シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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1 ルーンカレッジ編

052 ヴァルハラ祭 〜魔法闘技大会6

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 ジルは大会が終わってから、会場を出ようとしていたアスランをつかまえ事情を聞いた。

「アスラン、どうして棄権したんだ? あのまま決勝をやっていたらきっと君が勝っていたじゃないか」

 ジルはアスランを責めるような口調になっていた。自分が勝利を譲られたと思っていたのである。

「ははは、ジル、それは僕を買いかぶり過ぎだよ。棄権したのは別に君のことを思ってのことじゃない。本当に試合を続けられなかったんだ」

「怪我でもしたというのか?」

「いや、魔力切れだよ。恥ずかしいことに、決勝に上るまでに既に大分魔力を使ってしまったんだ。それであのインプロージョンを使っただろう? あれで完全に魔力が切れてしまったのさ」

 アスランは大して残念そうでもなく、淡々と理由を話した。

「どうしてだ? ならインプロージョンを使わなければ良かったじゃないか」

「……ジル、君はどうして僕がこの大会に出たと思ってる? 君なら僕がこの手の大会には出ないと知っているだろう?」

「それは僕も不思議に思っていた。ならなぜだ?」

 アスランはかすかに笑みを浮かべた。

「実戦でインプロージョンを使うためさ。僕は魔法の訓練はしているが、実戦で使うような機会はなかなかない。これでは魔法の実用という経験を得ることができない。まあこれはカレッジにいつまでも残っていることのデメリットだな。で、この大会は実戦とは違うかもしれないが、僕が体験出来る中では一番実戦に近いだろう? 試合でインプロージョンを使ってみること、それが目的だったのさ」

「呆れたな……。まさかそんなことを考えていたなんて」

「戦うことに恵まれている君からすれば、くだらないと思うかもしれないけど、僕にとっては必要なことだったんだよ」

 他人は彼を馬鹿だと思うかもしれない。

 ――が、ジルはそれを責める気にはなれなかった。アスランがそのような人間であればこそ、ジルは敬意を抱いているからである。

「君はミアセラのところにも行くんだろ? 彼女に宜しく言っておいてくれ。危険な魔法を使ってすまなかったと」

 アスランはそう言い残して、去っていった。

 アスランに言われた通り、ジルはミアセラに会いに行くつもりだった。本当は先にミアセラに会おうとしたのだが、治療中で会えなかったのである。

 ジルはレニやメリッサとともに、競技場にある治療室へと向かった。ミアセラに指導を受けているメリッサも神妙な顔をして心配している。どうやら治療はもう終わったようだ。

 治療室のドアを開けると、思ったより元気そうなミアセラがベッドに腰掛けていた。服がところどころ破けているのが、インプロージョンの威力を物語っている……と、ジルの視点が一点に注がれる。ミアセラは上半身裸の状態で、その上から包帯が巻かれていた。包帯の隙間から豊かな胸が見えていた。その視線に気づいたミアセラは……

「ちょ、ちょっとジルさん、出て行ってください!」

「す、すみません」

 ジルは慌てて治療室から出る。突然のことで心臓がドキドキとしていた。

 しばらくすると、治療室からレニが顔を出してきた。

「先輩……もう入って良いですよ」

 レニがやや軽蔑するような目をしていたのは気のせいだろうか。

「さっきは、すみません……」

「もうそれは良いです! 繰り返さないで下さい」

 ミアセラは忘れてくれと言っているようだ。

「え、えーと、思ったより元気そうですね。アスランの奴がインプロージョンを使った時は血の気が引きました」

「……そうですね、もし結界がなければ確実に死んでいました。それと私が放ったファイアーボールがインプロージョンの威力を弱めたようです。それがなかったら、いくら結界で弱められるとは言っても、もっとダメージを受けていたでしょうね」

「なるほど。相打ちになったことで助かったということですか……。アスランの奴も危険な魔法を使って済まなかったと言っていました」

「彼に会ったのですね。別に彼に含むところはありません。ジルさんは、アスランと仲が良いのでしょう?」

「……ええ。と言っても魔法のことを良く話すだけですが。魔法で行き詰った時などに、彼と話すとヒントをくれるような気がします」

 ジルにとってアスランは貴重な存在であった。こと魔法に関する知識でいえば、カレッジの教員の幾人かよりもアスランの方が頼りになる。

「そんな人ですから、勝負で手を抜くことなど出来ないのでしょう。私もインプロージョンの魔法を初めて目にすることができました。自分の身を持ってですが……」

 フフっ、とミアセラが初めて笑った。その姿を見て、ジルはこれなら大丈夫だろうと安心した。
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