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2 動乱の始まり編
063 レムオンの問い2
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「君は将来に何を望んでいるのかね?」
突然の質問に、ジルの心臓は早鐘のように鼓動を打った。レムオンはジルの内面を探る核心をついた質問を投げかけてきたのである。
「君の望みがもし宮廷魔術師として出世するだけなら、私がその手助けをしてやってもいい。クリストバイン家の力と私の政治力を使えば、下級の宮廷魔術師の人事などどうとでもできる。君の望みは何だ?」
ジルにはレムオンの真意がどこにあるのか掴みかねていた。これは娘と親しい男に対する身体検査のようなものなのか、それとも軍人や宮廷人として何か政治的な意図があるのか……。いずれにしても、この人には誤魔化しはきかない、ジルは直感的にそう悟った。恐らくその場しのぎの誤魔化しを言えば、レムオンには気づかれるだろうし、所詮そのような者として切り捨てられる、そんな予感を覚えたのである。
「私の望みは大魔導師になることです」
「シュバルツバルトのかね?」
レムオンはとくに驚いた様子もなくそう聞いた。
「いまのところは。王国が私を宮廷魔術師としてくださりますので、一番の近道ですから」
「君の望みは大魔導師という地位なのか?」
レムオンは全てを見通そうとするかのようにジルの眼を見つめた。
「私の生涯の目標の一つは魔法を極めることです。その遠い魔法の修練の先には、自然と大魔導師があるのではないかと」
「自分にはそれだけの魔法の才があると思っているのだな?」
「ええ、はばかりながら」
ジルは一旦言葉を切って、心を落ち着ける。
「ただ私が大魔導師になろうとするのは、単に地位だけのことではありません。私は大魔導師として国政に参画することにより、様々な情報を手に入れたいのです」
「情報? どういう類のものだ?」
レムオンはジルの意外な言葉に興味を持ったようだ。
「一つは、この世界の真理に関するものです。我々の生きるこの世界には、まだ明らかになっていない事が数多くあります。例えば帝国の「魔獣の森」や「エルフの森」の実態、遠い東の果てのモングーについて、そして魔法の原理についてもまだまだ分からないことばかりです。私は自分の生きるこの世界の在り方を解き明かしていきたいと思っているのです」
「ふむ、なかなか興味深い視点だな」
「二つ目は、私の出生についてのことです」
「……」
「私はシュバルツバルトの元上級魔術師ロデリック=アンブローズの子とされていますが、実はそうではないのです。父ロデリックは14年前、私を聖地グアナ・ファルムの神殿の前で拾ったのです」
「本当かね……」
「私もつい最近知ったことです。ルーンカレッジに入学する際、父に打ち明けられました。父によれば、私が寝かされていた籠は貴族が使用するものだったということです。私は自分が一体何者なのか、その出生について知りたいと思っているのです」
「それで君は自分のことを不幸だと思っているのか?」
「いえ……、聞いたのがつい最近ですので、戸惑っているというのが正直なところです」
これは事実だ。13になるまでそうと知らずに育てられて来た。父ロデリックに思うところは色々あるが、少なくとも子どもの頃の自分は不幸ではなかったのだ。
「そうだな、この世界に不幸な者など幾らでもいる。冷たいようだが、捨て子など珍しくもない。君には養親《やしないおや》が居ることだし、今生きていられるだけで幸せかもしれないのだ。それに、弱い立場の者ならばともかく、君なら自分で道を切り開いていくこともできるはずだ」
レムオンの言葉に、ジルは自戒のような響きを感じ取っていた。
「失礼ながら、レムオンさまも御自身で道を切り開かれてきたのですか?」
「いや……、私は常に状況に流されて来ただけだ。流され続けて英雄にまつり上げられるというのも珍しいものだが」
レムオンは自嘲気味にそう言った。ジルにはなぜレムオンが恥じ入る必要があるのか分からなかった。
「ジルフォニア君、君のことが少し分かった気がするよ。今日こうして話すことが出来てよかった。君の出生について、私の方でも気にかけるようにしておこう。何か情報をつかんだら、君に知らせるよ」
こうしてジルとレムオン=クリストバインとの話は終わった。ジルはレニの父、「英雄レムオン」の新たな一面を知ったのである。
突然の質問に、ジルの心臓は早鐘のように鼓動を打った。レムオンはジルの内面を探る核心をついた質問を投げかけてきたのである。
「君の望みがもし宮廷魔術師として出世するだけなら、私がその手助けをしてやってもいい。クリストバイン家の力と私の政治力を使えば、下級の宮廷魔術師の人事などどうとでもできる。君の望みは何だ?」
ジルにはレムオンの真意がどこにあるのか掴みかねていた。これは娘と親しい男に対する身体検査のようなものなのか、それとも軍人や宮廷人として何か政治的な意図があるのか……。いずれにしても、この人には誤魔化しはきかない、ジルは直感的にそう悟った。恐らくその場しのぎの誤魔化しを言えば、レムオンには気づかれるだろうし、所詮そのような者として切り捨てられる、そんな予感を覚えたのである。
「私の望みは大魔導師になることです」
「シュバルツバルトのかね?」
レムオンはとくに驚いた様子もなくそう聞いた。
「いまのところは。王国が私を宮廷魔術師としてくださりますので、一番の近道ですから」
「君の望みは大魔導師という地位なのか?」
レムオンは全てを見通そうとするかのようにジルの眼を見つめた。
「私の生涯の目標の一つは魔法を極めることです。その遠い魔法の修練の先には、自然と大魔導師があるのではないかと」
「自分にはそれだけの魔法の才があると思っているのだな?」
「ええ、はばかりながら」
ジルは一旦言葉を切って、心を落ち着ける。
「ただ私が大魔導師になろうとするのは、単に地位だけのことではありません。私は大魔導師として国政に参画することにより、様々な情報を手に入れたいのです」
「情報? どういう類のものだ?」
レムオンはジルの意外な言葉に興味を持ったようだ。
「一つは、この世界の真理に関するものです。我々の生きるこの世界には、まだ明らかになっていない事が数多くあります。例えば帝国の「魔獣の森」や「エルフの森」の実態、遠い東の果てのモングーについて、そして魔法の原理についてもまだまだ分からないことばかりです。私は自分の生きるこの世界の在り方を解き明かしていきたいと思っているのです」
「ふむ、なかなか興味深い視点だな」
「二つ目は、私の出生についてのことです」
「……」
「私はシュバルツバルトの元上級魔術師ロデリック=アンブローズの子とされていますが、実はそうではないのです。父ロデリックは14年前、私を聖地グアナ・ファルムの神殿の前で拾ったのです」
「本当かね……」
「私もつい最近知ったことです。ルーンカレッジに入学する際、父に打ち明けられました。父によれば、私が寝かされていた籠は貴族が使用するものだったということです。私は自分が一体何者なのか、その出生について知りたいと思っているのです」
「それで君は自分のことを不幸だと思っているのか?」
「いえ……、聞いたのがつい最近ですので、戸惑っているというのが正直なところです」
これは事実だ。13になるまでそうと知らずに育てられて来た。父ロデリックに思うところは色々あるが、少なくとも子どもの頃の自分は不幸ではなかったのだ。
「そうだな、この世界に不幸な者など幾らでもいる。冷たいようだが、捨て子など珍しくもない。君には養親《やしないおや》が居ることだし、今生きていられるだけで幸せかもしれないのだ。それに、弱い立場の者ならばともかく、君なら自分で道を切り開いていくこともできるはずだ」
レムオンの言葉に、ジルは自戒のような響きを感じ取っていた。
「失礼ながら、レムオンさまも御自身で道を切り開かれてきたのですか?」
「いや……、私は常に状況に流されて来ただけだ。流され続けて英雄にまつり上げられるというのも珍しいものだが」
レムオンは自嘲気味にそう言った。ジルにはなぜレムオンが恥じ入る必要があるのか分からなかった。
「ジルフォニア君、君のことが少し分かった気がするよ。今日こうして話すことが出来てよかった。君の出生について、私の方でも気にかけるようにしておこう。何か情報をつかんだら、君に知らせるよ」
こうしてジルとレムオン=クリストバインとの話は終わった。ジルはレニの父、「英雄レムオン」の新たな一面を知ったのである。
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