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国外遠征編
第十八話 〘アーチャー?それとも…〙
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二人の試合を見ていた者全員が息を飲んだ。健太の両手剣が和海を切り裂く直前和海は手からマナを放出し、青白く光る矢を作り出していたのだ。当然、攻撃態勢に入っている健太は、そのままの勢いで攻撃を繰り出してしまう。しかし、その攻撃が届く前に、和海の弓からは矢が放たれていた。
「うぐぅ…。」
左肩を手で押さえ苦痛に顔を歪める健太。それもそのはずだ。健太の左肩から下、つまり左腕が全て消し飛んでいるのだから。
「胸を狙ったつもりだったんですけど…反応速いですね。」
「一撃で終わらされてたまるかよ…。」
刀を拾い上げる健太に、再び弓を構える和海。そこで楓はあることに気づいた。
(あれ?石峰さんの刀が元に戻ってる。)
そう、健太の刀の大きさが元に戻っているのだ。
「あなたの相棒はやる気喪失ですか?」
「いや、俺が戻したんだよ。今の攻撃を見てこっちの方がいいと思ってな。」
そう言って、右手一本で刀を構える健太。しかし、明らかに剣先が震えている。
「初手のダメージが大きすぎるな…。」
楓の横で試合を見ている蓮がボソッと呟いた。健太の足元にはいつしか血溜まりが出来るほどの血が滴り落ちていた。
「勝負はついたと思うのですけど…?」
「悪いな…。俺は…諦めが悪いんだよ。」
健太は少しふらつきながらも剣を構え、真っ直ぐ和海を睨みつける。和海は小さくため息をつき、弓の弦へと指をかけた。
「じゃあ、私も遠慮はしませんよ?」
「当たり前だ。遠慮なんかしてみろ…。…ぶっ飛ばすぞ!」
額に汗を浮かべて叫ぶ健太に和海はクスリと笑い、力いっぱい弓を引いた。すると、さっき同様に青い光の矢が現れ、健太目掛けて飛んでいく。
(…速い!)
楓は目を見開いた。最初の一撃は、二人の距離が近すぎて攻撃のスピードを見切ることが出来なかった。しかし、今回は十分な距離がある状態での攻撃だ。まして、さっきと同様に矢を放つ本人は止まっている。正確に速度を測れると思っていた。しかし…。
「…は、速すぎて一瞬見失った…。」
楓の背中を冷や汗が流れる。手負いの健太でも何とか避けられているが、楓には万全の状態でも全て避ける自信は無かったのだ。
「どんどんいきますよ?」
「…くっ!」
弓を引いたままの姿勢から幾度となく連続で放たれる矢の嵐を必死でかわしていく健太。しかし、当然全ての攻撃をかわしきれる訳もなく、とうとう健太の体に光の矢が刺さってしまった。
「ぐわぁ…!」
健太の力ない叫びをかき消すように、次々に光の矢が襲いかかる。
…ドチャ!
「っ……!」
楓は思わず口を押さえ目を背けた。それだけ今の攻撃で健太が悲惨で惨い姿へと変わってしまったのだ。
「あの矢…。どれだけ威力があるんだよ…。」
楓の横では蓮までもが息を飲んでいる。そして、二人共が悟っていた。蒼井和海という女を甘く見すぎていたと。
「次…。どなたが相手ですか?」
健太の体が消えた事を確認すると、和海はそっと口を開いた。しかし、蓮は全く反応しない。そして楓も反応しなかった。いや、正確には出来なかったのだ。和海の驚異的な力の前に、楓の体は竦んでしまっていた。
「私がやるわ。」
そこで名乗りを上げたのは柚枝だった。柚枝はそのまま円の縁まで歩くと、試合前の体へと再生された健太と入れ替わるように円の中に入った。
(柚枝さん…。大丈夫かな。)
柚枝の戦うところは何度か見ている。しかし、魔法型の柚枝が全力で魔法を使っている様な場面に出くわしたことがなかった。つまり、楓は柚枝の本当の実力をまだ知らないのだ。
「早速始めましょう?」
柚枝はそう言って腰から小太刀を抜き、体の正面で構えた。
「随分と可愛い刀なんですね。」
「短いからってなめてかかると痛い目に遭うわよ?」
そっと手を上げながら睨み合う二人の目を交互に見た正隆は、手を振り下ろしながら試合開始の合図をした。
「始めっ!」
正隆の合図と同時に、腰を落とし体勢を低くした柚枝は、突きの構えをとり真正面から素早く和海との間合いを詰めにかかった。
「…このっ!」
柚枝の素早い動きに翻弄されつつも、和海は弓を引き柚枝に向かって矢を飛ばす。しかし、柚枝はその矢を完全に見切り刀も使わずに全てかわしていく。
「…す、凄い。」
真横からでも目で追いきれない程のスピードで襲いかかる矢は、正面から見るとまるで一瞬で自分の元へ飛んできているような錯覚を起こすほどのスピードに感じる。しかし、柚枝はその矢を全て見切りかわしているのだ。
「はあぁぁ!」
「…くっ!」
和海の懐へと飛び込んだ柚枝は、その短い小太刀を和海の胸元目掛けて振り上げた。
カンっ!
突如無機質な音を立て、柚枝の刀が止まった。柚枝の振り上げた刀は、和海の弓によって防がれてしまったのだ。
「まだよ!」
柚枝は屈んだ姿勢から地面を蹴り、縦に回転するように和海の頭上まで飛び上がると、体を逆さにした状態でもう一度上から刀を振り抜いた。
「甘いです!」
和海は弓を持ち上げ、再び柚枝の攻撃を受け止める。そして、勢いを殺しきれない柚枝を、そのまま弾き返してしまった。
「終わりです。」
空中で無防備な体勢になった柚枝に、和海が弓を構え矢を放った。もう避けきれない。楓がそう思った瞬間、柚枝の背中を分厚い氷が覆った。
カチンッ!
「!?」
和海が放った矢は、突如現れた氷によって弾かれたのだ。
「あれは…、属性魔法!?」
「危ない危ない。もう少しで串刺しになるところだった。」
属性魔法を初めて見たのか、和海の動きが一瞬止まる。その隙を見て、柚枝は腰の高さで再び刀を振り抜いた。
「そんな所で振ったって……えっ!?」
二人の間合いはとても刀が届くような距離ではなかった。まして柚枝の刀は小太刀だ。普通の刀よりも短い彼女の刀では全くもって攻撃になるような動きではなかった。だが、それは柚枝じゃなければの話だ。柚枝は自分の刀にマナを注ぎ、刃の形をした氷を和海に向かって飛ばしたのだ。
「こんなもの…。」
和海は放たれた氷の刃を真上に飛んでかわした。しかし、その場所にも既に氷の刃が迫っていた。
「…うぐっ!」
すかさずその刃を弓で受け止める和海だが、氷の刃が弓に当たった瞬間その弓ごと和海の両手を氷づけてしまった。
「それでもう弓は引けないわね。」
「……くっ!」
少し余裕を持った目で言う柚枝を、悔しそうに睨みつける和海。能力を解放しマナの最大量が増えた健太ですら勝てなかった相手をどんどん追い詰めている柚枝。しかし、その余裕も一瞬のものだった。
「……。」
「ん?」
黙り込んだまま両手を前に突きだし、弓を刀のように構える和海。そして次の瞬間、和海の体から大量のマナが吹き出した。
「な、何を…!?」
突然のことに戸惑いながらも刀を構え直す柚枝に向かって、凍りついた弓を構えた和海が全身からマナを溢れさせながら飛びかかった。
キンッ!キンッ!
和海の弓は柚枝の氷のおかげで凄まじい強度になり、柚枝の刀と斬り合っても全く問題ないみたいだった。
「はっ!…はあぁ!」
薙刀の様に左右から円を描くように襲いかかる弓をかわす柚枝。
「まさか、氷漬けにした事が裏目に出るとはね…。」
弓しか使っていないはずの和海だが、薙刀のようになった弓を使っている姿もなかなか様になっていて、楓にはうっすらと彼女がこの戦い方をするのは初めてじゃないような気がしていた。
「……。」
楓の心に不安が募っていく中、柚枝と和海は何度も何度もお互いの武器をぶつけ合っていた。しかし、時間が経つにつれ、和海の動きが段々と鈍くなってくる。
「体が凍らされているからな…。体の動きを制限されている分無理な体勢からの攻撃が多くなる。先にバテてくるのは当然だろう。」
再生された後、マナが回復するまで休んでいた健太がいつの間にか楓の隣まで来ていた。
「このまま行けば一条の方が有利だが…、もしもあの氷が無くなるような事があればどうなるか分からねぇな。」
「それって…。」
楓は視線を試合から逸らし、健太の方を見た。
「凍りついた弓だと振り回すくらいしか戦い方はねぇが、弓の能力が戻れば別だ。またあのバカみてぇに速くて威力の高い矢の嵐が始まる。」
「……。」
「さっきは運良く氷の盾で防げたが、今度はどうなるか…。」
視線だけ楓の方へと向けていた健太が、再び試合へと視線を戻す。楓がその後を追うように試合へと視線を戻したその時、武器をぶつけ合うだけだった二人の試合に動きが現れた。
バキンッ!
幾度となく柚枝の刀とぶつかり合った氷が砕けたのだ。
「!?」
「…よしっ!」
和海の弓や手から剥がれるように落ちる氷。弓が動くことを確認した和海は、すかさず柚枝から距離をとり再び弓を構えた。
「はあぁぁぁ!」
素早く弓を引き絞り、柚枝へと狙いを定める和海。その姿を見て、柚枝は咄嗟に自分の前に分厚い氷の板を出現させた。
「あなたの矢の威力じゃ、この板は貫けないわ。」
「そんなの…。やってみないと分からないじゃないですか!」
和海の言葉と同時に、弓から放たれた無数の矢が氷の板に襲いかかる。しかし、柚枝は見抜いていたのだ。和海の矢の威力では、本当に自分の氷は砕けないと。
「いくらやっても無駄よ。マナを使い切る前にやめた方がいいと思うけど?」
「この矢の嵐だと、あなたはその板の後ろから出る事ができないはずです。しかも、その板のせいでこっちの状況が飲み込めていない…。私の勝ちです。」
和海の言葉に柚枝は一瞬焦った。自分の出している板は氷で出来ているが透明ではない。つまり、今の柚枝には和海の姿が見えていないのだ。
「…何をする気なの?」
何があっても対応出来るように全身にマナを込める柚枝。途端に、襲いかかって来ていた矢の嵐がパッタリと止まってしまった。二人の間に全くの無音状態が続く。
「…終わりです。」
静寂を壊すように呟いた和海の弦を持つ右手が光り、真っ赤に染った矢がつがえられた。
「ゅっ……!」
思わず柚枝と叫んでしまいそうになった自分をギリギリのところで食い止める。自分たちは見ているだけの存在。どちらかに加担する訳にはいかないのだ。
バシュンッ!
弓から放たれた真っ赤な矢は、氷の板に向かって一直線に飛んでいく。そのスピードは今までの攻撃よりも遥かに遅く、この場に居る者なら誰でも余裕で避けられるほどの速度しかない。しかし、それは同時に速度を殺した分威力が増しているという意味でもある。
(多分、柚枝の氷じゃあの矢は止めきれない…。)
楓は直感でそう思った。しかし、柚枝はまだ動きを見せない。迫り来る矢が板に突き刺さろうとしたその時。
パチンッ!
和海が微笑みながら指を鳴らした。すると、その音に反応した矢が一気に膨張し、板のすぐ側で大爆発を起こしたのだ。
「「「!?!?」」」
その場で見ていた全員の顔が強ばる。かなり離れた楓達の所にまで爆風が襲ってくるほどの威力だ。楓は爆風の中、目を凝らして柚枝の姿を確認する。
「…っ!!」
さっきまであった氷の板は粉々に吹き飛び、柚枝の体は遥か後方で力無く倒れ込んでいた。
「久しぶりに使った技だったんですけど、上手く発動出来て良かったです。」
ほっとした表情で構えた弓を下ろす和海。しかし、体に違和感を覚えて下を見た和海は、自分の足元が凍らされていることに気づいた。
「…なっ!?」
「はあぁ!!」
足元に気を取られている和海の隙をついて、素早く起き上がった柚枝が氷の斬撃を放った。和海は弓を構え、氷を射ち落とそうとするが、今度は柚枝自身が和海の後ろへと回り込み、和海の背中を切りつけた。
「うぐぁ!」
「終わりよ!」
切りつけられた衝撃で、弓を引けなかった和海。今から弓を引いても間に合わない。誰もが柚枝の勝ちを悟った。だが…。
「言いましたよね?私の勝ちだって…。」
突然、和海の弓が光出し、弓の両端に鋭い刃物が現れた。和海はすかさず片方の刃で氷の斬撃を斬り砕く。すると…。
ザクッ!
「うぐっ!」
斬撃を斬り砕いたと同時に、もう片一方の刃が柚枝の胸元へと突き刺さったのだ。
「かはっ……!」
口から血を吐き出し、力無く和海の体へと倒れかかる柚枝を、和海はそっと受け止めた。
「私、計算は得意なんですよ?」
目を閉じて動かなくなった柚枝に和海は微笑みかけた。そしてしばらく経ち柚枝の体が消失したことで和海の勝利が確定したのだった。
「うぐぅ…。」
左肩を手で押さえ苦痛に顔を歪める健太。それもそのはずだ。健太の左肩から下、つまり左腕が全て消し飛んでいるのだから。
「胸を狙ったつもりだったんですけど…反応速いですね。」
「一撃で終わらされてたまるかよ…。」
刀を拾い上げる健太に、再び弓を構える和海。そこで楓はあることに気づいた。
(あれ?石峰さんの刀が元に戻ってる。)
そう、健太の刀の大きさが元に戻っているのだ。
「あなたの相棒はやる気喪失ですか?」
「いや、俺が戻したんだよ。今の攻撃を見てこっちの方がいいと思ってな。」
そう言って、右手一本で刀を構える健太。しかし、明らかに剣先が震えている。
「初手のダメージが大きすぎるな…。」
楓の横で試合を見ている蓮がボソッと呟いた。健太の足元にはいつしか血溜まりが出来るほどの血が滴り落ちていた。
「勝負はついたと思うのですけど…?」
「悪いな…。俺は…諦めが悪いんだよ。」
健太は少しふらつきながらも剣を構え、真っ直ぐ和海を睨みつける。和海は小さくため息をつき、弓の弦へと指をかけた。
「じゃあ、私も遠慮はしませんよ?」
「当たり前だ。遠慮なんかしてみろ…。…ぶっ飛ばすぞ!」
額に汗を浮かべて叫ぶ健太に和海はクスリと笑い、力いっぱい弓を引いた。すると、さっき同様に青い光の矢が現れ、健太目掛けて飛んでいく。
(…速い!)
楓は目を見開いた。最初の一撃は、二人の距離が近すぎて攻撃のスピードを見切ることが出来なかった。しかし、今回は十分な距離がある状態での攻撃だ。まして、さっきと同様に矢を放つ本人は止まっている。正確に速度を測れると思っていた。しかし…。
「…は、速すぎて一瞬見失った…。」
楓の背中を冷や汗が流れる。手負いの健太でも何とか避けられているが、楓には万全の状態でも全て避ける自信は無かったのだ。
「どんどんいきますよ?」
「…くっ!」
弓を引いたままの姿勢から幾度となく連続で放たれる矢の嵐を必死でかわしていく健太。しかし、当然全ての攻撃をかわしきれる訳もなく、とうとう健太の体に光の矢が刺さってしまった。
「ぐわぁ…!」
健太の力ない叫びをかき消すように、次々に光の矢が襲いかかる。
…ドチャ!
「っ……!」
楓は思わず口を押さえ目を背けた。それだけ今の攻撃で健太が悲惨で惨い姿へと変わってしまったのだ。
「あの矢…。どれだけ威力があるんだよ…。」
楓の横では蓮までもが息を飲んでいる。そして、二人共が悟っていた。蒼井和海という女を甘く見すぎていたと。
「次…。どなたが相手ですか?」
健太の体が消えた事を確認すると、和海はそっと口を開いた。しかし、蓮は全く反応しない。そして楓も反応しなかった。いや、正確には出来なかったのだ。和海の驚異的な力の前に、楓の体は竦んでしまっていた。
「私がやるわ。」
そこで名乗りを上げたのは柚枝だった。柚枝はそのまま円の縁まで歩くと、試合前の体へと再生された健太と入れ替わるように円の中に入った。
(柚枝さん…。大丈夫かな。)
柚枝の戦うところは何度か見ている。しかし、魔法型の柚枝が全力で魔法を使っている様な場面に出くわしたことがなかった。つまり、楓は柚枝の本当の実力をまだ知らないのだ。
「早速始めましょう?」
柚枝はそう言って腰から小太刀を抜き、体の正面で構えた。
「随分と可愛い刀なんですね。」
「短いからってなめてかかると痛い目に遭うわよ?」
そっと手を上げながら睨み合う二人の目を交互に見た正隆は、手を振り下ろしながら試合開始の合図をした。
「始めっ!」
正隆の合図と同時に、腰を落とし体勢を低くした柚枝は、突きの構えをとり真正面から素早く和海との間合いを詰めにかかった。
「…このっ!」
柚枝の素早い動きに翻弄されつつも、和海は弓を引き柚枝に向かって矢を飛ばす。しかし、柚枝はその矢を完全に見切り刀も使わずに全てかわしていく。
「…す、凄い。」
真横からでも目で追いきれない程のスピードで襲いかかる矢は、正面から見るとまるで一瞬で自分の元へ飛んできているような錯覚を起こすほどのスピードに感じる。しかし、柚枝はその矢を全て見切りかわしているのだ。
「はあぁぁ!」
「…くっ!」
和海の懐へと飛び込んだ柚枝は、その短い小太刀を和海の胸元目掛けて振り上げた。
カンっ!
突如無機質な音を立て、柚枝の刀が止まった。柚枝の振り上げた刀は、和海の弓によって防がれてしまったのだ。
「まだよ!」
柚枝は屈んだ姿勢から地面を蹴り、縦に回転するように和海の頭上まで飛び上がると、体を逆さにした状態でもう一度上から刀を振り抜いた。
「甘いです!」
和海は弓を持ち上げ、再び柚枝の攻撃を受け止める。そして、勢いを殺しきれない柚枝を、そのまま弾き返してしまった。
「終わりです。」
空中で無防備な体勢になった柚枝に、和海が弓を構え矢を放った。もう避けきれない。楓がそう思った瞬間、柚枝の背中を分厚い氷が覆った。
カチンッ!
「!?」
和海が放った矢は、突如現れた氷によって弾かれたのだ。
「あれは…、属性魔法!?」
「危ない危ない。もう少しで串刺しになるところだった。」
属性魔法を初めて見たのか、和海の動きが一瞬止まる。その隙を見て、柚枝は腰の高さで再び刀を振り抜いた。
「そんな所で振ったって……えっ!?」
二人の間合いはとても刀が届くような距離ではなかった。まして柚枝の刀は小太刀だ。普通の刀よりも短い彼女の刀では全くもって攻撃になるような動きではなかった。だが、それは柚枝じゃなければの話だ。柚枝は自分の刀にマナを注ぎ、刃の形をした氷を和海に向かって飛ばしたのだ。
「こんなもの…。」
和海は放たれた氷の刃を真上に飛んでかわした。しかし、その場所にも既に氷の刃が迫っていた。
「…うぐっ!」
すかさずその刃を弓で受け止める和海だが、氷の刃が弓に当たった瞬間その弓ごと和海の両手を氷づけてしまった。
「それでもう弓は引けないわね。」
「……くっ!」
少し余裕を持った目で言う柚枝を、悔しそうに睨みつける和海。能力を解放しマナの最大量が増えた健太ですら勝てなかった相手をどんどん追い詰めている柚枝。しかし、その余裕も一瞬のものだった。
「……。」
「ん?」
黙り込んだまま両手を前に突きだし、弓を刀のように構える和海。そして次の瞬間、和海の体から大量のマナが吹き出した。
「な、何を…!?」
突然のことに戸惑いながらも刀を構え直す柚枝に向かって、凍りついた弓を構えた和海が全身からマナを溢れさせながら飛びかかった。
キンッ!キンッ!
和海の弓は柚枝の氷のおかげで凄まじい強度になり、柚枝の刀と斬り合っても全く問題ないみたいだった。
「はっ!…はあぁ!」
薙刀の様に左右から円を描くように襲いかかる弓をかわす柚枝。
「まさか、氷漬けにした事が裏目に出るとはね…。」
弓しか使っていないはずの和海だが、薙刀のようになった弓を使っている姿もなかなか様になっていて、楓にはうっすらと彼女がこの戦い方をするのは初めてじゃないような気がしていた。
「……。」
楓の心に不安が募っていく中、柚枝と和海は何度も何度もお互いの武器をぶつけ合っていた。しかし、時間が経つにつれ、和海の動きが段々と鈍くなってくる。
「体が凍らされているからな…。体の動きを制限されている分無理な体勢からの攻撃が多くなる。先にバテてくるのは当然だろう。」
再生された後、マナが回復するまで休んでいた健太がいつの間にか楓の隣まで来ていた。
「このまま行けば一条の方が有利だが…、もしもあの氷が無くなるような事があればどうなるか分からねぇな。」
「それって…。」
楓は視線を試合から逸らし、健太の方を見た。
「凍りついた弓だと振り回すくらいしか戦い方はねぇが、弓の能力が戻れば別だ。またあのバカみてぇに速くて威力の高い矢の嵐が始まる。」
「……。」
「さっきは運良く氷の盾で防げたが、今度はどうなるか…。」
視線だけ楓の方へと向けていた健太が、再び試合へと視線を戻す。楓がその後を追うように試合へと視線を戻したその時、武器をぶつけ合うだけだった二人の試合に動きが現れた。
バキンッ!
幾度となく柚枝の刀とぶつかり合った氷が砕けたのだ。
「!?」
「…よしっ!」
和海の弓や手から剥がれるように落ちる氷。弓が動くことを確認した和海は、すかさず柚枝から距離をとり再び弓を構えた。
「はあぁぁぁ!」
素早く弓を引き絞り、柚枝へと狙いを定める和海。その姿を見て、柚枝は咄嗟に自分の前に分厚い氷の板を出現させた。
「あなたの矢の威力じゃ、この板は貫けないわ。」
「そんなの…。やってみないと分からないじゃないですか!」
和海の言葉と同時に、弓から放たれた無数の矢が氷の板に襲いかかる。しかし、柚枝は見抜いていたのだ。和海の矢の威力では、本当に自分の氷は砕けないと。
「いくらやっても無駄よ。マナを使い切る前にやめた方がいいと思うけど?」
「この矢の嵐だと、あなたはその板の後ろから出る事ができないはずです。しかも、その板のせいでこっちの状況が飲み込めていない…。私の勝ちです。」
和海の言葉に柚枝は一瞬焦った。自分の出している板は氷で出来ているが透明ではない。つまり、今の柚枝には和海の姿が見えていないのだ。
「…何をする気なの?」
何があっても対応出来るように全身にマナを込める柚枝。途端に、襲いかかって来ていた矢の嵐がパッタリと止まってしまった。二人の間に全くの無音状態が続く。
「…終わりです。」
静寂を壊すように呟いた和海の弦を持つ右手が光り、真っ赤に染った矢がつがえられた。
「ゅっ……!」
思わず柚枝と叫んでしまいそうになった自分をギリギリのところで食い止める。自分たちは見ているだけの存在。どちらかに加担する訳にはいかないのだ。
バシュンッ!
弓から放たれた真っ赤な矢は、氷の板に向かって一直線に飛んでいく。そのスピードは今までの攻撃よりも遥かに遅く、この場に居る者なら誰でも余裕で避けられるほどの速度しかない。しかし、それは同時に速度を殺した分威力が増しているという意味でもある。
(多分、柚枝の氷じゃあの矢は止めきれない…。)
楓は直感でそう思った。しかし、柚枝はまだ動きを見せない。迫り来る矢が板に突き刺さろうとしたその時。
パチンッ!
和海が微笑みながら指を鳴らした。すると、その音に反応した矢が一気に膨張し、板のすぐ側で大爆発を起こしたのだ。
「「「!?!?」」」
その場で見ていた全員の顔が強ばる。かなり離れた楓達の所にまで爆風が襲ってくるほどの威力だ。楓は爆風の中、目を凝らして柚枝の姿を確認する。
「…っ!!」
さっきまであった氷の板は粉々に吹き飛び、柚枝の体は遥か後方で力無く倒れ込んでいた。
「久しぶりに使った技だったんですけど、上手く発動出来て良かったです。」
ほっとした表情で構えた弓を下ろす和海。しかし、体に違和感を覚えて下を見た和海は、自分の足元が凍らされていることに気づいた。
「…なっ!?」
「はあぁ!!」
足元に気を取られている和海の隙をついて、素早く起き上がった柚枝が氷の斬撃を放った。和海は弓を構え、氷を射ち落とそうとするが、今度は柚枝自身が和海の後ろへと回り込み、和海の背中を切りつけた。
「うぐぁ!」
「終わりよ!」
切りつけられた衝撃で、弓を引けなかった和海。今から弓を引いても間に合わない。誰もが柚枝の勝ちを悟った。だが…。
「言いましたよね?私の勝ちだって…。」
突然、和海の弓が光出し、弓の両端に鋭い刃物が現れた。和海はすかさず片方の刃で氷の斬撃を斬り砕く。すると…。
ザクッ!
「うぐっ!」
斬撃を斬り砕いたと同時に、もう片一方の刃が柚枝の胸元へと突き刺さったのだ。
「かはっ……!」
口から血を吐き出し、力無く和海の体へと倒れかかる柚枝を、和海はそっと受け止めた。
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