アナザーワールド

白くま

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最終決戦編

第三十一話 〘侵入…。〙

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 帰還ゲートへ入った楓達は歪んだ空間を抜け、薄暗い森の中に出た。

「レオン。今居る場所って分かる?」
「うん。ここは、ボク達のアジトだったサン・アンピールの少し南にある森だよ。」

 レオンはそう言って北の方角を指さした。サン・アンピールを日本語に訳すと血の帝国。まさに、吸血鬼の国といったところだ。

「他の吸血鬼は?」
「まだ居るよ。ボク、ふと考えてみたんだ。何で今回こんなにもの吸血鬼を見捨てたのかって。アンロックとしても、ここで戦力を削ぐのは得策じゃないからね。」

 歩きながらレオンは話す。確かにそうだと楓も思った。レオン達は強い。1人で人間を何人も相手出来るくらいに強い。しかし、そんな貴重な戦力を何人も見捨てたのだ。

「何か理由が…。」
「そう。理由…あったんだよ。」
「…え?」
「実はここに居る4人とも、元サクヤ派だったんだ。」

 レオンは他の3人を見渡した後、楓の顔を見た。つまり、アンロックは自分の派閥ではないレオン達を人間界に送り出し、楓達と戦わせ、あわよくば殺そうと思っていた。しかし、レオン達は死なず、サン・アンピールに帰って来そうになったため、帰還ゲートを閉じて帰れなくしたとういうわけだ。

「元々いい印象は無かったけど、ここまでクズいとは思ってなかった。」
「そんなもんだよ。弱い派閥は、どうやっても生き残れない。サクヤが居なくなってから、ボク達に居場所なんて無かったんだ…。」

 レオンの表情が一気に暗くなる。しかし、そんなレオンの肩をトントンと叩きながら楓は言った。

「大丈夫。アンロックを倒しに来てるんだから、そんな心配すぐに要らなくなるよ。」
「楓…。」
「全く…。誰を倒すって?」

 突然聞こえてきた声に、その場の全員が身構える。

「1人、2人、3人、…15人。こんなに沢山ゾロゾロと、物凄く迷惑なんだけど?」

 木の枝に立っている少女は、楓達を見下ろして一人づつ数を数えた。

「悪いな。だが、俺達の仲間を拉致って行ったお前らの方がよっぽど迷惑だがな?」

 蓮は集団から一歩足を踏み出し、少女を睨みつける。

「あらあら。ユリエルは自分からこっちに来たのよ?それを、あなた達から奪ったみたいな言い方しないでもらえる?」

 蓮を見下しほくそ笑む少女。しかし、その背後に忍び寄るひとつの影が…。

「っ…!」

 少女の背後から伸びる腕が首元を掴み、その胸にナイフが突き立てられる。

「…レオン!」
「悪いけど、今はアゲハに構ってる暇ないんだよね。」

 突き立てたナイフが胸へと刺さり、アゲハと呼ばれた少女の体を傷つける。だが…。

「ぬ、抜けない…!?」

 突き刺したナイフを抜こうと全力で引っ張るレオンだが、ナイフはアゲハの胸元からピクリとも動かない。

「まさか…。筋肉だけで止めてるの?」
「レオンの攻撃で最も警戒するべきなのはこのナイフだからね。先に封じさせてもらったの。」

 胸元にナイフが刺さった状況でも、アゲハはクスクスと笑っていた。

「…壊れてる。」

 楓の口から漏れたその言葉は、紛れもない楓の本心だった。普通であれば致命傷になる場所に攻撃されて、彼女は笑っているのだ。

「さぁ、抜いてごらん?さぁ…、さぁ!」

 レオンにじわじわと歩み寄り、アゲハはその胸をレオンに向かって押し返す。もちろん、傷口からは赤い血が流れ、アゲハが着ている服を真っ赤に染めている。しかし、そんな状況でもアゲハは動じずに、むしろレオンを挑発するような態度をとった。

「なんであなたが後ろへ下がるの?そのまま押せばいいじゃない?そしたら、もっと深く刺さるよ?」

 そう言って、一歩、また一歩、アゲハはレオンに歩み寄る。しかし、レオンの手にはもはや押し返す力など入っていなかった。アゲハのその狂気じみた態度で、完全に竦み上がってしまっていた。

「………はぁ。」

 アゲハは短くため息をつくと拳を握りしめ、レオンの腹を殴った。

「…うぐっ!」

 体が浮き上がるほどの衝撃が、レオンの腹に直撃する。レオンはその衝撃に耐えかね、その場で膝を織ってしまった。

「こんなもの?元・あの方様専属の護衛だったって聞いてたから期待してたけど、こんなのだったなんて拍子抜けね。」

 レオンの胸ぐらをつかみ、無理やり立たせる。そして、ガラ空きの腹部に今度は蹴りを放った。

「あがっ……!」

 まともに蹴りをくらったレオンはそのまま吹っ飛び、数十メートル先の木に激突して、そのまま動かなくなってしまった。

「レオンっ!」
 
 楓は刀に手をかけ身構えながらも、レオンの方へと目を向けた。しかし、レオンはうつ伏せで倒れたまま動かない。

「はぁ…。痛かった。」

 アゲハは胸からナイフを抜くと、傷口にそっと手をあてた。すると、手から溢れるマナによって、胸の傷口は完全に閉じてしまった。

「化け物なの?」
「仲間だった人の能力を化け物扱い?あなた達は何度も見てるはずだけど?」

 アゲハの言葉でふと気づく。楓は今の能力を何度も目にしていた。そう、この能力は…。

「柚枝…。」
「大正解!まぁ、完全に一緒ってわけじゃないけど、同じ能力なのは確かよ。あの子から分けてもらったんだから。」

 アゲハはそう言うとレオンから奪い取ったナイフを構え、今度は楓に襲いかかる。振り下ろされたナイフを刀で弾き、反撃に転じる楓。しかし、あと少しというところで、楓の刀も何者かによって弾かれてしまった。

「な、なに!?」

 楓は慌てて飛び出してきた人物の正体を確認する。すると、アゲハと並ぶように銀髪の男が立っていた。

「おい、アゲハ。さすがにこの人数差だと厳しいだろ?」
「別に。今の力があればこんな奴ら何ともない。」
「嘘つけよ。さっき、割と危なかったじゃねぇか。」

 アゲハの言葉に笑い飛ばす男。

「何者?って聞かなくても吸血鬼だってことは分かるんだけど…。とりあえず聞くわ。あなた、何者?」
「俺か?俺の名前はフェイク・ジゼル。ここに居るアゲハ・クラリスと同じサン・アンピールの幹部だよ。」

 フェイクはそう言ってニコッと微笑んだ。

「出だしから幹部が2人も…。」
「ねぇ、楓。ここは私達に任せてくれない?この二人なら何とかなると思うから。」

 楓がどうするか考えていると、後ろから歩み寄っていたカルマがそう告げた。

「でも、レオンが敵わなかった相手だよ?」
「大丈夫。レオンの意識も戻ってるし、3対2ならこっちが有利だと思うから。」
「俺達を信じてくれ。」

 カルマとバロンの強い視線に楓は頷いた。しかし、相手の力量が分からない以上、絶対に勝てる保証もない。

「気をつけてね。」
「分かってる。」

 楓に返事をすると、フェイクとアゲハに同時に襲いかかった3人。だが…。

「うぐっ!」
「…かはっ!」
「うわぁっ…!」

 敵2人の戦闘力には敵わず、後方まで吹き飛ばされてしまった。

「何度やっても一緒。あなた達が居ない間に、私達はパワーアップしてるの。あなた達じゃ、今の私達には絶対に勝てないわ。」
「じゃあ、俺達も追加したら勝てそうか?」

 腕を組んで言い放つアゲハの真上から大斧を振り下ろす健弥。ギリギリのところで斧をかわしたアゲハに、今度は希の赤い槍が襲いかかる。

「くっ…!」

 その槍をナイフでなんとかやり過ごすアゲハ。しかし、その背後から瑞姫が短刀を突き立てる。

「うぐっ!」
「後ろが疎かねぇ。」

 瑞姫は引き抜いた短刀を再びアゲハの体へと突き立てる。

「ぐふっ…はぁ…はぁ…。」

 背中や肩を刺され、アゲハは呻き声を上げながらよろめく。

「大丈夫か!?」

 慌ててフォローに入ろうとするフェイクだが…。

「たあぁぁぁぁ!」
「はあぁぁぁぁ!」

 動き出したフェイクの体を前後から千紅沙の双剣と悠祈の片手剣が襲う。

「クソっ!」

 間一髪で真上に飛び上がり、フェイクは二人の攻撃をかわした。

「俺の事、忘れるなよ?」
「なにっ!?」

 飛び上がったフェイクの真上には、右足を天高く振り上げてフェイクを見下ろすバロンの姿が。

「これでも食らえぇぇー!」
「ガハッ…!」

 バロンの放ったかかと落としがフェイクの首筋に直撃し、フェイクの体は勢いよく地面へと叩きつけられた。

「はぁ…はぁ。」
「秋月、今だ!ここは俺達に任せて、お前らは先を急げ!」

 斧を構えアゲハと対峙する健弥が、少しだけ振り返って叫んだ。

「行かせない…。」
「待てよ…。お前の相手は俺だ。あいつの後は追わせねぇぞ?」

 サン・アンピールへと向かおうとする楓を追いかけようとしたアゲハの進路を健弥が塞ぐ。

「どきなさい!」

 横一文字に振ったアゲハの腕からは衝撃波が発せられ、その場に居た者を吹き飛ばした。そして、アゲハはその場から跳躍し、一気に楓との距離を縮めようとした。

「!?」

 しかし、突如繰り出された斬撃がアゲハの進路を塞いだ。咄嗟に体を止めたためアゲハの体には当たらなかったが、アゲハからほんの数十センチほど前方には、巨大な裂け目が出来ていた。

「言っただろう?追わせねぇって。」

 裂け目の向かい側には、仁王立ちで斧を肩に担いだ健弥が立ち塞がる。

「お前ら!気を引き締めろ!追わせねぇのは最低目標だ!ここでこいつらをぶっ潰すぞ!」

 走って先を急ぐ楓の後方からは、健弥による気合いの掛け声とそれに反応した他の者達の叫び声が聞こえてくるのだった。
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