シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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1 ルーンカレッジ編

036 ゼノビアの王都案内2

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 普段騎士団という男ばかりの環境にいるゼノビアとしては、日常で自分が女だと感じることはほとんどないし、女として扱われることもない。今日のこうした体験はかなり貴重であった。

「ゼノビアさんって、子ども時代はどんな子どもだったんですか?」

「私の子ども時代か? 聞いても面白い話ではないぞ。私には兄が2人居てな、歳が近かったから3人で良く遊んだんだ。遊ぶことと言えば、男子が遊ぶようなことだったな。少し大きくなってからはひたすら剣術ばかりだった。おかげで同じ歳の男子には、剣で負けたことがなかったよ。兄は2人とも戦士として軍に入り、私は何も考えることなく、兄を追うように13になってから戦士訓練所に入った。ところがそこで挫折したんだ。いままで男子にも剣で負けたことはなかったが、今考えるとそれは周りのレベルが低かっただけなんだ。訓練所に来るような奴らは力自慢の男たちばかり。力ではやはり私は勝てなかった」

「……」

 ジルは静かにゼノビアの話を聞いている。

「力で劣るならどうすれば勝てるか。私はそれから毎日そればかりを考えた。君ならどうする?」

「……普通ならやはり魔法でしょうね。魔法戦士となることが近道でしょう」

「そうだな……。だが私はルーンカレッジや魔法塾のようなところには行かなかった。魔法に縁のない生き方をしてきた私のことだ、自分に魔法の才があるとは思えなかったからな。だが結果として私は、“魔法のような”力を使えるようになった。どうしてそれが使えるようになったのかは分からない。一種の天賦の才能なのかもしれないな。この“ルミナスブレード”が使えるようになってから私は剣闘でほとんど負けたことはない」

「ルミナスブレード?」

「そうだ。剣に雷を纏まとわせた剣だ」

「エンチャントでしょうか?」

 エンチャントとは魔法の一種で、武器に魔力的な効果を付与する補助魔法である。通常の武器では倒せない敵に相対する時や、戦士の力を強化する目的で用いられる。

「そのようなものかな。しかし魔法のエンチャントは切れ味を増したり、普通の剣では切れない魔物を切れるようにするものだろ? 私のルミナスブレードは雷そのものを剣にはわせるのだ。それによりルミナスブレードは剣や盾で受けることは不可能となる。もし受ければ剣の雷が身体を突き抜けて感電するのだ。私はこの剣のおかげで、近衛騎士団にも入ることができたし、副団長にもなることができたんだ」

「凄いですね。そんな技をゼノビアさんが……」

「今度機会があればジルにも見せてやろう……って、今日は普通の女の子のように過ごそうと思ったのに結局こんな話になってしまったな」

 ゼノビアが照れ笑いを浮かべる。

「ははは、こちらの方がゼノビアさんらしいですよ。お洒落なゼノビアさんも良いですけど、騎士のゼノビアさんが僕は好きですよ」

「!?」

「どうしました?」

「いや……そ、そろそろここを出るとしようか」
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