シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

文字の大きさ
79 / 107
2 動乱の始まり編

079 ミリエルとの再会2

しおりを挟む
「……分かった。お前たちの思惑に乗ってやっても良い。いずれエルフの森にも案内してもらえるか?」

「それは現状では難しい相談ね。私の父も含めて長老たちが許さないと無理だわ。考えてもみてよ。私たちの森を案内するということは、あなたに全てを知られるということでしょ。それはあなたへの信頼が完全なものとならないと無理よ。エルフ全体にとってのリスクが大きすぎる」

 ミリエルの話はもっともなことだ。ジルに悪意があれば、森の構造を知った後、王国の軍を使って占領することを考えるかもしれない。それくらいの慎重さは、関係を持つ相手としてはむしろ好ましいと言うべきだろう。

「無理もない話だな。良いだろう、今はこちらもそれを求めはしない。いずれは行ってみたいがな」

「そうね、私たちの関係がもう少し深まってからまた考えましょう。私だって……」

 ミリエルは何かを言おうとしたが、赤面して言いよどんだ。

「なんだ?」

「な、何でもないわよ! ……それよりまずはあなたへの借りを返すのが先ね。何か私にして欲しいことはないの?」

「ふむ……」

 ジルはしばし考えた。実は頼みたいことがないわけではないが、ミリエルに実行可能かどうか分からない。

「帝国へは行ったことがあるか?」

「帝国? 神聖グラン帝国ね。ないわ。現状で我々と接点がないもの」

 エルフたちのエルフの森はシュバルツバルトとだけ接している。エルフにとって直接の脅威とはならない帝国には関心がないのだろう。

「ではシュバルツバルトとの国境を越えて帝国領へ潜入できるか?」

「可能よ。私にならできるわ」

 ミリエルは胸を反らし、自信をもってそう答えた。

「どうやってだ?」

「あなたもさっき見たでしょう? 私は透明化出来るのよ。余程のことがない限り、見つかることは無いわ」

「そうだ、あの魔法はなんだ? 俺がまだ知らない魔法だが」

 ジルの知る魔法の中に、透明化する魔法は存在しないはずだ。ルーンカレッジの魔道書にも載ってはいない。ジルは自分の魔法の知識に自信がある。まだ自分が使えない魔法であっても、ほとんどの魔法は把握してるつもりだ。

「当然ね、あれは人間の使う魔法にはないもの。エルフの魔法よ」

「エルフの?」

「そうよ。エルフが古代より守ってきた我々独自の魔法体系があるのよ。人間の使う魔法と一部は重なっているけど、エルフにしか伝わっていない魔法もあるのよ」

「ほう、それは興味深い」

 未知の魔法と聞けば、ジルとしても聞き逃すことはできない。自分が最も関心のあることだ。

「その魔法、俺にも教えてくれないか?」

「……それも私の一存では無理ね。エルフの魔法は私たちが太古から伝えてきた財産なの。長老の許可がなければ教えられないわ」

「まあそれも次の段階で、ということか。さっきの透明化の魔法もエルフの魔法なのだな?」

「インビジブル(透明化)の魔法ね。第三位階の魔法よ。偵察などの潜入に最適な魔法よ」

 インビジブルの魔法は人間にとって非常に有用な魔法だろう、ジルはその価値の高さを理解した。

「しかし、そんな魔法が使えるなら、なぜロゴスで俺に捕まるようなヘマをやったんだ?」

「ちょ、ちょっと、私がドジ踏んだみたいに言わないでよ!」

 ミリエルがさも心外だと言わんばかりに食ってかかる。

「インビジブルを使っていたけど、城を出るところでちょうど魔法が解けたのよ。油断したわ」

「本当か? 魔力が切れたんじゃないのか?」

「ち、ちがうわよ! 私がそんなヘマするわけないでしょ」

 ジルは含み笑いを噛み締めた。このエルフ娘はからかうと面白い。だが、そろそろ真面目な話に移るべきだろう。

「それでだ……それならお前に頼みたいことがある。帝国にエルンスト=シュライヒャーという人物がいる。“帝国軍を支える一柱と呼ばれる優れた将軍だ。彼の周囲で情報を探って欲しい」

「それでは漠然とし過ぎてるわ。どんな情報よ?」

 ミリエルの質問はもっともだ。

「探ってもらいたいのは、彼がいま何を考えているのか、だ。私は彼が何か悩んでいるのではないかと考えている。彼の側にいれば何か書いたり、独り言をつぶやいたり、家人と話すこともあるだろう。それを探ってもらいたい。それと彼が誰と会ったのか、そして彼を見張っている者が居ないかのかも合わせて調べて欲しい」

「見張っている者? 私の他にその男を探る者いるってこと?」

「ああ。彼は帝国で高い地位についている軍人だが、もしかしたら帝国内で微妙な立場に置かれているかもしれないのだ」

 ジルはミリエルにレミアが死んだ経緯について話した。

 ルーンカレッジの魔法戦士レミアは、ジルやサイファーとともに軍事演習に参加中アルネラ王女誘拐事件に遭遇、三日月形の傷の男に殺害されたこと。レミアはエルンストの娘であり、弔問に訪れた際に傷の男のことを話すと態度が急に変わったこと、恐らくはエルンストが何かしら知っていること、など。

 そしてジルはレミアの手向けとして真実を明らかにしたい、その正直な心情をミリエルに話した。

「なるほどね、分かった。そういうことなら借りもあることだし、協力するわ」

「ありがとう。お前がいてくれて助かるよ」

「ちょ、ちょっと、誤解しないでよ。あくまで借りを返すだけなんだからね」

 ジルは素直に礼を述べたつもりだが、どうしたものかミリエルは赤面していた。

「魔法で透明化するから大丈夫だとは思うが、くれぐれも注意しろよ。見つかればお前の容姿だ、すぐに追手を向けられるからな」

「……大丈夫よ。そんなヘマはしないわ。あなたは安心してここで待ってなさい」

 ミリエルはジルを一瞥すると、夜の闇の中へと消えていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

処理中です...