シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

文字の大きさ
81 / 107
2 動乱の始まり編

081 帝国の策謀2

しおりを挟む
「ザービアック、もう良い。過ぎたことを追求しても何も生まれん。少なくとも、我々の犯行だということは知られていないのだな?」

 ヴァルナードがそうベイロンに助け舟を出した。

「はい、それは確かです。冒険者が何名かやられましたが、絶対に秘密が漏れることはありません」

 ベイロンは自信を持ってそう答えた。戦いの中で部下としては唯一副官が一人倒されたが、彼は「黒の手」の掟に従い一切の身元が分からないようにしてある。可哀想なことだが、それだけに信頼できる男だったのだ。

「王国では現在の王が高齢であるため、王位継承問題が起きようとしております。それゆえ、誘拐事件は対立する派閥がやったのではないか、そう考える者もいるでしょう」

 ザービアックがベイロンの言を引き継いでそう説明した。確かにゼノビアなど王女派の人間は、心の片隅に王国内の人間がやったことではないかとの疑念を抱いている。そのような疑念によって王国に内部対立が起これば、それはそれで帝国を利することになる。

「しかし、本当に長男のユリウスは廃されるのか?」

 ベイロンはそうザービアックに確認した。ザービアックは帝国の「大魔導師」として、あらゆる情報に通じている。ベイロンは彼と必ずしも関係が良いわけではないが、その識見は大いに認めている。

「その可能性は高いな。いまシュバルツバルトの王位継承問題はこのようになっている」

 ザービアックは現在の状況をまとめ、紙に書き記した。

 長男 ユリウス(22) 強い後ろ盾なし 凡庸
 長女 アルネラ(18) ヘルマン伯、近衛騎士など 懸念材料:女子
 次男 ルヴィエ(13) 最大派閥のブライスデイル侯など 懸念材料:若年、ブライスデイル侯への反感

 現在もっとも有力視されているのは次男のルヴィエである。彼自身の才よりも、大貴族ブライスデイル侯が後見人となっていることが大きい。

 ブライスデイル侯の孫娘エリーゼは、すでにルヴィエの妻となることが内々で決まっている。ブライスデイル侯としては外戚として権力を振るうために、婿のルヴィエを強く支持するだろう。彼が支持すれば、彼が押さえている大貴族たちもルヴィエを支持するに違いない。

 しかしルヴィエにも泣き所がないわけではない。まず兄弟順が一番低いということ。シュバルツバルトでも、王位の継承はできるだけ長幼の序を考慮した方が良いと考えられている。まだ13才のルヴィエは国王の任にたえないと考える者もいるだろう。

 そしてもう一つは、最大派閥のブライスデイル侯には敵も多いということである。反ブライスデイル派の貴族たちが結集すれば、容易ならざる勢力になるかもしれない。

 次に有力なのがアルネラである。後ろ盾には王女の従兄にあたるヘルマン伯がつき、国王派の多くの貴族や騎士などもアルネラを支持しているようだ。ただし統制のとれた「ブライスデイル派」に比べ、国王派はまとまりが弱い。それに過去に女王が居なかったわけではないが、やはり女子であるということが最大の弱みであり、国王派の中にもそれを懸念する者は多い。

 最後にユリウス。もともと長男として将来が約束されていたはずであるが、能力不足を露呈して古くからの家臣にも見放されている。現在積極的にユリウスを支持しているのは、ユリウスに娘を嫁がせたアルトワ侯の一派、そして幼い時より仕えてきた一部の近臣であるが、ルヴィエやアルネラに比べ支持する貴族は格段に少ない。

「我々にとっては長男ユリウスが王位につくことがベストだったんだがな。そのためにアルネラの暗殺まで試みたわけだが……」

 玉座に頬杖をつきながらヴァルナードはそうつぶやいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...