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2 動乱の始まり編
080 帝国の策謀1
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――いまから約1年前、アルネラ王女誘拐事件から2週間後
――帝国の都ドルドレイ
神聖グラン帝国の宮殿の奥深く、玉座の間には今3人の男がいる。
一人は皇帝ヴァルナード、優れた統治能力を持ちレオニッツ4世の再来と称される男。二人目は帝国の大魔導師ザービアック、先代の皇帝にその魔力と識見をかわれ現在の地位についたまだ若き魔術師。そして三人目は手練の戦士という風格を漂わせた、頬に三日月形の傷を持つ男である。
「任務は無様に失敗したようだな、ベイロン」
ザービアックは冷たい表情を浮かべ、“傷の男”に語りかけた。傷の男は名をベイロンという。帝国の特務機関「黒の手」の隊長であり、帝国の謀略工作を一手に引き受ける闇の存在である。そのため、その存在を知る者は帝国上層部でも極一部に限られている。ザービアックとベイロンは、皇帝ヴァルナードにとって無くてはならない両腕であった。
「黒の手の隊長としては随分な不首尾ではないか」
ザービアックがベイロンを責める。
「面目ないとしか言いようがない。今回の任務は随分と予想外なことが重なってしまったのだ」
「言い訳するつもりか?」
ザービアックが更に詰問しようとした時――
「まあ待て、ザービアック。ベイロンほどの男が失敗したのだ、何か理由があるのだろう。ベイロン、理由を言ってみたまえ」
ヴァルナードが2人の会話に割って入った。他ならぬ主君の言に、ザービアックは控えざるを得ない。
ベイロンはヴァルナードに向き直り、かしこまって説明する。
「アルネラが王都を出る、その機会を狙って近づくまでは順調でした。ところがそこから手違いが生じてしまいました」
「王女の誘拐だな? なぜ誘拐になってしまったのだ。我々の目的は王女を殺すことであったはず。その場で刺し殺してしまえば良かったのだ」
ザービアックはなじるようにベイロンに向かって言い放った。彼は確かにアルネラを「殺せば」良かったと言った。「王女の誘拐」は彼らにとって意図したものではなかったということだ。
「今回の任務は、決して帝国が関わっていることを知られるわけにはいかなかったのだ。だから任務には、“黒の手”の者ではなく、冒険者を使わざわるを得なかった。しかしそれが結局失敗の原因となってしまったのだ。任務の実行の段階で、詳しい事情を知らない冒険者たちが金に目がくらみ、王女を誘拐し身代金を要求しようと図ったらしい。不覚にも私が気づいた時には、シュバルツバルトの近衛騎士団に追いつかれ、王女が逃げ出していた」
ベイロンが淡々と失敗の原因を説明する。そこには自己弁護は感じられず、己の失敗の原因を明らかにしようという誠実さが感じられた。
「協力者の選定に問題があったわけか……。やはり自分の手の者を使った方が良かったのではないか?」
「それだともし敵に捕まった場合、我々の犯行だとバレる可能性がある。今回のような重大な件で、それはまずかろう」
もし王女誘拐、あるいは殺害が帝国の手によって行われたことが明るみに出れば、国際問題となり戦争にまで発展しかねない。ベイロンはそれを恐れ、仮に倒されたり捕まっても良いように、詳しいことは何も教えていない冒険者を使わざるを得なかったのだ。
――帝国の都ドルドレイ
神聖グラン帝国の宮殿の奥深く、玉座の間には今3人の男がいる。
一人は皇帝ヴァルナード、優れた統治能力を持ちレオニッツ4世の再来と称される男。二人目は帝国の大魔導師ザービアック、先代の皇帝にその魔力と識見をかわれ現在の地位についたまだ若き魔術師。そして三人目は手練の戦士という風格を漂わせた、頬に三日月形の傷を持つ男である。
「任務は無様に失敗したようだな、ベイロン」
ザービアックは冷たい表情を浮かべ、“傷の男”に語りかけた。傷の男は名をベイロンという。帝国の特務機関「黒の手」の隊長であり、帝国の謀略工作を一手に引き受ける闇の存在である。そのため、その存在を知る者は帝国上層部でも極一部に限られている。ザービアックとベイロンは、皇帝ヴァルナードにとって無くてはならない両腕であった。
「黒の手の隊長としては随分な不首尾ではないか」
ザービアックがベイロンを責める。
「面目ないとしか言いようがない。今回の任務は随分と予想外なことが重なってしまったのだ」
「言い訳するつもりか?」
ザービアックが更に詰問しようとした時――
「まあ待て、ザービアック。ベイロンほどの男が失敗したのだ、何か理由があるのだろう。ベイロン、理由を言ってみたまえ」
ヴァルナードが2人の会話に割って入った。他ならぬ主君の言に、ザービアックは控えざるを得ない。
ベイロンはヴァルナードに向き直り、かしこまって説明する。
「アルネラが王都を出る、その機会を狙って近づくまでは順調でした。ところがそこから手違いが生じてしまいました」
「王女の誘拐だな? なぜ誘拐になってしまったのだ。我々の目的は王女を殺すことであったはず。その場で刺し殺してしまえば良かったのだ」
ザービアックはなじるようにベイロンに向かって言い放った。彼は確かにアルネラを「殺せば」良かったと言った。「王女の誘拐」は彼らにとって意図したものではなかったということだ。
「今回の任務は、決して帝国が関わっていることを知られるわけにはいかなかったのだ。だから任務には、“黒の手”の者ではなく、冒険者を使わざわるを得なかった。しかしそれが結局失敗の原因となってしまったのだ。任務の実行の段階で、詳しい事情を知らない冒険者たちが金に目がくらみ、王女を誘拐し身代金を要求しようと図ったらしい。不覚にも私が気づいた時には、シュバルツバルトの近衛騎士団に追いつかれ、王女が逃げ出していた」
ベイロンが淡々と失敗の原因を説明する。そこには自己弁護は感じられず、己の失敗の原因を明らかにしようという誠実さが感じられた。
「協力者の選定に問題があったわけか……。やはり自分の手の者を使った方が良かったのではないか?」
「それだともし敵に捕まった場合、我々の犯行だとバレる可能性がある。今回のような重大な件で、それはまずかろう」
もし王女誘拐、あるいは殺害が帝国の手によって行われたことが明るみに出れば、国際問題となり戦争にまで発展しかねない。ベイロンはそれを恐れ、仮に倒されたり捕まっても良いように、詳しいことは何も教えていない冒険者を使わざるを得なかったのだ。
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