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異世界召喚編
第十話 〘元・吸血鬼〙
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次第に闇が晴れ、私の目に光が戻ってくる。
私が居たのは襖で仕切られた十畳程の大きな和室。もちろん、床には畳が敷かれ、ちゃぶ台や座布団まである。
「ここは…。」
あたりを見渡すが、人が居る気配もなく不気味な程静かだった。
「なんじゃ?客人とは珍しいのぅ。」
「!?」
いきなり聞こえてきた声に、私は咄嗟に身構えた。辺りをくまなく警戒し、声の主を探す。
「どこを見ておる。こっちじゃ。」
再び聞こえた声は、私の正面からだった。
そっと視線を戻すと、さっきまで誰も居なかったちゃぶ台のそばに置かれた座布団の上に、長い黒髪の女性が座って湯呑みを啜っている。
「い、いつの間に…。」
「ちと、別の部屋に居っての。で、わしの部屋に何か用か?」
女の人はそう言うと湯呑みを置き、鋭い目で私を見た。
「あなたが黒い刀の妖精でいいのよね?」
「妖精か…。久しぶりにその呼び方をされたな。」
私の言葉に女の人は静かにそう答えた。
「確かに、私は刀の妖精、做夜じゃ。お主は?」
「私は秋月楓よ。」
「そうか、楓か。覚えておこう。」
做夜はそう言うと、湯呑みをもう一つ取り出しお茶を入れ私の前に置いた。做夜の見た目は、30代半ばくらいに見える。綺麗な顔立ち、ほっそりとした体に実る大きな胸、腰まである黒い髪、そして黒い和服。まるで、絵に書いた様な美女だった。
「話の内容は察しがついた。間違えて刀を手にした訳ではなさそうじゃな。」
「ええ。私はあなたの力が欲しいの。」
做夜と目が合う。すると、做夜はニヤリと笑って話を続けた。
「ここ数百年、わしの元に契約を結びに来た者は居らんかった。恐らくわしは封印されたのじゃろうと思っとったのじゃが、こんな可愛い娘が契約しに来るとはのぅ。」
做夜は穏やかな顔でもう一度湯呑みを啜り、私の目を真っ直ぐに見つめた。
「じゃが、契約の内容に変わりはない。わしがお主に力を貸す条件は三つじゃ。」
「三つ?」
私が聞き返すと、做夜は小さく頷いた。
「じゃが、条件を話す前にこれだけは言っておく。これは、わしとお主の契約の話じゃ。そこに嘘や偽りがあってはならん。じゃから、これから契約が終わるまで、お互いに嘘はつけん。もし、嘘をつけばその者の全てを相手は自由に使えるものとする。」
そう言い終わると、做夜はちゃぶ台に手を置き、力を込め始めた。すると、ちゃぶ台に魔法陣が浮かび上がり、私と做夜を取り囲んだ。
「これから先は嘘がつけん。よいな?」
「分かったわ。」
私が答えると、做夜は人差し指を一本立て話を始めた。
「1つ目の条件は、お主が死んだ時に、お主の体をわしが貰うというものじゃ。」
「私の体を!?」
1つ目からとんでもない条件を出てきた。でも、私が死んだ後の体をどうされようが、私には関係が無い。他に迷惑のかかる事に使われなければ、この条件は呑める。
「他の人に迷惑がかかる使い方はしないでしょうね?」
「あぁ。わしは外の世界で自由に生きたいだけ…。他の者にはわしからも訳を話し状況を理解させた上で接していくつもりじゃ。」
做夜の言葉に、私は頷いた。
「よろしい。では、2つ目の条件じゃが…、わしの分身と戦って勝つのじゃ。」
2つ目にして、王道の戦って勝ち取るパターンの条件が来た。こればかりは、ダメ元で戦うしかない。私は、2つ目の条件も呑み、首を縦に振った。
「うむ。順調じゃな。では、3つ目じゃが…。先に言っておく。この条件は別に呑まなくてもよい。」
「え?」
呑まなくても良い条件?私は意味が分からず、咄嗟に聞き返した。
「呑まなくても良いってどういう事?」
「この条件は、お主の方に選択の権利があるんじゃ。じゃから、別に呑まなくてもよい。しかし、呑むのと呑まないのでは、能力に大きな差が出てしまう。よう考えて決断してくれ。」
そんな条件があるなんて正直驚いたが、それよりも内容が気になる。
「内容は?」
「お主の血をわしに差し出すことじゃ。」
「!?」
做夜の言葉に私は目を見開いた。血を差し出せ?そんなの…まるで、
「吸血鬼じゃない…。」
そう、做夜が言った条件は吸血鬼が言うような事だった。血を飲む妖精…そんなものを信用してもいいものなのか…。
「そうじゃ。」
「え!?」
「お主が吸血鬼と言うから、そうじゃと言ったんじゃ。」
「あ、あなた!吸血鬼なの!?」
私は做夜から少し距離を置いた。
「別にわしをどう思おうが勝手じゃが、わしは元・吸血鬼じゃ。今はあやつらとは関係ない。」
「でも、吸血鬼なのよね?」
「元、じゃと言うとるじゃろ?」
私の疑いの目を感じ取ったのか、做夜は大きく溜息をつき、そっと立ち上がった。
「 わしは吸血鬼達に封印された身…。その点では奴らのことを憎んでおる。じゃからこうして、人間と契約して奴らに仕返しをする機会を伺っているというわけじゃ。」
ささっと崩れた着物の裾を直し、做夜はそう言った。
「契約した人間の力が及ばずに持ち主が死んだら、その持ち主の体を使って直接自分で仕返しをする…。そのための契約ね?」
「あぁ。条件1はお主の言った仕返しのことを考え、条件2で持ち主になる人間の力量を図る。条件3はわしの力を発揮するために人間の血を分けてもらい、その代わりにそれに見合ったわしの力を貸してやる。簡単に言うと、そういう事じゃ。」
私は周りに浮かび上がる魔方陣に目をやる。この魔法陣の中ではお互いに嘘はつけない。つまり、做夜の言葉に嘘はないということ…。
「分かった。でも、あなたに体はあげない。私は死なないから。だから、私に力を貸して。」
「頼もしいのぅ。じゃが、お主の力を見んとわしとて返事のしようがない。早速、条件2で話したわしの分身と戦ってもらう。よいな?」
做夜の言葉に私が頷くと、做夜はニッコリと笑って両手をパチンッ!と叩いた。
すると、部屋の壁が歪み、床は無くなり、空間そのものが形を変えていく。
「ここは?」
「ここは、わしが作った空間。まぁ、訓練場としてしか使い道は無いのじゃがな。」
做夜は苦笑いでそう言った。
辺りには荒野が広がり、建物はひとつも無い。土は荒く、所々ゴツゴツとしていて歩きづらく、踏ん張る時も気をつけないと、足を滑らせてしまいそうだ。
「楓には、これと戦ってもらう。」
声がして振り返ってみると、そこには做夜が2人居た。
「同じ人が2人並ぶとこんなに気持ち悪いんだね。」
「そうじゃな。じゃあ、こうするか?」
做夜が微笑み指を鳴らすと、もう1人の做夜の形が崩れ、どんどん変化していく。そして、完成した形は…。
「わ、私!?」
「自分と戦うというのも、あまり出来ない体験じゃからのぅ。」
そう言って做夜は、私の分身に合図をする。すると分身は、どこからともなく刀を取り出し、私に向かって構えた。
「お主に使ってもらう刀はこれじゃ。」
做夜はひと振りの刀を取り出し、私の近くへと投げた。その刀は、私が手にした黒い刀ではなく、普通の片手直剣だった。
「では、今から分身に攻撃命令を出す。お主は、何も気にせずにただ、自分の分身を殺せばいい。」
「殺すって言ったって…。」
相手は自分と全く同じ格好をした分身だ。自分を殺すのはそう簡単に出来るものじゃない。
「殺さなければ殺される。死ぬでないぞ?」
做夜はクスリと笑うと、私の分身に合図を送った。それと同時に、地面を蹴り、私との間合いを詰める分身。真上から振り下ろされた刀を、なんとか剣で受け止める。
「こ、これって…。」
私が受止めた分身の刀こそ、私が手にした黒い刀だったのだ。
「その刀相手にどう戦う?」
少し高い岩の上から、私達を見下ろす做夜が言う。
「そんなの…決まってる。あなたの力を借りるためなら、どんな相手でも倒す!」
全身に力を入れ、分身の刀を押し返す。しかし、分身の体どころか刀すらピクリとも動かない。
「なん…で?」
戸惑う私の隙をつき、分身は私の剣を弾いた。私は後方に大きくバランスを崩し、倒れないために2歩ほど後ろに下がった。しかし、その2歩分の距離を素早く詰めた分身の蹴りが私の胸へと直撃する。
「がはっ!」
蹴られた瞬間、私の体は遥か後方に吹き飛び、大きな岩にぶつかって止まった。
「うぐっ…。」
体中に激痛が走り、地に伏せたままの私を分身が見下ろす。
「あなた…弱すぎ。」
「!?」
喋った?確かにさっき聞こえたのは私の声だった。
「あなた、喋れるの?」
「当たり前でしょ?私はあなた。あなたが出来ることは、私にだって出来るわ。もちろん、あなたに出来ない事は私にも出来ない。」
分身の言葉を聞いて、ふと思う。
私に出来ない事は、分身にも出来ない。つまり、分身のバカみたいな力は私にも出せるという事だ。
「ねぇ?そんな力どうやって使うの?」
「教えたら意味ないでしょ?」
ヨロヨロと立ち上がった私の頬を、私の分身はそっと撫でた。
「そこをなんとか教えてくれたら嬉しい…なっ!」
さっきの仕返しに、分身の腹を全力で殴る。しかし、分身は顔色ひとつ変えない。
「全く…。どうなってるのよ。ここまで通用しないの?」
「あなたバカなの?柚枝達の戦いを全く参考にしてない。それじゃあ、いつまで経っても私に勝てないよ?それどころか、このまま死んじゃうかもね。」
私に耳打ちする分身の声は、どこから笑みを含んでいる。
「…このっ!」
私は分身の胸ぐらを掴んだ。しかし、分身は全く動じず、そっと胸ぐらを掴む私の手を握った。
「あなたって、自分中心に考えるタイプ?それとも、他人を中心に考えるタイプ?」
「どういう……うぅっ!」
私が聞き返したのと同時に、分身は私の手を捻りあげた。
「うあぁぁ!痛い痛い!」
手首からはミシミシと骨が軋む音がする。恐らく、あと少し力を入れられると、骨が折れてしまうのだろう。私は必死に抵抗するが、分身の圧倒的な力に、自分の手はピクリとも動かない。
「はぁ…。做夜!この子ダメよ。いくら痛めつけても、力に目覚めないもの。」
「弱ったのぅ。」
分身の言葉に做夜は少し考え、何かを思い出したかのように手を掲げた。
「今度はこやつを痛めつけてみるのじゃ。」
目の前に淡い光の球体が現れ、少しづつ形を変えていく。そして、光の中から現れたのは、私のよく知った人物。
「ゆ、柚枝?」
「…楓。」
光の中から現れた人物は、紛れもなく一条柚枝だったのだ。
私が居たのは襖で仕切られた十畳程の大きな和室。もちろん、床には畳が敷かれ、ちゃぶ台や座布団まである。
「ここは…。」
あたりを見渡すが、人が居る気配もなく不気味な程静かだった。
「なんじゃ?客人とは珍しいのぅ。」
「!?」
いきなり聞こえてきた声に、私は咄嗟に身構えた。辺りをくまなく警戒し、声の主を探す。
「どこを見ておる。こっちじゃ。」
再び聞こえた声は、私の正面からだった。
そっと視線を戻すと、さっきまで誰も居なかったちゃぶ台のそばに置かれた座布団の上に、長い黒髪の女性が座って湯呑みを啜っている。
「い、いつの間に…。」
「ちと、別の部屋に居っての。で、わしの部屋に何か用か?」
女の人はそう言うと湯呑みを置き、鋭い目で私を見た。
「あなたが黒い刀の妖精でいいのよね?」
「妖精か…。久しぶりにその呼び方をされたな。」
私の言葉に女の人は静かにそう答えた。
「確かに、私は刀の妖精、做夜じゃ。お主は?」
「私は秋月楓よ。」
「そうか、楓か。覚えておこう。」
做夜はそう言うと、湯呑みをもう一つ取り出しお茶を入れ私の前に置いた。做夜の見た目は、30代半ばくらいに見える。綺麗な顔立ち、ほっそりとした体に実る大きな胸、腰まである黒い髪、そして黒い和服。まるで、絵に書いた様な美女だった。
「話の内容は察しがついた。間違えて刀を手にした訳ではなさそうじゃな。」
「ええ。私はあなたの力が欲しいの。」
做夜と目が合う。すると、做夜はニヤリと笑って話を続けた。
「ここ数百年、わしの元に契約を結びに来た者は居らんかった。恐らくわしは封印されたのじゃろうと思っとったのじゃが、こんな可愛い娘が契約しに来るとはのぅ。」
做夜は穏やかな顔でもう一度湯呑みを啜り、私の目を真っ直ぐに見つめた。
「じゃが、契約の内容に変わりはない。わしがお主に力を貸す条件は三つじゃ。」
「三つ?」
私が聞き返すと、做夜は小さく頷いた。
「じゃが、条件を話す前にこれだけは言っておく。これは、わしとお主の契約の話じゃ。そこに嘘や偽りがあってはならん。じゃから、これから契約が終わるまで、お互いに嘘はつけん。もし、嘘をつけばその者の全てを相手は自由に使えるものとする。」
そう言い終わると、做夜はちゃぶ台に手を置き、力を込め始めた。すると、ちゃぶ台に魔法陣が浮かび上がり、私と做夜を取り囲んだ。
「これから先は嘘がつけん。よいな?」
「分かったわ。」
私が答えると、做夜は人差し指を一本立て話を始めた。
「1つ目の条件は、お主が死んだ時に、お主の体をわしが貰うというものじゃ。」
「私の体を!?」
1つ目からとんでもない条件を出てきた。でも、私が死んだ後の体をどうされようが、私には関係が無い。他に迷惑のかかる事に使われなければ、この条件は呑める。
「他の人に迷惑がかかる使い方はしないでしょうね?」
「あぁ。わしは外の世界で自由に生きたいだけ…。他の者にはわしからも訳を話し状況を理解させた上で接していくつもりじゃ。」
做夜の言葉に、私は頷いた。
「よろしい。では、2つ目の条件じゃが…、わしの分身と戦って勝つのじゃ。」
2つ目にして、王道の戦って勝ち取るパターンの条件が来た。こればかりは、ダメ元で戦うしかない。私は、2つ目の条件も呑み、首を縦に振った。
「うむ。順調じゃな。では、3つ目じゃが…。先に言っておく。この条件は別に呑まなくてもよい。」
「え?」
呑まなくても良い条件?私は意味が分からず、咄嗟に聞き返した。
「呑まなくても良いってどういう事?」
「この条件は、お主の方に選択の権利があるんじゃ。じゃから、別に呑まなくてもよい。しかし、呑むのと呑まないのでは、能力に大きな差が出てしまう。よう考えて決断してくれ。」
そんな条件があるなんて正直驚いたが、それよりも内容が気になる。
「内容は?」
「お主の血をわしに差し出すことじゃ。」
「!?」
做夜の言葉に私は目を見開いた。血を差し出せ?そんなの…まるで、
「吸血鬼じゃない…。」
そう、做夜が言った条件は吸血鬼が言うような事だった。血を飲む妖精…そんなものを信用してもいいものなのか…。
「そうじゃ。」
「え!?」
「お主が吸血鬼と言うから、そうじゃと言ったんじゃ。」
「あ、あなた!吸血鬼なの!?」
私は做夜から少し距離を置いた。
「別にわしをどう思おうが勝手じゃが、わしは元・吸血鬼じゃ。今はあやつらとは関係ない。」
「でも、吸血鬼なのよね?」
「元、じゃと言うとるじゃろ?」
私の疑いの目を感じ取ったのか、做夜は大きく溜息をつき、そっと立ち上がった。
「 わしは吸血鬼達に封印された身…。その点では奴らのことを憎んでおる。じゃからこうして、人間と契約して奴らに仕返しをする機会を伺っているというわけじゃ。」
ささっと崩れた着物の裾を直し、做夜はそう言った。
「契約した人間の力が及ばずに持ち主が死んだら、その持ち主の体を使って直接自分で仕返しをする…。そのための契約ね?」
「あぁ。条件1はお主の言った仕返しのことを考え、条件2で持ち主になる人間の力量を図る。条件3はわしの力を発揮するために人間の血を分けてもらい、その代わりにそれに見合ったわしの力を貸してやる。簡単に言うと、そういう事じゃ。」
私は周りに浮かび上がる魔方陣に目をやる。この魔法陣の中ではお互いに嘘はつけない。つまり、做夜の言葉に嘘はないということ…。
「分かった。でも、あなたに体はあげない。私は死なないから。だから、私に力を貸して。」
「頼もしいのぅ。じゃが、お主の力を見んとわしとて返事のしようがない。早速、条件2で話したわしの分身と戦ってもらう。よいな?」
做夜の言葉に私が頷くと、做夜はニッコリと笑って両手をパチンッ!と叩いた。
すると、部屋の壁が歪み、床は無くなり、空間そのものが形を変えていく。
「ここは?」
「ここは、わしが作った空間。まぁ、訓練場としてしか使い道は無いのじゃがな。」
做夜は苦笑いでそう言った。
辺りには荒野が広がり、建物はひとつも無い。土は荒く、所々ゴツゴツとしていて歩きづらく、踏ん張る時も気をつけないと、足を滑らせてしまいそうだ。
「楓には、これと戦ってもらう。」
声がして振り返ってみると、そこには做夜が2人居た。
「同じ人が2人並ぶとこんなに気持ち悪いんだね。」
「そうじゃな。じゃあ、こうするか?」
做夜が微笑み指を鳴らすと、もう1人の做夜の形が崩れ、どんどん変化していく。そして、完成した形は…。
「わ、私!?」
「自分と戦うというのも、あまり出来ない体験じゃからのぅ。」
そう言って做夜は、私の分身に合図をする。すると分身は、どこからともなく刀を取り出し、私に向かって構えた。
「お主に使ってもらう刀はこれじゃ。」
做夜はひと振りの刀を取り出し、私の近くへと投げた。その刀は、私が手にした黒い刀ではなく、普通の片手直剣だった。
「では、今から分身に攻撃命令を出す。お主は、何も気にせずにただ、自分の分身を殺せばいい。」
「殺すって言ったって…。」
相手は自分と全く同じ格好をした分身だ。自分を殺すのはそう簡単に出来るものじゃない。
「殺さなければ殺される。死ぬでないぞ?」
做夜はクスリと笑うと、私の分身に合図を送った。それと同時に、地面を蹴り、私との間合いを詰める分身。真上から振り下ろされた刀を、なんとか剣で受け止める。
「こ、これって…。」
私が受止めた分身の刀こそ、私が手にした黒い刀だったのだ。
「その刀相手にどう戦う?」
少し高い岩の上から、私達を見下ろす做夜が言う。
「そんなの…決まってる。あなたの力を借りるためなら、どんな相手でも倒す!」
全身に力を入れ、分身の刀を押し返す。しかし、分身の体どころか刀すらピクリとも動かない。
「なん…で?」
戸惑う私の隙をつき、分身は私の剣を弾いた。私は後方に大きくバランスを崩し、倒れないために2歩ほど後ろに下がった。しかし、その2歩分の距離を素早く詰めた分身の蹴りが私の胸へと直撃する。
「がはっ!」
蹴られた瞬間、私の体は遥か後方に吹き飛び、大きな岩にぶつかって止まった。
「うぐっ…。」
体中に激痛が走り、地に伏せたままの私を分身が見下ろす。
「あなた…弱すぎ。」
「!?」
喋った?確かにさっき聞こえたのは私の声だった。
「あなた、喋れるの?」
「当たり前でしょ?私はあなた。あなたが出来ることは、私にだって出来るわ。もちろん、あなたに出来ない事は私にも出来ない。」
分身の言葉を聞いて、ふと思う。
私に出来ない事は、分身にも出来ない。つまり、分身のバカみたいな力は私にも出せるという事だ。
「ねぇ?そんな力どうやって使うの?」
「教えたら意味ないでしょ?」
ヨロヨロと立ち上がった私の頬を、私の分身はそっと撫でた。
「そこをなんとか教えてくれたら嬉しい…なっ!」
さっきの仕返しに、分身の腹を全力で殴る。しかし、分身は顔色ひとつ変えない。
「全く…。どうなってるのよ。ここまで通用しないの?」
「あなたバカなの?柚枝達の戦いを全く参考にしてない。それじゃあ、いつまで経っても私に勝てないよ?それどころか、このまま死んじゃうかもね。」
私に耳打ちする分身の声は、どこから笑みを含んでいる。
「…このっ!」
私は分身の胸ぐらを掴んだ。しかし、分身は全く動じず、そっと胸ぐらを掴む私の手を握った。
「あなたって、自分中心に考えるタイプ?それとも、他人を中心に考えるタイプ?」
「どういう……うぅっ!」
私が聞き返したのと同時に、分身は私の手を捻りあげた。
「うあぁぁ!痛い痛い!」
手首からはミシミシと骨が軋む音がする。恐らく、あと少し力を入れられると、骨が折れてしまうのだろう。私は必死に抵抗するが、分身の圧倒的な力に、自分の手はピクリとも動かない。
「はぁ…。做夜!この子ダメよ。いくら痛めつけても、力に目覚めないもの。」
「弱ったのぅ。」
分身の言葉に做夜は少し考え、何かを思い出したかのように手を掲げた。
「今度はこやつを痛めつけてみるのじゃ。」
目の前に淡い光の球体が現れ、少しづつ形を変えていく。そして、光の中から現れたのは、私のよく知った人物。
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「…楓。」
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