シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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2 動乱の始まり編

078 ミリエルとの再会

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 カレッジではようやく新年度が始まった。上級に上がったジルも、日に幾つかの授業に出席していた。上級の授業はさすがにレベルが高く、ジルとしても受けがいがある。

 その日、授業が終わった後、ジルは男子宿舎へと続く道を帰っていた。夏の暑さがようやく和らいできて、気持ちのよい夜であった。夜道を散歩するかのように楽しんでいたジルであったが、ふと自分が何かに見られているかのような感覚に襲われた。

 ジルは立ち止まって周囲の気配を探ってみる。だが何ものかがいるようには見えない。周囲には隠れるような物もないのだ。気のせいか、そう思ったジルであった。

 が――

「ようやく見つけたわよ、ジルフォニア=アンブローズ」

 突然の声に驚かされた。ジルは辺りを見渡すが、人影はない。だが確かに何かが存在する、そんな気配はある。そうか、ジルにひらめくものが会った。

 ジルはセンスオーラ(魔力感知)の魔法を唱えた。ジルの斜め右に魔法の力が働いている。なるほど、と納得し、ジルはディスペルの魔法を唱えた。第三位階の魔法で、魔法を打ち消す魔法である。すると……、何も見えなかった所から若い女の子が姿を現した。耳がとがったエルフである。

「さすが、おみごとね! 以前わたしを捕らえただけあるわ」

「お前は……!」

 エルフの少女は名をミリエルという。以前シュバルツバルトの王宮を偵察していたところ、ジルに見つかり捕まったエルフの娘である。その時ジルに解放され命を救われたことがあった。

「ずっと探していたのよ。名前と学校に通っているということしか分からなかったから、随分手間取ったわ」

「驚いたな。またお前に会うとは」

「可愛い女の子にまた会えたんだから喜びなさいよ!」

「……それで、そんなに手間をかけて俺を探しだしたのには何か目的があるのか?」

 ミリエルはジルの答えがやや間があったことに腹を立てながらも、素直に理由を話す。

「あの時、いつか借りを返すって言ったでしょ? それよ」

 随分律儀なエルフである。殊勝な心がけだが、いささか押し付けがましい。

「俺もあの時言ったはずだ。借りなど気にしなくてよい、と」

「そうはいかなのよ。エルフにも仁義ってものがあるんだから。受けた恩は返さないといけないのよ」

 言ってることは理屈が通っているが、ジルはなにか腑に落ちないものを感じていた。

「何か隠しているだろう? それだけの理由で、わざわざここまで手間を掛けて俺を探しだす必要はない。本当の事を言え」

「……」

 ミリエルはやはり何か隠しているようだ。バツの悪い顔をしている。ジルは前回の経験から、このエルフ娘の扱い方は何となく分かっている。

「言わなければ俺はこのまま帰るぞ。別にお前に手伝ってもらわないといけないことはないのだからな」

 もちろんこれはブラフである。本当にミリエルを放って帰るつもりなどない。

「……分かったわよ。言うわよ」

 ミリエルは諦めて降参というように両手を上にあげた。

「あれから私はエルフの森に帰ったのよ。そうしたら父に、ああ父というのはエルフの指導者の一人なんだけど、父にあなたのことを話したのよ。そうしたら、あなたをもう一度探しだして、必ず恩を返せって」

「なぜだ? まさかそれが礼儀だからなんて言うなよ」

「いまさら言わないわよ。もちろんエルフにとってそれも大事なのは確かなんだからね!」

 ジルは苦笑した。どうやらエルフは人間などよりも純粋らしい。

「父が言うには、あなたはエルフの良き理解者になり得る人間だ。そういう人間を作っておけば、エルフにとっても将来必ず利益になるから、と」

「……なるほどな」

 ジルはミリエルの言うことを理解した。エルフは長い歴史の中で、人間から「エルフの森」へと追われてきた。ミリエルらエルフの「開明派」からすれば、エルフが破滅の道を歩まないためには、人間の協力者を作る必要がある。協力者から情報を得ることが出来るし、その人間の地位が高ければ、政治に干渉させエルフと対立させないように舵取りさせることもできるのだ。

 だが、もちろん協力者は誰でも良いわけではない。まずは信用できるということが第一である。そしてエルフに敵対的な感情を持たぬ者。しかし人間と交流を持ってこなかったエルフたちのこと、そのような人間に心当たりがあるはずがない。それで長年手をこまねいてきたわけだが、そこにミリエルの出会ったジルが現れた。

 ミリエルの話によれば、ジルという人間はエルフに好意を持ち、交流したいと考えている。実際にミリエルを見逃してくれた恩もある。地位が低いのは問題だが、この際人間の協力者を作る第一歩と考えれば良いのだ……。

「評価されているのか、なめられているのかよく分からんな」

「評価しているのよ。エルフが人間を信用するなんて余程のことなんだからね」

 ミリエルの恩着せがましい言い方に、ジルは皮肉の一つも言いたくなる。だが、エルフと関係を持つこと自体は、ジルにとって自分の希望に沿うものである。この世界のことを明らかにするために、エルフの持っている知識はぜひ欲しいところだ。ならばこれはジルにとっても良い機会となるだろう。
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