18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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セルフ二次創作「色移り」 リボン結びの履歴書 ※現パロ(家庭教師)

リボン結びの履歴書 8【放置】

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 この屋敷の末男は事あるごとにその小さな唇を開きかけ、わずかに前のめりになったが結局何も起こらず、姿勢を戻した。食事の時間は陰気で黴臭いものを想像していたが意外にも3人が3人それぞれ違う場所で過ごすこととなった。執事然とした青年曰く、珊瑚は人前では緊張してあまり食が進まないらしかった。そしてそれを告げた本人もいくらか済まなそうにして仕事があるからと皿を手に部屋に篭ってしまった。まったく想定外だったがかえって気が楽になりながら食器を戻しにキッチンへ戻る。そろそろ完食するなり残すなりしているだろう。あまり目を合わせたくなかったが足音に怯えるようにテーブルセットのイスに座っていたこの屋敷の末子が振り返った。かなり少なくしたためか皿には何も乗っていない。霞は気付かないふりをして水場に食器を置いた。水切り場には乾かしている途中の食器が置かれていた。乾いている物から棚へ戻していく。食器を洗うスポンジは綺麗になって吊るされていた。屋敷の外観や内装だけでなくカウンターを越えた朗らかなイートスペースとでさえも不釣り合いな生活感も庶民臭さがそこにはあった。
「あの、さ…」
 霞は外面用の笑みを貼り付けて返事をする。相手の神経質で繊細げな眉が微かに動いた。
「…やっぱり、何でもない…」
「そうですか。お口に合わなかったら言ってくださいね。味付けとか変えますから」
 当たり障りのないことを言ってキッチンタオルでまだ濡れている食器を拭いては棚へ戻していった。彼は空いた皿を暫く眺めていた。それが何かの要求染みていて霞はそれを言うか言うまいか迷った。この少年に弟のような素直さを期待してはいけない。むしろ正反対でそれどころか複雑な捻りすらある。
「少なめに作りましたが足りませんでしたか」
 上2人とは似ない黒い髪が横に揺れた。
「ではお皿を下げます」
 こくりと頷くと同時に彼の日に焼けていない青さを帯びた白い手が皿に伸びた。次の瞬間、耳に響く音を立てて平たい陶器は四散した。霞は目を閉じて悲鳴のような音をやり過ごす。珊瑚は固まったまま破片を見下ろしていた。故意か不注意だったのか霞からは分からなかった。ただ少年は動かなかった。霞はすぐに傍に寄った。辿り着く前に少年が刃物の山に触れようとする。肌の色も指の長さも骨張った感じもまったく違ったが弟の無防備な手付きが重なった。
「ダメ!」
 霞の手の中に収まりそうなほど少年の手首は細かった。長男や次男とは違う吊り気味の目が大きく開かれ霞を捉えた。
「手、切っちゃうから。どこも怪我はない?」
 珊瑚の腕を引いて皿の残骸から遠避ける。肯定を求めて一瞥した相手は自身の弟ではなく、驚いた表情をしている他人の家の弟だった。数秒、沈黙が流れた。
「離れていてください。破片を見つけても拾わないように」
 キッチンの棚を適当に探すと小型のビニール袋があり三重にしてからそこへ大きな破片を捨てていく。指で拾えないほど小さな破片は偶々食器を返しに来た執事らしき青年に掃除機を持ってきてもらうことで解決した。
「申し訳ございません。すぐに気付けず…お怪我はありませんか」
「はい」
 霞は珊瑚を見遣った。怪我の有無を問う。彼は首を振って否定した。
「食器をひとつダメにしてしまって、ごめんなさい」
「いいえ、お気になさらず。それよりも、ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「お粗末様でした」
 青年は掃除機を持ってまた仕事へ戻ってしまった。珊瑚はぼんやりと霞を見つめ、彼女は予定より少なくなった食器を洗う。
「あのさ……」
 また何でもないのだろう。霞は反応した素振りだけみせ、手はそのまま皿を洗い続ける。目が合うと彼は狼狽え言葉を途切れさせた。
「ごはん、ありがと。美味かった…と、思う」
「お口に合ったなら幸いです」
 流水音が2人の間を引き裂く。何か喋ったとしても小さくどもる珊瑚の声はもう掻き消されてしまう。
「それで……その、」
 何か聞こえた。しかし水切り場で皿と皿がぶつかった音でほぼ聞き取れなかった。微かなそれは小鳥の囀りにも幻聴にも、背後に聳える冷蔵庫の音のようにも聞こえた。
「なぁ…」
 水道水が止まる。末男の助けを乞うような呟きが聞こえた。シンクから顔を上げる。両手は長男も次男もまず着ないようなアイボリーの長丈のシャツを握っていた。
「ごめん…」
 何に対する謝罪なのか霞は容易に想像がついた。だがどうしていいのか分からず眉根を寄せる。謝る必要はないがその話題には触れないでいて欲しかった。笑みを貼り付けることも、気の利いた対応をすることも出来ずただ痛々しく佇む姿を焼き付ける。彼もまた次兄に遊ばれただけなのだ。排水口の奥の轟きが小さく聞こえた。唾を呑む自身の喉が軋む。霞は口角を上げた。
「何の話ですか。謝らなくていいんですよ。珊瑚さんはお皿を持ってきてくださろうとしただけなんですから。お部屋に戻りましょう。わたしも部屋に戻ります。何かあったら遠慮なくいらしてください」
 今日はこれで仕事が終わる。すでに終わっていたはずだが、これで今日の分は本当に。珊瑚の脇を通り抜けて借りた部屋へと戻る途中の廊下で視界の端に人影があり霞はその正体を認めた。相変わらずきっちりとした服装の執事らしき青年がしなやかな所作で会釈し、キッチンへと入っていった。


 日が沈む頃に屋敷の中はまたいくらか生活音を取り戻した。誰とも顔を合わせる気分ではなかったが部屋を借りていることもあり渋々広い玄関へと出た。シャンデリアの柔らかな光の下に夫が立っていた。
「あなた…?」
「あ、お嫁さん!」
 霞はスリッパの音も気にしないで毛に覆われた三角形の耳を上下させる人物へ飛び込んだ。開かれた両腕の中にすっぽりと収まる。恋しかった匂いを肺いっぱいに吸う。
「かわいい~」
 間延びした喋り方が上から降る。
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