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2 動乱の始まり編
065 レムオン=クリストバインという男2
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国家の威信と経済的な利益がかかった戦いだけに、シュバルツバルトは精鋭をギールへと派遣することにした。そして近年名を上げていたカイル=クリストバインも、5つに分けられた軍の1軍の指揮官として抜擢された。
カイルは当時あまりに若かったのでこの人事には反対もあったが、若き世代の旗手と目され期待されていたことから、賛同する声の方が遥かに多かったのである。カイルは約5000の兵を率いてバルダニア軍と対峙することになる。
両国の戦いは、鉱山の近くに広がるスリント荒野で行われた。両軍合わせて5万を越える戦いができるところなど、自然と限定されてくる。スリント荒野は広いだけの何も取り柄のない荒野であったが、それだけに会戦には都合が良かったのである。
期待されていたカイルは、シュバルツバルト軍の右翼を任された。軍勢はややシュバルツバルト軍の方が多く約2万8千、バルダニアは約2万2千であった。ただバルダニアは少ない兵を集中して運用し、右翼のカイル軍に対して2軍をぶつけてきた。5000のカイル軍に対し8000のバルダニア軍が向かってきたことになる。しかもバルダニア軍は正面と右側面からカイルの軍を挟む形で攻撃した。
カイルは不利な状況であったが、何とか持ちこたえなければならなかった。彼我の戦力からすれば、華々しく勝つことはできないとしても、戦線を維持することはできたはずである。右翼が多数の敵を引きつけていれば、その分中央から左翼が有利となり、そこから戦いを決定づけることもできたのである。
しかし――
カイル軍は脆くも崩れたった。本来部隊長や兵を叱咤し軍の維持に務めなければならない指揮官自身が、パニックに陥りろくに戦いもせずに逃げ出したのである。右翼が崩れさると、勢いづいた敵が中央の本軍へとなだれ込んだ。
中央と左翼のシュバルツバルト軍にとって、崩壊し右往左往する右翼軍の敗残兵たちは味方ではなく、むしろ自軍の混乱を拡大する元凶でしかなくなっていた。結局のところ、カイルの軍の失態によって、シュバルツバルトは全軍崩壊へと至ったのである。
カイルはこの敗戦の最中、脇目もふらず逃げ出し、しかも自軍の方へと逃げたことで、結果として自軍を道連れにした。この混乱のなかで、カイルは名も無き雑兵の手によって討ち取られ、自らの命も失ったのであった。
カイルがなぜ大事な戦いで不名誉にも敵前逃亡したのか。これは今も議論が分かれている。軍関係者のなかで最も支持されている説は、そもそもカイルは一軍の指揮官の器ではなかった、というものである。
カイルがそれまでの戦いで挙げた戦功はそれほど特筆すべきものではなかった。しかしそれにも関わらず、カイルを過度に評価する風潮があり、ついには充分な経験を積ませることもないままに、指揮官という過度な役目を与えてしまったというものである。
しかしこの説は、カイルを起用したシュバルツバルト軍上層部の判断を否定するものであるから、公には議論されることはない。後にレムオンは部下だった男から経緯について聞いた時、これが真実だろうと確信した。
レムオンの知る兄は、自分を優れていると見せるのが上手いだけで、実は非常に臆病な男であった。それを隠すために人との関わりを積極的に求めて覆い隠そうとする。軍なら部隊長、本当は文官であれば、実際の兄に相応しかったのではないか。
指揮官になる前に挙げた幾つかの戦功も、真実兄が挙げたものなのかレムオンは疑っていた。他人の挙げた武功を金で買ったり、部下の手柄を横取りしていたのではないか、レムオンは実の兄に対して非情にもそう疑っていたのである。
そしてそれは紛れも無い事実だったのである。自領に逃げ帰ってきた家臣の口から、兄の不正が告げられた。レムオンは亡くなった兄とこれからの自分のことを思い、深く溜息をついた。
カイルは当時あまりに若かったのでこの人事には反対もあったが、若き世代の旗手と目され期待されていたことから、賛同する声の方が遥かに多かったのである。カイルは約5000の兵を率いてバルダニア軍と対峙することになる。
両国の戦いは、鉱山の近くに広がるスリント荒野で行われた。両軍合わせて5万を越える戦いができるところなど、自然と限定されてくる。スリント荒野は広いだけの何も取り柄のない荒野であったが、それだけに会戦には都合が良かったのである。
期待されていたカイルは、シュバルツバルト軍の右翼を任された。軍勢はややシュバルツバルト軍の方が多く約2万8千、バルダニアは約2万2千であった。ただバルダニアは少ない兵を集中して運用し、右翼のカイル軍に対して2軍をぶつけてきた。5000のカイル軍に対し8000のバルダニア軍が向かってきたことになる。しかもバルダニア軍は正面と右側面からカイルの軍を挟む形で攻撃した。
カイルは不利な状況であったが、何とか持ちこたえなければならなかった。彼我の戦力からすれば、華々しく勝つことはできないとしても、戦線を維持することはできたはずである。右翼が多数の敵を引きつけていれば、その分中央から左翼が有利となり、そこから戦いを決定づけることもできたのである。
しかし――
カイル軍は脆くも崩れたった。本来部隊長や兵を叱咤し軍の維持に務めなければならない指揮官自身が、パニックに陥りろくに戦いもせずに逃げ出したのである。右翼が崩れさると、勢いづいた敵が中央の本軍へとなだれ込んだ。
中央と左翼のシュバルツバルト軍にとって、崩壊し右往左往する右翼軍の敗残兵たちは味方ではなく、むしろ自軍の混乱を拡大する元凶でしかなくなっていた。結局のところ、カイルの軍の失態によって、シュバルツバルトは全軍崩壊へと至ったのである。
カイルはこの敗戦の最中、脇目もふらず逃げ出し、しかも自軍の方へと逃げたことで、結果として自軍を道連れにした。この混乱のなかで、カイルは名も無き雑兵の手によって討ち取られ、自らの命も失ったのであった。
カイルがなぜ大事な戦いで不名誉にも敵前逃亡したのか。これは今も議論が分かれている。軍関係者のなかで最も支持されている説は、そもそもカイルは一軍の指揮官の器ではなかった、というものである。
カイルがそれまでの戦いで挙げた戦功はそれほど特筆すべきものではなかった。しかしそれにも関わらず、カイルを過度に評価する風潮があり、ついには充分な経験を積ませることもないままに、指揮官という過度な役目を与えてしまったというものである。
しかしこの説は、カイルを起用したシュバルツバルト軍上層部の判断を否定するものであるから、公には議論されることはない。後にレムオンは部下だった男から経緯について聞いた時、これが真実だろうと確信した。
レムオンの知る兄は、自分を優れていると見せるのが上手いだけで、実は非常に臆病な男であった。それを隠すために人との関わりを積極的に求めて覆い隠そうとする。軍なら部隊長、本当は文官であれば、実際の兄に相応しかったのではないか。
指揮官になる前に挙げた幾つかの戦功も、真実兄が挙げたものなのかレムオンは疑っていた。他人の挙げた武功を金で買ったり、部下の手柄を横取りしていたのではないか、レムオンは実の兄に対して非情にもそう疑っていたのである。
そしてそれは紛れも無い事実だったのである。自領に逃げ帰ってきた家臣の口から、兄の不正が告げられた。レムオンは亡くなった兄とこれからの自分のことを思い、深く溜息をついた。
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