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2 動乱の始まり編
093 エルフ娘使者となる2
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「もうわしは、お主をどうこうするつもりはない。安心せい」
エルンストの言葉にミリエルは内心ほっと安堵の息をついた。これで全くの任務失敗という事態は避けられたのだ。
「しかし、エルフがわしを訪ねてくるとはの。ジル、という少年も変わった友を持ってるものじゃな。いや、それとも恋人かな?」
「ち、違うわよ! ただの知り合いってだけよ!」
エルンストが妙なことを言うので、ミリエルは慌ててしまう。
「うわっはっは! 久しぶりに心の底から笑ったわい。お主、不器用な奴よの」
エルンストは眼に涙をたたえて笑っていた。その涙は、決して可笑しくてだけ流した涙ではないだろう。
「さて、それではお主の知りたいことに答えてやろう。わしは、つい最近帝国から離反することを決めたばかりだ。その理由は、わしの娘レミア、そして息子のエミールを殺したのが『頬に三日月形の傷を持つ男』だからじゃ。奴は帝国の特務機関『黒の手』の総帥ベイロンという。帝国はわしがどんなに軍人として国に尽くそうと、平民出というだけでわしを害そうとした。そうまでされてわしが帝国に忠誠を尽くす必要がどこにある? わしはこの領地とともにシュバルツバルトに亡命を申請するつもりじゃ」
今度はミリエルの方が驚いた。エルンストの状況を探ってこいとは言われたが、事がここまで進んでいるとは思っていなかったのだ。どう考えても、自分が判断できるレベルを超えている。
「ちょっと! わたしが自分で判断できる問題ではないわ。どうしたらいいか……」
「わしは、お主が来てくれたことを好都合だと思っておるのじゃ。シュバルツバルトに亡命しようと思っていたところに、お主がやってきたわけだからな。確かにお主には大きすぎる問題だろう。だからお主にはわしからの使者になってもらいたい」
「使者?」
ミリエルにとって予想外の展開になってきた。エルンストを監視するために来たのに、逆にエルンストの使者として帰ることになるとは。
「そうだ。いまからシュバルツバルト王国とジルフォニア=アンブローズ宛に書状をしたためる。お主はそれをもってジルという少年のもとへ帰るがよい。その後は彼が判断して行動するだろう」
エルンストはそう言って、しばらく机に向かい2通の書状を書き、ミリエルに渡した。
「この書状は決して失ってはならぬ。これはわしの命を危うくするものだからな。だが、もし書状を失った時は、いまお主に話したことをそのままジルに伝えて欲しい」
「あなたの身は大丈夫なの? この館にはすでに監視している者がいるわよ」
「なに!? ふむ、やはり皇帝がわしに監視をつけたということか」
「館の裏手の森に潜んでいたわよ。正体までは分からないけどね」
「十中八九、帝国の者だろう。こうなると長くは持たぬかもな。急いでその書状を届けてくれ。頼めるか?」
エルンストは真摯な眼でミリエルを見た。そのような眼にミリエルは弱いのだ。
「分かったわ。間違いなく、書状を届けましょう。あなたも気をつけてね」
「なに、またエルフに再会したいからな、それまでは死ねんて」
ミリエルはエルンストの微笑みを見ると、再びインビジブルの魔法をかけて館を出ていった。
**
「と、いうわけだったの」
ミリエルはエルンストに見つかってからの経緯をジルに説明した。
「……」
ジルはミリエルの言葉を聞きながら、その意外な話の展開に驚いていた。まさか名将として名高いエルンスト=シュライヒャーがシュバルツバルトに亡命を考えているとは……。
だがレミアを殺害した「頬に三日月形の傷の男」が帝国の人間であったというのは予想通りであった。やはりエルンストには心当たりがあったのだ。ただし、その男が帝国の特務機関の長であり、エルンストの息子をも殺していたことは予想外だった。帝国ではそれほどまでに貴族と平民の格差が大きいということか。
「それで書状というのは?」
「これよ。あなた宛てに一つ、そしてシュバルツバルト王国宛にも一つ」
ミリエルは懐から2通の書状をジルに差し出した。ジルの立場でシュバルツバルト王国宛ての書状の中身を見ることはできない。これはしかるべき相手に渡さなければならないだろう。ジルは差し当たり、自分宛ての書状に目を通すことにした。
エルンストの言葉にミリエルは内心ほっと安堵の息をついた。これで全くの任務失敗という事態は避けられたのだ。
「しかし、エルフがわしを訪ねてくるとはの。ジル、という少年も変わった友を持ってるものじゃな。いや、それとも恋人かな?」
「ち、違うわよ! ただの知り合いってだけよ!」
エルンストが妙なことを言うので、ミリエルは慌ててしまう。
「うわっはっは! 久しぶりに心の底から笑ったわい。お主、不器用な奴よの」
エルンストは眼に涙をたたえて笑っていた。その涙は、決して可笑しくてだけ流した涙ではないだろう。
「さて、それではお主の知りたいことに答えてやろう。わしは、つい最近帝国から離反することを決めたばかりだ。その理由は、わしの娘レミア、そして息子のエミールを殺したのが『頬に三日月形の傷を持つ男』だからじゃ。奴は帝国の特務機関『黒の手』の総帥ベイロンという。帝国はわしがどんなに軍人として国に尽くそうと、平民出というだけでわしを害そうとした。そうまでされてわしが帝国に忠誠を尽くす必要がどこにある? わしはこの領地とともにシュバルツバルトに亡命を申請するつもりじゃ」
今度はミリエルの方が驚いた。エルンストの状況を探ってこいとは言われたが、事がここまで進んでいるとは思っていなかったのだ。どう考えても、自分が判断できるレベルを超えている。
「ちょっと! わたしが自分で判断できる問題ではないわ。どうしたらいいか……」
「わしは、お主が来てくれたことを好都合だと思っておるのじゃ。シュバルツバルトに亡命しようと思っていたところに、お主がやってきたわけだからな。確かにお主には大きすぎる問題だろう。だからお主にはわしからの使者になってもらいたい」
「使者?」
ミリエルにとって予想外の展開になってきた。エルンストを監視するために来たのに、逆にエルンストの使者として帰ることになるとは。
「そうだ。いまからシュバルツバルト王国とジルフォニア=アンブローズ宛に書状をしたためる。お主はそれをもってジルという少年のもとへ帰るがよい。その後は彼が判断して行動するだろう」
エルンストはそう言って、しばらく机に向かい2通の書状を書き、ミリエルに渡した。
「この書状は決して失ってはならぬ。これはわしの命を危うくするものだからな。だが、もし書状を失った時は、いまお主に話したことをそのままジルに伝えて欲しい」
「あなたの身は大丈夫なの? この館にはすでに監視している者がいるわよ」
「なに!? ふむ、やはり皇帝がわしに監視をつけたということか」
「館の裏手の森に潜んでいたわよ。正体までは分からないけどね」
「十中八九、帝国の者だろう。こうなると長くは持たぬかもな。急いでその書状を届けてくれ。頼めるか?」
エルンストは真摯な眼でミリエルを見た。そのような眼にミリエルは弱いのだ。
「分かったわ。間違いなく、書状を届けましょう。あなたも気をつけてね」
「なに、またエルフに再会したいからな、それまでは死ねんて」
ミリエルはエルンストの微笑みを見ると、再びインビジブルの魔法をかけて館を出ていった。
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「と、いうわけだったの」
ミリエルはエルンストに見つかってからの経緯をジルに説明した。
「……」
ジルはミリエルの言葉を聞きながら、その意外な話の展開に驚いていた。まさか名将として名高いエルンスト=シュライヒャーがシュバルツバルトに亡命を考えているとは……。
だがレミアを殺害した「頬に三日月形の傷の男」が帝国の人間であったというのは予想通りであった。やはりエルンストには心当たりがあったのだ。ただし、その男が帝国の特務機関の長であり、エルンストの息子をも殺していたことは予想外だった。帝国ではそれほどまでに貴族と平民の格差が大きいということか。
「それで書状というのは?」
「これよ。あなた宛てに一つ、そしてシュバルツバルト王国宛にも一つ」
ミリエルは懐から2通の書状をジルに差し出した。ジルの立場でシュバルツバルト王国宛ての書状の中身を見ることはできない。これはしかるべき相手に渡さなければならないだろう。ジルは差し当たり、自分宛ての書状に目を通すことにした。
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