30 / 34
未完結打切り版(2010年)
木偶人形
しおりを挟むでも、どうして僕はこんなところにいたんだろう?
半信半疑にしていた…どこかで期待していた。組織の人々、白兎が言っていたことは嘘だと信じていたのだ。頭で何となく分かっていても、この目で見るまで信じないつもりだった。けれど脳裏を過った幼い自分の姿は白兎達の言っていたことは正しかったのかもしれない。そしてクリスマスツリーを見にいってしまったらその事実を認めることになるのではないか。
横を見れば、ブティックのショーウィンドーに映る自分。脳裏を過った自分とはもう違う。あの時から何年経ったのだろうか。10歳は越えていただろうか。20年は前だろう。
身長も変わった。髪型も変わった。目付きも変わった。環境も変わったのだ。 自分は借金を返済するために臓器売買して死んだらしい。そこを白兎に蘇生された。臓器売買して得た金は本当に借金返済に宛てられたのか。実家からごろごろ発見された兄弟は何故死ななければならなかったのだろう。
視界にクリスマスツリーが入った。あの光景とは違って、真っ白いクリスマスツリーだ。近くの店は靴屋とファーストフード店。20年も前の話だ。変わらない方がおかしいとアレイドは笑う。悲しく、寂しい笑みだ。
時計を見る。踵を返した。ホテルに戻らなければ。視界が滲む。どうしたいのか分からない。袖で目を拭う。ひりひりとした。触れなくてもいい記憶に触れたいのか、認めたくないだけなのか。惨めで、悲しかった。両親に棄てられて、憎いのか、憎みたいのか、甘えたいのか、情が残っているのか。分からない。
ホテルまでの道はさっきよりも寒かった。ダッフルコートの少女からもらったカイロだけが温かかった。 ホテルに戻ると暖房がきいていた。カウンターでヨウスケはまだ寝ている。12時まであと5分だ。3階に上がり、部屋に戻ってすぐにオーナーはやってきた。
「オーナー」
「夜遅くにすまないな」
「構いませんが、どうしたんですか?」
オーナーは部屋に入るわけでもなく部屋の前で立っている。
「あれのストーカーの話だ」
「女の子?ですか?」
「あぁ。知ってるのか」
「はい。それと思しき人を見たので」
アレイドはポケットの中のカイロを握りしめた。
「そうか。ヨウスケにそれとなく訊いたんじゃが、ストーカーには気付いてない。出来れば早く捕まえて欲しい」
「分かりました」
「ヨウスケはあぁ見えて傷付きやすい。慎重にな」
アレイドは頷いた。
「話はこれだけだ」
「え、これだけですか」
長く重い話をされるかとばかり思っていた。
「あぁ。遅くまですまなかった」
オーナーはそう言って去っていった。
アレイドは部屋についているシャワー室に入った。服を脱いで、籠に放り込んだ。
「オカアサン、モウツカレタノ」
お母さんは僕の首を締めた。
「ゴメンネ、ゴメンネ」
お母さんが僕を殺すはずない。冗談だ。そうに決まってる。だって僕はお母さんの子どもなんだから…
「モウスグデラクニシテアゲルカラ…」
お母さん。僕に名前をくれたお母さん。この世に生んでくれたお母さん。
お母さんの顔は真っ黒だ。どんな顔なのかも分からない。
最初で最期のお母さん。
「オイ!イマナラゾウキバイバイガタカクツクッテ」
お父さん。お父さんと関わった記憶なんてほとんど無い。
「アァ!コロサナクテヨカッタワ!」
僕の首に回っていた手が放れる。
「オトウサン、コノコヲウリマショウ!」
嬉しそうな声。
僕も嬉しかったのかもしれない。
目覚めたときは背中が冷たかった。タオルを被せただけの全裸。
「カワイソウナコダヨナ」
眩しい天井。覗き込んでくる顔。
「マサカアノオトコ、カンタンニ…」
「カネニコマッテソウダッタモンナ」
僕は売られた。
冷たい痛みが腹を刺した。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
僕は親に売られた。他人の手で殺される。
僕は死ぬんだ。
「そんな可哀想ならさ、助けちゃおうか?」
怖い声だった。
意識がなくなる。視界が真っ暗になる。何も聞こえなくなっていく。
これが死か。
背中が冷たい。そして真っ暗で、静かだ。
「やぁ。起きた?」
この世界で僕とこの人たった2人。
そんな気がした。
「言葉まで忘れさせちゃったかな?」
額にぶちぶちと吸い付くチューブやコードを外される。
真っ暗なこの部屋には人が赤くなってごろごろ転がっている。
「君が暴れたんだよ。優秀なスコット君が死んじゃった」
電気も点いてない部屋。この人は湯気の立つ紅茶を飲んでいる。
「ボクのことはうさぎさんとでも呼んで」
この笑いから逃れることは出来ないのだと悟った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる