたし、それを最大限の高値で売りつけようと考えている。むろん自分の結婚もその商品の一つである。
クリスティーヌの見る所、現王の治世はそう長くない。齢60を超えているのだから当然だ。そう遠くないうちに後継者の問題が起こるだろう。いや、既に水面下では貴族たちが動き出しているのだ。
現在王位は長男のユリウスが継ぐと見られているが、ユリウスはあまり良い評判のない人物である。いや、それには語弊があるかもしれない。悪い噂も無い代わりに、評価する声も聞こえてこないと言った方が良い。
王の嫡男というものは、たとえそれほど優れた才がないとしても、周囲が過剰に褒めそやすのが普通である。未来の王に良い印象を持ってもらえるかどうかは、家臣として己の出世に関わってくるからである。しかしそのような過剰評価さえないのは、ユリウスが真に凡庸な人物であることを示している。
平和な時代であれば、王の器量などさして問題ではない。政治など、家臣に任せておけば大過なく在位期間を過ごすことができるだろう。しかし、近年バルダニアとの争いが深刻化し、王国の舵取りは年々難しくなりつつある。
アルネラ姫の誘拐事件も何らかの陰謀の結果なのではないか、クリスティーヌはそう見ていた。そのような時、君主が凡庸であれば国威を著しく傷つけることになるかもしれない。そう遠くない時期、自分の価値は一層釣り上がるに違いない、そんな予感がしていた。
面白い時代になってきた、クリスティーヌはそう思う。平和な時代など、貴族はただくだらぬ舞踏会や恋愛に明け暮れるしかない。クリスティーヌは、自分がそんなことに明け暮れているのを想像するとぞっとする。退屈で死にたくなってくるに違いない。
クリスティーヌは壁に寄りかかって、腹を探りあい、人脈を作ろうとする貴族たちの動きを観察していた。酒を勧める給仕の少年から、シャンパンのグラスに手を伸ばし口をつける。今日の主賓は確かアルネラを救出したという少年たちであった。サイファーという男は、もう少年とはいえない歳だろう。体格を見ると優れた戦士になりそうだ。
そしてジルフォニアという少年。そう、まだ少年なのだ。大人びて見えるが、おそらく16を越えていないのではないか。しかしその少年のところに人の輪ができている。どうやら王の覚えもめでたいらしい。ブライスデイル侯も自ら話しかけていたところを見ると、自派に引き入れようとしているのだろう。とりあえず話してみて損はないだろう。クリスティーヌはジルを取り囲む貴族たちの輪に入っていく。
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