18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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蒸れた夏のコト 全36話+α(没話)。年下男子/暴力・流血描写/横恋慕/高校生→大人 

蒸れた夏のコト 10

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 雷は遠ざかっていく。雨は弱まったがやみはしなかった。クーラーは冷気に吹かれ微かにプラスチックを軋ませている。
 恋人の母親の浴衣を借りながら、上に乗るのは恋人ではなく、そのいとこだった。塗り直したリップカラーを舐め取られている。吸われ、押し当てられ、舐められる。そればかりだった。無言の相手が怖くなる。
 固く結ばれた手を引いた。しかし蒸気を発しそうなほど熱い指や掌が剥がれることはない。
「放して……」
 下唇を食まれる。両手に細かい畳の痕がついてしまいそうだ。帯の分、背中が浮いて変な感じだった。浴衣に皺を刻みのも申し訳ない。体重が加わっているわけではなかった。手だけが2人分の重さを持っている。肘を動かすと。舞夜はそれを押さえ付けたりはしなかった。
「夏霞」
「祭夜ちゃんの家で、祭夜ちゃんのお母さんの浴衣着て、あなたにこういうこと、されたくなかったし、したくなかった」
「好き」
「話、聞いてない」
 毛艶の良い前髪に陰る舞夜の目には壊れ人間の退廃的な昏さが籠っている。
「どうしても、好き。耐えられない。苦しい。どうしてあの時俺の前に現れたんだ?何故祭夜と出逢ったんだ」
 形の良い薄い唇から抜けていく嘆きは雨音と同列かそれより弱かった。
「こうなるって分かってたら、わたしだってあなたに関わろうだなんて思わなかった。あなたと関わりさえしなかったら、わたし、祭夜のこと傷付けなくて済んだ。祭夜と別れなかった。縁切りみたいにみんなからの連絡断って地元離れようなんて思わなかった……」
 時間を遡れるのなら。その妄想に駆り立てられ、叶わない仮想現実に望みを託して満悦するくらいの後悔を持っているのは舞夜だけではない。この男に目を付けられなければよかった。高校時代の仲の良かった友人たちですら現在は連絡先が分からない。万が一、祭夜の情報が入ってきてしまったら……それが恐ろしかった。別れたことを知っているとはいえ、友人たちは祭夜とも親しかった。彼に何かあれば、その話題を避けるほうが不自然なくらいだ。
「あなたのつらさは、わたしと全然反対方向のものだからわたしが理解できるわけ、ないよ」
 彼女は自身を不幸な身の上だとは思っていなかった。ただ、あまりにも初めての性体験が急激で、予想外で、衝撃的かつ暴力的だったことについてはいくらか自己憐憫的な思いに浸ることがある。当時の彼女は例の事件を誰にも言えなかった。身体に起こる小さな変化に怯えねばならなかった。自分以外、自分に寄り添える者を探し選ぼうとすることさえ禁じた。叔父にも弟にも、恋人にも友人にも、然るべき機関にも話せなかったのだ。そこに於いて自己憐憫だけが彼女を彼女として留めていた。
「嘘だ!」
「え……?」
 雨が風に吹かれぱらぱらと強まって聞こえた。雷は気付けば消えていた。しかし真上で叫びが聞こえる。
「夏霞と出逢わないほうが良かったなんて、嘘だ。大嘘だ」
 手指の拘束を解かれたかと思うと、今度は舞夜の腕が彼女の背に回り込む。着付けが乱れそうだ。帯はもう潰れている。手の次は胴体を蒸すつもりらしい。男の肉体は硬い質感で重い。祭夜も筋肉質だが、もう少ししなやかな軽量感があった。
「…………怖い」
 背中は蒸れていくが、クーラーを切ってしまいたくなるほど寒気がする。上に覆い被さる男が震える。それは生々しい、腹で感じたあの淫猥な戦慄きとは異質のものだったが夏霞は驚いてしまった。継続的に唸るのはまたもや着信による振動らしい。
「祭夜に言っちまうか。俺たちのこと」
 彼は端末を掌に乗せ、画面の上に親指を翳している。特撮番組の悪役よろしく地球を爆破する装置を押すぞ、とばかりだった。しかしその声は落ち着いている。不機嫌さも浮かべなくなった虚無の表情から本気の度合いが滲んでいる。
「あなた、わたしのこと好きなんじゃなくて、支配したいだけなんじゃないの……?あなたと上手くいくはずない……祭夜ちゃんと別れることになっても、あなたとは付き合わないし、好きになんてならない」
 舞夜の親指がやっと端末に落とされた。
『舞夜くん!ゴメンね、今から帰る。着いたらカノジョも送るから練習ちょっと遅れちゃうかも。ホントにゴメン』
「そのカノジョと今一緒にいる」
 小さく祭夜の声がした。舞夜は夏霞を見下ろす。真っ直ぐ、瞳孔の奥まで覗こうとしている。彼の発言に夏霞は激しく狼狽えた。頭の中で計算されていく。祭夜との破局を。一度ならず二度までも他者に身体を許し、それがまさかの恋人の親戚なのだから彼に誹謗されても弁明はすべて言い訳と化す。相談もせずクリニックに行っていたこともいずれ知れてしまうのではないか。処方薬を飲み、恋人との営みを避け、その裏では別の男に直接の交合を許していた―
 彼女の顔色は哀れなほど青褪めていく。目が沁みて、耳鳴りがする。祭夜が別れを切り出すのなら応じようと夜な夜な涙ながらにシミュレーションを繰り返していた。所詮は恋人を裏切った身である。彼女の自傷思考はこれ以上傷付かないようにと増長されていった。
『あ~、そうなん?寝てるかな?』
「起きてる」
『そっか。遅れてゴメンなって伝えておいてくれる?舞夜くんもゴメンな。舞夜くん、カノジョさん以外の人嫌いなのにモーシワケない。なんか買って帰るわ』
 一方的に通話が切れた。夏霞の恐れたものは何も起きなかった。
「俺は、祭夜が嫌いだよ」
 彼はぽつりとこぼした。夏霞は目を見開く。聞き間違いか疑うほどだ。恋愛ひとつとったねたそねみ僻みか。しかしそれよりも重苦しく根深いようだった。母親が双子で、祭夜は気取らない天真爛漫な性格ゆえにそこそこのルックスを損ねることがあれど誰からも親しまれた。反して舞夜は容姿端麗であるが、それを嫌味に見せてしまう陰気で気取った感じがある。理由を聞くまでもなく、知った気になれてしまう対象的な2人だった。
「家庭の事情で、離れられないの?」
 おそるおそる訊ねてみた。この問いは必ずしも舞夜を慮ったものではない。彼は険を帯びた微笑を浮かべる。返事はない。
「わたしを使って祭夜ちゃんに復讐したいんだって、よく分かった」
 夏霞は無機質で乾いた声が出たことに自分で驚いた。
「夏霞。夏霞と一緒なら、別に俺は親戚のしがらみなんか、どうでもいい」
「わたしは嫌」
 はっきりと告げた。舞夜はまだ微笑っている。彼は厳つくすべてを睨んだ顔をしているほうがよく似合っていることに気付く。
「許さないよ、夏霞」
 夏といえば怪談だ。彼はその中のひとつなのかも知れない。魑魅魍魎の類いなのだろう。美しい容貌で人をたぶらかし、骨まで食い尽くすような。



 祭夜との営みの形が少し変わった。今までは快楽を享受してばかりいたが、夏霞が彼の情けなく漏れる嬌声と熱い肉体の反応を愉しんでいた。壁に押し付けて、祭夜の愛楔を舐める。得意ではないが、彼のものなら口に入れたくなってしまうのだった。性欲のための営みという認識には欠けた。大切な楽器を相手にしている心地だった。それでいてしっかりとした確かな味はないけれど好きなアイスキャンディーを頬張っているような感じもある。
「か………すみ、ちゃ………ッ」
 巻いた髪をストレートにしたがる指が毛束から抜かれ、彼女の頭をぽんぽんと軽く叩く。蕩けた双眸が落ちてくる。今すぐにでもはち切れそうな熱芯の頂を意地悪く舌の裏側で焦らす。
「ぁう…………も、ダメだよ、汚しちゃうよ、夏霞ちゃん…………」
「いいよ、出して。だいじょぶ、祭夜ちゃんのだから」
 失禁を我慢するような必死な表情と少年然とした仕草に夏霞はぎゅっと胸を掴み取られた。彼は首を振る。
「だめ、やだ……」
「やだ?胸がいい?」
 恍惚としながらも虚な目が期待の輝きに照り、濡れた唇がぱくぱくする。
「おっぱいに、出したい」
「うん。いいよ」
 夏霞は下着姿になってブラジャーから乳房を出す。胸を寄せた。まだ先端を見せるのが恥ずかしくて両手で覆った。狭間に彼のものを挟む。
「か、すみちゃんの………おっぱい…………!」
 灼熱が膨らみの間で摩擦した。
「気持ちいい?」
 祭夜はうんうん頷いて腰を振った。夏霞も張り出た箇所で柔らかな肌を撫でられているようだった。
「おっぱいの中、出したい……」
 かくかくと忙しない膝や腰、よく濡れた大きな目、困惑気味の眉。少し動物みたいな祭夜に胸を性器のようにされているのが、夏霞を昂らせる。
「いいよ」
「あ………ぁぁ………っ、」
 可愛らしく鳴いて胸に飛沫を感じる。緩やかな蠕動ぜんどうによって祭夜が肌に塗り込まれていくようだ。頼りない声が断続的に聞こえた。
「かわいい」
「汚しちゃった、ゴメン……」
「ううん。いっぱい出してくれて嬉しい」
 祭夜は下半身を隠すと夏霞の腕を引いて立ち上がらせる。先程まで自分のものを舐めていたことも厭わずに彼は夏霞にキスをする。何度も啄んでから、長いこと押し当てる。
「夏霞ちゃんは、いいの?」
「うん」
「洗いっこしたい」
「うん。しよ。洗ってくれる?」
 彼はこくこく頷いた。胸元が汚れていては抱擁もできない。風呂場に移り、祭夜の若い滾りをもう一度解放した。身体を洗い合い、シャワーに打たれながら互いに互いの裸を抱いた。筋肉のついた胸板で豊満な乳房がたわみ、強壮な彼はまたもや脚の間を漲らせる。
「祭夜ちゃん、元気」
「は、恥ずかしい…………ゴメン、みっともなくて」
「出す?」
「だ、したい……」
 3度目は彼の味を知った。祭夜の真っ赤に染まった顔と潤んだ眼を見つめて喉を鳴らす。
「夏霞ちゃん………」
「ごちそうさまでした」
 微笑みかけると彼はまた何の頓着もせずに夏霞の唇を吸った。
「好き、好き、夏霞ちゃん。好き」
 告白と共に唇が当たる。
「ずっと一緒がいい。離れたくない」
 繋ぐだけでは飽きたらず、手を揉まれ、握られる。シャワーよりも熱いものが夏霞の胸の奥に広がる。
 2人で風呂から上がった。図られたようにタイミングが悪かった。風呂場を出ると玄関が開いた。まるで連動している。祭夜は然りげなく夏霞の前に立った。玄関戸を開けるとすぐに階段脇の廊下の奥の浴室の扉が見えるのだった。
「いらっしゃい、舞夜くん。ゴメン、こんな姿で」
 祭夜は腰にタオルを巻き、夏霞も胸元でタオルを巻いていた。カップルで風呂上がりなのは一目瞭然だった。
「邪魔したな」
 舞夜は顔を伏せてリビングに入っていく。
「夏霞ちゃん、先行ってて」
 申し訳なさそうに祭夜は眉を下げた。彼女は頷いて2階に上がった。まもなく祭夜が戻ってきた。
「夏霞ちゃん!ちょっとオレ、倉庫探さなきゃならなくなったから、待っててくれる?いつもこんなで、ホント、ゴメン!」
 部屋に飛び込んできたかと思うと慌ただしく着替える。
「わたしも手伝おうか?」
「いやいや、埃っぽいし、重いし、だいじょぶだよ。ありがとね。冷蔵庫にいっぱいアイスとか飲み物あるから、好きなの食べていいからね!できるだけすぐ終わらすから」
「わたしは大丈夫だから、慌てないで、気を付けて。祭夜ちゃんに怪我ないのが一番だから。ね?」
 彼はすまなそうにしながらも頷いた。話は聞いていても届いていないようで、やはり慌ただしい。祭夜は倉庫に行くと言っていたがこの敷地内にはいる。舞夜は手出しをしてこないだろう。夏霞はそう高を括っていた。しかし、足音が近付いてくると警戒してしまった。この家に来る時、舞夜は隣の部屋を使っているらしい。いちいち気を張っていては持たない。足音は通過すると思われた。
「夏霞」
 とん、とん、とドアがノックされる。寒気がする。夏霞は急いで下着を身に付けた。シャツを被り、ロングスカートに爪先を突っ込む。
「開ける」
 宣言と同時に把手が回った。
「な、何………」
「顔を見たかった」
 気分が悪くなる。胃の辺りが重い。祭夜への逆恨みに、そういうものは必要がない。夏霞は答えずに、ただ眉を顰める。
「もう、見たでしょ」
「まだ足りない。全然足りない。夏霞……こっちに来てくれ」
「行くわけない」
 すると何かしらあった舞夜の表情がすんと消えて、彼はずかずかと祭夜の部屋に入ってきた。夏霞は身を引いた。
「愛してる」
「それは愛してるって言わない……!」
 祭夜の抱擁とは具合が違った。捕獲や体技のような圧搾だった。
「祭夜ちゃんが帰ってくるから、やめて……!わたしの幸せを壊さないで…………っ!」
「倉庫に鍵掛けて蒸し殺そうか。今なら間に合う」
 幻聴を疑った。殺人を仄めかしている。冗談では済まない。舞夜がどれだけ不謹慎なことを言おうが夏霞には関係なかったが、それが祭夜に関することなら黙っていられない。
「やめてよ!」
 力尽くで締め上げられ、彼女の力では簡単には振り解けなかった。
「祭夜ちゃんに酷いことしないで」
「俺を拒絶するからだよ、夏霞。あんたに会って、俺は壊れた。あんたに会った日からもう俺は壊れたんだよ夏霞。祭夜と殴り合いになってでも夏霞が欲しい」
「祭夜ちゃんがわたしのこと手放してもわたしは祭夜ちゃんが好き。あなたのこと好きにならないしあなたの逆恨みに使われるつもりない」
 シャツ越しに爪を立てる。痛みかそういう性癖か、舞夜は微かに呻いた。それは艶を帯びて響く。
「夏霞………っ、」
 恋人ならば愛でた牡のいきりを感じる。一瞬力が緩んだのを逃さずに夏霞は彼を押し退けた。祭夜の元に向かう。倉庫は開け放たれ、外から鍵を掛けられているということはなかった。強い陽射しが砂利を炙り、近くの果樹園みたいな畑も陽炎かげろって見える。祭夜のいるらしき倉庫は色濃い陰を落としていた。遠くから見れば涼しそうに見えて、中が薄らと見えるにつれ暑さが伝わった。
「祭夜ちゃん」
「おっ、夏霞ちゃん、どした?」
「暑いから、大丈夫かなって」
「うん。慣れてる慣れてる。戻ったらちゃんと水飲むし。ありがとね。夏霞ちゃんは中にいて」
 彼はすでにシャツの色を変えていた。額から落ちる汗を手で拭っている。
「タオル持ってくるね。あと飲む物も」
「うん。ありがとう。ちゃんと洗ってもらったのに、また汗かいちゃった」
 彼は情けなく笑った。夏霞は家の中に戻ろうと背を向けた。途端に後ろで物の崩れる音がした。祭夜の小さな悲鳴が聞こえる。振り返った。上のほうに置かれた大きな箱が傾いたまま落ち。祭夜の真後ろに積み上げられたプラスチックの衣装ケースとの間で彼を押し潰している。一見すると無事なようだが身動きが取れないようだった。青褪めた顔をして汗を垂らしている。身体を曲げたり伸ばしたりして抜け出そうにも、重さの傾いた箱を押すだけの力が出ないようだった。
「ゴメン、夏霞ちゃ、舞夜くん呼んできてくれる?」
 夏霞は舞夜を呼びに走った。彼は2階の祭夜の部屋の隣から飛び出してきた。驚いた顔をして彼女を見下ろした。
「祭夜ちゃんが大変なの」
 一言目を発したとき、夏霞は間違ったと思った。彼はいとこを嫌っている。しかし舞夜は軽く夏霞を横に避け、すぐさま現場に向かっていった。柔らかな匂いが温風とともにそよぐ。彼女も倉庫に戻った。舞夜が祭夜を挟む箱を持ち上げているところだった。小さな隙間ができて祭夜はゆっくりすり抜けてきた。
「ゴメンな、舞夜。ありがと」
「気を付けろ」
「うん。ゴメンな、ホント。はぇ~。夏霞ちゃんも、舞夜くん呼んできてくれてありがと。ふぃ~、助かった」
 飄々と祭夜は腕で額を拭う。舞夜は何事もなかったように陰気を身に纏いながらも颯爽と家に戻っていく。埃や蜘蛛の巣を付けて祭夜は夏霞の前までやってきた。彼はへらへら笑っている。それが少しいつもとは違う不自然な感じだった。
「怪我しちゃった?」
 彼はぶんぶん首を振った。
「ちょっと休もう?熱中症になっちゃう」
 汚れた軍手ごと祭夜の手を掴む。直接触れているわけではないにもかかわらず、汗ばんでいるのがよく分かった。シャツは元の色がほとんど残っていない。
「夏霞ちゃんに、カッコ悪いところ見せちゃったなって」
「どういうこと?」
「舞夜くん、あんなカッコ良くて、なんでもできちゃうのに、オレはいつも失敗ばっかだ」
 繋いだ手を夏霞は大袈裟に揺らした。何を言い出すのかと思った。祭夜の失敗という失敗など、思い出してもそうすぐには浮かばない。少しそそっかしいところはあるが、そこが放っておけないのだ。周りに助力を求めるのも上手いために助ける側としても快い。
「そんなこと、気にしなくていい。わたし、祭夜ちゃんが好きってこと揺らいだりしない」
 子供みたいに拗ねたような口元と、捲った袖から伸びる筋肉質な腕とのギャップに今も目眩を起こしそうだ。
「一番わたしのこと好きでいてくれるの祭夜ちゃんじゃん。そんなこと言わないで。わたしの好きって気持ち、足らなかった?」
 彼はまた聞き分けの悪い子供みたいにぶんぶんと首を振った。
「夏霞ちゃんがオレのこと好きなの分かってる。でも不安になっちゃって。ゴメンね。もっともっとカッコよくなりたいのに、逆にカッコ悪いとこばっか見せてる」
 一度"捨て"たことが祭夜に不安を植え付けた。
「舞夜くん、オレといとこなのにこんな違うんだって思われたら……」
「比べてないよ。いとこさんはいとこさん。祭夜とは生まれも性格も違う。比べられちゃったの?」
「舞夜は特進クラスだったし、いっぱいモテてたし、ちょっと怖いけど優しいし……」
 優しいか否かは夏霞にとって甚だ疑問が残る。優しかったのかも知れない。壊れてしまう前ならば。或いは色欲が絡まなければ。色情を催さない一個人を相手にしたときならば。
「祭夜ちゃん!それなら祭夜ちゃんがわたし選んだ理由が分からないよ。可愛い子いっぱいいたじゃない。明るくて優しい子も。でもその中でわたしを選んでくれたでしょ。それと一緒。わたしも祭夜が合うなって思った。性格も、雰囲気も。わたしには祭夜ちゃんが必要です。祭夜ちゃん、可愛い子たちのこと思い出してよ。それでもわたしのこと、選んでくれる?」
「もちろんだよ。何言ってるの。オレ夏霞ちゃんしか見てなかった」
「それと同じ。誰のほうがカッコいいとか、モテてるとか頭良いとか、わたしどうでもいい。祭夜ちゃんがわたしと居たいかどうかだよ、わたしが気にしてるの」
「夏霞ちゃん……」
 彼は恋人の頬に二度三度唇を当てた。



 自宅で端末を確認したとき、着信があることに気付いた知らない番号には出ないが、留守番電話が残されている。掛けてきた相手は瑠夏だった。何故彼がこの番号を知っているのだろう。
『この電話を聞いたら折り返しください。無視しようたってそうはいきませんよ。貴方に拒否権ありませんからね。カレシさんが見たら発狂するような写真がこちらにあることをお忘れなく』
 拒んでも甦る。舞夜に陵辱されている最中の画像だ。今でも何気ない日常で切られたシャッターの音に不快を覚える。登録していない番号に電話を掛けた。もし番号の持主が違う相手だった場合はどうするつもりだったのだろうか。他人事のように思った。
 コール音が止み、通話時間が表示された。
「瑠夏くん、どうしてわたしの番号知ってるの……」
 呆れたような声が出た。
『舞夜さんがカレシさんのスマホを借りた時にばっちりメモしてたんですよ。抜け目ないですよね。舞夜さんから掛けてもどうせ出ないでしょう?その辺あの人もちゃんと自覚があるみたいで、僕にくれたんです』
「本当にあの人……最低……………」
 独り言を抑えずにはいられなかった。電話の相手の聡明な高校生は夏霞の言わんとしていることを見抜いたようだ。
『別に夏霞お姉さんの番号盗るために借りたわけじゃないみたいですよ。ついでみたいです』
「わたしからしたらどっちも変わらない」
 溜息を吐いた。瑠夏はふふふと可憐に笑っている。
『今度僕の家に来てください。明後日って空いてます?』
 ありきたりな脅迫を並べられてまた瑠夏の家に行く約束を取り付けてしまった。卑猥な画像を握られている。
『ちゃんとゴム買っておきましたから、舞夜さんにいっぱい可愛がられるといいですよ』
「………したくない」
『諦めてください。貞淑な恋人でいるか、祭夜さんのカノジョでいるか、どっちか諦めてください。もうあの写真がある限り、貞淑な恋人だなんて言っていられませんけどね!』
 瑠夏は可愛らしく、しかし嘲ったように笑った。
『祭夜さんのカノジョでいたいなら、そのいとこさんのお熱い身体も慰めてあげなきゃ』
 反射的に通話を切っていた。激しい戦慄を覚えた。舞夜に欲熱を吐き出された場所が重くなり、息が詰まった。
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