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セルフ二次創作「色移り」 リボン結びの履歴書 ※現パロ(家庭教師)
リボン結びの履歴書 2
しおりを挟む珊瑚は窓に暗幕を垂らし電気の点いていない部屋に閉じ籠りきり、霞は少し話した程度で中に入れてもらうことはできなかった。執事のような青年が再び現れた。華奢な体型と服装に似合わないスレッジハンマーを携え、霞に離れているよう淑やかな声で言った。そして霞が扉の前から離れると、彼は子供の身の丈ほどもある巨大な金槌を振り回した。木彫りの扉が大きく凹む。鼓膜を殴るような物音に耳を塞ぐ。木彫りが欠け、蝶番が軋む。
「ちょっと…何して…」
「出て来ないようならドアを壊すよう仰せつかっております。危ないのでお下がりください」
執事らしき青年の肩を掴んでドアから引っ張る。
「でも、まずいんじゃ…」
他の従業員たちが様子を見にやってきていた。
「許可は下りていますので。離れていてください。破片が飛ぶかも知れません」
「貴方も危ないです。扉を壊すにせよ他の方法が…」
執事然とした青年は目を伏せたが、一呼吸置くと霞の瞳を捉えた。
「今までが生温かったのかも知れません」
失礼、と言って彼は霞を突き飛ばすとスレッジハンマーを振り上げる。彫刻は潰れ、平坦な面には金槌の目が付いていた。
「そんな無理矢理…」
「離れていてください!」
「危ないです!」
凄まじい物音の中で霞は叫んだ。耳鳴りがする。後ろから青年を抱き竦める。
「仕事になりません」
「怪我をします!手は大丈夫なんですか?肘は?」
スレッジハンマーを持っていた軸の手を掴んで開かせた。肉刺を予期させる白い部分を残して赤らんでいる。
「大丈夫です」
金槌の長い柄を取り上げ、壁に立て掛ける。
「珊瑚くん?大丈夫ですか」
扉を手で叩いた。彫刻の破片が手に刺さった。咄嗟に腕を引いた。その瞬間を見逃さなかったらしく冷たい手が彼女の手首を捻るように奪われる。
「棘が刺さってしまいましたか」
焦茶色の目が手の肉を凝らす。細い指が患部を揉んだ。
「治療します。来てください」
「でも、珊瑚くんが…蝶番が歪んで出られなくなってるのかも…」
力任せに腕を引かれたが霞は振り払う。
「珊瑚くん、ドア、開くかな。こっちからだと開かなくて。鍵壊れてない?」
霞は把手を捻る。
「無駄だよ。ほら、退いて」
背後から次男坊が現れ壁のスレッジハンマーを担いだ。
「わたくしがやります」
執事らしき青年が割って入ったが、次男坊は首を振った。
「君じゃ手加減するだろ。扉なんかあるからいけないんだな。恥を知りなさいよ、兄さんの顔に泥を塗って。穀潰しなら穀潰しなりに無害でありなさいよ。本当にお前は権利ばかり主張して義務を果たさないな」
青年が霞を扉の前から離させた。金槌が扉を叩く。聴覚がおかしくなりそうな音を立て、破壊活動が続く。金属部分が拉ぐ。ラッチ受けの入った枠に亀裂が入った。ノブが壊れ、扉が部屋に倒れた。蝶番の埋まった壁はぼろぼろで、辺りには壁紙や埃が散乱していた。
「弟のことはこれでもオレなりに苦労してるんだよ?」
用は済んだとばかりに次男は霞に笑いかけると金槌を持って消えていった。青年の腕から擦り抜け部屋に飛び込む。珊瑚は耳を塞いでベッドの上にいた。おそるおそる歩み寄った。
「珊瑚くん…大丈夫?」
膝を抱いて縮こまる少年に手を伸ばす。しかし弾かれた。
「触るな」
霞は叩かれた手の甲を撫でる。きつく睨まれてしまう。弟とひとつかふたつしか変わらないはずだがかなり幼く見えた。ベッドの前で立ち尽くし、どうしたものかと少年を眺める。
「とっとと出て行けよ」
「うん…じゃあ今日はそうする。明日から」
瓦礫を拾う焦茶色の瞳の青年に手の棘のことを言われ、別室に案内される。救急箱からピンセットを出し、彼は霞の手に刺さったかなり小さな木片を狙った。手首を押さえる手が震えている。木片よりも痛そうなピンセットの鋭い先端が刺さりそうだった。
「手、やっぱり痛めましたか」
「いいえ………少し緊張してしまって…」
焦茶色の目が彷徨う。冷たい手が少しずつ生温くなっている。ハンマーがドアにぶつかる衝撃で折れそうな指が霞の肉感に狼狽えていた。
「自分でやります。貸してください」
ピンセットを渡してもらい、すっと木片を抜いた。
「ありがとうございます」
ピンセットを返す。焦茶色の目は確かに霞を見ていたがぼんやりとしていた。彼に返すのをやめて直接救急箱にしまう。閉じる前にまだぼんやりしている青年に声をかける。
「湿布とか貼りましょうか」
「いいえ。必要ありません。ご心配をおかけしました」
喋り方は大きく違ったが夫の声質はやはりよく似ていた。もう少し話したくなってしまう。寝る前に電話をしようと決めた。叔父とは上手くやっているだろうか。与えられた部屋に戻り、天蓋ベッドに寝転んだ。自宅では夫と一緒に寝ているためキングサイズのベッドがかなり広く感じられた。夫はたまに弟にじゃれつきながら寝るためベッドはさらに狭くなるが霞はそれも好きだった。ふとにやにやとした笑みが浮かんだが、珊瑚の鬱いだ姿を思い起こして気が重くなる。住む世界が違えば悩みも分からない。部屋の扉がノックされ出迎えると叔父の親友だった。きっちりとした服装は仕事があったらしい。
「どうだった?なんか一騒動あったみたいだけど」
「話も出来ない状態で。わたしで手に負えるのかどうか…」
「やっぱ難しいかな。弟のことだから簡単に諦められないけど無理強いは出来ないしな、珊瑚にも勿論霞ちゃんにも」
う~ん、悩んでいるようで軽やかな態度の叔父の親友は次男坊よりも無邪気な感じがあった。
「すぐ下の弟にはあった?オレよりちょっとだけいい男でしょ。ああ、ごめんね、そろそろ時間みたい。また様子見にくるね」
彼はスーツの袖を捲って真っ黄色の時計を確認した。スーツ姿によく合わせるような金属製ですらなく、シリコンバンドのような素材で文字盤までも鮮やかな黄色をしていた。作りは良さそうだったが着ている物の割りには安っぽげで色も形もスーツには合っていなかったが彼の雰囲気にはよく似合っていた。慌ただしく立ち去り、石鹸の香りが残る。この邸宅の長男や霞の夫に弟。叔父が心を許す者たちの傾向が透けて見えた。
夜になり叔父や夫、少し弟とも、夕食は何を食べただの何をしただのと通話した。寝落ちるまで話したがる夫を叔父が押し除け、慣れない環境でも明日に備えよく寝るように言った。夫は甘えた声でお嫁さんお嫁さんと呼び、叔父に早く寝かせてあげるように怒られている。弟は歯を磨いて寝ると告げ気配を消した。夫は弟と寝るつもりらしく、会話内容からじゃれついている様子があった。
「銀灰くん大丈夫かしら」
『心配なら早く一仕事終えられるよう頼むよ…けれど無理はしないようにね。彼の根本の問題で、家族でもない部外者が関わってどうこう出来る事柄でもない場合もあるからね』
「はい。夫をよろしく頼みます。おやすみなさい」
『ああ!もう!電話でまで惚気ないでくれるかな。改めて言われるまでもないよ。銀灰くんは手が掛からないから丁度いいくらいだ。家のことはあまり心配しないで。早く寝なさい』
叔父から通話を切られ、霞も寝に入ろうとしていた。遠くで悲鳴が聞こえ、一度閉じた目が開いた。短いやり取りの中でそれが珊瑚のものだと気付いてしまう。すでにハウスキーパーたちは退勤後なのか、それとも日常的によくあることなのか他に人は見当たらなかった。広いキッチンに明かりが点き、中を覗いた。椅子に座って脚を組んでいる次男坊と滑りやすそうな大理石の床に這い蹲る末弟の姿があった。二男の足元で激しい呼吸を繰り返し、嘔吐の跡があった。霞は駆け寄って、弟と歳の近い背中を撫で摩る。
「ごめんね、起こした?」
椅子を見上げる。次男坊は組んだ脚を下ろし、腕組みを解いた。霞は首を振った。まるでバランスボールに空気を送るフットポンプを使用した時のような音を立て息をする少年の肩を抱き、背中だけでなく腕も摩る。小さな顎から嘔吐物が滴る。霞は指でそれを拭った。夫も胸焼けを起こして草を食べて嘔吐することが以前はよくあった。
「駄目だよ、他人の吐瀉物を素手で触っちゃ」
「しかし…」
「自分で片付けるから大丈夫だよ。色んなこと放り出したクセに手前で起こした面倒事までお尻拭いてあげられないだろ?ほら、霞ちゃんもお手々洗って、なんなら全部着替えたほうがいいかもね」
「いいえ。手伝います。そのために来ましたから」
ふぅん、と興味のなさそうに言って次男坊は椅子から腰を上げた。
「勘違いするなよ。彼女は仕事で、お前のママじゃない」
低い声で吐き捨てるように言って彼はキッチンから出て行った。霞はそのまま正常な呼吸のリズムで少年を揺さぶる。
「珊瑚くん、安心して息を吸ってね。ゆっくり吐くんだよ。少し焦ってるだけだから」
つらそうな少年の息遣いが少しずつ落ち着いていく。霞は水を汲んで彼の近くに置くと吐物を片付けはじめる。珊瑚は傍に立ったまま吹かれていく床を見ていた。
「戻らないの?何か食べに来た?」
「…別に」
過食で嘔吐した感じがあった。霞はビニール袋に汚れたティッシュを纏めてダストボックスに捨てた。
「何かあったら言ってね。すぐそこの部屋を借りてるから」
手を洗いながらまだ吐いた場所に立っている珊瑚に話し掛ける。彼は背を丸めてどこか自信がなさそうだった。
「部屋に戻ろう?そろそろ寝る時間だ」
少年は大理石を見下ろしたまま突っ立って動く気配がなかった。
「珊瑚くん?」
「…戻るよ」
彼はぼそぼそと喋って立ち去っていった。キッチンの明かりを消して部屋に向かう。結婚指輪を眺めながら眠りに落ちる。彼は時折長いこと家を空け、叔父や弟をはらはらさせた。霞はあまり気にしていなかった。奔放で突拍子もないところが好きだった。露店で買った高くもないシルバーの指輪に口付けた。
「なるほどね」
霞はびっくりして飛び起きた。部屋に男がいた。次男坊がゆったりした態度でソファーに座っていた。
「なるほど、なるほど。愛しのあの人を想って慰めるんだ?寂しい夜の熟れたカラダ、是非オレも味わいたいね」
次男はベッドへ近付いた。霞は布団を抱いて身を縮める。
「あの…」
「うん、ただの寝間着じゃちょっとあれだな。いや、十分やらしいけど。ガーターベルトでオレにも授業やって欲しいな。間違ったらお仕置きしてよ。やば、勃ってきちゃった」
彼はベッドに腰を下ろした。雰囲気がどこか不穏で霞は強張った。
「そろそろ、寝ますから…」
「うん。莫迦で情けない間抜けな弟を頼むよ。でも、相手にされてないんだ?オレさ、とっておきの方法思い付いたんだよね。聞きたい?」
霞は首を横に振った。次男はわざとらしく唇を尖らせた。
「聞きたいんだね。しょーがないな、秘密にしておきたかったけど、霞くんが聞きたいって言うならしょーがないよ、教えてあげる」
「聞きたくな、ぁ、」
顎を掬われて唇を指で押さえられる。
「聞きたいよ。聞きたいよね?聞きたいでしょ。ホントは聞きたいんだよ」
耳元で、弟もイチコロだね、と囁かれる。息が当たりびくびくと腰が跳ねた。
「耳弱いんだ?」
「ぁ…っ」
「オレがイチコロになっちゃってるんだけどさ」
手を取られ次男の下半身へ持っていかれた。膨らみに触れてしまう。指を開いて逃げようとした。
「カレシとこういうコトしないの?するでしょ?してよ」
「夫としか、しませ…ん」
耳の裏に吐息がかかる。背筋が踊ってしまう。下着を付けていない胸の先端を指がくりくりと柔らかく引っ掻いた。胸に痺れが広がる。
「ぁんっ、」
そこが存在を主張しはじめてしまい、疼いた。そうなると夫と縺れて果てるまで治まりがつかなくなってしまう。
「夫としかしないのに?ここはこんなだよ」
触れ方が大胆になって寝間着の上から指の腹で挟まれる。凝ってしまった実をそのまま柔らかく潰され、もどかしい快感が霞から抵抗を奪った。
「胸感じやすいのすごくいいな。旦那さん毎晩楽しいだろうね」
「や、っ…め…てくだ、さ…ぁ、」
胸への刺激で腰が揺れてしまう。次男は愉快そうに布の上から往復させて掻く。麗かな双眸には粘っこい光が射し込んでいる。
「やめてあげる!でもこいつはやめてくれないみたい」
次男は落ち着いた色調の無機物を出した。丸みを帯びた棒状で激しい曲線を描いて括れている。次男は霞の寝間着のボトムスに手を掛けた。小さなリボンの付いたコットン素材の淡いオレンジ色のショーツを見られてしまう。顔を赤らめて彼女は寝間着を押さえた。
「かわいい。清楚だな。すごくいい。興奮する。無防備な夜って感じ?」
「やめてくださ…、恥ずかしい…」
「もっと恥ずかしいことするんだよ?」
霞は嫌だと首を振った。彼はだめだよ、と優しく言った。ショーツの中に手を突っ込まれ、花芯をいじられる。全身に甘い痺れが走った。
「先っちょだけだから。ね?頑張ろ?」
髪を撫でられる。高価な感じのするシャンプーの香りが漂った。手がさらに奥に潜り、蜜孔を探って長い指が入っていく。
「ぁう…ん、」
「可愛いよ。ちょっと慣らしたら、すぐだから。いい子。もう少しだから頑張って」
指が動いた。夫の指とは違う形を敏感に覚って拒むように締め付けてしまう。霞の意思ではどうにもならなかった。
「いや、いや…いやぁっ、」
指先が器用に狭まる柔肉を懐かせ、夫しか知らないはずの悦楽の箇所を当てられてしまう。夫だけの場所が暴かれた良心の痛みが置き換わって、熱くなる。だというのにそこに在る快感は夫の欲望で掻き回されているみたいだった。
「やぁぁっ…ん、んっ!」
内壁が収縮して指を食い締める。霞はくたりとベッドに倒れ、眠気に襲われる。
「あれ、イっちゃった?感じやすいんだ」
寝間着を直され、布団も掛けられ電気が消える。
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※この物語はフィクションです。
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