18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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雨と無知と蜜と罰と 弟双子/気紛れ弟/クール弟

雨と無知と蜜と罰と 7

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 仕事の帰り、マンションに入る直前で加霞かすみは背後から腕を掴まれた。あまりに突然のことで彼女自身、自分の身に何が起きたのか分かっていないようだった。開きかけた口を布で覆われる。
「姉さん。大事にしたくなかったら静かにしていてくれ」
 霙恋えれん雫恋かれんである。どちらでもよい。加霞からしてどちらでも大した差はない。2人とも問題の多い人物という認識で事足りる。なんとか身を捩って確認できたのは深々と被った妙に浮ついているキャップと、そこから覗く薄暗い金髪とピアス、黒フレームの眼鏡はアイドル業ではないほうであるからしずくれんではない。つまり消去法からいって霙恋である。
「放して!急に、何?」
 防衛本能から完全硬直を命じられていたが相手が弟と知るや否や、緊張、恐怖、不安は怒りに変わる。
「来て、姉さん」
「放して。話はそれから……」
「放したら逃げるだろう?姉さんはいつだって俺たちの話なんか聞いちゃくれなかった」
 痛いところを突かれて黙った彼女の腕を好機とばかりに弟は引っ張る。共に家族として暮らしていた頃は、陰険な年少者が何かほざいている、そういう認識で空返事をし、取り合わなかったこともある。
「姉さんが俺たちのやり方に何か気に入らないところがあるのなら、それはあんたが積み重ねてきた自己責任だ」
 ぐい、ぐい、ぐいいと霙恋は姉を引き摺る。
「これから帰って夕飯作らないと……」
嵐恋あれんももう16、7だろう。一人で飯くらい作れる」
「ふざけないで。怪我したらどうするの」
 末弟は器用な分野とそうでない分野の差が激しい。料理などは後者だ。鍋をひっくり返しでもして火傷を負い、痛みに呻く姿などは想像しただけで彼女は心臓を鷲掴みにされたまま血管ごと引き毟られるようである。
「過保護だな。その過保護ぶりを、俺にも少しは向けられなかったのか」
「そういう態度じゃ、なかったでしょう……」
 構うなと前面に出ていた。血の繋がらない知らぬ女が突然姉面をしていると言わんばかりであった。仲が良くないなりに双子の結託があり、そこには姉も弟も入る余地はなかった。何よりこの双子は器用で狡猾だった。四字熟語でいうと邪智暴虐という言葉がよく似合う。
「嵐恋は嵐恋で上手くやる。俺と来い」
 霙恋の手の力はさらに強まっていく。
「痛い……」
「それなら来てくれ、姉さん。俺だって姉さんにこんな真似したくない」
 踵の裏がアスファルトを滑る。踏み締めるだけ無駄だった。
「あなたと行って、いいことなんかあるわけない。わたしに何したか覚えてるの?」
「姉と弟でセックスしたな。中出しセックスをした。姉と弟で子供ができるようなセックスをした。姉弟きょうだいで動物みたいに交尾した。俺は種付けをして、姉さんはアクメした。忘れるわけないだろう」
「やめて!」
 今は人通りがないが、いつどこで聞かれているか分からない。
「約束も覚えている。ひとりでしない。出すのは姉さんの中だって話だよな。姉さん……」
 突然、霙恋の甘たるかった声が少し調子を変えた。元から甘かったが、さらに甘くなる。歯の全てを齲蝕うしょくさせるような甘さだ。懇願し媚びるような響きも持っている。触れている手が熱くなり、蒸気を背中に感じた。
「そういう用事じゃなかった……でも、したくなった。姉さん…………セックスしたい」
「最初から、そのつもりだったくせに!」
 加霞は暴れた。しかしいとも簡単に高温スチームを発している身体に抱き竦められ、今までのやり取りが茶番であることを思い知らされた。
「違う。今日は、姉さんに会わせたい人がいた。このまま姉さんの中に出したら、姉さん、イくだろう?イった後のいやらしい顔、隠せるか?」
 姉の肩や胸元に吊り下がり、左右に揺れて歩く。それが小さな頃から大人びていた彼らしくなかった。
「会わないし……」
「会わせる。向こうが会いたがってる……姉さんと同じ年で見た目も悪くない。でも、姉さんは俺のオナホだから………浮気はするな」
「会わないったら!どうしていつもそう一方的なの?」
 拘束というよりも構って欲しくて仕方のないしがみつき方になっている。弟を振り払おうとする。
「放しなさい」
「姉さん」
 耳元で息切れがする。運動によるものではない。内なる熱量によるものだ。加霞の本能がそれを危険極まりないものと判断している。
「姉さんはまた自己責任を積み重ねていくんだな。もう次からは姉さんの意向は訊かない」
 膝裏を突然掬われ均衡を崩す。ひょいと抱き上げられ、加霞は肘を張る。白い服を拒んだ。
「俺が右といえば姉さんは左と言う。姉さん……あんたは赤ん坊だ」
 がっちりと捕らえる腕が逃れることはできない。弟は彼女の髪に頬擦りする。
「下ろしなさい!警察に……」
「警察に、言うのか。そうしたら俺は事情聴取をされて……姉さんに欲情していることを話そう。すでに姉さんとは肉体関係を持っていて……俺が10代半ばの頃から…………姉さんの中は熱くて狭く気持ちが良かった。警察官は……きっと股間の昂りを抑えられなくなる。女の柔らかさを想像したら、男なんてそんなものだ。姉さんの中のきつさ、柔らかさを想像して……姉さん……………」
 頭上の動悸が荒々しい。服越しでも当たっている腕や胴体が火照っているのが分かる。
「女の警官だっているでしょ……おかしな妄想はやめて」
 そのおかしな妄想を加霞は現実的に想像してしまった。
「俺もそのほうがいい。姉さんが他の男の穢らしい妄想に費われるかと思うと……姉さんは俺のオナホだろう?俺の種だけ受けてくれ」
 歩を進めるたびに霙恋は姉のいたるところに口付けを落とす。行き着く先はコインパーキングだった。シルバーの車の後部座席に放られ、またそこで揉めたが、弟の力の圧勝だった。加霞の両腕には結束バンドが絞められ、左右の足にもナイロン樹脂の紐が通された。口にはタオルを突っ込まれている。
「いい子にしていろ」
 拘束された女を霙恋は爪先から脳天まで眼球で舐め上げる。爛々とした照りは情痴に染まりきっている。
「何するのかだけ………教えて………」
 彼女はタオルを吐き出すと諦めの境地に入っていた。尋常でない用意だった。結束バンドに縄、鎖も見えた。加霞の最優先事項はすでに生命の担保になっている。いくら仲が良くなくても、血の繋がりがなくても、家族である。命の危機を感じることは然うそうない。しかし結束バンドは能天気な彼女に精神的な打撃を与えた。
「料亭ごっこ」
 ファンデーションやチークの塗ってある顔を彼は啄んだ。


 霙恋の自宅アパートはコンクリート打ちに白木のフローリングの殺風景な部屋だった。肌寒いほどにクーラーが効き、毛足の長い白いラグにガラステーブルが小生意気な感じを出していた。窓にはアルミ製のブラインドがいやに気取っている。加霞はアンティークな雰囲気の小賢しい革張りのソファーに寝かされた。
「姉さん」
 欲情に満ち満ちて衰えることのない目は薄気味悪かった。何よりも気味が悪いのは、加霞が末弟と棲まうマンションからそう遠くないことである。
「姉さん……俺も雫恋も、かなり前から姉さんの住所を知っていたとしたらどうする?」
 びくりと目眩を起こすほどの衝撃だった。横から殴られたのかと勘違いしたほどだ。
「近くに引っ越してきても……姉さんに会いに行けない日々は厄介なものだった……雫恋を待っていたから。俺は義理は果たす。あんたの住所をつきとめたのはあいつだ。雫恋の撮影が終わるまで随分と待った」
 霙恋は指で鋏を回した。刃物が近付き、加霞は強張る。両足首を留めるナイロン樹脂の結束具がばつんと切れた。
「裸になれ」
「……………いや」
「下は俺が脱がせられるが、上は……切ってもいいのか。仕事の服だろう?」
 目交いでじゃきん、と刃渡りの長い鋏を軋らせるのは脅迫以外に解釈のしようがない。
「切らないで……」
「素直な姉さんは好きだ。強情な姉さんは愛しているが……自分で脱げるな?」
 眼前に極めて麗しい顔面を寄せ、努めて劣情をひた隠そうとしているようだが、女を皮膚の裏から威圧する欲気が漏れ出している。
「………っ」
「姉さんを脱がせるのは好きだけれど、両手を解いたらまた暴れるつもりだろう?姉さん。俺はできることなら男の力を使いたくない。姉さん……力技じゃなくても、俺は姉さんを動かせる。つきとめてあるのは姉さんの住処や職場だけじゃない。嵐恋の高校の場所も、帰ってくる時間も、交友関係も調べてある。思えば可哀想な子だったな。大人の事情に振り回されて、家庭の事情に振り回されて、こうして姉さんの手枷ブレスレット足枷アンクレットにされているんだから」
「それならもっと、労ってあげてよ……」
「俺が労らない分、姉さんが猫可愛がりしただろう?どこに出しても自立のできない着せ替え人形に育て上げた。絶対に自分の味方になるように。男子を産んだ女がよく言う"小さな恋人"というやつか」
 末弟のことを言われると目頭が鋭く沁みた。粘膜という粘膜に塩を擂り込まれるようだった。思い当たる節は数えきれない。後ろめたさを刃物で無理矢理に抉られるようである。
「姉さん……別にそれが良いか悪いかなんぞ、俺にとってどうでもいい。血の繋がった弟だろう?それなら姉さんの人形だろう。どう使おうが勝手だ。そういう話じゃない。あれは哀れ極まりない子供だが、俺が可愛がる義理はないという話だ。姉さん。あれのことはどうでもいい。自分で脱ぐのか俺に切られたいかを訊いている」
 霙恋は加霞の着ているものを摘み、鋏を開いた。
「自分で………脱ぎます…………」
「いい子だ、姉さん。痛いことはしない。素直に従っていてくれたら。今日だけは強情な姉さんを愛せない」
 腕を拘束するバンドを鋏が断つ。刃と刃が噛み合っているというのに何かのはずみで身体を傷付けはしないかと恐ろしくなる。ばつん、と音と振動があった。
「姉さん。いい子だ」
 彼は解放されたばかりの彼女の二の腕を押さえ、額やら鼻やら口角やらに唇を押し当てる。
「脱いでくれ」
 霙恋は鋏の刃の部分を握り締めている。それはやはり何かの勢みで姉が傷付かぬようでもあれば、姉の抵抗を疑っているようでもある。彼は姫に忠誠を誓う騎士よろしくひざまずいて下着姿になっていく加霞に見惚れていた。薄いパープルのランジェリーが現れる。霙恋は綺麗に整えられた髪よりワントーンくらい金色の眉を歪ませ、切れの長い目を細めた。蕩けた眼には様々な種類の情愛が入り乱れている。
「綺麗だ。全部脱げ」
「………っやっぱり、」
「いやか。恥ずかしいな。弟の前で自分で脱ぐのは……」
 静観を決めていたようにみえて簡単に霙恋は姉に近付いた。すんすんと匂いを嗅いでいる。
「綺麗だ、姉さん。もう少し見ていたいが、それはまた今度にする。姉さん……手は痛かったか?」
 姉を嗅ぎ、キスをしながら彼は赤い痕の浮かぶ腕を拾った。
「ブラジャーも外して、下もだ。下はまだいい。ブラジャーを外しなさい」
 背にあるホックを霙恋は片手で器用に外してしまった。1秒もかからなかった。触れただけで外れたように思える。肩に掛かるストラップが弛んだ。撫でるような手付きで弟の長い指がそれを引っ掛け、肘のほうに落とす。加霞は両手で胸を抱く。
「俺も本当は、できることならこんなことはしたくない。今すぐ姉さんとセックスしたい……けれど今日は駄目だ。姉さんは綺麗だから、何も恥じることはない」
 前から抱き締められ、それに紛れて彼はブラジャーを剥いた。生身の胸が目の前の立つ服に当たる。何をされるのか予想もつかない。この身を委ねるほかない彼の口振りもどこか曖昧であるのがさらに不安を煽る。
「姉さん、座って。いきなり締め上げると痛いだろう……」
 両腕を掴まれ、ショーツのまま固い革張りのソファーに座らされ、自由になったばかりの手首には細長く折ったバンダナが巻かれる。そしてその上からまたもや結束バンドが巻かれる。バンダナを咬ませた分、それはきつい。一纏めにされた両手を頭上に上げさせられ、腋窩も晒す。胸の双点も隠せない。ぎん、と弟の眸子が焔を纏う。
「姉さん……っ」
 彼は無防備な腋に鼻を寄せた。
「汗をかいているな。緊張したのか。姉さんの匂いでくらくらする…………」
 匂いの籠りやすい、体質としては大きなコンプレックスとなり得る箇所を彼は鼻を鳴らして嗅いだ。恥ずかしさは緊張感と区別がつかなくなり、その肉体反応は加霞の丸出しになっている双つの突起に現れる。
「姉さん…………苦しい。もう出したい。姉さん………っ」
 鼻先と唇が腋を押す。吐息が頑丈でない皮膚を擽る。
「もう、満足した……でしょ…………?」
「まだだよ。俺はもう満足だが、用は果たせてない。姉さん……ああ、嫌だ……………姉さん、姉さん!」
 霙恋は身を引くと加霞の足を拾い上げた。
「俺は姉さんでしかイきたくない……」
 彼女の足は弟の膝と膝の間に落とされた。力を入れる間もない。踵落としに等しかった。張り詰めた固いものが足の裏に伝わる。やがてそれは布を除けられて肌と肌の摩擦に変わった。
「姉さん……俺は自分で種の処理もできない。姉さん、俺を楽にしてくれ。苦しい……姉さん……!」
 両足を左右から掴まれ、弟の自慰行為に利用されている。形と温度が伝わる。土踏まず同士の間から腫れ上がった剛直が出入りする。その足の持ち主はあまりの惨劇に顔を逸らしている。建前上家族として暮らしてきた弟の、「男の子の大事なところ」と教わってきた場所を、彼の意向であるとはいえ足で扱いている。小さな喘ぎなど聞くに耐えない。開いている膝も羞恥心を増長させた。
「姉さん……っ、ぁあ―……」
 脛や足首に生温い粘液が飛び散る。そのほとんどは彼女の足の甲をどろりと汚していた。
「姉さん………、」
「もういや………もういや、もういや!」
 足淫で果てる弟の姿も、射精の瞬間に姉を呼ぶ弟の声も、すべてが耐え難い。日常には戻れないような危懼に苛まれる。固定観念、社会通念、価値観その他諸々、彼女の中の当然であったものが簡単に覆りそうだ。足の裏を使った弟のマスターベーションはそれほどに加霞へ大打撃を与える。
「すまない、姉さん。今綺麗にする」
「もういや!帰して。いや!触らないで……っ!」
 足による自涜をみた彼女は我が身に訪れる事柄が恐ろしくて堪らなかった。この異常性癖の気の狂った変態は想像もできないことをするに違いない。これは弟ではない。怪物である。妖怪に違いない。
「イヤ!イヤイヤいやいや!離れて!近付かないで!」
「姉さんは純情だ」
 アルコールティッシュが粘度のある白濁を拭き取った。加霞はソファーの背凭れに身を捩り、悍ましさのあまりうっうと咽ぶ。
「初めて見るのか?男のモノは」
「気持ち悪い……」
 足と足の間から現れては隠れる赤黒い肉銛がフラッシュバックする。ぬらぬらと欲深く卑しく濡れていた。
「だが姉さんは、あれで何度もイったんだ」
 彼は爪先に接吻すると涙ぐんでいる加霞を座面に押し倒す。
「次は足だ、姉さん。脱がせる。いいな?」
 訊ねられているのだから加霞は応えた。髪が左右に揺れる。シャンプーとトリートメント、ヘアオイルが薫った。彼女の鼻に届いたそれが気色悪い男にも届いたらしかった。まだその眼睛がぎんっと再び妖光を湛える。
「姉さんはどこでもいい匂いがするな」
 ショーツを脱がせる手筈だった。しかし霙恋は下着に手も掛けず、疲れてもなお怯えている加霞の匂いを嗅いで回る。そして放精した時よりも恍惚に浸っていた。
「姉さん……姉さんといると時間がいくらあっても足らないな。姉さん、脱がせる」
「ぃ、やだ、」
「すまないな」
 脚を閉じても薄いパープルの小振りなフリルとレースのショーツは呆気なく膝を通り、爪先を抜けていった。全裸になった彼女の足は腕と同じくバンダナを咬ませて結束バンドがきつく巻かれた。
「……霙恋ちゃん」
「酷いことはしない」
 部屋の空いた場所に彼はクッションを投げ、加霞を抱えてそこに寝かせる。
「背中が痛むだろうが、少し我慢してくれ」
 そう言って家主は廊下へ姿を消した。この浴室とトイレが別であるから家賃も安くはないだろう。すぐに戻ってきた彼の手には鋏とはまた別の刃物が握られている。剃刀だ。反対の手にはジェルが握られている。拘束された状態で、否、拘束されていなくとも刃物を晒されたなら警戒せずにいられない。たとえ剃刀でも害意を持った者の手に渡れば侮れない。
「な、何………する、の………?」
「動かないでくれ。傷を付けたくない」
 加霞はのたくって距離を開こうとする。たまたま粋がった時計が目に入る。嵐恋が帰ってくる頃だ。舞夏も来るはずである。
「家のことが心配なのか。今日は夜まで帰れない」
「困る!そんなの……みんなが、心配するから…………」
「電話させてやる。でも姉さん………俺は姉さんを信じているから、姉さんも……嵐恋を悲しませるような真似はしないだろう?」
 それを脅迫といわず何というのだろう。霙恋は掌にジェルを出すと加霞の股に塗りたくる。
「待って、待って、待って!どういうこと、何?やだ……っ!」
 空気を含んだジェルは白くなり薄い茂みを纏めていく。
「俺は姉さんのアンダーヘア、好きだった」
 腿を押さえる手を払い除けようと彼女は左右に身を揺さぶる。霙恋はその性格の悪さから敢えて辱めようとしているのだろうか。
「動くな。姉さん!動かないでくれ。傷付けたくない」
 剃刀が叢を刈る。時折腿や膝頭にキスされ、腰の辺りが甘く痺れた。長い指が開実 あけびを引き、狭く茂る箇所を薙いだ。その感触はすぐ近くにある秘められた珠芽まで響く。
「姉さん……また生やしてほしい。姉さんのアンダーヘアが好きだ」
 彼はティッシュで剃刀を拭き取ると浴室に消え、蒸しタオルを持って帰ってくる。ジェルと刈られた毛が拭われる。恥ずかしさが超過して、最早加霞は放心状態に近かった。
「姉さん……少し休んでいてくれ」
 強い冷房には耐えられたが、妖怪みたいな弟に凍えていると肌触りの良いブランケットで嬰児のごとくくるまれる。そしてソファーに戻された。霙恋は姉に背を向けてしまった。そこから死角にある広いキッチンスペースでごりごり、ざりざりと物音が絶えなくなる。氷と発泡スチロールの擦れる音のようだ。それからだんっ!という鈍い音もあった。カボチャやスイカを切るときの音に似ている。ただ、途中にあったざり、ざり、ざりざり……という音だけは聞き馴染みがなく不気味だった。ざり、ざり、ざりざり……長いこと聞こえる。水道の音に混じり、ざりざり鳴っている。以前観たサイコホラーの映画を思い出す。殺害した者たちの肉体を解体するシーンがある。実際に起こった殺人事件をモデルにしているという触れ込みだったが、その事件がどの時代のものなのかははっきりとせず加霞も調べなかった。虚構だったはずの血生臭い場面が目と鼻と口、顎の先に差し迫っている。
 ざり………ざりざりざり……
 あれは、血肉を骨から削いでいる音に違いない。大きく開いた蛇口から夥しい量の水が流れ、人の血と脂を濯いでいるのだ。
 弟に、殺される……
 ざり、ざりり、ざりっ、ざりっ、ざりり……
 イルカの悲鳴に似た発泡スチロールの摩擦音、そしてまた小粒氷のぶつかり合う音。保存していた死体を解体しているのだ。昔から大人びていて薄気味悪い男の子だった。周りの子に合わせることもなく本ばかり読み静かにしているくせ双子の弟と結託するとジャングルジムの上から末弟を飛び蹴りしたり、バットで叩きのめし、真夏の倉庫に閉じ込めるような能動的な残酷性も併せ持っている。
 ざり、ざりり……ざりり……
 加霞はパズルのピースを無理矢理力尽くで壊さんばかりに当て嵌めて、恐怖に耐えきれず泣いてしまった。殺されるのである。以前観たサイコホラー映画の如く、殺されるのだ。うっうっと泣いた。声を殺す。刺激しては痛い思いをさするだけだ。
 ざり、ざりり……
 そこにインターホンが加わる。理屈で言えば期待は持たない。しかしいやでも期待してしまう。霙恋の共犯者が来るのか、霙恋を捕まえにきた警察官か―
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