シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

文字の大きさ
35 / 107
1 ルーンカレッジ編

035 ゼノビアの王都案内1

しおりを挟む
 晩餐会の翌日、ジルはゼノビアに王都ロゴスを案内してもらうことになっていた。待ち合わせの時間は朝の10時であった。

(それにしても王宮の中か、入り口で待ち合わせれば良かったのに)

 ジルはそう思ったのだが、待ち合わせの場所はなぜか王宮を出てかなり歩いたところにあった。後で分かったことだが、待ち合わせ場所としてはポピュラーなセドナ広場というらしい。しかし、案内が必要なジルに遠い場所を指定するのはいかがなものだろうか。

 途中で人に道を聞きながら、ジルはなんとかセドナ広場に到着した。このロゴスという都市は、典型的な古都市である。計画的に作られたわけではなく、その時代毎に増改築された結果、複雑で迷路のような構造になっている。ジルのように道に不案内の者は、容易たやすく迷ってしまう。

 セドナ広場に行ってみると、多くのカップルが待ち合わせをしていた。男同士や親子はほとんどいないようだ。

「……なるほど、そういうところなのか」

 幸せなオーラを発する周囲のカップルに囲まれ、ジルはいささか居心地の悪さを感じていた。

「ジ、ジル、待たせたな!」

 人混みの中からゼノビアが走ってやってくる。そのゼノビアを見て、ジルは軽く目を見張った。いつもはさっぱりとした格好のゼノビアが、今日はとても洒落た服を着て来たのである。

 縁をレースであしらった薄い青のドレスは、肩が大きく露出するデザインとなっていて、胸元が強調されるようになっている。筋肉質だが長く細い脚には白のタイツを履いていて、脚の美しいラインが目立っている。よく目立つ金髪は普段軽くゴムで縛ってあるだけだが、今日はアップさせてボリュームをつけている。

 要するに見るからに気合が入っているのだ。正直なところ、道を歩いているどの女性よりも魅力的であった。

「ゼノビアさん! 今日は、その……素敵な格好ですね」

 ジルの褒め方は決して洗練されてはいなかったが、ゼノビアにとっては充分満足いくものであったようだ。

「そ、そうだろうか? そう言ってもらえて良かった」

 ゼノビアが頬を赤く染めつつ、満面の笑みを浮かべる。

 ゼノビアは、普段着でも白のシャツにズボンというさっぱりとした服しか着ない。しかし今日の事を部下のマリエンヌに話したところ、ゼノビア一世一代のチャンスとマリエンヌが誤解(?)し、勝負服を調達してきたのであった。もともとゼノビアは美人であったが、おかげで今日は5歳は若く見える。

「それじゃ、これから王都を案内しよう」

 ゼノビアがジルの手をとって街並みを歩いて行く。

 最初に2人が行ったのは、セドナ広場近くのタルトの店であった。マリエンヌの情報によれば、ロゴスで一番人気のスイーツであるらしい。店はすでに行列ができ始めていた。ジルとゼノビアは15分ほど行列に並び、その間他愛のないことを話した。店は外にもテーブルと椅子が置かれていて、外の空気を吸いながら食べられるようになっている。店の中が一杯だったので、2人は外のテーブルでタルトを食べる。

 外はやや寒かったものの、今日は天気がよく日差しに当たれば暖かかった。それに紅茶もある。ゼノビアの頼んだのはベリーのタルト、ジルのはリンゴのタルトであった。

「この店には良く来るんですか?」

「いや、騎士団の方が忙しくてな。こんな機会でもないとなかなか来られんのだ。たまに休みがある時は、部下のマリエンヌと食べにくる。やっぱり甘い物が多いかな」

「ははは、やっぱり女性は甘いものが好きなんですね」

 ジルはタルトを一口食べてみた。爽やかな酸味と甘味のバランスが良く、かなり美味しい。流石に王都で人気の店である。ゼノビアの方を見ると、これがこぼれそうな笑顔で、甘いもので至福の時を過ごしているのは明らかだった。

(そんなに美味しいのだろうか)

 ジルはベリーのタルトの味も気になっていた。この店の一番人気らしい。

「ゼノビアさん、そのベリーのタルト、ちょっと食べてもいいですか?」

「あ、ああ……ん?」

 ゼノビアは一瞬ジルの言っていることがよく分からなかったらしい。ジルはゼノビアの皿に置いてあった食べかけのタルトを拝借し、一口食べる。

「美味しい! リンゴのより、ベリーの方がかなり美味しいですね。ゼノビアさんも僕のを食べてみますか?」

「あ、ああ…」

 ゼノビアはジルのタルトを見た。ジルの歯型の形に食べかけの跡がついている。

 ゼノビアは意を決し、ジルのタルトを一欠片切り取って口の中へ入れる。

「……美味しい」

「ええ、リンゴも美味しいですよね。ベリーのは酸っぱいのが苦手だと駄目かもしれません」

 普段騎士団という男ばかりの環境にいるゼノビアとしては、日常で自分が女だと感じることはほとんどないし、女として扱われることもない。今日のこうした体験はかなり貴重であった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

処理中です...