10 / 34
jealousy -猛毒-
猛毒 3
しおりを挟む
◇
固い感触に目が覚める。柔らかい光。視界に入る白い陶器。アレイドは鈍く痛む頭を押さえた。トイレの個室で寝ていたらしい。脇に転がったリンゴを拾い上げる。アレイドの見たことのある品種とは色味が違う。記憶を手繰り寄せ、繋げていく。毒耐性のある人間を殺害してほしいという話だった。同席していた白兎に毒リンゴを試食するように強要され、口にすれば無事では済まなそうなリンゴを口にした。どれだけ時間が経ったのだろう。依頼人は。白兎は。閉まったままの便器の中を確認することもなく、流してからトイレを後にする。
グリーンのシニヨンの長い髪が特徴的な依頼人はまだ席にいたが保護者の姿がない。帰ったか。
「大変お待たせいたしました」
席に座る表情の無いブルーの瞳がアレイドを見上げる。大量の空いた皿が4人掛けのテーブルを占めている。
「何時間待たせる気なの」
「…申し訳ございません」
手をつけていた料理を口に運ぶ。1人で何人前頼む気なのだろうか。伝票が2枚重なっている。
「例の物の効きがあまりにも良かったので」
「なのにあの男は殺せなかった」
シーフードがトマトで煮込まれ、チキンにかけられた料理を丁寧に切り分け、口に含む。
「何時間経ってます」
「5時間くらい。さっき帰った人が、貴方が奢ってくれるって」
空いた皿を眺めていると依頼人は食べながらそう説明した。アレイドは伝票に目を通し、簡単に暗算する。手持ちで足りる額か。
「まだ食べますか」
「話が終わったなら帰るケド。暇だから食べてただけ」
「…ご職業は公務員と聞いているのですが」
「フードファイターだとでも言いたいの?」
料理を平らげ紙ナプキンで口を拭い、依頼人を待つ。
「いいえ」
否定せずにいると睨まれ、否定を口にする。伝票を持ってキャッシャーへと向かう。
「ご馳走様。美味しかった」
「あのリンゴもなかなか美味でした」
「あの男を殺せないんじゃ、どんな褒め言葉も意味を成さないケドね」
「嫌味に決まっています」
料理店を出て、依頼人と並び歩く。王族の娘と聞いているが言動が物騒だ。品の良さは食事中に何度か見受けられたがまさか人を殺すための毒物の研究をしているとは思わない。
「送りましょうか」
「誰かに見られると厄介でしょ。じゃあね。あの男のいなくなった世界でまた会いましょう」
グリーンの髪を靡かせ依頼人はアレイドの行く方向とは違う方角へ歩いていった。
「アレイドさん、こんにちは」
自宅近くにオープンした花屋の若い女のアルバイト店員が前を通りかかったアレイドに朗らかな笑みを向ける。アレイドは軽く会釈をするだけだった。そして地下にある自宅へ入っていく。
「遅いよ」
「…あれを試食しろと言ったのはあなたでしょう」
白兎の部屋の前を通ると開け放たれた扉の奥から文句が飛ぶ。
「どうだった?」
「口にした直後から記憶がありません」
「ま、死んでないならまだまだの出来栄えか」
ソファに深く座った白兎は資料をひらりとアレイドへ渡す。
「なんですか」
「場所まとめておいたの。結構不便するよ~。なんたって、滅国の王子サマなんだから」
紙を受け取りテキストを追う。
「一応紙でね?僻地だっていうから端末のバッテリー切れたら大変でしょ?その前にアレイドちゃんが野垂れ死ぬかも知れないけど」
白兎は、はははと笑った。
「気の利いたことです」
資料をしまい、自室へ戻った。
固い感触に目が覚める。柔らかい光。視界に入る白い陶器。アレイドは鈍く痛む頭を押さえた。トイレの個室で寝ていたらしい。脇に転がったリンゴを拾い上げる。アレイドの見たことのある品種とは色味が違う。記憶を手繰り寄せ、繋げていく。毒耐性のある人間を殺害してほしいという話だった。同席していた白兎に毒リンゴを試食するように強要され、口にすれば無事では済まなそうなリンゴを口にした。どれだけ時間が経ったのだろう。依頼人は。白兎は。閉まったままの便器の中を確認することもなく、流してからトイレを後にする。
グリーンのシニヨンの長い髪が特徴的な依頼人はまだ席にいたが保護者の姿がない。帰ったか。
「大変お待たせいたしました」
席に座る表情の無いブルーの瞳がアレイドを見上げる。大量の空いた皿が4人掛けのテーブルを占めている。
「何時間待たせる気なの」
「…申し訳ございません」
手をつけていた料理を口に運ぶ。1人で何人前頼む気なのだろうか。伝票が2枚重なっている。
「例の物の効きがあまりにも良かったので」
「なのにあの男は殺せなかった」
シーフードがトマトで煮込まれ、チキンにかけられた料理を丁寧に切り分け、口に含む。
「何時間経ってます」
「5時間くらい。さっき帰った人が、貴方が奢ってくれるって」
空いた皿を眺めていると依頼人は食べながらそう説明した。アレイドは伝票に目を通し、簡単に暗算する。手持ちで足りる額か。
「まだ食べますか」
「話が終わったなら帰るケド。暇だから食べてただけ」
「…ご職業は公務員と聞いているのですが」
「フードファイターだとでも言いたいの?」
料理を平らげ紙ナプキンで口を拭い、依頼人を待つ。
「いいえ」
否定せずにいると睨まれ、否定を口にする。伝票を持ってキャッシャーへと向かう。
「ご馳走様。美味しかった」
「あのリンゴもなかなか美味でした」
「あの男を殺せないんじゃ、どんな褒め言葉も意味を成さないケドね」
「嫌味に決まっています」
料理店を出て、依頼人と並び歩く。王族の娘と聞いているが言動が物騒だ。品の良さは食事中に何度か見受けられたがまさか人を殺すための毒物の研究をしているとは思わない。
「送りましょうか」
「誰かに見られると厄介でしょ。じゃあね。あの男のいなくなった世界でまた会いましょう」
グリーンの髪を靡かせ依頼人はアレイドの行く方向とは違う方角へ歩いていった。
「アレイドさん、こんにちは」
自宅近くにオープンした花屋の若い女のアルバイト店員が前を通りかかったアレイドに朗らかな笑みを向ける。アレイドは軽く会釈をするだけだった。そして地下にある自宅へ入っていく。
「遅いよ」
「…あれを試食しろと言ったのはあなたでしょう」
白兎の部屋の前を通ると開け放たれた扉の奥から文句が飛ぶ。
「どうだった?」
「口にした直後から記憶がありません」
「ま、死んでないならまだまだの出来栄えか」
ソファに深く座った白兎は資料をひらりとアレイドへ渡す。
「なんですか」
「場所まとめておいたの。結構不便するよ~。なんたって、滅国の王子サマなんだから」
紙を受け取りテキストを追う。
「一応紙でね?僻地だっていうから端末のバッテリー切れたら大変でしょ?その前にアレイドちゃんが野垂れ死ぬかも知れないけど」
白兎は、はははと笑った。
「気の利いたことです」
資料をしまい、自室へ戻った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる