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邂逅 -stranger-
stranger 2
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いつまで経っても集団は退かず、アデルは構わず通ることにした。番人かと思うほど彼等は出入り一帯を占拠し、アデルの姿を見ても退く気配はなかった。数人いた1人と肩がぶつかる。
「おい!」
髪を掴まれる。クリミナルシティでは隙を見せれば暴力沙汰だった。目を合わせれば喧嘩になる。容赦をするのとは自殺に等しかった。オウルシティもそう変わらない。携帯していた薬品をかけてやると一瞬にして黒煙が上がった。男の絶叫が聞こえ、肉の焼ける匂いがした。振り向きもせず安宿の中へ入っていく。受付で相部屋を頼まれる。背後から「お願い」「頼もう」と声がした。必死の命乞いかと思われたが受付の人はアデルを不審な目で見た。振り向くと異国の文化を取り入れた最上級の謝罪や懇願を示す体勢で額を地面に擦り付けるぼろぼろのキャスケットがあった。毒を飲んで黒ずんだ金髪が襟巻きから溢れている。サングラスは割れていた。
「お願いしよう、何でもする。何でもするから、彼を助けてほしい」
殺したい男が何でもすると言っている。アデルは標的を冷ややかに観察した。
「何でも?何でもしてくれるの?」
「何でもしよう」
肉を焼く猛毒を消す薬品と患部を癒す薬液の小瓶を傍に置いた。
「じゃあ、命ちょーだい。意味分かる?何でもしてくれるんだよね?」
「分かった。是非死のう。呑んでくだすってありがとう」
不審な服装の男は小瓶を拾って騒然とする集団に戻っていった。やり取りを聞いていた受付の者はあの客との相部屋しか空いていないことを告げた。じゃあそれで。アデルは簡単に了承する。その客は死体となるのだ。肉塊と一晩過ごすくらいのことは耐えられる。
空が真っ暗になった頃に相部屋のもうひとりの客が部屋に入ってきた。ドアを過ぎてすぐの彼に薬瓶を差し出す。電気を点けていないためキャスケットやサングラス、襟巻きに隠された表情は読めなかった。しかし不気味な笑みしかこの男は知らない。
「さ、約束。覚えてる?」
幸い標的はアデルの姿に気付いていないようだった。
「覚えている。いただこう、義妹よ」
手の中の小瓶が抜けていく。アデルは目の前の男が口した単語に固まった。瓶の蓋を開けて躊躇いもなく彼は得体の知れない液体を一気に飲み干す。暗い視界に嚥下の音が響いた。がふ、と逆流による咳も聞こえる。膝から崩れ落ち、鈍い物音を残して彼は死んだ。アデルは喜びよりも呆気なさを覚えて立ち尽くす。割れたサングラスが床に押し潰されて軋んだ。白衣の男に連絡せねば、とバッテリーの切れそうな端末に手を伸ばした途端、男の亡骸が光る。ぐるぐると視界が歪み、渦巻き、意識が遠退いていく。
真っ暗になった部屋に汚れたキャスケットや割れたサングラス、乱れた襟巻きの不潔な感じのある若い男が入ってきた。アデルは小瓶の入ったポケットに手を伸ばす。軽い質感と上に浅く嵌めただけのキャップ。取り出すとシャボン玉の容器に変わっていた。相部屋の男は呑気に喋っている。アデルは携帯していたナイフを取り出す。庭の果物を獲る時に使う物で習慣として持ち歩いていた。男の肩を掴んで乱れた襟巻きの狭間にナイフを突き立てる。刃が皮膚を裂こうとする。ばちりっとナイフを握っていた手に静電気が走る。手首に痛みが走り床に刃物が滑った。目の前で間抜けな声がした。同時にアデルの手が力強く引っ張られる。関節が固定されたように締め上げられる。自身の片腕を辿ると枷が掛けられていた。その枷の鎖にはさらに他の者の手も繋いでいた。腕を引っ張る。みすぼらしい服装の男が、わあ、と声を漏らした。もう一度腕を引っ張る。枷と自身の片腕だけではない重みが伴う。床に転がるナイフを拾うことも出来なかった。憎い男と片腕が枷によって繋がっている。生まれて初めてアデルは甲高い悲鳴を上げた。力一杯身を屈めてナイフを拾う。手首を切断してでもこの男から離れなければならない。
「いけない」
手首にナイフを突き刺そうとしたが、枷で繋がれた相手の手が刃物を掴んだ。しかし相反する磁石をぶつけ合うような抵抗が起こり、男は刃物に弾かれ、アデルの手はまたもやナイフを転がした。脳味噌が沸騰しかねない怒りに自作の睡眠薬を呷った。舌先の痺れを感じるとアデルは意識を手放した。
「おい!」
髪を掴まれる。クリミナルシティでは隙を見せれば暴力沙汰だった。目を合わせれば喧嘩になる。容赦をするのとは自殺に等しかった。オウルシティもそう変わらない。携帯していた薬品をかけてやると一瞬にして黒煙が上がった。男の絶叫が聞こえ、肉の焼ける匂いがした。振り向きもせず安宿の中へ入っていく。受付で相部屋を頼まれる。背後から「お願い」「頼もう」と声がした。必死の命乞いかと思われたが受付の人はアデルを不審な目で見た。振り向くと異国の文化を取り入れた最上級の謝罪や懇願を示す体勢で額を地面に擦り付けるぼろぼろのキャスケットがあった。毒を飲んで黒ずんだ金髪が襟巻きから溢れている。サングラスは割れていた。
「お願いしよう、何でもする。何でもするから、彼を助けてほしい」
殺したい男が何でもすると言っている。アデルは標的を冷ややかに観察した。
「何でも?何でもしてくれるの?」
「何でもしよう」
肉を焼く猛毒を消す薬品と患部を癒す薬液の小瓶を傍に置いた。
「じゃあ、命ちょーだい。意味分かる?何でもしてくれるんだよね?」
「分かった。是非死のう。呑んでくだすってありがとう」
不審な服装の男は小瓶を拾って騒然とする集団に戻っていった。やり取りを聞いていた受付の者はあの客との相部屋しか空いていないことを告げた。じゃあそれで。アデルは簡単に了承する。その客は死体となるのだ。肉塊と一晩過ごすくらいのことは耐えられる。
空が真っ暗になった頃に相部屋のもうひとりの客が部屋に入ってきた。ドアを過ぎてすぐの彼に薬瓶を差し出す。電気を点けていないためキャスケットやサングラス、襟巻きに隠された表情は読めなかった。しかし不気味な笑みしかこの男は知らない。
「さ、約束。覚えてる?」
幸い標的はアデルの姿に気付いていないようだった。
「覚えている。いただこう、義妹よ」
手の中の小瓶が抜けていく。アデルは目の前の男が口した単語に固まった。瓶の蓋を開けて躊躇いもなく彼は得体の知れない液体を一気に飲み干す。暗い視界に嚥下の音が響いた。がふ、と逆流による咳も聞こえる。膝から崩れ落ち、鈍い物音を残して彼は死んだ。アデルは喜びよりも呆気なさを覚えて立ち尽くす。割れたサングラスが床に押し潰されて軋んだ。白衣の男に連絡せねば、とバッテリーの切れそうな端末に手を伸ばした途端、男の亡骸が光る。ぐるぐると視界が歪み、渦巻き、意識が遠退いていく。
真っ暗になった部屋に汚れたキャスケットや割れたサングラス、乱れた襟巻きの不潔な感じのある若い男が入ってきた。アデルは小瓶の入ったポケットに手を伸ばす。軽い質感と上に浅く嵌めただけのキャップ。取り出すとシャボン玉の容器に変わっていた。相部屋の男は呑気に喋っている。アデルは携帯していたナイフを取り出す。庭の果物を獲る時に使う物で習慣として持ち歩いていた。男の肩を掴んで乱れた襟巻きの狭間にナイフを突き立てる。刃が皮膚を裂こうとする。ばちりっとナイフを握っていた手に静電気が走る。手首に痛みが走り床に刃物が滑った。目の前で間抜けな声がした。同時にアデルの手が力強く引っ張られる。関節が固定されたように締め上げられる。自身の片腕を辿ると枷が掛けられていた。その枷の鎖にはさらに他の者の手も繋いでいた。腕を引っ張る。みすぼらしい服装の男が、わあ、と声を漏らした。もう一度腕を引っ張る。枷と自身の片腕だけではない重みが伴う。床に転がるナイフを拾うことも出来なかった。憎い男と片腕が枷によって繋がっている。生まれて初めてアデルは甲高い悲鳴を上げた。力一杯身を屈めてナイフを拾う。手首を切断してでもこの男から離れなければならない。
「いけない」
手首にナイフを突き刺そうとしたが、枷で繋がれた相手の手が刃物を掴んだ。しかし相反する磁石をぶつけ合うような抵抗が起こり、男は刃物に弾かれ、アデルの手はまたもやナイフを転がした。脳味噌が沸騰しかねない怒りに自作の睡眠薬を呷った。舌先の痺れを感じるとアデルは意識を手放した。
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