18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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雨と無知と蜜と罰と 弟双子/気紛れ弟/クール弟

雨と無知と蜜と罰と 8

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 キッチンスペースから現れた霙恋えれんは無数の、人の爪を剥がしたみたいな白いものを浴びていた。あられが吹きつけたようでもある。
「姉さん、いい子にしていてくれ」
 つまり誰が入ってきても余計なことを口にするなということであろう。彼はそう言ってインターホンに応えた。鍵を開けると人の気配が増えた。
「で、したの?」
「いいや」
 独り言で会話している恐ろしい人物に今ならば見えるが相手は双子の弟だろう。厄介な人物の来訪に加霞かすみはブランケットに顔を隠してしまいたかった。
「うわ、寒……―姉貴、やほ。顔見せろよ」
 触り心地の良いブランケットに顔を埋めようとしたが、雫恋かれんに顎を捉えられてしまう。睨むことしかできない。
「おかえりって言えよ。お仕事お疲れ様って言え」
 加霞は次弟とは目を合わせもせず、唇を噛んだ。
「かわいいことするじゃん」
 引き結んだ唇に彼の美貌が近付いた。キスされ、顎を掬う手に逆らって彼女は顔を背ける。
「現場で宝生ほうしょうに会ったよ。一緒にケーキ食べたんだってな。弟フッて食うケーキは美味かったかよ?」
 彼女は頬を両側から抓られたり、唇を窄めさせられたり、散々に遊ばれた。
「あれ、アンタその下裸?」
 ブランケットに手が掛かる。
「やめろ。姉さんを冷やすな」
 すでにキッチンスペースに戻っている霙恋が口を挟む。
「霙恋には素っ裸見せといて、俺には見せないとかないよな?ま、贔屓の激しいアンタじゃありえるな」
 この部屋の設定温度よりも冷ややかに彼は鼻で嗤った。そして加霞の横に座ってしまう。
「姉貴、寒いんだろ?あっためてやる。来なよ」
 来なよ、と言っておきながらブランケットごと彼女を掻っ攫い、湯たんぽや抱き枕よろしく、そのしなやかな両腕に閉じ込める。
「姉貴、今度の映画観てくれよ。宝生にチケット渡しておいた。観とけよ」
 拒否は許さんとばかりに背骨が折れそうなほど雫恋は加霞を抱き締め、格闘技と紛うほどに締め上げる。
「姉貴」
 話題が変わったらしく声音が切り替わる。加霞はやはり目を合わせず、鼻先も外方を向いている。
「愛してるよ、姉貴。本当は俺だけのものにしておきたいけど……義理ってもんがあるから」
 今日は霙恋も雫恋も歯切れが悪い。



 加霞の裸体には次々と綺麗にスライスされた透明感のある瑞々しい魚の生肉が乗せられる。両側から色違いの弟が箸で列を揃えている。鯛と思しき赤みのある頭部が剃られたばかりの場所に添わる。冷たさに彼女はぴくん、と身動ぐ。
 彼女の目は強めの酒を飲まされ、とろんとしていた。大学生やサラリーマンが日常的にコンビニエンスストアで買うような缶のものではなかった。首の長い瓶に、ショットで一杯、金髪でないほうの弟の口移しで喉を通った。そこでも金髪のほうの弟の仕事の話が出た覚えがあるが、加霞は忘れてしまった。記憶には靄がかかっている。
「このまま温順しくしていてくれ。そうすれば悪いようにはしないから」
 霙恋は菜箸を置くと姉の梳かされた前髪を撫でる。彼女の髪は綺麗に巻かれ、化粧も直されていた。双子の会話から霙恋は水商売をして生計を立てているらしい。ヘアアイロンを知り合いのキャバレークラブの女性従業員に借りたとか言っていた。
「姉貴に媚び売ってポイント稼ぎのつもり?」
「これでポイントを稼げる姉さんか?」
 刺身を乗せられた姉の裸体をはさみ、髪色や眉色、ピアス穴、服装程度の違いしかない男2人が睨み合う。嵐恋や舞夏まなつのよくやっているゲームでいえば"2Pカラー"である。
「違うね。姉貴は俺の弟にしか興味ないもんね」
 まだ飾られていない胸の頂を意地悪く雫恋はくりり……と抓んだ。様々な感触や温度で固くなっているところにまろやかな稲妻が走る。腰が揺れた。足が動きバンダナを挟んでいるが結束バンドが皮膚に食い込む。
「は、ぁう……っん!」
 鋭い感覚は鈍く浅く広く体内に入り、その境界の突起はさらなる電流を求めて高く勃つ。背が弧を描きかけるのを金髪のほうの弟が押さえた。
「崩れる」
 長弟は次弟を叱る。だが悪怯れた様子もなく彼はぼんやりしている加霞の顔を覗き込む。
「ベロチューしたい」
「駄目だ」
 霙恋は内臓を取り除かれ肉を晒す小魚を爪楊枝で丸く留めた飾りを胸に置く。環状になった魚の中に大根とニンジンのつまが置かれ、色付きを隠した。
「悪いな、姉さん。あとで沢山、いじめさせてくれ」
 彼女は熱っぽく潤む目を金髪の弟に向ける。
「こっち見ろよ、姉貴。霙恋とはいっぱい遊んだだろ。次は俺とだから」
 双子は互いを睥睨し、火花を散らしている。
「俺かお前か、決めるのは姉さんだ」
「金髪か金髪じゃないかの違いしか分からないだろ、姉貴は。それともおまんこは分かってくれてる?気持ちいいのは俺のほうだって」
 唇を噛んだとき、金髪のほうの弟が歪んだそこに指を当てる。シェルピンクのリップカラーが付着した。加霞の持ってる色ではない。
「姉さんは俺でもイってくれたものな」
「淫乱かよ」
「姉さんは感じやすいだけだ。俺は嬉しい」
「またポイント稼ぎかよ。姉貴、俺は淫乱が悪いだなんて言ってないぜ。やってる相手が弟ってことも忘れて感じまくってるアンタがいい。だから俺としろ…………お前、いつまで触ってんの?」
 唇にある金髪のほうの弟の指を金髪でないほうの弟が除けた。冷戦状態だ。
「もうすぐ来る。姉さん、これを咥えていてくれ」
 真っ黄色な菊花がジャムを塗ったように照るピンク色の唇に差し込まれた。茎は短く、咥えるまでもなくほとんど乗っているも同然だ。
「姉さん…………」
 金髪の弟が眉を顰めるのと同時にインターホンが鳴った。
「来たな」
 金髪ではないほうの弟はガラステーブルに抱えていた様々な酒を置いてから玄関先に出て行った。
「だ…………れ?」
 唇の上の能天気なほど明るい黄色の花が傾く。長く筋張った指が直す。熟れ過ぎたフルーツの匂いを帯びる仄かな酒臭さが内側から鼻腔に漂う。
「平たく言えば、探偵だな」
 働かない頭は眠気に近い。日常的な光が少し眩しく感じられ、目蓋は伏せがちになった。
 雫恋の出迎え人物が入ってきた。加霞はゆっくりと首を曲げる。若い男だ。
「加霞ちゃん、久し振り」
 暗めの茶髪が目に入る。帽子を取っている。丈の長いベストは襤褸布のようだが見窄らしくないのはそういうデザインなのだろう。全体的にだぼっとゆとりのある服装で、古着屋や楽器屋などが並ぶサブカルチャーの街から出てきたような風采だ。
「…………」
 ぽとりと彼女の唇から菊花が落ちる。大きな蒲公英ほこうえいと見紛う。
「覚えてないかな」
「覚えてないよ。そのひと、俺の弟にしか興味ないから」
 横から雫恋が代わりに答えた。
「へぇ……君の弟ってことは、」
 だぼだぼとした身形の青年は加霞の脇に控えている霙恋を指差した。
「4つ下の」
 そして重要書類では霙恋は雫恋の兄であり、久城家の長男である。
「茶番はやめろ」
 霙恋は怒気を露わにした。若い男はへらへら笑う。
「明日からは金輪際、姉に関わるな」
 厳しい口調だ。
「そんな姉想いのお二人が、僕に加霞ちゃんを貸してくれるなんてありがたいよ。仕事頑張った甲斐があるな」
「貸すだけだけから。もう俺のモノにはしたし」
 雫恋はガラステーブルをはさんでソファーの対面に行儀悪く座っている。歓迎の空気ではない。
「さっさと用を済ませてくれ。姉も暇じゃない」
「随分な言いようで」
 突き出された割箸と皿を若い男は受け取った。穏和な感じのする容貌で、決して醜くはないが派手さ華やかさもなく、地味な印象を残すのは顔立ちの問題ではなく彼の放つ空気によるものなのかも知れない。
「板前でも呼んだんです?それともいいところで買った?」
「俺が捌いた」
「そうでしょうな。お二人が加霞ちゃんのこんな姿、他の人に見せたいはずがない」
「箸先で姉の肌を傷付けたりなどないように」
 霙恋はまた刺々しい口調でそう言うと客人の前とは思えないほど横柄な態度でソファーに座った。
「あのねぇ、久城くん。僕も君等と同じ、陰で加霞ちゃんに懸想けそうして懸想して苦しんだ男なんですわ。傷付けるわけないでしょうに」
 彼は皿に醤油を注ぐでも擂られたばかりのわさびを乗せるでもなく女体に盛られた刺身に箸を伸ばす。
「加霞ちゃん」
 目が合う。箸はまず、菊の花を取り去った。
弘明寺ぐみょうじです。蜂須賀と一緒にいた……」
 加霞は重げに瞬きする。ぼんやりした意識はその人物を記憶の中から探ろうとすらしない。
「メグちゃんって呼んでくれてたの、忘れちゃったか」
「女体盛りにしてくれなんて言うやつのこと覚えてるわけないでしょ」
 雫恋が横槍を入れる。
「そっか。ちょっと寂しいけど仕方ないね」
 弘明寺とかいった若い男は身を捻ってガラステーブルの上にある醤油を皿に注ぐと、加霞の腹にある切身を取り、ほんの少し浸して口に運んだ。
「美味しいよ、加霞ちゃん。霙恋坊ちゃんの切り方がいいのかな」
 箸は胸に伸びる。つまを取るつもりらしい。割箸の刺激と、弱い箇所の露出を肌が恐れて加霞は身動いだ。
「お胸嫌?」
 子供をあやすような声に彼女はこくんと頷いた。
「じゃあまだ食べない」
 胸元にある赤身魚が拾われていく。
「加霞ちゃん、汗かいちゃったのかな。美味しいよ」
 彼女は弘明寺という男をぼうっと見つめていた。それに気付くと彼は微笑みかけた。穏和な感じは、口振りからいってこの状態に至った元凶であるようだが、乱暴でも弟でもないこの人物こそ今の状況から救い出してくれそうなのはこの者のように思えた。
「残してさっさと帰ってもいいんだぜ。俺たちで食うし」
「もったいないよ。日本の残飯量を減らさなきゃ」
「調理して食うから安心してくれ」
 双子は客人を帰すことに積極的だ。弘明寺といっていた男は自分で酒を酌んで飲んだ。
「加霞ちゃんも飲む?」
 返事も聞かずに彼は猪口を淡いピンクの口元に近付ける。手を添え、ゆっくりも傾けた。飲口にリップカラーが移る。水のような液体に油断し、彼女はアコール臭さにふす、と鼻から息を吐き出した。
「日本酒苦手かな」
 彼は加霞に酒を飲ませるのをやめ、汲んだ分を呷って数切れ鮮魚のスライスを食った。
「じゃあそろそろ、つまをもらおうかな」
 丸く巻かれた大根とニンジンのつまが割箸に挟まれる。極細に切られた繊維がはらはらと解け、わずかに加霞の胸の頂上に残る。
「あ、もったいないね、ごめんね」
 弘明寺とかいうのはつまを皿に乗せた。醤油を吸う。箸は白身魚を拾い、大根とニンジンの細切りが数本残る膨らみの先端部を覆う。冷たい生の魚肉が肌を這い、凝っている実を柔らかく挟んでいった。
「んっ………っ、」
 甘い刺激がそこに残る。
「取れた」
 数えられるほどの根菜の細切りを纏うはまちは醤油をわずかに垂らして若い男の口に消えた。それから褐色に染まったつまの塊も鰤の後を追う。
「遊ぶな」
「ん?僕、遊んでた?」
 赤身魚を日本酒で流し込む。加霞の肌は露出を増していく。雫恋は外方を向いて苛々と忙しなく膝でリズムを刻む。
「すごく美味しいよ、霙恋坊ちゃん。加霞ちゃんの汗がいい出汁だしになってて。頼んでみてよかった」
「さっさと食べて帰ってくれ」
 霙恋は地の底を這うどころか匍匐しているような低い声で唸った。
「そうだね」
 ぱくぱくと箸が進んでいる。合間に酒が入った。
「この鯛の頭どうやって食べるの」
「……後で炊くから食べなくていい」
 喋るのも面倒だとばかりだった。
「加霞ちゃんの出汁食べる気なんだ。怖いねぇ、弟くんは」
 透明感の強い白身魚が、あとひとつ残っている山高やまたかのつまを包む。
「……っぁ、」
 細切りの根菜が勃粒を擽った。そわりそわりとした質感がそこに留まり、さらに固く天を衝く。
「お胸両方出ちゃったね」
「それはまずいな」
 霙恋はソファーを立ち、彼女の胸元に厚手のタオルを被せた。弘明寺とかいっていたのは苦笑している。猪口を呷り、腹を覆う生魚のスライスは彼の腹に収まった。
「で、デザートももらっていいんだよねぇ?」
 この一言が発された途端、緊張感がさっと走った。
「やだよ」
 雫恋が言った。
「挿れないよ」
「やだ」
 霙恋は加霞の股に置かれた薄紅色の魚の頭部を取り、鋏を弘明寺とかいうのに手渡す。
「おい霙恋……!」
「これきりだ。姉のことは一切合切忘れろ」
 弘明寺とやらは曖昧な笑みを浮かべ、加霞の足首を纏めるバンドを断つ。ばつん、という威圧的な音も今の加霞には他人事のように聞こえる。
「加霞ちゃん」
 閉じていることに慣らされて棒のようになった足が左右に大きく開かれる。防衛本能がどうにか腿を合わせて弱いところを守ろうとした。
「あんまりじろじろ見るなよ」
 雫恋がぴしゃりと吐き捨てる。
「絶対に着けろ。1回だけ許す。その代わり、二度目はない」
 煙草の箱より少し短いパッケージがテーブルに叩き付けられた。すでに開いている。同じ顔2つの警戒と敵意に満ちた視線を浴び、弘明寺とかいったのはまた微妙な笑みを浮かべていたが、加霞の膝の間に首を伸ばした。
「ん、ぃ………や、っ!」
「今まで誰のより綺麗だよ、加霞ちゃん」
 力の入らない下肢を閉じようとしても男にぶつかるだけである。彼は柔肌と柔肉に挟まれたまま、ひょいと顔を上げた。
「もう抱いた?」
「今日はまだ」
 雫恋のその口調には自棄の響きがある。
「そうなんだ。少し濡れてる。感じちゃったのかな」
 弘明寺と名乗った若い男の指が潤んだ秘房の裂を撫で上げる。
「ゃ………っ、」
「かわいい、加霞ちゃん」
「口説くな」
 霙恋がキッと刺々しく叫んだ。
「舐めるから、びっくりしないでね」
 弘明寺 何某なにがしは加霞の滑らかな腿を撫で、もう一度舌先で弱々しい開実あけびを割ると紅芽を質感粗く舐め回す。ちゅるる、とリップ音がする。
「ぅ、ん……っ」
「感じないで、姉さん。あんたは俺のだろう?」
 外野手がふざけたことを言っている。温かな舌は酔っている加霞の頭にも届くほど悦い箇所を転がした。弾力を確かめられている。
「あっ、………」
 吸着音と水音がいやらしく籠った。敏感な肉鐘をざらついた表と滑らかな裏で左右上下に撞かれ、小刻みに女体が揺らめく。人工的な甘い香りと熟れた汗の匂い、そしてほんの少し魚の生臭さが漂う。
「ァ、あぅう……っ!」
 ナイロン樹脂と結束バンドに括られた両手の爪がフローリングに縋って逃げようとする。生温かい舌が入る。反射がきゅんと締め付けた。
「ゃァ、んっ」
「姉さん、いやだ」
 霙恋はかぶりを振って姉に忍び寄ると、彼女を膝枕する。伸ばした両腕が弟の胸元にぶつかった。
「ふざけんな」
 雫恋も立つ。弘明寺とかいうのは彼等の姉の股に埋めていた頭部をぐりんと回してから顔を上げた。
「あ、ん……っ」
 甘い吐息が女から漏れる。頭上と脚の間で無音の戦闘があることも彼女は理解していない様子だった。よく潤った口を半開きにして、水分の豊富な目はぽんやりと虚空を見ている。
 弘明寺とかいうのがテーブルの避妊具の箱に手を伸ばす。
「いただきます」
 舌打ちが聞こえた。雫恋だ。姉がその肌ごと喰われるのを間近で見るつもりなのか、脇に移動していた。
「姉さんは俺だけ見ていればいい」
 真上から伸びた乾燥している手に頬を撫でられる。今、膝頭に乗った手も同様に乾いていた。
「オナニーさせてやるだけだから」
「困ったひとたちだね、加霞ちゃん」
 ごつごつとした長い指がおそらく2本、加霞の狭肉に挿し込まれた。痛みというほどはっきりした感覚ではないが少なからず摩擦と、これもやはり軋轢というほどではない圧迫感が生まれた。広げるように柔らかく動く。性感を高めながらの準備つまり前戯というよりもマッサージに似ていた。
「痛くない?」
 加霞は素直にこくんと頷いた。後頭部に何者かの脚の硬さを感じる。
「ヘタクソならヘタクソって言っていいんだよ、姉貴」
 弘明寺と名乗っていた青年はまた苦く微笑する。
「痛かったら言ってね」
 指が隘路あいろを往復する。そこがよく潤んでいくのが加霞も分かった。痒みに似ていて痒みでない疼きはまだ指先の至っていない箇所で渦巻いている。水肉はそこに案内しようとしている。内側だけでなく腰も、まだよく思い出せない相手にすいと差し出す。
「挿れるね」
 熱が当てられている。蜜蕊をゆっくりと貫通していく。
「あ………あっぅ、!」
 加霞は肘を曲げて顔を隠した。中から徐々に迫るものの大きさが、加霞の内側すべてに当たる。掠れ、勝手に包む。身の毛もよだつ蕩けた温もりが生まれ、加霞は口を開いて息苦しさに似た悦楽を放つ。肉体にとっては負荷になる域の鈍痛のような官能だった。この男の技量なのか、将又(はたまた)、彼の肉体の相性なのか、或いは加霞側の肉体的なコンディションの問題だったのかも知れない。彼女は呼吸よりも速く熱芯を咀嚼した。食い千切ろうとしているのか、奥まで引き絞ろうとしているのか彼女にも分からない。
「あ……っあっあっあ!」
 まだすべて収まっていない、動いてもいないというのに加霞はこの悦びの果てが見えた。
「あ……ゃあんっ!」
 締めるだけ、最も太い部分と接触を深め、快感が湧き起こる。ごく短いストロークで加霞は嚥下を忘れて唇を小滝にする。
「加霞ちゃ……、」
 弘明寺とかいうの若者の顔は青褪めていた。強力な圧迫に苦しんでいるのだろう。
「ゃあ………んっ、あっ………」
「姉さん、苦しいのか?」
 それは不本意な自慰だった。加霞の理性はアルコールで薄められ、心地良い眠りに誘う快感を追い、彼女は自ら腰をくねらせる。抽送はいつになっても始まらない。焦らされて爛れていくようだ。白い膜を隔てたような思考で期待は膨らみながらも、突かれたときに訪れる巨大な肉の喜悦を想像し、腹の奥が鈍く重くなる。
「ぁっあっあっあ、あ、だめ、あぁっ!」
 膝枕をされている人物が彼女の腕や肩に触れた。その仕草は焦っているようにみえた。
「姉さん」
「姉貴、イくの?」
「ご、め……、なさ………、あ、あ……ッ!」
 自分から身を貫く快感が腰に鞭を打つ。骨まで溶かされ、同じ動きを繰り返さずにはいられない。下半身は液体になりたがっている。泥濘みに酷似した眠気に嵌まりながら、疼きを知人らしき男の肉棍で擂り潰す。
「ごめ、なさ……っ!あっあっああああ!」
 悲鳴に近い嬌声を上げて彼女はびくん、と大きく身悶えた。それとは対照的に、弘明寺とかいったのは口元を押さえていた。腰を引かれ、彼が去っていく摩擦にも、加霞は下りかけだった官能の山、その頂点からリスタートさせられる。
「あ、んん………ッ!」
 間を置かない二度目の絶頂に彼女の身体が小刻みに引き攣った。足音が響き、弘明寺とかいう青年は部屋を飛び出してトイレに駆け込んだ。直後にカエルの鳴き声みたいなのが聞こえた。嘔吐している。
「もったいな……」
 雫恋が呟いた。
「あの魚、傷んでたんじゃないの」
 双子の弟の言葉には耳も貸さず霙恋はくたりとして寝そうになっている加霞の腕の拘束を解いた。
「姉さん」
 彼は加霞の頭を支えながら自分の膝とクッションを入れ替え、キッチンに行った。雫恋が待ってましたとばかりに両膝を擦ってさらに距離を詰める。
「寝るなよ姉貴。まだ俺と遊んでない」
 ぽて、と開いた唇を抉じ開けて骨張った指が口腔に入る。瀞んだ内膜や舌で遊ぶ。
「ふ………ぅん………」
「なんで俺以外でイくの?俺で満足できないなら数増やす?でも姉貴、気持ち良すぎですぐトんじゃうじゃん」
 舌先を指で挟まれ、口の外に引っ張り出された。涎が垂れていく。
「姉さんは疲れてる。休ませてやれ」
 湯で濡らしたタオルを持って帰っきた霙恋は雫恋を軽く引っ叩いて退かした。
「姉さん、あとは全部やっておくから、寝ていてくれ」
 彼は身を伏せて、虚ろな姉の唇を啄んだ。下唇を吸い、リップカラーが落ちるほど執拗に口付け、されるがままだった加霞もやがて力の抜けた腕で長弟を拒む。ただ手を添えただけのような弱さである。
 退かされた雫恋もまた膝で擦り寄り、彼女の腿の間に腕を伸ばす。
「姉貴、寝かせてあげる。寝ろ。だからイけ」
 温かいタオルで身体を拭かれながら、彼女はまた次弟の手で蜜珠を転がされて絶頂を極めた。自分の甘い悲鳴を聞きながら白い沼底に沈んでいく。大切なことがあるはずなのは分かっているが、やはり白く粘こい意識にそれらは包まれ、加霞だけ深く深くに落ちていく。
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