アナザーワールド

白くま

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異世界召喚編

第九話 〘暴走〙

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 訓練場から飛び出した私達は、立ち上る黒煙の真下まで来ていた。そこは街の裏手に位置する深い森の入口。私達が到着した頃には、もう既に警務隊員が複数集まっていた。

「一条少佐、来てくれたんですか。」

 到着した私達を見つけた隊士の1人が言う。よく見ると、私が本部に行った時に建物の入口で会った気さくな男の人だった。

雀部ささきべ君。何があったの?」
「実は…。」

 雀部と呼ばれた気さくな男は、森の奥に視線を移した。柚枝と私もその視線を追って森の奥を見る。すると、警務隊員が数人で一人の男を取り囲んでいた。

「あれ?あの取り囲まれている人って…。」

 私は目を凝らして男を見る。

「警務隊…員?」

 そう、警務隊員に取り囲まれている男も警務隊の戦闘服に身を包んでいたのだ。

「あぁ。秋月はまだ知らないんだったな。」

 振り返った雀部さんは腰に差した刀に手を添えて話し始めた。

「俺達が持っている武器には、それぞれ特殊な能力を持った精霊が宿っている。」
「精霊?」
「あぁ。俺達は最初に武器に宿る精霊と契約を交わし能力を使うんだ。」

 その話を聞いて、私は彩夜さんや健弥さんの武器を思い出した。
 消したり出したり出来るのも、武器の能力なのかな…。

「精霊の能力が強ければ強いほど、強い武器として使えるが、契約の内容も難しくなる。精霊の力を御しきれなかった成れの果てが…あれだ。」

 雀部さんは再び取り囲まれた男を見た。男の息は荒く、血で染ったような真っ赤な目をしている。

「どうするんですか?…あの人。」
「あそこまで暴走すると…、どうしようもねぇな。」

 雀部さんはそう言って腰から刀を抜きながら、男の方へと歩いていく。

「私も手伝おうか?」
「いえいえ。少佐の手を煩わせるほどでもないでしょ。」

 私達に背を向けたまま、雀部さんは手をヒラヒラと振る。その後ろ姿には、何も分からない私でも感じられる程力強い何かがあった。

「あの人を…殺すんですか?」
「まぁね。…あ。」

 返事をした柚枝が、そっと私の顔に手を伸ばし頬をつねる。

「敬語…。」
「ごめん。ゆるひて…。」

 つねられた頬を押さえながら柚枝の顔を見る。

「…まったく。」

 柚枝は私の顔を見るとクスリと笑った。一見緊急事態に見えるこの状況でも笑っていられるって事は、あの雀部さんは相当強い人なんだろう。

「私達、来る必要なかったみたいだね。」
「そう…ね。」

 そう言って柚枝の顔を見ると、柚枝は雀部さんの背中越しに男の姿を見て眉をひそめていた。

「どうしたの?」
「ちょっと…気になったことがあって。」

 柚枝は眉をひそめたまま少しの間男を観察し、何かを思い出したかのようにパッと目を見開いた。

「あの刀…。くっ…!」

 突然柚枝が刀を抜き、私の前に飛び出した。私は何が何だか分からずにただ柚枝の後ろでじっとしていたが、数秒後に前方から襲いかかってきた何か強大な力によって、私達の体はは遥か後方へと吹き飛ばされてしまった。
 建物の壁を突き破り、瓦礫の上に倒れ込む私達。柚枝は素早く体を起こし私の方を見たが、ワンテンポ遅れて私が体を起こしたのを確認すると、吹き飛ばされた方向に意識を向けた。

「イタタタタ…。何が起きたの?」

 体を起こした私は柚枝に問う。すると、柚枝は前方を警戒しながら短く答えた。

「取り囲まれてた男が発した衝撃波よ。」

 それを聞いてゾッとする。あの男からはだいぶん離れていた。その距離でも、これほど吹き飛ばされてしまう威力だ。近くで受けたら体はどうなるか分からない。

「楓。そこの物陰に隠れてて。見つかると危ないわ。」

 柚枝の指示で、私はタンスのような物の影に身を潜めた。

「さてと…。」

 柚枝は大きく深呼吸をすると、男が居るであろう方向に小太刀を構えた。
すると、柚枝の体を中心に風が巻き上がり、素早く間合いを詰めていた男の刀が次々と柚枝を襲う。辺りには甲高い金属音が鳴り響き、2人の戦いは更に激しくなった。

「太刀筋が雑よ!」

 切り込んできた男の刀をはね上げ、柚枝は男の腹部に向かって手を伸ばす。それは、私が何度か見た柚枝が能力を使う時の動きだった。
 服が凍り、男の体までもを凍らせようとする…。

「うおぉぉ!」
「がはぁっ!」

 しかし、男は素早く反応し柚枝の腹部に回し蹴りを放ち後方の壁まで吹き飛ばした。

「ゲホッ!ゲホッ…」

 男が柚枝に近づいていく。しかし、柚枝はまだうずくまったままだった。

「うぉぉぉ!」

 もはや人間とは思えない様な叫び声を上げながら、うずくまっている柚枝の体を蹴飛ばす男。

「ぐふっ!」

 柚枝も抵抗し能力を発動させようとするが、私の顔を見た途端やめてしまった。
 まさか…。私が近くに居るから本気を出せないんじゃ…。
 何度も何度も蹴りをくらい、ついに柚枝の体は瓦礫の上に、仰向けで力なく横たわってしまった。 

「グルル…。」

  男は喉を鳴らすようにうめき声をあげ、柚枝に向かって刀を振り上げた。

「柚枝!」

 思わず影から顔を出し叫んでしまった。すると、男はこちらを振り返り、私に向かって歩いてきた。

「ば…か…。」

 柚枝が立ち上がろうと体を起こす。しかし、数歩歩くとまた地面に崩れ落ちてしまった。

「グル…グルルル。」

 禍々まがまがしい顔で私に近づいてくる男。私はどうしたらいいか分からず、辺りをキョロキョロと見渡した。

「…あれは!」

 ふと、瓦礫の下に細長い木箱があるのを見つけ、急いでその箱を瓦礫の下から取り出した。
 蓋を開けてみると、そこにはつばも、つかも、鞘までもが真っ黒な刀が一振り入っていた。

「…。」

 ゴクリッと生唾を飲み込み、私はその刀を手に取る。すると、急に視界が暗転し私の意識は深い闇に落ちていった。
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