シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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2 動乱の始まり編

072 暗殺未遂事件

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 アリア祭はロゴスの住人だけでなく、王国中から人が集まってくる。中には帝国やバルダニア、カラン同盟からも見物に来る者もいる。それだけ広く知れ渡った祝祭ということである。

 ジルはゼノビアとともに、アルネラと同じ神輿の上に乗っている。アルネラは、神輿の上で磔になったアリアに扮し、王都中を引き回されることになっている。神輿の高さから周囲を見渡すと、アリア祭の人出がいかに多いかということが分かる。

 アルネラにもしものことがあった場合に備え、ジルは彼女にプロテクション・アーマー(防御力強化)やマジックシールド(魔力障壁)をあらかじめかけている。万一の場合、武器や魔法での攻撃を和らげ、致命傷をさけられるかもしれない。持続時間は30分程度なので、途中なんどもかけ直すことになるだろう。

 ジルは事前にルーファスに言われたことを思い出していた。

「今回はアルネラさまが主役だから、大勢の人間がアルネラさまを見るだろう。だが何かをなそうとするものは、同時に常に周囲に気を配っているものだ。君が注意すべきは、アルネラさまよりもだ。もしアルネラさまに危険が及ぶようなら、祭りが中止になっても構わない。遠慮無く魔法を使ってくれ。それで多少の人間が巻き添えになったとしても、やむを得ないと考えてくれ」

 ジルはルーファスに言われた通り、大勢の人間の中から周囲に目を向けている者に目を光らせた。とはいえ、言うは易しというもので、実際このように大勢の人間がいれば、多少怪しい程度の人間は掃いて捨てるほどいるものだ。その中から本当の危険人物を見つけ出すというのは、至難の業と言って良い。

 神輿が通る道の要所には、鎧に身を固めた騎士が目立つように配置されている。これは厳重に警備しているということを明示することで、事件が起こることを抑止する意味がある。またそれとは別に、私服で警戒にあたっている騎士や魔術師もいる。これらは事前に護衛計画を立てたルーファスの指示によるものである。

 事が起これば、基本的には彼らが未然に防いでくれるはずである。万が一ゼノビアやジルが体が張らねばならない状況になったとすれば、アルネラの命が風前の灯となっている可能性が高い。ジルもゼノビアも、そんなことになるとは思いたくないところであった。

「ジル、そう気を張るな。油断してもらっては困るが、ずっと緊張しているといざという時に疲れて対応できなくなるぞ」

 ジルはいささか張り詰めすぎていたようだ。それが見てすぐ分かるようでは確かにまずいだろう。

「ゼノビアさんはアリア祭では毎回護衛や警備につかれるんですか?」

「毎回というわけではないが、王都での行事だから警備につくことが多いぞ。今回のように王族がアリアとなることは異例だがな」

 ジルはアリアに扮したアルネラに視線を向けた。観客は遠目から見るだけなので、身動きしないことを守りさえすれば、実のところかなり自由に話したりできる。ジルはアルネラの退屈を紛らわせるため、彼女に問いかけた。

「姫、今回のことなぜお受けされたのですか? なにも姫がアリアとなることもないでしょう?」

 アルネラは頭を動かさないよう前を向いたまま、それに答える。

「アリアの時ほどではありませんが、今は王国にとって難しい時期なのです。アリアは戦場に出て王国に勝利をもたらしましたが、私にはそんなことは出来ません。せいぜい出来ることは、民と王国との架け橋になることくらいです。わたくしも王族として、義務を果たさねばならないのです」

 アルネラの答えにジルはある種の感動を覚えていた。民を民とも思わない王族や貴族が珍しく無い中で、アルネラの言はいささか理想に過ぎるようにも聞こえる。

 ――が、アルネラは裏表のない性格であり、今のは姫の本心なのだという確信がジルにはあった。健気にも真剣に「王族としての義務」を果たそうとしているのであれば、自然とそれを手伝ってあげたいと思う。これはアルネラの人徳というものだろう。ジルは自分を忠義に厚い人間だとは思わないが、アルネラに対しては忠誠に似た気持ちを抱きつつあった。

「アリア祭もあと1時間半ほどで終わりです。同じ態勢でいるのはお辛いでしょうが、頑張ってください。これが終わったら、お会いしていなかった時にあったことをお互い話しましょう」

 こちらを向くことはないが、アルネラは確かに口の端を持ち上げ微笑んだようであった。

、ですよ。私、明日は予定を空けておきますから」

 アルネラは、どうやら明日以降は暇をもらえるとのことであった。王城を抜け出すわけにはいかないから、内部探検でもするしかない。姫に王城を案内してもらうのも一興かもしれない。

 ジルがそんなことを考えていると、神輿はロゴスで最も賑わう通りに出た。以前ゼノビアに案内されたハイストリートである。ここは四本の道が交差する広場となっており、多くの店が立ち並ぶ構造になっている。祭りということで、今がかき入れ時と店の売り子が声を張り上げている。

 ジルはふと屋台の近くにたたずむ男に視線を向けた。男の姿には特に変わったところは無いが、一番の盛り上がりを見せるアルネラの神輿に全く注目していない。男の視線は常に歓声をあげる人々に向けられているのだ。この神輿から男まで約200m、その間には多くの観客がいて、男が近づいて何かするような心配はとりあえずないだろう。ジルは念のためセンスオーラを唱えたが、男から魔力は感じられなかった。

 神輿が進んでいくと、男は後方の死角へと入り見えなくなった。取り立てて騒ぎ立てるような者ではなかったのだろう、ジルは自分をそう納得させた。怪しい者を全て調べるようなことになれば、祭りは大混乱となるに違いない。

**

 神輿は予定したルートで、最後の通りを抜けようとしていた。出発した広場から約2時間、問題は何も起きなかった。やはりこのような大勢の人出があり、警戒もされている中で事件を起こすような者はいないのだろう。

 神輿が目的地へと着くと、ずっと同じ態勢をとっていたアルネラはようやく開放された。さすがに体の節々が痛んでいるようであった。

「姫、お疲れ様にございます。これで我々の任務も終わりです」

 ゼノビアがアルネラに笑いかけた。ゼノビアも護衛として終始緊張を強いられていたので、肩の荷が降りたのであろう。

 ジルは先に神輿を降り、アルネラに手を差し出した。

「さ、どうぞ姫。今日はお疲れさまでした。こう言うとご無礼かもしれませんが、御立派だったと思います」

「ありがとう、ジル殿」

 アルネラはジルの手を握ることに照れているようであった
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