アナザーワールド

白くま

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異世界召喚編

第八話 〘強者たち〙

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物資管理棟を出た私たちが次に向かったのは、大きな体育館のような建物だった。

「柚枝さん。機嫌直してください。」
 ツンデレと言われたのが余程気に入らなかったのか、柚枝さんは未だにふくれっ面のままだった。

「別に、怒ってないわ。」

 絶対嘘だ。と言いたくなるほど素っ気なく返事をする柚枝さんに、私は苦笑いをするしか無かった。
 柚枝さんが建物の扉を開け中に入ると、広い空間の真ん中で男が二人お互いに武器を持って対峙していた。

「これは?」
「ここは訓練場。あの人たちは、ああやってお互いに刃を交えて総合訓練をしているの。」

私の問いかけに、柚枝さんは男達を見たまま答える。男が振り上げた巨大な斧を、もう片方の男が刀で受け止める。あんな細い刀でよく折れないものだ。

「あの刀、大丈夫なんですか?」
「大丈夫って?」
「いや、折れたりとかしないん…」

バキンッ!

 私が問うと同時に、振り下ろされた巨大な斧が音をたてて割れた。

「!?」

 突然の音に私の体がピクッっと反応する。斧を持った男は割れた自分の斧を見て、大きなため息をついた。

「いやぁ、参ったぜ。さすがに強いなお前の刀は。」

 割れた斧を肩に担いで、男はガハハと笑う。

「相変わらず、お前の斧は弱いな。」
「おぉ?言うじゃねぇか。俺のは普通だよ!お前の刀がおかしいだけだ。」

 刀を鞘にしまった細身の男の言葉に、苦笑いで返す男。

「ちょっといいかしら?ここを使いたいのだけど…。」

 いつのまにか男達に近づいていた柚枝さんが、ニコッっと笑って男達に話しかけた。

「これはこれは、一条さんじゃないですか。」
「何よ?馬鹿にしているの?」

 斧の男の言葉に鋭く返す柚枝さん。しかし、少しの沈黙の後男と柚枝さんは吹き出すように笑った。

「で、お前が連れてきたあの子は?」

 笑う二人をよそに細身の男が私を見る。

「あぁ、紹介するね。この子は、今日から警務隊に入ることになった秋月楓ちゃん。」
「秋月です。よろしくお願いします。」

 柚枝さんの紹介に合わせて、軽く頭を下げる。

「新人か!俺は橘健弥たちばなけんやってんだ。よろしくな。」

 橘さんが差し出す手を握る。がっしりとした手だ。本気で力を入れられると、私の手など簡単に潰れてしまうかもしれない。

「俺は斉藤蓮さいとうれんだ。お前の話は聞いている。今日から俺の隊に配属されているはずだ。よろしくな。」

 続いて斎藤さんの手を握る。今度はごついという印象はなく、ほっそりとした感じの手だった。こんな手で、あの細い刀で、さっきの巨大な斧を受け止めていたと思うと、どこからそんな力が出てくるのか心底不思議に感じる。

「一条。今日はあいさつ回りか?」
「そう。この子の訓練は明日からって聞いているわ。」

 斎藤さんと柚枝さんの間で話がどんどん進んでいく。

「じゃあ、こいつも治さねぇといけねぇし、俺は一足先に帰るわ。」

 橘さんはそういうと、いつかの彩夜さん同様に斧を消して、建物から出て行ってしまった。

「この後の予定は?」
「んー。とりあえず、あとは待機場と、宿舎を案内するだけよ。」

 柚枝さんたちの話はまだ続いていたみたいだ。

「じゃあ、俺と一戦しないか?こいつにも良い刺激になるだろうし。」
「そうね。ちょうど色々あってムシャクシャしてたし…、ちょっとだけやりましょうか。」
「やれやれ…。憂さ晴らしのためじゃねぇんだけどな。」

 蓮さんの言葉を無視するように柚枝さんは手で小さく印を結んだ。すると、目の前に小さく長細い結界が現れ、中から一振りの刀が姿を現した。

「そんなことも出来るんですね。」
「便利でしょ。」

 柚枝さんが刀を掲げてほほ笑む。しかし、ここで私はあることに気づいた。

「あれ?柚枝さんの刀…、短くないですか?」

そう、柚枝さんが持っている刀は、斎藤さんの刀よりもあからさまに短かったのだ。見比べてみると、柚枝さんの刀の方が斎藤さんのよりも三割ほど短い。

「そりゃ当然よ。蓮君のは太刀、私のは小太刀。元々短い仕様なんだから。」

柚枝さんはそう言うと私に下がるように指示し、斎藤さんと対峙した。

「お前相手だったら、本気でやれそうだ。」
「何言ってるの。さっきだって本気だったくせに。」

抜刀した二人が向かいあう。すると、突然二人を取り囲むように不思議な力が逆巻き始めた。

「な、なに!?」

あまりの風圧に、私は体が吹き飛ばされないように踏ん張った。

「はあぁぁ!」

斎藤さんは大きな叫び声とともに地面を蹴り、柚枝さんとの間合いを詰める。柚枝さんもその動きに素早く反応し、手に持った小太刀で応戦している。当然、私の目には二人の刀なんて殆ど見えていない。振られる腕の軌道で刀の位置を予測しているだけだ。しかし、戦っている二人の目には、お互いに相手の刀が見えているのだろう。お互い、完璧に相手の攻撃を防いでいる。

「はっ!」
「うぐっ…。」

 突然、斎藤さんの手から発せられた衝撃波に、柚枝さんの動きが一瞬鈍る。その隙をついた斎藤さんの刀は、柚枝さんの首元ギリギリの所で止まっていた。

「す、すごい。」

私の心の中には、正直その言葉しか無かった。目で追うのもやっとなくらい素早い攻防、それはあっちの世界で見ていた剣道などの類とは、比べ物にならないくらい全く別の次元のものだった。

「くそっ。勝てたと思ったんだがなぁ。」

 斎藤さんが小さく呟いた。

「うふふ、残念ね。」

 斎藤さんの言葉にクスクスと笑う柚枝さん。何事だろうと思い位置を変えて二人を見てみると、驚くことに刀を持った斎藤さんの腕は肘の内側だけ凍りつき、それ以上動かす事が出来なくなっていた。これでは、今以上に柚枝さんに切り込むことが出来ない。しかも、それだけではなかった。柚枝さんが持っている小太刀の切っ先が、真っすぐに斎藤さんの胸に向かって伸びていたのだ。

「…。」

 私は言葉を失った。こんなハイレベルな動き、果たして私に出来るのか、もし出来るとしても何年かかるのか予想もつかない。

「ふぅ…。」

 お互いに切っ先を引いて、刀を鞘にしまう。

「腕、大丈夫なんですか?」
「あぁ、ダメージが残らないように皮膚だけ凍らされてるからな。」
「模擬戦で味方の腕落とすわけないでしょ?」

 そう言うと、柚枝さんはまたクスクスと笑った。

「もうこんな時間か。どおりで腹が減ったわけだ。」

 斎藤さんの言葉で時計を見てみる。時計の針は、既に午後6時を指していた。

「秋月の部屋はもう準備が整っているらしいから、待機場を回ってから宿舎に向かうといい。」
「はい。」

 斎藤さんはそう言い残すと、素早く身支度を済ませで訓練場を後にした。

「ふぅー。危なかった…。もう少しで負けるところだった。」

 扉が閉まったのを確認した後、柚枝さんはそっと胸を撫で下ろした。

「私、不安になってきました。」
「え?」
「実は言うと、この世界のこと今の試合を見るまでなめてました。でも今は、私なんかがさっきみたいな動きを出来るようになるのかすごく不安で。」

 私の落ち込んだ顔を見て、柚枝さんはそっとほほ笑んだ。

「大丈夫。確証はないけど、私は楓ちゃんならきっと強くなれると思う。」
「でも…。」

 その先を言おうとした私の口を、柚枝さんは人差し指を当てて塞いだ。

「やってみないと分からないでしょ?とりあえず頑張らないと。」

 私の目を真っすぐ見つめて、柚枝さんはにっこりと笑った。

「うっ…。」

 間近で柚枝さんに真っすぐ見つめられた上に反則的な笑顔を向けられると、私の顔にまた熱が籠る。

「大丈夫?また顔赤いけど…。」
「だ、大丈夫です!!」

 慌てて顔をそらして誤魔化す。この人は、誰にでも無自覚でこんな事をしているのだろうか。

「さて、遅くならないうちに行くところ行っとこ。」
「そうですね。案内お願いします。」

 柚枝さんは身をひるがえし、出口に向かって2・3歩歩いたところで足を止めた。

「ねぇ。その柚枝さんっていうのやめにしない?私も楓って呼ぶからさ、私のことは柚枝って呼んでよ。」

 急な提案に私は戸惑った。

「でも、柚枝さんの方が先輩ですし、階級も高くて…、とても私なんかが…」
「それが嫌なの。それに、さっき蓮君も言ってたでしょ?俺の隊に配属になったって。私ね、蓮君と同じ隊なの。だから、あなたとも同じ隊なのよ。同じ隊のメンバー同士でくらいタメ口で話したっていいじゃない?…だめ、かな?」

 私の言葉を遮るように柚枝さんは言った。その顔はどこか不安げで弱々しく思える。こんな柚枝さんは初めてだ。

「分かりました…、ううん。分かった。改めてこれからよろしくね。柚枝。」
「うん!こちらこそよろしく!楓。」

 私たちは、お互いの顔を見てにっこりと笑い合った。柚枝の笑顔を見るのは何度目だろう。いい加減に慣れてもいい頃なのに、やはり笑って真っ直ぐ見つめられると顔が赤くなってしまう。

「本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!ちょっと嬉しくなっちゃって。」

 慌てて再び誤魔化しにかかった。

「でも、今日何回も顔赤くなってるよ?なんか心配に…」
「大丈夫だって!すぐに治るか…」

 ドーン!!!

「「!?」」

 私たちの和やかな会話は、突如鳴り響いた爆音によってかき消されてしまった。

「なんなの!?」

 私達は慌てて訓練棟の外に出た。
 そこで目にしたのは戸惑う町の人々と、上空を覆うかのように立ち上るすさまじい黒煙だった。
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