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オリジナル「初嵐」 更新停滞or打切り 2017年7月~(現段階25話)
初嵐 2
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ガシャン、という音がして佐渡島は床に広がる液体を覗き込む。嗅覚が異様に働きはじめて空き教室にやって来た的場とその取り巻きたちが声を上げて鼻を押さえた。的場は二日酔いのような目で佐渡島を一瞥した。
「香水か?」
取り巻きの中で一際背の高い男が真っ先に佐渡島に声を掛けた。
「そう。ごめんね、手が滑っちゃって。今片付けるから」
微量ならおそらく甘ったるい匂いなのだろう。空き教室に備え付けられているティッシュを数枚出して床を拭きながら佐渡島は手伝う背の高い男をちらりと一度だけ見る。茅原碧という、佐渡島には変な響きだと思った、名前の好青年。
「あれ…、この匂い」
「ココナッツ…なんて言ったかな。ココナッツサンセットとか、そんな感じの」
鼻をすんすん鳴らして茅原が首を傾げる。キュートさはない大きな犬のような仕草だ。佐渡島も首を傾げて香水の名前を思い出す。瓶のラベルに書いてある名前は態と読まなかった。
「嗅いだ覚えあったから。ココナッツか。なるほど言われてみれば」
愛らしさとは違うが大きな目が佐渡島を見下ろして、歪む。笑うとくしゃり、となるせいで愛嬌があった。
「流行ってるみたいだから」
茅原はまだすんすんと匂いを嗅ぎ続け、少し難しい表情で床を拭く手を止めていた。
「深海、席外せ」
匂いは残るがほぼ拭き終ったところで佐渡島は的場に呼ばれ、そう告げられた。
「分かったよ兄さん」
香水を吸い取ったティッシュを茅原から受け取り、佐渡島は不機嫌そうな的場に振り向いてから退室した。せっかく見つけた空き教室だったが的場もここに目星をつけていたらしい。男同士で何を話すのかは知らないがどうせ佐渡島にとってはくだらないことのように思えた。身体に纏わりついた甘ったるい匂いに眩暈を覚えながら、ティッシュを通して指に染み付いた香りは今日1日とれないだろう。近くのコンビニエンスストアに向かって酒を買う。大学の近くのコンビニなど、大学生の金で成り立っているようなものだと昼飯時の混雑時にうんざりしていた誰かが愚痴っていた。そうは言っても敷地外ならば文句は言えない。大学の裏にある人気のない公園へ向かい、ベンチに座ると缶を開く。甘ったるい南国を思わせる香りが味覚を邪魔した。晴れの日が続く。緑の陰が落ちる公園は住宅地に囲まれて、ベンチに身体を預けて空を見上げると公園の真横の家の洗濯物が見えた。まだ酔いが回らず、青い空に擦りつけたように漂う雲を眺める。
まトばぎンガ。いつも二日酔いのような顔したスカした男。
カやはラアお。的場のオトモダチ。
佐渡島は空を見つめながらセーブがかかり始めた思考を巡らす。茅原とは長くもなく親しくもないが、的場とは人生の半分以上一緒にいる。1つ年上だが大学では同期の扱いだという違和感に慣れたのは随分前だ。大学なら、珍しいことではないけれど。身体が重くなり、上体が傾いていく。ベンチの肘置きに寄り掛かって、それでも目は空を欲して後頭部を背凭れに委ねる。たまにここに死神みたいなのが現れる。酔いはじめてきた、佐渡島は薄く目を開いて焦点の合わなくなった目を青空に投げた。
「香水か?」
取り巻きの中で一際背の高い男が真っ先に佐渡島に声を掛けた。
「そう。ごめんね、手が滑っちゃって。今片付けるから」
微量ならおそらく甘ったるい匂いなのだろう。空き教室に備え付けられているティッシュを数枚出して床を拭きながら佐渡島は手伝う背の高い男をちらりと一度だけ見る。茅原碧という、佐渡島には変な響きだと思った、名前の好青年。
「あれ…、この匂い」
「ココナッツ…なんて言ったかな。ココナッツサンセットとか、そんな感じの」
鼻をすんすん鳴らして茅原が首を傾げる。キュートさはない大きな犬のような仕草だ。佐渡島も首を傾げて香水の名前を思い出す。瓶のラベルに書いてある名前は態と読まなかった。
「嗅いだ覚えあったから。ココナッツか。なるほど言われてみれば」
愛らしさとは違うが大きな目が佐渡島を見下ろして、歪む。笑うとくしゃり、となるせいで愛嬌があった。
「流行ってるみたいだから」
茅原はまだすんすんと匂いを嗅ぎ続け、少し難しい表情で床を拭く手を止めていた。
「深海、席外せ」
匂いは残るがほぼ拭き終ったところで佐渡島は的場に呼ばれ、そう告げられた。
「分かったよ兄さん」
香水を吸い取ったティッシュを茅原から受け取り、佐渡島は不機嫌そうな的場に振り向いてから退室した。せっかく見つけた空き教室だったが的場もここに目星をつけていたらしい。男同士で何を話すのかは知らないがどうせ佐渡島にとってはくだらないことのように思えた。身体に纏わりついた甘ったるい匂いに眩暈を覚えながら、ティッシュを通して指に染み付いた香りは今日1日とれないだろう。近くのコンビニエンスストアに向かって酒を買う。大学の近くのコンビニなど、大学生の金で成り立っているようなものだと昼飯時の混雑時にうんざりしていた誰かが愚痴っていた。そうは言っても敷地外ならば文句は言えない。大学の裏にある人気のない公園へ向かい、ベンチに座ると缶を開く。甘ったるい南国を思わせる香りが味覚を邪魔した。晴れの日が続く。緑の陰が落ちる公園は住宅地に囲まれて、ベンチに身体を預けて空を見上げると公園の真横の家の洗濯物が見えた。まだ酔いが回らず、青い空に擦りつけたように漂う雲を眺める。
まトばぎンガ。いつも二日酔いのような顔したスカした男。
カやはラアお。的場のオトモダチ。
佐渡島は空を見つめながらセーブがかかり始めた思考を巡らす。茅原とは長くもなく親しくもないが、的場とは人生の半分以上一緒にいる。1つ年上だが大学では同期の扱いだという違和感に慣れたのは随分前だ。大学なら、珍しいことではないけれど。身体が重くなり、上体が傾いていく。ベンチの肘置きに寄り掛かって、それでも目は空を欲して後頭部を背凭れに委ねる。たまにここに死神みたいなのが現れる。酔いはじめてきた、佐渡島は薄く目を開いて焦点の合わなくなった目を青空に投げた。
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