ナナシノ楽園

結局は俗物( ◠‿◠ )

文字の大きさ
19 / 35

18 つ

しおりを挟む

「ひとつ言っておくがな」
 食器を片付け終え、教室に戻る廊下を歩いていると、ふと衣澄が足を止めた。
「一人で食事するのが好きな奴もいる」
 高宮も足を止めた。そしてそんなことを言い出す。
「え・・・・でもあの時、衣澄が・・・・っ」
 頭痛を押さえるように額に手をあてる衣澄。
「お前は、あれが樋口だと分かっていると思ったんだ」
「・・・・樋口だと分かっているって?衣澄の知り合いだと思ってたんだけど・・・・?」
 何を言っているの?と高宮は首を傾げた。
「・・・・・・・・。気にしていただろう。赤い首輪の」
 衣澄は目を見開いている高宮から視線を外し、足元に視線を落とす。
「あの子が・・・・・?」
「おとなしくて、抗う術もないタイプはああなるんだ。クラスの娯楽になる」
 抗う術、娯楽。高宮の脳裏に浮かんだのは、神津に弄ばれた光景。唇を噛み締め、拳を強く握った。心臓に衝撃が走ったように、肩がびくりと震えた。

「貴久!けいた!」
 
 衣澄の口が開くと同時に、明るい声が2人にかかった。高宮は顔を上げた。
「有安」
「どうした~?お昼はもう食べた?」
 衣澄を見る有安に昨夜の弱々しい姿はない。
「ああ。有安は」
「うん!食べたよっ」
 昨夜の弱々しい姿はない。よかった、と思うと有安が高宮に顔を向けた。衣澄から見えないその表情は、無理に笑っているように見えた。忘れようとしているのか。
「けいたは何食べたの?貴久はどーせかけうどんでしょ」
 甘えるように有安は衣澄の両手首を掴み、顔を覗き込む。高宮自身は女子と付き合ったことはないけれど、友人に出来た彼女とのやりとりにそれは似ていた。
「オレ・・・・・・?オレは醤油ラーメン。っていうか衣澄はいつもかけうどんなの?」
「そうだよ!学食でかけうどん以外食べてるところみたことないもん」
「有安っ。何の用だ」
 いつもよりべたべたと接してくる有安に怪訝な目を向けているが、振り払う気はないようで、されるがままだ。
「用なんてないよ。いいじゃない。べ~つに」
 有安の仕草が本当に、友人の彼女に似ていてカップルに見えた。雰囲気は真逆だけれど、衣澄はその友人に重なった。そして有安が彼の彼女。




           「御崎、俺のカノジョ」




――――懐かしいな・・・・・。



 
 懐かしい響きと、懐かしい声、懐かしい風景を再生させる。
「けいた」
「高宮」
 衣澄と有安がじっと高宮を見ている。
「はいっ!」
「次の授業、遅れるぞ」
「帰り、一緒に帰ろっ」
 衣澄と有安がお互いに顔を見合わせてから、同時に高宮に、強調するように言った。
「あ、うん、行こう!一緒に帰ろう」
 衣澄と有安に頷いた。
「今日も部活休みだからさ!じゃぁね!」
 一定間隔に設置された時計を見て、有安は踵を返し、手を振った。無意識なのか、それとも高宮の意識のしすぎなのか、衣澄から視線を外したときの有安の表情は悲しげに見えた。
「どうしたんだ」
「え?」
 衣澄は教室に戻る廊下の先を見ていた。高宮は首を傾げて衣澄を見たが、衣澄は高宮を見ようとはしない。
「・・・・・・もといた高校の方が、やはりいいか」
 衣澄の言葉に高宮は視線を落として、ふっと笑ってから答えた。
「すごいな、衣澄。・・・・・でも、そういうんじゃないんだ。いいとか悪いとかじゃなくて」
 衣澄は何も言わない。
「父さんと離れることになって、こっちに来ても寮だし、母さんとも妹とも別れることになって、寂しかった。今の時期友達だって出来るか不安で、一人なら一人で生活するしかないなって思って。・・・・・・衣澄に、有安さんに会えてよかったなって思ったんだ」
 離れた友人の姿を思い出して、目の前にいる新しい友人を恋しく思う。それは本当だけれど。高宮は一呼吸置いた。衣澄に何か言う気配がないのを察するとまた口を開く。
「ただ、衣澄とか、有安さんを重ねてるだけなんじゃないかなって・・・・・・思った・・・・・。雰囲気とか全然違うけど」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...