シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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2 動乱の始まり編

097 御前会議2

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「あらかじめ諸卿にお伝えしていたように、本日議するのは非常に重大な問題です。帝国の軍人エルンスト=シュライヒャーが我が国に亡命を求めている件についてです。まずは彼の亡命を受け入れるかどうか、について話し合う必要があると考えます」

 ユベールの言葉を聞き、ヘルマン伯が手を挙げて発言した。

「そもそも、この話しはどのような経路で我が国にもたらされたのか? その辺りをご説明願いたい」

 周囲の人間がうなづいた。まずは判断材料として聞いておく必要があることだ。ユベールはちらっと横目でゼノビアを見て、彼女は軽く頷いた。

「それについては……ゼノビア殿からご説明願おう」

「はっ」

 ゼノビアが立ち上がる。本来であれば、彼女もこの会議に出席する資格はない。通常このような御前会議レベルになると、騎士団長クラスしか出席が許されないのだ。ゼノビアもやはりエルンストから指名されているということ、そしてアルネラ誘拐事件の関係者として呼ばれている。

「エルンスト=シュライヒャーについては、諸卿には今更説明する必要もないかと思われます。『帝国を支える一柱』と称され、我が国も何度も煮え湯を飲まされた名将です。彼がこの度我々に亡命したいと言ってきました。その経緯ですが、まず今から約1年前、アルネラ様の誘拐事件を起こった時、彼の娘レミア=シュライヒャーが殺害されました。レミアは当時ルーンカレッジの学生で、我が国で軍事演習に向かう途中でした。この時、私がシュライヒャー殿への弔問団の団長としてレミアの遺品を届けに行ったことは、諸卿にはご記憶のことと思います」

 ゼノビアは一端ここで話しを切って、会議室を見渡し出席者の反応を見た。

「その際、私はエルンスト=シュライヒャーと面識を得たわけです。この時私とともに、ここにいるジルフォニア=アンブローズが同行しており、レミアの最期の様子を伝えました。彼はレミアとともに軍事演習で偶然事件に巻き込まれ、一部始終を見ていたからです。重要なのは、この時レミアを殺した男の特徴をエルンスト殿に伝えたところ、彼は顔色を変え、明らかに動揺していたことです。ですから、彼が事件について何か知っているのではないか、そう推測できました」

 会議室は静まり返り、みなゼノビアの話しに聞き入っていた。

「なぜエルンスト=シュライヒャーは、我が国へ亡命、いえ、帝国を裏切ろうとしているのか? それは彼の娘レミアが帝国の特務機関『黒の手』の首領によって殺害されたからです」

 このゼノビアの発言によって、会議室は騒然となった。
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