彩の雫

結局は俗物( ◠‿◠ )

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このまま君と暗香に溶けていくのもいいな。どうしてオレたちって2つなんだろう?どれだけ求めたって、ひとつになれたって結局また別れちゃうだろ?そうしたら君はまたどこかに行っちゃうんだね。いやだな。オレたちは男と女。そうやって生命いのちを繋いで遺伝子を強めていったわけだけど、少し虚しい気もするよ。男は種馬、女は産む道具。一体生き物ってなんだろうね。悍ましいな。君のクセに君じゃない生命いのちができるなんて。しかも君の中で。ずっと傍にいるのはオレで、ずっと君を想ってきたのはオレなのに?オレでないなら半分オレでもオレじゃないよ。君じゃない君の部分と、オレじゃないオレの部分で、まったく君もオレも関与しない化物を生むんだ。永遠の河から流れてきた知らない人間の魂を、オレが孕ませて君が産むなんてまっぴらだよ。器になる血肉に何の価値があるだろう。それでも君の体温が好きだよ。君の肌も匂いも…君の髪も、その傷も。君の舞う姿も…でもその臭い香水は嫌い。兄上からもらったってだけで反吐が出るよ。オレは紅い梅が好き。白い花なんて、色がなくてつまらない。あのひとみたいだ。君の皮膚、心の臓まで染みちゃってるんだ。それならその薄気味悪い匂いごと愛するよ、君を。愛っていうのは罰だからね。それくらいしなくっちゃ。だって君がその臭い梅の匂いじゃなかったら、オレはもう何の躊躇いもなしに君を壊してしまいそうだよ。どうしていいか分からないんだ。食べたいのか、壊したいのか、犯したいのか。でも他の男に暴かれた?どうしてオレを煽るの。どうしてオレに心配させて、怒らせて、嫉妬させるの。君を壊す前に壊されてしまうよ。君を犯す前に君に精神を犯されてるよ。君に怒る前にオレはもうオレに怒ってるんだ。君はオレを選ぶしかないけど、他の男が、たとえ女でだって、君の中に新たな意識を孕ませるんだから、もうオレの傍から離れないで。分かるか。君の中から君を変えていく生臭い種なんていくらでも殺せばいい。腹ごと潰したっていい。でも君の意識は君と密接に繋がってるんだから、君ごと壊さなきゃならないだろう。そのきっかけがオレじゃないなんてそんなのイヤだよ。きっとオレは君の意識の中のオレに妬いて羨ましがるんだろうね。ねぇ、それならもう君が今のオレだけのオレをみてくれるのって、どうすればいいのかな。壊したくない。でも君はオレを見てくれない。違うよ、目の話じゃないんだ。君になりたい。君になりたいけど、でもオレはオレじゃないと君を抱けない。話せない。触れられない。この苦悩が愛なんだね。素敵だよ。ねぇ、君と一緒に切り刻まれたいな。君と一緒に死にたい。君と一緒にもう旅に出ることなく終わりたいんだよ。君を奪える他の奴等がいることが赦せないんだ。
 布と布の摩擦が止み、唇が吸われる。隣から聞こえる呼吸は儚く、今にも消えてしまいそうだった。花の香りで甘酸っぱい匂いが一際大きく漂った。
「オレと来て」
 彼は半裸の女の左手へ口付ける。振り払った。傷の塞がったばかりの掌で湿った片手を拭う。
「すでに夫があります」
「いない。あれは群青と…それからその仲間たちが仕事上作った虚構まぼろしだよ」
「いいえ。わたしの夫です。間違いありません」
 巻かれた毛先が引っ張られる。頬へ衝撃が走る。叔父が起きてしまう不安にぞくりと寒気がした。大きく開いた胸元の布を握り、二公子はもう一度反対側から女の顔を打った。
「縹…!お前の大切なひともこうして死んでいったね!」
 腹に蹴りが入り、叔父の眠る寝台の対面にある壁へ叩き付けられる。床に寝転んだ。髪が散らかる。ふわりと大きく外気に晒された素肌に衣が掛かる。叔父の匂いがした。黒衿に金刺繍の入った、毒々しい桃色のローブだった。意識のない叔父の退廃的な美しさに見惚れた。前髪を鷲掴みにされ、上を向かされた。
「今度はいい返事こえ聞かせてよ」
 彼は微笑んで、女に接吻する。切れた口角にも口付け、明かりの中去っていった。思い出したように。ぐふ、っと大きく咳をした。
『楽じゃないの、分かってるんでしょ』
 身体中の痛みは遠く、病人の弱々しい息吹を聞いていた。
『人殺すってのはそれよりも後ろめたいことかな?』
 這うように近付き、寝台に手をついて立ち上がる。
『堕ちていくのは転がるだけ。簡単なんだしさ?』
 病人の眦に光った水滴を掬い取った。


 離れ家の玄関前で男女の会話が聞こえた。男はすでに帰っているものと思っていた桃花褐のもので、女は天藍に会いたがっていた活発な娘だった。身形を適当に正してから玄関扉を開ける。
「おっ、帰ってきた」
 部屋に入る前に走り寄ってきた茶髪の娘が眼前に迫る。目元を腫らしていたが今は泣いている様子はない。
「あんた、カラダ大丈夫なの」
「はい」
 娘は奇妙なものを観察しているも同然だった。爪先から脳天までを顰め面で往復する。
「ま、元気そうで良かったわな」
 誰にともなく、部屋の真中で寛いでいる大男は上手く快活な笑みを貼り付けていた。
「傷があるわよ」
 娘は自身の口角を指で差した。
「それはそれとして…あんたに話があって来たんだケド…」
「分かりました。お茶を…」
 娘は気拙げに言った。
「俺が淹れてきまさ。落ち着いてな?」
 重げに腰を上げ、桃花褐はそう残したがやはりどちらに言ったのか分からなかった。
「ありがとう。それならお願い…」
 玄関扉が閉まり切る前に彼は手を振って応えた。住人然として座布団を出していたらしく娘はそこに座る。
「あたし、あずきっていうの。あんたは?」
「極彩と申します。縹の姪です」 
 ああ、聞いたことある。あずきと名乗った女は呟いた。
「ねぇ、あんた…つるばみって知ってる?あたしの幼馴染なんだケド…」
「知りません」
 彼女は何かしらの情報を極彩が持っていると信じているらしかった。大きな目をさらに大きくして、予想外の返答に頭が真っ白になっているらしかった。
「知らないって、本当に知らない?何でもいいの…名前を知ってるとか、誰かから聞いたことがあるとか、そんなんでも…」
「何ひとつ知りません」
「数ヶ月前に特殊任務に就くって出ていって…それからずっと連絡もつかなくて…どうして群青殿があいつの格好してるのかも、知らない?」
 淡い橙色の唇を尖らせる。堂々とした顔の似合うはっきりした面が少しずつ下へ傾いていく。
「諦めてほしいって言われたの…絶望的だって…調査中ではあるケド、帰ってこない可能性が高いって説明されたの…」
「群青殿に?」
 甘そうな毛の色が左右に揺れた。
「違うケド…でもあいつ、すぐ連絡よこすから…忙しいのかなって思ってたけど、何通手紙送っても返事こないし…」
 日に焼けた健康的な手が膝の上で組まれる。あでやかながらもいやらしさのない赤の着物に大きな白い鳥が羽ばたいていた。
「あんたはさ、群青殿と…どういう関係なの」
 機嫌を窺うように伏せがちだった凛とした顔が持ち上がっていく。狼狽えているが、それでも瞳に宿る意思は強い。
「どうという関係もありません」
「でも、夫婦がどうとかって言ってなかった?」
「無関係です」
 彼女は口元を閉じたまま忙しなくもぐもぐと動かした。
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