18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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蒸れた夏のコト 全36話+α(没話)。年下男子/暴力・流血描写/横恋慕/高校生→大人 

蒸れた夏のコト 12

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 出会いは、高校に入ってすぐの夏だった。まだ初夏といえる季節でも日射しは強く、風は少ない頃だった。全校生徒が体育祭に向けて備品整理や校庭の整備、除草作業をする時間があった。夏霞かすみの担当は特に人目の少ない隅で、日陰はあれども何より風通しが悪かった。1階がり貫かれたコンクリートの建物の真下でもあった。誰も立候補がなく、クラス担任に泣きつかれて就いた学級委員の彼女はやはり真面目にゴム捨て場と作業場を忙しなく往復していた。そしてとうとう、暑気中しょきあたりを起こし掛けたのだった。そのとき颯爽と現れたのが祭夜さやだった。当時彼のことは何も知らない。簡単に彼女を抱き上げて、保健室に連れて行ってしまった。友人に後から聞いた話によって、それが「サヤ」だか「カヤ」だかいう名前なのだと知った。人気者で有名だという。だから"ラッキー"なのだそうだ。遠目に祭夜を知った時、夏霞はこの人だと直感した。名前が「サヤ」であり、友人に囲われているためだった。しかしまだその時も、彼と恋仲になる予兆はなかった。気になりはじめたのは体育祭だった。徒競走で1位と2位で接戦になった彼がゴール直前で転び、2位が決定した瞬間だ。夏霞は係として近くにいた。担当教諭に頼まれ、彼を保健室に連れて行くように行ったが、彼はクラスのほうに行くと聞かず「体力くらいは特進クラスに勝ちたかったのに、ゴメン」と泣いて謝る姿に煌めくものを覚えたのだった。
―雨堂ちゃんっていうんだ。よろしくね。オレ、普通科C組の緋森ひなもり。よろ~。
 涙が治まり、暢気に擦り剥いた膝を晒す祭夜は今とほとんど変わらない。この様子では、あの時のことを覚えていないだろう。
―緋森くんは残念だったと思うけど、わたしは体育祭で1人、友達増えたから嬉しいかも。ごめんね。
 夏霞は礼を言う機会を失ってしまった。
 祭夜から結婚前提の交際を申し込まれたのは夏休み前だった。体育祭の保健室でやり取りから気になり始めて、体育祭の後夜祭も彼と一緒だった。それがきっかけらしい。後夜祭で男女2人組になるのが"青春"らしかったが、祭夜はその相手が見つからないというから夏霞も驚いてしまった。見た目も性格も悪くない。彼女もまた友人たちはすでにペアの異性を見つけ、1人で過ごすつもりで、それを苦にも思わなかった。
―後夜祭の後から他人みたいになっちゃったじゃん。寂しくなっちゃったの。オレ、雨堂ちゃんのコト好きかもって思って。また手、繋いで歩きたい。
 後夜祭の間、はじける男女を眺めながら、夏霞は祭夜と校庭の隅で座りながら校内放送で流れる音楽を聴いたり、文化部の催し物を眺めていた。彼は軽度ながら膝に大きく擦り剥いた傷がある。彼は黙って座っていた。退屈しているものと思っていた。
―フィーリング、合うなって。
 白い歯を見せて彼はにしにし笑った。


 短く持たれた首輪のリードを引っ張られ喉を反らしながら、前後に大きく揺蕩うスカートの中で臀部に腰をぶつけられる。ツインテールは乱れに乱れて振り子になっていた。舞夜まやの息遣いと、端末のカメラのシャッター音、瑠夏のせせらぎに似た嘲笑、クーラーの運転切替の物音が部屋に割拠している。
「あっ、あっ、あっ………」
 衝撃的のたびに声が吐き出される。
「考え事してますね、夏霞さん。何を考えてるんですか?カレシさんのコト?」
 舞夜の荒々しい動きが少し変わった。更に密着を深め、四つ這いになる彼女の背に被さる。そして手を重ねた。
「雨堂」
 ベッドが軋る。シーツの皺がさざなみのようだ。
「何を考えていた?」
 メロンに蜂蜜をかけて砂糖をぶちまけたみたいな甘い質感の声が耳に息を吹きかける。
「祭夜のこと?」
 確信的な一撃を受ける。胸の刺激で絶頂を迎えた身では、いつもよりも内部での確かな摩擦が無視できなくなってしまう。
「あっ、ぅんっ」
「祭夜で何を考えていたんだ」
 学科は違えど同じ高校だという。とすればあの体育祭準備日、体育祭、後夜祭に舞夜もいたはずだ。
「僕も聞きたいですね。ははは、もしかしてカレシさんが一人で悶々としてるところとかですか?たまにいますよね、カレシのオナニー見たがる子」
 ほんの一秒足らず、瑠夏の言葉に乗せられて、密事に耽ける祭夜を想像してしまった。
「たい、いくさい……っ、」
 揺さぶられながら答える。
「……高校のですか?」
「祭夜ちゃ……と、……会った」
「あ~あ~、舞夜さんも報われないですね。こんな変態セックスしておきながらここまで蚊帳の外にされては」
 現役高校生は呆れたらしく肩を竦めた。舞夜は気にしたふうもなく、夏霞の体勢を変えた。
「や、だ………それ、やだ………」
 向かい合う体位に転がされて彼女は起き上がろうとする。しかし舞夜は許さなかった。上から画鋲や釘の如く押さえ付けられ、再び体内に彼が入り込むと、たちまち開かされた脚の間で凄まじい粘着質な音がたつ。空気を含んだ体液とローションが肌と肌に潰されていく。
「んあっやっ、あ!」
「高1の時の150m、1位を取ってあんたを後夜祭に誘うつもりだった」
「祭夜ちゃ……ん、が?」
 祭夜の話だったとすれば前後関係がおかしくなる。しかし頭には彼のことしかないのだから仕方がない。真横で聞いていて瑠夏はへらへら笑った。ねちねちと捻くれたピストン運動に夏霞は媚肉をうねらせる。
「舞夜さんが、でしょ?」
 さすがに飄然とした美少年もこれにはいくらか同情を寄せたようだ。夏霞は頭に響く快楽にぼんやりしながら舞夜の動きに応えて蜜肉をとろかす。
「でもその感じだと、違うみたいですね」
「俺は1位を取ったのに、雨堂は転んだ祭夜に付き添ったな?どうせ、覚えてないか」
 言い終わるやいなや、締めの挨拶よろしくまた強く打ち付けられる。
「あっ……っ!」
「覚えてるんですか、夏霞さん?」
「覚えて、る………っんっあ、」
 内部で灼熱が暴れた。瑠夏は苦笑する。
「思い出してくれたのか、俺のこと」
「祭夜………ちゃんっと、あっあっあっ!んっ!」
 喋る余裕はなかった。舞夜に穿たれ、脳髄が痺れる。掌がぶつかり合って握られた。
「雨堂。好きって言ってくれ」
「あっ、んっあぁっ、」
「雨堂」
 両手を繋ぎ、腰を打ちながら口付けに勤しむ様は健気であった。翅を毟り取られたアゲハチョウの如き悲壮感を醸し出していた。
「雨堂、好き。夏霞………」
 シーツか何かを握りたい彼女の手が這う。だがそこには舞夜の手も伴う。
「スキって、ほら、言ってあげなきゃ夏霞さん?規約違反だから、中出し決定ですよ」
「ス………キ、スキ………スキ、スキ………」
 もはや言えば言うほど膣内射精を回避できるまじないだった。夏霞は必死に強いられた好意を口にする。
「夏霞」
 口の動く限り言い続けた。体内の芯はさらに熱く獰猛さを帯びて出入りする。膜越しに摩擦する。
「ああああっ、!」
 絶頂は突然彼女を襲った。しかし舞夜は容赦なく震える肉体を貫き続ける。
「夏霞、かわいい……」
「だめ、もぉ、っあっあっあ、やっ、壊れちゃ……っ、!」
 舞夜は猛り狂って暴れた。第六感が肉体の破損を予感して夏霞は悲鳴を上げた。涼しい貌をしていた高校生もわずかばかり眉を顰め、とうとう2人の間に割って入った。泣き叫ぶ彼女の姿を見て人狼ひとおおかみ同然になっていた男は腰をぶるっと波打たせた。
「取り戻すも何も青春なんかそもそも無かったんじゃないですか。拗らせましたね、お可哀想に。こういう大人にならないように今からでも気を付けます」
 瑠夏は端末を翳して抱き潰されたセーラー服の女を撮る。横になるのも精々の彼女にシャッター音を気にするだけの体力はなかった。白い手が乱れたスカートを捲る。白い紐パンツは無残な姿でベッドから落ちていた。秘部がよく見えた。
「大好きなカレシさんがいっぱい出入りするところ、煉乳かけて中出しみたいにしていいですか。舐めたい」
 無邪気な細い指は秘蕊を辿る。
「休ませてやれ」
 彼女をこのようにした張本人が瑠夏をベッドから引き離す。
「しかし痺れました。高校時代の舞夜さんに、試合に勝って勝負に負けてる過去があったなんて。驚きです。切ないなぁ~。ねぇ?夏霞さん」
 彼女は疲労によって起き上がりもせず反応も示さない。
「無理をさせて悪かった」
 舞夜は夏霞の髪を撫で、徐ろに髪ゴムを外す。毛が絡んでしまっているのを丁寧に解いていく。そして投げ出された手に触れ、長く濃い睫毛を伏せた。世が傾くような美しさがある。男子高校生がそれを不思議そうに横目で見ていた。
「ひとつ嘘を吐いたよ、雨堂。1位とるから後夜祭、一緒に行こうって俺は先に言った。それもどうせ覚えちゃいないんだろう?あれは冗談なんかじゃなかったのにな」
 彼女は甘く唇を噛んだ。それもまた覚えていない。特別な行事の際に浮かれた男子の軽口ならばよく行き交うものだ。特に後夜祭は男女ペアなどが暗黙の恒例なのだから、その場をやり過ごす相手を見つけるのに躍起になる。だが特進クラスともなれば異性にかまけている時間などないだろう。体育祭や文化祭の全員強制参加にさえ不満があるというのだから。
「夏霞さんはなんて答えたんですか」
 当時小学生男子が口を挟む。
「お互い相手見つからなかったらね」
 乾いた調子で彼は言った。
「夏霞さんって、結構酷いんですね」
 鱈の切身を5本並べたような手が抵抗しない素足を所在なく触る。
「それで舞夜さんって、ナンパ師みたいに結構グイグイいくんですね。引っ込み思案拗らせて恋に狂ったのかと思ってましたよ。満たされなかった恋愛感情が、めっちゃくっちゃになってもう恨みみたいになってるんだなぁ」
 美男子は溜息を吐いた。花でも月でも恥じらって自滅をするような麗しさだった。
「お風呂入りますよね、さすがに」
「いい………もう帰して」
 嗄れ果てた声は哀れみを誘う。
「俺が洗う。一緒に入ろう」
「夏霞さん、これは償いですよ。散々、舞夜さんの純情を弄んだ結果がこの有様なんですから。罪作りな人だなぁ。触らずに人を2人もぶっ壊すんですから。で、もしこれがバレちゃったら、3人も壊したことになっちゃいますよ」
 ぐったりしながら彼女は髪と枕にした腕から瑠夏少年を睨んだ。
「寝るのか?」
 床に膝をつき、目線の高さを同じにされる。髪を梳かれ、頭を撫でられている。まるで愛玩動物扱いだ。不服はあれども、それで眠くなってしまった。目蓋が落ちていく。
「おやすみ」
 あとは落ちていくだけだった。ゼリー状の眠気に背中から沈んでいく。


―なぁ、雨堂さん……だよな?いきなりで悪いけど、その、1位取るから後夜祭、俺とペアを組んでほしい。もし相手いなかったら……

―お互い相手見つからなかったらね

―ねぇ、B組の雨堂さん?鯉月あかつきくんてすっごくかわいいカノジョいるよ。断ったほうがいいよ。恨まれるよ。



 夏霞はまだ肉体に残る重苦しさに身動きが取れずにいたが目蓋は軽く開いてしまった。暗い視界に薄らとヒトの肌の色が浮かぶ。巻き付く腕は少し骨っぽい空洞のような軽さがあった。祭夜ではない。彼と肉付きの似た弟でもない。長身痩躯の叔父でさえもう少ししっかりしている。とすると誰なのか、固めの生クリームを掻き混ぜている途中に似た意識ではすぐに判断ができなかった。冷気に包まれながらダウンケットの下、2人の間に籠もった温度は花のような匂いがする。
「起きました……?」
 瑠夏だ。後頭部を抱かれる。
「お風呂入るといいですよ。煉乳でベタベタでしょう?僕か舞夜さん、どっちと入りたいですか。僕を選んでくれると嬉しいな」
 彼はくすくすと笑って夏霞の頬に触れた。
「ダメですよ。身体中痛いんじゃありませんか?倒れられたりしたら困ります。ヤバさでいうと僕を選んだほうが賢明ですけれど、頼りになるのはやっぱ舞夜さんですかね」
 彼女は少年から離れようとする。だが阻まれた。
「お風呂エッチになったらゴムなんてありませんよ、夏霞さん。僕はその点、勃ちませんからね。夏霞さん。勃たないんですよ。勃たないんです。貴方のせいで。貴方が僕を壊したんです」
 かよわげな手からは想像できない力で少年は股間を触らせた。布越しに柔らかい。
「夏霞お姉さんのおっぱいたくさん揉みましたからね。夏霞お姉さんも、いっぱい僕のペニスを揉むといいですよ」
「やめて………そういうことしちゃダメ………」
「カレシさんのしか触りたくないですか」
 手を引こうとしても、少年は面白がって彼女の顔を覗き込み、さらに陰部へ力を寄せる。
「瑠夏くん……人にこんなことしちゃいけない。瑠夏くん……瑠夏くんも自分の身体を、こんなふうに触らせるの、良くないよ」
「僕だって誰にでもこんなことしませんし、させません。夏霞さんだからです。僕を壊した貴方にだけですよ」
 掌に感じるものを肉体に付けているとは思えないほど彼は優美な笑みを浮かべる。
「瑠夏くん。わたしには……」
「カレシいるとか関係ないです」
 ずいと彼は鼻先を近付ける。
「夏霞さんは今カレシさんの横じゃなくて、僕のところにいるでしょう?それと同じです」
「瑠夏くんと一緒にいても、わたし、祭夜ちゃんのことしか考えたくない」
 夏霞は寝転がって瑠夏に背を向ける。セーラー服が胸元をきつくする。
「お風呂入りましょう。どちらと入るか選んでおいてください。さすがに舞夜さんと3人で入るのは嫌なので、選んでください」
「1人で入らせて……」
 入らなくてもいい。瑠夏を押し除けベッドから降りようとする。
「ダメです。舞夜さんですか、僕ですか」
「……2人とも嫌。別に入らなくてもいいし。帰る……」
 いつの間にかきちんと畳まれている服に手を伸ばす。
『スキ!スキっ、スキあっ、ぃやっ、スキ、あっあんっあッ、スキっスキ、スキ、あああっ!』
 電子音で構成された嬌声に夏霞は猛烈な羞恥と嫌悪感に襲われた。自分の言葉だと認識はできたが、自分の声だとは認めたくなかった。
「ははは、舞夜さんこれ見てきっと夜も眠れなくなっちゃうんだろうな。げっそりしてたら夏霞さんのせいですね」
「消して……そんなの。気持ち悪い………」
 暴れる力も残っていない。なるようになれ、と疲れは彼女から意思を奪う。矜持は捩じ伏せられている。
「舞夜さんと僕、どちらですか。僕ですよね。舞夜さんとお風呂なんか入ったら、赤ちゃんデキちゃいますよ」
 夏霞は不敵に笑う瑠夏に連れられて風呂場に向かう。リビングから舞夜が出てきた。上手く咲けなかった月下美人のような儚さと清らかな美しさを纏い、彼は落ち込んでいる様子だ。
「すまなかった。どこか痛むところはないか」
 俯きを深めた夏霞を瑠夏が庇った。
「心が痛いんじゃないですかね」
 彼はけらけら笑う。舞夜は夏霞しか見ていなかった。
「雨堂」
「別に……」
「結婚して欲しいのは本心だ。場の流れに任せた言葉じゃない。雨堂と結婚したい……」
 犯されたこともよりも「スキ」だと言わされたことよりも、今夏霞の胸を裂くのはこれだ。この言葉だ。
「付き合ってもないのにおかしなこというのやめて……?子供じゃないんだよ。こんななのに結婚したいとか、変だし。わたし、あなたのカラダの道具じゃない」
 瑠夏は愉快げに、卑しい眼差しを舞夜にくれた。
「カップルでは上手くいっていても、夫婦じゃ上手くいかない、なんてことはいっぱいありますからね」
 舞夜の昏い双眸は薄い目蓋とよく反った睫毛の下に消えていく。
「傷付きたくないならもう言わないで」
「言えるなら、何度でも言う」
「ダメですよ、あの人壊れてるんです。僕としては、夏霞さんは祭夜さんと結婚して欲しいな。人妻の夏霞さんってえろそうですもの。でも妊娠なんてしないでくださいね。忌々しい。娘だったら恐ろしいですよ、忌々しいです。夏霞さんもどきの女が、この世に存在していいはずがないんです。誘拐して気持ちの悪い変態おじさんに売り付けてやりますので」
 風鈴のような音色に似た声で彼は熱弁を振るう。
「息子だったら許しませんよ。母親というものは長男が大好きですからね。次男以降はセックスの副産物同然です。まぁ、娘でも息子でも、夏霞さんが妊娠中で相手にされなくなったカレシさんに、オカズを提供して差し上げますよ。旦那さんが求めてこなくても心配することはありません。ひとりで励んでいるはずですから」
「どうしてそういうこと言うの?」
「僕を壊したからです。舞夜さんを壊したから。そんな貴方が家庭を持てるはずありません。カレシさんのことも、壊すだけです」
 夏霞は突然、低く笑い出す。
「でも瑠夏くんも祭夜ちゃんのいとこさんも、わたしに興味あるのは今だけでしょ。おばさんになったら?おばあちゃんになったら?一緒に年を重ねる気もないクセにバカみたい。わたしが一生若いままなワケないでしょ。あなたたちだっておじさんになる。わたしは祭夜ちゃんとおじさんおばさんになりたいと思った。祭夜ちゃんが結婚したくないなら仕方ないけれど」
 瑠夏の表情が無に変わり、舞夜もいくらか憐憫や困惑を示して夏霞を見下ろす。
「結局、あなたたちのは性欲でしょう?考え直して。そこのところ、祭夜ちゃんとなら折り合えるから」
 反論がない。夏霞に卑屈な情感が湧いた。あまりに好きだと好意を伝えられ続け、毒されたのかも知れない。彼等の迷惑極まりない行動自体に戸惑いはせども、若い女の肉体にしか興味がなかった、そこまでは好いていなかった、老いる女体には興味がないと明らかになると自己の存在意義を疑ってしまう。それでも好きだと期待をしていたわけではない。しかし何かが呆気なかった。交わした言葉も翳した倫理観もすべて肉欲の前では不要で見えもせず聞こえもしないものだったのだ。彼等の求めているものは、ただ陰部の結合だったのだ。
「ごめん。着替えたら、帰る。お風呂は要らないし、自分の足で帰れるから」
 瑠夏も舞夜も何も言わない。彼女はトイレで着替え、何かしら言おうとした祭夜の親戚を振り切って無言のまま帰路に就いた。あっさりしている。それが彼等の解放であり、老いを見つめる女への同情であり、隠そうとして暴かれた本心だったのだろう。
 人格否定とまではいかなかったが、一個人としては見られていなかったらしい。自己顕示欲や自己承認欲求は家族や祭夜、大学の友人たちによって満たされているけれども、肉体を凌辱し好き放題していた彼等は言葉を多く用いても結局のところは肉欲を満たせる相手を探していたのだ。そのための多弁であった。好かれてありがたいことも無かったが、一個人を出したところで彼等にとっては己の陰部に快感をもたらす女体に変わりがなかった。同時に、それが諸行動の理由であれば、すぐに別の若い女に言い寄るだろう。舞夜などは高校時代から付き合いのある水郷みずさきとかいう当時から美少女だったのがいるはずだ。
 夏霞は何かに対して深く傷付いていた。おかしな服装を強要されたことかも知れない。「スキ」と言わされたことかも知れない。まず間違いなく嘲弄に等しい求婚をされたことが含まれる。そして陵辱され痴態を晒したこともそうだ。彼等に簡単に傷付けられたことも、また彼女のプライドを傷付けた。安堵もある。彼等は性欲さえ満たされたなら容易に解放するだろう。若い女の瑞々しい脚の間にしか興味のなかった彼等に解放されて0になるはずが、何かを傷付けられている。矜持だ。自尊心だ。否、彼等の姿を見た時、祭夜に対しても疑念が過ったことだ。
 蒸し風呂状態のアスファルトの上を歩く。身体中が痛い。少し疲れてしまった。ぼさぼさの髪を手櫛で整えてから近くの古めかしい商店に寄って、レトロな包装のアイスキャンディーを齧った。優しいソーダ味の中にラムネが埋め込んである。意外にもそれで傷心はどうでもよくなってしまった。後ろでクラクションが鳴った。振り返ると見慣れた車両が徐行し、夏霞に寄せて車を停めた。叔父である。まだ日は高く昇っているが、冬ならば真っ暗になっている時間帯だ。
「乗っていきなさい、夏霞」
 車窓が下げられ、叔父がサングラスを外した。歳の離れた兄といっても過言ではない。若い頃はホストクラブで働いていたらしいが、その華々しい所作がまだ残っている。
「叔父さん、今日はお仕事早かったんですか?」
「そうだよ。ここで会うとは思わなかった。お乗りなさいな」
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「……うん」
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