シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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1 ルーンカレッジ編

043 ヴァルハラ祭 〜サイファーの戦い1

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 王国暦768年12月31日、カレッジはあと少しで新年を迎えようとしていた。

 あと5分。ジルはレニとともにカレッジのダンスホールに居た。新年を一緒に迎えようという学生たちが大勢集まり、カウントダウンを待っている。カップルだけでなく、ルームメイト同士やクラスの同級生、指導生と新入生という組み合わせもいる。

(私たちの関係はどれに当たるのだろうか?)

 レニはそんなことを考えていた。ジルには絶対知られてはならないことだ。レニはこの瞬間を迎えるため、今日は戦略的にふるまった。

 夕方5時、レニは魔法について教えてもらう口実でジルに会いに行った。いま取り組んでいる第一位階のマジックミサイルの魔法についてである。基本的にジルは魔法について聞けば喜んで教えてくれる。魔法について語ること自体がジルにとって喜びだからである。そのことがレニにもようやく分かってきた。

 魔法について教わること2時間、レニはジルを食事に誘う。今日も学生食堂は8時まで開いている。この時間に魔法を教われば、ちょうど食事の時間になることを計算していたのである。そして夕食を食べ終わった後は、このまま新年を一緒に迎えましょうと誘うだけである。ジルはとくに深く考えることなく、一緒に付き合ってくれた。恐らくレニのような裏もなしに。

 今年も残り1分。ジルと出会った最初の年が終わりを迎えようとしている。レニはこのジルと過ごした瞬間を、自分が一生覚えているような予感を覚えていた。そしてジルは、大勢の学生がこの瞬間を楽しんでいるのを見て、自分も楽しんでいた。

「5……、4……、3……、2……、1……、新年おめでとうっ!」

 パンッパンッ! というクラッカーの騒音とともに、ダンスホールは学生たちの歓声で包まれていた。いまこの瞬間、この場所でだけは楽しもう、と皆が馬鹿騒ぎをしていた。王国暦769年が新たに訪れた。レニにとってはジルとのまた新たな年が始まったのである。この一年はどのような年になるだろうか。自分は魔術師として成長できるだろうか。レニはふと隣のジルを見る。ジルは周りの学生たちとともに新年を祝っていた。

**

 ルーンカレッジでは、毎年新年を祝う催しとして1月5日からヴァルハラ祭が行われる。これは学生たちが主体となって開かれる恒例の行事である。行事というよりは、常に魔法学習で重圧と戦う学生たちが、唯一重荷から開放され、羽目をはずすためのお祭り騒ぎである。教員たちもこの日だけは例外ということで、学生たちのやることに干渉しない。

 ヴァルハラ祭では3つの催しがある。まず魔法闘技大会、これは魔法を駆使して1対1の形式で戦う競技である。魔法は殺傷力が高く危険なので、結界により威力を20分の1に抑えた上で、判定は通常のダメージに換算して競う競技である。そして剣闘大会は魔法戦士クラスの学生のためにあるようなもので、剣+魔法を駆使した戦いである。

 それから一部学生の有志で行われるミスコンがある。ミスコンは自薦、他薦は問われないが、エントリーのためには10名以上の推薦が必要である。またこのミスコンにはおまけ的な要素として、全学生の投票によりカレッジのベストカップルが決められる。どれも勝負よりはお祭り騒ぎが主体の催しである。

 ジルは去年どのイベントにも参加しなかったが、今年はレニとともにヴァルハラ祭を楽しむことにしている。レニやガストンからの勧めもあって、魔法闘技大会に参加している。どうせお祭り騒ぎを楽しむなら、自分もその騒ぎに参加した方がいいだろうと思ったのである。

 ヴァルハラ祭の予定表によると、魔法闘技大会は剣闘大会が終わった後に行われる。それまでの時間が空いているため、ジルはレニと剣闘大会を観戦することにした。

 今回の大会で圧倒的な人気を集めているのはサイファーである。人気、というのは文字通りの意味ではない。ヴァルハラ祭では非公式ながら賭けが行われている。賭けているのは金銭ではなく、カレッジ内で流通する学食の券など他愛のないものである。サイファーは最も多くの支持を集め、倍率が1倍に近くなっているのだ。

 剣闘大会が行われるのは、カレッジの中にある闘技場である。闘技場は、本来魔法戦士コースなどで戦闘訓練に使われる場所である。いわゆる円形闘技場になっていて、競技の場の周囲を客席が囲む形になっている。ジルたちが闘技場に入ると、すでに客席は8割方埋まっており、人気競技であることを示していた。

 ジルは剣闘大会のトーナメント表を見た。参加者は全部で16人、トーナメント形式の勝ち抜き戦で行われるようだ。トーナメントは大きく分けてA、Bの山があり、サイファーはAの第二試合に名前が入っていた。3回勝てば、Aを勝ち抜いて決勝に進出することになる。
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