アナザーワールド

白くま

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国外遠征編

第二十五話 〘裏切り……?〙

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 楓は静かに目を閉じ溢れ出すマナを体のまわりに留め落ち着かせる。

(とりあえず20パーセントくらい血を吸って。)
【分かった。】

 做夜とのやり取りを終えると、一瞬楓のマナが少し減り、再びさっきの1.5倍ほどに膨れ上がった。

「クソっ!まだ増えるのかよ。」

 バロンは苦笑いでそう言った。今の時点で、目に見える楓のマナはバロンよりも遥かに多い。スピードや反射神経なども強化されているなら、自分に勝ち目はないと考えたのだろう。

「……。」

 黙ったまま刀を構えた楓は地を蹴って、バロンとの距離を一瞬で詰める。

「っ…!?」

 楓が振り抜いた刀を、ギリギリのところでかわすバロン。しかし、2度、3度と振られる刀を避け続ける事は出来なかった。

「ぐわぁぁ!」

 肩、胸、二の腕、背中、バロンの体に一つづつ傷が増えていく。

「これで終わり…!」

 背後に回り込んだ楓は、バロンの背中に向かって刀を突き出した。しかし…。

キンっ!
 
 突然、物陰から飛び出してきた何者かによって、その刀は弾かれてしまった。

「あぶないあぶない…。間に合って良かったよ。」
「あ、あなたは…!」

 楓の前に現れたのは、赤い髪と赤い目が特徴の吸血鬼、レオンだったのだ。

「ごめんね。撤退の指示をしようとこっちに来たら、バロンが殺されそうだったから、つい割って入っちゃった。」

 ヘラヘラとした表情で言うレオンに、楓は問い立てる。

「撤退?折角いい所まで攻めてるのに、なんで今更撤退なの?」
「何?ボク達に帰って欲しくないの?」
「帰ってくれるならそうして欲しいけど、何でか気になったのよ。」

 至近距離でいがみ合う二人。しかし、しばらくいがみ合うと、レオンは小さくため息を吐いて楓から1歩離れた。

「ボク達の目標が達成出来たから撤退するんだよ。」
「だから、その目標って…。」

 レオンに詰め寄ろうとして、楓はふと視線を周りに向けた。楓の後方には白、目の前にはレオンとバロン。しかし、その奥にもう1人…。

「まさか…その人も吸血鬼?。」
「そうだよ。」

 バロンの後ろに居たのはカルマだったのだ。つまり、健太と柚枝が居ない状態で、目の前に敵の主力が全員集まっているのだ。1人でも精一杯な相手が3人も目の前にいる状況に、楓の足はガクガクと小刻みに震えだした。

「大丈夫。アンタ達が何もしなければボク達は何もしないから。」
「どういう事?」
「言ったよね?目標は達成したって。これ以上戦うのは無意味なの。」

 レオンはズイっと楓に顔を近づけると、ニコッと笑って身をひるがえした。

「ねぇ…。私と同じ服を着た人があと二人居たでしょ?その人達は?」

 俯いたまま楓が静かに問うと、カルマがそっと楓に近寄り口を開いた。

「男の人なら私と戦った後、どこかへ行ったわ。女の方は知らない。」

 そう言って、元居た方へ振り返るカルマの腕を、楓は咄嗟に掴んだ。

「なんで…?」
「何がよ?」
「なんでもう1人が女だって分かったの?」

 楓の問いにカルマの顔がひきつる。しかし、楓はそんなカルマの腕を掴む力を容赦なく強めた。

「ちょっと…!痛いんだけど。」
「答えて…!誤魔化したのは何!?柚枝を知ってるなら、今どこなの!」

 楓の手に更に力が入る。だがその瞬間、楓の首筋に冷たい何かが押し当てられた。

「落ち着いて。」
「うっ…。」

 楓には前にも似たような感覚があった。柚枝と初めて会った時、首筋にナイフを突きつけられた感覚と同じなのだ。

「その子の腕を離して。そうしたらちゃんと話してあげるから。」

 殺気のこもったレオンの声に、楓は従うしか無かった。カルマの腕を離したのを確認すると、レオンは楓の首筋からナイフを離し状況を説明し始めた。

「アンタの仲間の…一条柚枝だっけ?その子ならボク達が預かってる。」
「!?」

 衝撃的な一言に楓の思考が一瞬止まる。

「柚枝があなた達の誰かに負けたってこと…?」
「うーん。厳密には違うかな。あの子が自分から来たの。」

 レオンの更なる一言に再び衝撃が走る。

「柚枝が自分で?何で……。」
「やっぱり知らなかったんだね。」

 レオンは同情するような視線を楓に向けた。

「何が?」
「一条柚枝は吸血鬼よ?」
「………え?」

 楓の思考が完全に止まる。レオンは、今までずっと一緒に戦ってきた仲間が実は吸血鬼だというのだ。楓の頭に今まで見てきた柚枝の顔が次々と思い出されていく。

「そんなわけ…。」
「ユリエル・ブランシュ。それが彼女の本名。正真正銘、吸血鬼に変りないわ。」

 レオンの言葉を聞き、絶望した楓はその場に膝を折った。

「じゃあ、柚枝は…私達を裏切ったの?」
「それも違う。裏切ったんじゃない。最初から仲間じゃなかったんだよ。」

 レオンははっきりと言い切った。楓の中で柚枝という人間の存在がどんどんと壊れていく。

「うぅ…ぐすっ…!」
「ごめんね。まだまだいろいろと聞きたいことがあるかもしれないけど、ボク達もう行かなくちゃ…。」

 泣き崩れる楓の肩にそっと手を置き、レオンが呟く。

「アンタ達人間にこれだけの事をして、ボク達はどうなるか分からない。でも、あの方の命令は絶対だから…。」
「あの方って誰なんですか?」

 レオンの言葉に、後ろで黙っていた白が食いつく。レオンとの距離を詰めようとする白に警戒するカルマとバロンに目配せをし、構えを辞めさせると、レオンはにっこり笑って白に言った。

「ボク達の親的な存在かな?んー。黒幕?親玉?まぁ、そんな感じ。」
「じゃあ、今回の指示は全部その人が…。その人って一体…。」

 白が次の言葉を発しようとしたその時、レオンは掌を白に向けて、一瞬とてつもない殺気を発した。

「……。」

 強烈な殺気に当てられ白は口を閉ざす。

「そこまでだよ。それ以上アンタ達は知る必要ないから。」

 そう言ったレオンはその身を翻し、地面に何か魔法陣を描き始めた。複雑に動く指先が、1分という長い時間を掛けて書いた魔法陣は、一瞬目が眩むほど激しく光り…。 

「あれ…?」
「おい。どうなってんだよ?」

 光だした魔法陣は粉々に割れ、塵になるように姿を消した。

「なんで?こんな事…初めてなんだけど。」

 レオンはもう一度同じ様に魔法陣を描き起動させる。しかし結果は変わらず、光だした魔法陣は再び塵となって消えた。次第にレオン達の焦りが大きくなる。すると…。

「ねぇ?何、これ?」

 カルマが中に浮かぶ怪しげな球体を見つけた。

〘諸君、ご苦労だった。〙
「そ、その声は!?」

 突如球体から発せられた男の声。その声を聞くと、レオン達は素早くその場に膝をついた。

〘君達の活躍で、無事にユリエルをこちらに戻すことが出来た。本当に感謝する。〙
「いいえ。それがボク達の仕事だったので。」

 膝をつき頭を下げたままレオンは言う。恐らく、この球体を通して喋っているのがあの方なのだろう。

「それより、帰還ゲートを開ける魔法陣が起動しないんですが、どうなっているんですか?」

 レオンがそっと顔を上げて問う。

〘帰還ゲートは私が閉めたんだよ。〙

  冷徹な程冷たさを感じさせるような声で男は言った。

「な、何故ですか!?」

 レオンは慌てて問い立てた。レオンだけじゃない。カルマとバロンも驚いた表情で球体を見上げていた。

〘何故かって?ふふふっ…、私の計画はユリエルが居れば達成出来る。君達はもう必要ないんだよ。〙
「な…!?」

 突然の用無し宣言に言葉を失う3人。しかし、男の言葉はまだ続いた。

〘確かに君達は、吸血鬼の中では高い戦闘力を持つ。圧倒的な破壊力を持つ者、他を寄せつけぬ速力を持つ者、何者にも傷付けられない耐久力を持つ者、皆1つは秀でた力を持っている。実に有能な人材だ。〙
「だったら…なんで…。」

 絶望、戸惑い、不安。様々な感情が入り交じった表情で、レオン達は球体を見上げていた。

〘ただ単純に、ユリエルはその全てを持っている。彼女が1人居れば十分だ。〙

 次々と冷酷な言葉を吐く男に対し、楓も怒りに震えていた。

「なんで…。」
〘ん?〙
「なんで仲間をそんなに簡単に見捨てられるの!」

 吸血鬼の問題に対して、人間である楓が怒ったことに戸惑うレオン達。しかし、そんな事はお構いなく、楓はまくし立てるように次々と言葉を吐いた。

「仮にもこれまで自分のために尽くしてくれた人なんでしょ!?なんでそんな簡単に必要ないとか言えるの!こんなシチュエーション2次元で見るには全然良かったけど、目の前で見せつけられると、胸糞悪くて仕方がないわ!」

 柚枝の事と、目の前で起こっていること、同時に起こった2つの出来事が楓の怒りを爆発させた。

「そもそも、柚枝が自分からそっちに行ったっていうのもまだ信じてないから。私は、柚枝を信じてる。柚枝のあの笑顔は嘘じゃないって信じてるからっ!」

 楓は怒りに任せて球体を怒鳴りつける。すると、球体は「好きにしろ。どうせ君達は何も出来ない。」とだけ言い残し姿を消してしまった。
 目の前には親玉に見捨てられた吸血鬼が3人。あの口ぶりだと、その他の吸血鬼も見捨てられたと見て間違いないだろう。呆然としているレオン達の顔を見ながら、これからどうするべきか頭を抱える楓だった。
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