ナナシノ楽園

結局は俗物( ◠‿◠ )

文字の大きさ
21 / 35

20 と

しおりを挟む

「有安さんが衣澄の次にできた、ここでの友達なんだ」
「・・・・・・っ」
「有安さんが笑っていられるなら、オレは大丈夫。だから初めて会ったときみたいに、明るい有安さんでいてよ」
 どうして有安さんはこんなにも泣いた顔が似合わないんだろうと思った。他の人には屈託のない笑顔を貼り付けていられるのに、自分には悲しい顔を見せるんだろう。それが有安の本音の表情なのに、高宮には嬉しさどころか虚しさしか湧き上がってこない。 
 腰を屈めて、有安の前髪を搔き上げ、撫で付ける。年の割りに吹き出物ひとつない、なめらかな額に優しく唇を当てた。



         「来なかったら 有安も同じ目に遭わせて、学園の慰みものにするかな」



 昨夜言われた言葉を反芻し、唇を噛む。
「じゃぁ」
 縋りつこうとする有安を振り払って自室に戻る。逃げ出したいけれど、逃げ出せないから。行くな、行かないでなんて言われたら、それに甘えてしまいそうだから。
 部屋に入って、エナメルバッグを乱暴に部屋に置き、制服を脱でハンガーに掛ける。私服に着替えて、ベッドに腰掛けた。足を伸ばしてエナメルバッグの肩紐を寄せ、中から携帯電話を出す。衣澄からメールアドレスと電話番号を貰ったのを思い出し、何かメールしてみようと思ったけれど忙しそうなのでやめた。
 暇になると名桜高校の友人のメールを読み返すことが多くなった。ここの「当然」に染まりたくはない。そしてその術は、名桜高校でのことを忘れないこと。
 画面は一番多くメールをしていた友人の名前で受信メールの欄は埋まった。転校その日まで誰にも言えなかった。最後の最後まで言えずに、急に出てきてしまった。メールには、励ましの言葉だけ。咎めの言葉は一切ない。連続した名前の下に、父親の名前も見つかる。開いてみれば、ただ一言「身体には気をつけて」とだけ。陽気な母親とは対照的に不器用で愛想がないけれど、優しい人だった。どうして離婚したのか、高宮も分からなかった。夫婦喧嘩なんて見たことなかったから。そして、母親も父親もお互いを愛しているようにしか見えなかったから。自身も妹も愛されているようにしか感じなかったから。


             「身体には気をつけて」


 父親から引越し前に唯一もらった一言が胸に沁みた。自分は何をやっているのだろうかと。
 腰掛けた状態から、背中からベッドに倒れこむ。閉じた瞳の眦から一筋滴った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...