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結局は俗物( ◠‿◠ )

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Valentine's Day 小話 2/2

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「たかがヴァレンタインですよ、メディアに踊らされているだけなんです!そんな落ち込まないでください」
 青年が端末をしまって、わたわたと取り繕う。初音は青年が何故慌てているのか分からなかった。
「そんなことより行きましょ」
「どこへ?」
 青年が初音の腕を掴んだまま歩き出す。青年が住んでいる、初音が出てきたアパートとは反対方向だ。
「もうこういう日は飲みましょ!オレ奢りますから、元気出してください」
 初音の腕を掴んだ青年の腕がもう一本増やされる。
「いや、別に俺は」
 青年に連れられやって来たところは青年の勤務先の近くの大きな駅に隣接した大型の商業施設付近だ。バスターミナルの上に設置された立体横断施設はよく見知っている場所の中でも特に立ち寄ったことが多い。
「休みにも勤務先来るの嫌じゃないの」
 青年の勤務先はここからすぐにでも行けてしまう距離にある。
「ワーカーホリックみたいですね」
 初音が青年の勤務先が入った建物を見つめながらそう零せば青年は全く別の方向をみて笑いながら答える。
「言ってみたらいいじゃないですか、さっき言ってたこと」
 青年が引き摺るようにしていた腕が放れる。大型の雑貨屋の前のベンチに座る男女。
「態々呼んだのか」
 初音が青年を振り返る。青年はただ笑うだけ。よく知る顔の女と一緒に能天気な顔をした男。
「遅くなっちゃったね」
 初音は、あーともうーともつかない声を漏らして、女の顔を直視出来なかった。女が赤紫の箱を初音に差し出す。
「初音くんにはバレてるから、買った物でごめんだけど」
いいのか?カレシの目の前で?という冷やかしの言葉も浮かぶには浮かぶが声が裏返りそうで、口も開かない。
「あ、り、…さんきゅ」
 差し出された箱を受け取って、初音は囁くように声に出す。女が笑って、それから男の隣にすぐ戻る。
「片岡くん、ありがとう」
 女が青年に言った。青年が会釈して、それからまた初音の腕を掴んでこの場から去らされる。そのまま引き摺られるように、地下1階に相当する堀込式の施設へ連れて行かれる。沢山並んだテーブルとイスの一角に座らされる。おそらく向かうはずだった居酒屋、という雰囲気はない。暗くなった空が天井になっている。
「嫌われてなかったでしょ」
 青年が呆れたように言った。複雑そうで、あまり明るい話題にはならないだろう、初音は返事をしなかった。
「メディアだの企業戦略に踊らされて、厄介ですよ、ほんと」
 青年がテーブルの上に置いた端末を、指の背でぴんぴんと突いたの初音は見つめていた。
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