シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

文字の大きさ
64 / 107
2 動乱の始まり編

064 レムオン=クリストバインという男

しおりを挟む
 レムオン=クリストバインは当初から期待されて家を継いだわけではなかった。むしろクリストバイン家の穀潰しとして疎まれていたと言った方が良い。伯爵家は本当なら兄が継ぐはずだったのだ……。

 レムオンの父アランにはカイルとレムオンという二人の男子がいた。2つ離れた兄カイルは、将来を約束された跡継ぎであった。カイルは何をしても要領よくこなし、細かな気配りもでき人当たりも良かった。そのため、身分の高い貴族との交流はもちろんのこと、屋敷の使用人からも慕われる、そんな少年だった。

 一方、できすぎる兄にくらべ、レムオンは何においても見劣りした。ややもすれば一日中ぼーとしている、そんな印象を周囲から持たれていた。比較対象としての兄がいなければ、それでも跡継ぎ候補として認められたかもしれない。しかし、すぐ身近にカイルという輝きがあると、レムオンは影としての存在にならざるを得なかった。

 二人がまだ幼い時分には、父アランは兄弟に対して努めて公平であるように自己を律していた。どうしてもアランに甘くなり、レムオンをどやしつけたくなった時も、自制心で思いとどまった。しかし老いるにしたがってアランの自制心は緩み、兄には過度に甘くなり、レムオンに対しては虐待ともとれるほど当たり散らすことが多くなった。

 もともとアランは若い頃から酒量が多い方であり、酔った時には人に当たることも多かった。普段は主に言葉による暴力であったが、酒に酔った時は文字通り肉体に対する暴力も伴った。その場合暴力は稀にカイルに及ぶこともあった。酔が覚めた時、アランはカイルに暴力を振るったことを後悔したが、レムオンに対してはついぞ後悔することはなかった。

 カイルが18歳となった日、兄は正式にクリストバイン家の跡を継いだ。当主であったアランの行状が荒れていることは誰の目にも明らかであり、自分でもそれを自覚していたのであろう。アランは頼りになるカイルに全てを継がせたのである。

 レムオンはそんな兄を見ながら、日陰者として生きていた。しかし特別不満があったわけではない。世の中に平等や公平など無い、世の中はそんなものだ、そんな諦めに似た気持ちがあったのである。

 カイルが家を継いで一年後、父は病気で亡くなった。全てを息子に任せて安心したのであろう。もともと多かった酒量は一層増し、内蔵を痛めたのであった。しかしアランの死に方はそれほど悪いものではなかったかもしれない。ともかくも最後は安心して死んでいったのだ。

 父が死ぬと、家にはカイルとレムオンだけになった。兄と弟は幼い頃から至って疎遠であった。父がレムオンを疎んじているなかで、カイルもレムオンと仲良くすることはできなかったのである。カイルは特に弟を迫害するようなことはしなかったが、不幸な弟に配慮することもなかった。要するに体よく無視することにしたのである。レムオンは屋敷の中で存在しないものとして過ごすことになった。

 貴族は領地の兵を率い王国の戦争に参加しなければならない。カイルは軍人としてもなかなか有能であった。少なくともそう周囲から認められていた。飛び抜けた戦功を挙げたわけではなかったが、出陣する毎になんらかの手柄を挙げて帰ってきた。カイルは人付き合いも良かったことから、高く評価され軍人としても重要な役割を任されるようになっていった。

 そして重要な戦いが始まる。バルダニア王国との戦いである。

 シュバルツバルトとバルダニアはもともと一つの国として帝国から独立した。しかしその後、イシス教の教義上の対立から2つに分裂することになった。シュバルツバルトからバルダニアが独立する形で、である。

 なまじ同じイシス教であるだけに、教義の違いによる教団内部の対立は、激しい対立を生んだ。帝国との関係よりもお互いとの関係が急速に冷えきっていったのである。

 このような宗教上の対立が両国の戦争の大きな背景であるとすれば、国境紛争はその直接的な契機であった。シュバルツバルトの都市ギール付近の国境地域は、貴重な鉱物資源を生産する地帯として有名であった。鉱山はシュバルツバルト側にも、そしてバルダニア側にも存在していたのだが、ちょうど国境線上に比較的大きなモデルン鉱山があり、両国の争奪戦の対象となったのである。

 こうして従来外交上批判し合うだけの対立であった両国は、直接刃を交える戦いに突入していったのである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...