アナザーワールド

白くま

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最終決戦編

第三十話 〘それぞれの思い〙

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 目を覚ますと、目の前には前にも見た真っ白な天井が目に入った。楓は警務隊の医務室で寝かされていたのだ。そっと首を動かし、隣のベッドを見る。しかし、今回は柚枝の姿はない。

「気がついた?」
「彩夜さん。…はい。もう大丈夫です。」

 心配そうに部屋を覗く彩夜に、楓はそっと微笑んだ。

「よかったぁ~。急に倒れちゃったからびっくりしたんだよ?」
「ごめんなさい。何か、急に意識が遠のいちゃって…。」
「それは多分、マナの量が急激に増えたからだよ。」

 彩夜の後ろから覗き込むようにレオンは言った。

「楓の体は、楓のマナの量に耐えられるだけの耐久値しかない。そんな体に、サクヤ一人分のマナを上乗せしたりなんかしたら……ね?体が耐えきれないのも無理はないわけ。」
「そっか…。」
「二日意識がないだけならまだ良いほうじゃない?死ぬ危険もあるんだから。」

 レオンはそう言うと、ベッドに座っている楓にそっと抱き着いた。

「え!?ちょっ…!レオン!?」
「ごめん。少しこのままで居させて…。」

 楓は諦めて、ぎゅっと抱きついて離れないレオンの背中に手を回してぎゅっと抱き寄せた。

「どうしたの?」
「このマナ…。懐かしくて…。」

 レオンの声は少し震えていた。恐らく、サクヤと同じマナを感じて泣いているのだろう。それくらい、サクヤの事が好きだったのだろうか。

「ボク…、サクヤの事大好きだったんだ…。でも、サクヤが封印されて、よりにもよって大嫌いなアンロックがトップに立った…。言うこと聞くのは嫌だったけど、そうしないと生きていけないから、仕方なく指示に従ってたの。」
「そう…。」
「でも、これからは違う。これからはサクヤの……、ううん。楓の指示に従う。そして、全てが終わったら、罪を償ってどんな罰でも受け入れる。だから……。だから、せめてそれまでの間ボク達を見捨てないでください…。」

 楓の胸に顔を押しつけ、更に強く抱きしめるレオン。同族に見捨てられた事のショックからまだ立ち直れていないのだ。楓はそんなレオンに同情し、背中をそっとさすった。

「大丈夫。私はレオン達が人間に刃を向けない限り、見捨てたりなんかしない。だから安心して。」
「…うん。ありがとう。」

 二人はしばらく抱き合ったままだった。
 程なくして、医務室にバロン、カルマ、シャーロット、白の四人も集まり、合流した楓達は再び北西の丘に向かうのだった。

「じゃあ、始めるよ?」

 レオンが帰還ゲートを開けるための魔法陣を描き、白がその魔法陣に転移魔法をかける。そして、性質を変化させた帰還ゲートをバロン、カルマ、楓の三人でこじ開ける。

「做夜…。」

 先に力を加えたバロンとカルマ。しかし、当然ながらゲートはピクリとも動かない。そこに、楓がそっと手を触れマナを解放した。そして…。

「……。」

 目を瞑りゲートにマナを注ぎ込んだ。すると、転移魔法によって歪みが生じていた帰還ゲートの扉は、楓の膨大なマナによって徐々にひび割れ、音を立てて崩れていく。そして、扉を無くしたゲートには、歪んだ空間が広がっていた。

「この中に入れば向こうの世界に行けるはず。でも、向こうに行けばきっと激しい戦いが待ってると思う。だから、向こうに行けるだけの戦闘能力を持った者だけで行かないと…。」
「そんなの決まってるだろ。」

 レオンの声をかき消すように、突然背後から声がした。楓達が振り返るとそこには、警務隊遠征局第一部隊、第二部隊のメンバーが全員顔を揃えていたのだ。

「俺達が行かなくて他に誰が行くんだよ。」

 先頭の蓮が親指で自分の顔を差しながら告げる。他の人達も任せろと言わんばかりの面持ちで楓の顔を見ていた。

「せっかく準備してきたのに、戦力外なんて言われたら泣きますよ?」

 そっと弓を掲げて、和海もスクリと笑った。

「みんな…。改めてよろしくお願いします。」

 楓はみんなの方へ向き、深く頭を下げた。

「馬鹿か!これは俺達の問題なんだよ!だったら今この場でトップの俺が頭下げるべきだろ!何お前がトップ面してんだ!」

 楓の頭をパシッ!と叩きながら蓮は言った。そして楓の隣に並ぶと、同じように深く頭を下げた。

「恐らく、人生の中で最も危険な任務になると思う。死者も出るだろう。だが、どうか力を貸して欲しい。仲間である一条を取り返し、俺達の生活を再び平和なものにするために。」

 蓮は言い終わるとより一層頭を深く下げた。

「当たり前でしょ?柚枝は私達のチームメイトなんだから。」
「そうですよ?私は柚枝さんとは関わりが浅いですが、同じチームになった時点で、特別な存在です。」

 彩夜、和海を初めに次々とそんな声が聞こえてくる。

「いいなぁ。仲間思いのリーダーで…。」

 そんな楓達をどこか遠くを見るような目で眺めるレオン達。その視線に気づいた楓は、レオン達の方を振り返りそっと微笑んだ。

「私にとっては、レオン達も特別な存在だよ?」
「ボク達…も?」
「だって、今は吸血鬼でもあるんだもん。レオン達と同じ血が通ってる仲間として、これからもよろしくね?」
「…楓。」

 楓の言葉に目をこすり始めるレオン。

「あれ、おかしいな…。この頃涙腺が言う事聞かない…。」

 拭いても拭いても溢れてくる涙を必死で拭うレオンの頭を、楓はそっと撫でた。

「秋月。ほっこりするのも良いが、それは全てが終わってからだ。」
「あ、はい。…そうですね。」

 蓮に言われレオンの頭から手を下ろし、楓はゲートを覗き込んだ。

「もう、行けそうか?」
「はい。いつでも大丈夫です。」

 楓の返事に頷いた蓮は再びみんなの方を向き、凛とした張りのある声で全員に告げた。

「この戦いに負ければ、俺達に未来はない!人類の未来の為に今一度力を貸してくれ!」

 勢いのある声によって、その場の空気までもが張り詰める。

「覚悟と自信のある者だけでいい。俺に付いてきてくれ。」

 蓮はそう言うと拳を固め頭上に掲げた。そして、その姿を見た楓を含む他のメンバー計十四人も、拳を高く上げ蓮の意志に賛同するのだった。
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