アナザーワールド

白くま

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国外遠征編

第十七話 〘試合開始〙

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 部屋に帰った楓は早速新品の戦闘服に着替え、部屋の壁に立てかけてある刀【做夜】を手に取る。做夜は楓のマナに触れると、カタカタとその秘めたる力を増幅させる。

「ここから血を吸ってまだ強くなるなんて…まるで妖刀ね…。」

 楓はボソッっと呟き、少しだけ刀を抜いた。

「頼むよ…。もっと私に…力を貸して。」

 刀を握る手に力が入る。

【そんなに握ると痛いじゃろ?】
「!?」

 不意に聞こえた声に楓は驚き辺りを見渡す。しかし、自分以外にこの部屋に誰かいる訳では無い。それに、楓はさっきの声に聞き覚えがあった。

「まさか…、做夜?」
【そうじゃ?今頃気づいたか?鈍いやつじゃのぅ?】

 そう言うと、做夜はクスクスと笑った。

「あなた、刀の中からでも喋れるの?」
【お主に対してだけじゃがな?まぁ、精霊ではない者の数少ない特権じゃ。】
「他の武器に宿った精霊は出来ないってこと?」
【あぁ。今のところわしの知る限りでは、この芸当が出来る者はわしだけじゃ。】

 楓は做夜の言葉にある可能性を感じ始めた。もしかしたら、この刀はこの世界で最強クラスの刀なんじゃないかと…。

「ねぇ?做夜は自分の能力よりも上の武器ってあると思う?」
【急になんじゃ?】
「いいから。答えて?」
【自分よりも優れた武器じゃろ?うーん…。戦闘距離にもよるが…、近距離戦ならまずどんな武器にも負けんじゃろな。】

 做夜は少し悩む素振りを見せたが、ドヤ顔が想像出来るほどハッキリと言い切った。それを聞いた楓は、さっきまでの不安や恐怖がどこかへ飛んで行ってしまったかの様にクスリと笑った。


「じゃあ、後は遠距離戦だけって事ね。」
【あぁ。わしの力だけじゃ遠距離戦は好ましくない。お主の力と合わせてどうなるか…。】
「分かった…。それだけ聞けたら十分よ。」

 楓は再び刀に視線を落とし、黒く光る刀身を眺める。

「今から一試合すると思うからよろしくね。」
【分かった。わしからアドバイス出来ることがあれば何でも教えてやろう。】
「ありがとう。」
【まぁ、刀が鞘から抜けている時しか喋れんから、基本は戦闘中になるじゃろうがの。】
「その方がイメージしやすくていいんじゃない?」
【それもそうじゃな。】

 会話の最中、時計に目をやる楓。時計の針は午後8時を指し、それは局長室から出て四十分経ったことを意味していた。

(あと20分…。そろそろ行こう。)

 楓は刀を鞘にしまい、自室を出て訓練場へと向かった。


「来たか。」

 楓が訓練場に着くと、もう既に健太以外の全員がその場に集まっていた。

「石峰さんは?」
「健太君は能力解放に少し時間がかかるらしくて、遅れるって連絡が入ったわ。」

 楓の問いに柚枝がいち早く答えた。

「能力解放?」
「うん。一年前に行った遠征任務でマナを司る器官にダメージを受けたらしくて、マナが暴走しないように少し能力を封印してたのよ。それを、今外しに行ってるわ。」
「へぇ…。」

 健太の実力をここ一年見てきた楓は、その戦闘能力の高さに敬意を持っていた。しかし、その能力には更に上があるというのだ。

(一体、どれだけの力を持ってるのかな…。)

 楓は少し心強く思える反面、自分がこの部隊に相応しい能力を持てているのか少し心配になった。

「悪いな。解放するのに手間取っちまって…。」

 そうこうしている内に訓練場の扉を開け、健太が入ってくる。その体からは湯気のようにマナが溢れ、一目見ただけでさっきよりも断然強くなっている事が分かる。

「蓮。最初に俺がやってもいいか?久しぶりの力だから早く試してみたいんだ。」
「他のやつがいいなら俺は構わん。」

 蓮の言葉に健太は楓達の顔を見た。

「私はいいよ。楓は?」
「私も大丈夫。」

 楓達も了承した事で、1番手は健太に決まった。

「そうと決まれば早速やろうか。」

 訓練場の真ん中にある丸い円の中に健太が入る。

「では、先に攻撃を当てた者の勝ちと言ったが、少し予定を変更する。さっきまでここで訓練していた者が訓練場の特殊術式を起動していたらしく、今回はその術式を起動したまま模擬戦を行う。」

 円の真ん中で正隆がその場にいる全員に聞こえるように言った。

「皆も知っての通り、この術式は起動するのに丸々一日かかる。だから使えなかったが…ちょうど良かった。」

 足元を見る正隆につられて、楓達も足元を見る。そこにはマナによって青く光る幾何学模様が浮かび上がっていた。そしてその術式とは…。

「この円の中で死んでも、本当に死ぬわけではないからな。相手を殺せば勝利とする。いいな?」

 正隆の確認に円の中で向き合う二人が頷く。この円の中で戦う者は死んでも直ぐに復活する。受けた傷も全て回復する。命がけの戦闘部隊が本気で訓練するには、まさにうってつけの場所なのだ。

「それでは始めるぞ?…試合開始!」

 正隆の鋭い一言で訓練場の空気がピンッと張り詰め、命のやり取りが始まった。健太は素早く片手剣を取り出し、和海に向かって構えた。対する和海は…。

「弓…だと!?」

 和海の手には、片手で持てているのが不思議なくらい大きくごつい弓が握られていた。

「剣と弓じゃ間合いに差がありすぎて、石峰さんの方がどう見たって不利ね。」
「そうね。でも、弓には矢をつがえ直すための隙があるわ。それをどう使って戦うかが肝になってくるわね。」

 楓と柚枝は武器の特性から和海の戦い方を予測していた。偶然にも第一部隊のメンバーは彩夜を除いて全員が片手直剣か刀だ。近距離武器を持つ健太が、弓相手にどんな戦いを見せるのか…。

「能力を解放したあいつのスタイルは剛剣だ。切り裂くと言うより、叩き斬るの方がしっくりくるくらい力任せなスタイルに変わる。まぁ、力勝負には負けはしない。弓というだけで軽快な動きと鋭い一撃を警戒しがちだが、柚枝も言っていたつがえ直す隙とあの弓本体の大きさが命取りになる。見た感じあの弓はその大きさ故に長所を活かせないだろう。力勝負に持ち込めば健太が圧倒的に有利だ。」

 蓮も和海の弓を観察し、能力を探り始めていた。

「デカい弓だな…。重たくねぇのか?」
「えぇ。この子は見た目によらず軽いんです。」

 ニッコリと微笑んで弓を構える和海。その顔には重量物を扱っているとは思えない程の余裕が見えた。

「そうかよ。じゃあ、その強さを見せてもらおうかっ!」
「!?!?」

 健太が片手剣の柄に左手を添えると剣はその形を変え、さっきの三倍はあるであろう両手剣に姿を変えた。

「いくぜっ!」

 両手剣を構えたまま和海に向かって突っ込んでいく健太。しかし、和海は慌てること無く健太に向かって弓の弦を引いた。

「や、矢をつがえない?」

 そう。和海は弓に矢をつがえずに弦を引いたのだ。もちろん、矢が無ければ弓での攻撃は出来ない。

「…っ!」

 和海の表情が一瞬強ばる。何か計算違いのことが起きたのか。

「もらったぁぁぁ!」

 その表情に勝利を悟った健太は、その手に構えた両手剣を一直線に和海の頭へと振り下ろした。

バシュッ!…ドチャ。

 その直後、生々しい水音が訓練場に響くのだった。
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