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最終決戦編
第三十三話 〘複雑な別れ〙
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楓が先へ進んだ後、健弥達と少し離れた場所に居たレオン達は、アンロックの手下であるフェイク・ジゼルと対峙していた。
「アンタ1人で、ボク達3人を相手に出来るの?」
「ナメるなよ?以前は確かに俺の方が弱かった…。だが、お前達が人間界に行っている間に、俺の力は飛躍的に強くなった。今では、お前達3人くらい片手でも十分なくらいだ。」
そう言って、右手をヒラヒラと振るフェイク。レオンの背後では、フェイクの態度に機嫌を損ねたカルマが体からマナを溢れさせていた。
「私、人間界で死にかけたの。私の体質知ってるわよね?」
「あぁ。命に危険が及ぶ度にマナの量が増えて、能力が強化されていく…だろ?」
何を今更と言わんばかりに鼻で笑うフェイクを睨みつけながら、カルマはフェイクの前まで歩み寄った。
「強化されたのは貴方だけじゃないの。」
「ふんっ!人間ごときに殺されかけた奴が、いくら強化されても俺には勝てねぇよ!」
フェイクは素早く腰を落とし、カルマの足を払い真上に蹴りあげる。凄まじい威力で切り上げられたカルマの体は空中で何度か回転し、フェイクの目線まで落下する。
「はあぁ!」
再びフェイクの蹴りが炸裂し、今度はレオンの真横をかすめるように吹き飛ばされたカルマの体は背後にある木を何本もなぎ倒してようやく止まった。
「はい。まずは1人終了。」
ニヤリと笑って木々の残骸を見ているフェイクだが、レオン達は顔色ひとつ変えなかった。
「どうした?まさかの事態に反応すら出来ねぇか?」
「ううん。そんなヤワな攻撃じゃ、カルマにはダメージ入ってないだろうなぁって思っただけ。」
フェイクに一瞬だけ同情するような視線を送ったレオンは、やっとカルマが飛ばされた方向を見た。すると、重なるようにして倒れている木々を押しのけ、何事も無かったかのようにカルマが立ち上がった。
「うーん。ちょっと痛かったかな。」
ボロボロになった上着を脱ぎ捨て、七分丈のパンツとTシャツというラフな格好になる。そして、カルマはそのまま地面を蹴りフェイクとの間合いを詰め、その顔面に全力で蹴りを放った。
「……うっ!」
顔を腕でガードしたフェイクだったが、反動でそのまま数メートル後ろに飛ばされる。体勢を立て直し、次の攻撃に備えるフェイクの背後から、今度はバロンの回し蹴りが炸裂した。
「がはっ!」
フルパワーのバロンが放つ蹴りをまともに食らってしまったフェイクの体は、カルマ同様に木々をなぎ倒しながら吹き飛んだ。
「こんな…はずは……。」
口についた血を拭いながらフラフラと立ち上がるフェイクに、バロンは再び蹴りを放つ。しかし…。
「俺を……ナメるなって言ってるだろ!」
突然、フェイクの体から大量のマナが吹き出し、バロンの蹴りを片手で受け止めてしまった。
「なっ…!?」
慌てて足を戻そうとするが掴まれた足はフェイクの手から離れず、そのまま力強く引き寄せられてしまう。
「クソっ!」
引き寄せながら拳を構えるフェイクに、バロンは最大限の防御態勢をとった。
「うおぉぉぉ!」
突き出されたフェイクの拳は、ガードしたバロンの腕に直撃した。その瞬間、バキッという鈍い音をあげながら、バロンの体は物凄い勢いで地面に叩きつけられた。
「ぐわぁっ!」
「バロンっ!」
カルマは咄嗟に駆け出しフェイクの腹部を蹴り上げ、バロンの救出を試みる。
「なんだよ…。その生ぬるい蹴りは。」
しかし、カルマが放った蹴りは、フェイクの左手によって簡単に受け止められてしまう。
「このっ!」
すかさず体をよじり、反対の足でフェイクの首元を蹴りあげる。しかし、その攻撃も受け止められ、カルマは両足を掴まれてしまった。
「これで何も攻撃できねぇな。」
「そんな事ないわ…。」
ニヤリと笑うフェイクを睨みつけて、カルマは拳にマナを集中させる。そして、フェイクの腹部めがけて全力で突き出した。
「ぐふっ!」
「どう?これでもまだ………え?」
悶えるフェイクにもう一度攻撃しようと、拳を構えたカルマの動きが止まる。今の攻撃を食らって悶えていたはずのフェイクが笑っていたのだ。
「本当に残念な奴だなぁ。全力の攻撃が全く通用しねぇんだから。」
カルマの足を掴んで宙ずりにしたまま、フェイクはクスクスと笑う。
「あまりにも可哀想だから、最後に教えておいてやるよ。」
「な、何を?」
聞き返すカルマに不気味な程の笑みを浮かべたフェイクは、掴んだ足を天高く持ち上げた。
「…本当の攻撃ってやつだよ。」
「……!?」
狂気に満ちたフェイクの目に、カルマの背中を冷や汗が伝う。もがいても抜けない足。手を伸ばせば届いてしまう距離で、自分の攻撃は相手に通用せず、相手の攻撃は恐らく致命傷になりかねない。
「まずは蹴りだ。よーく見てろ?これが本当の蹴りってやつだッ!」
フェイクの右足がカルマの腹部にめり込み、内蔵を押し上げる。
「うぐあぁぁぁ!」
激痛と共に嘔吐感が込み上げ、咄嗟に手で口を塞ぐ。
「まだまだだぜ?今度は突きだッ!」
悶えるカルマに、今度はフェイクの拳が襲いかかる。その瞬間、カルマの脇腹から何かが潰れるような鈍い音が鳴り、口から大量の血が吹き出した。
「おぉー。今のはいい感触だったぜ?何かの内臓が潰れたな。」
「かはっ!…はぁ…はぁ…げほっ!………ふふっ。」
血を吐き、嘔吐くカルマは、掠れる意識の中フェイクの後方を見て少し微笑んだ。
「何だよ。死にそうになって遂におかしくなったか?」
「死ぬ?ふふふっ…。私は…死なないわ。死ぬのは……貴方よ…。」
「フンッ!ほざいてろ!直ぐに楽にしてや……うぐっ!」
フェイクの言葉は、突然襲った背中への痛みによって中断された。
「な、何だ!?」
「貴方…。気づかなかったでしょ…?この場から、レオンが消えてる事に。」
喋る度に込み上げてくる嘔吐感を抑えながら、カルマ言葉を続ける。
「私達は…ただの時間稼ぎ…。貴方が本気を出した時、私達じゃ勝てないと思って……げほっ!げほっ!」
言葉の途中で、カルマの口から再び血が溢れ出す。
「カルマ!もういい。喋らないで。」
フェイクの背後から歩み寄るレオンが叫ぶ。
「お前…。ふふふっ。あーはっはっはっ!そのまま隠れて逃げ回っていればいいものを!今更出てきてどうするつもりだ!」
ぐったりとしたカルマを投げ捨て、レオンに襲いかかるフェイク。しかし、フェイクの放った突きを、レオンは容易く受け止めた。
「なっ…!?」
「何?こんな力で威張っていたの?ボクごときに簡単に止められるような、こんな力で。」
煽るように言い放つレオンに、苛立ち出すフェイク。
「たかが1回受け止めたくらいで、調子に乗るんじゃねぇー!!」
再び拳を振り上げるフェイクだったが、突然体の動きが止まり、その場で膝をついてしまった。
「な…何だ、これは…。」
「ボクの戦い方、まさか忘れた訳じゃないよね?」
「ま、まさか!?」
レオンは片手でナイフをクルクルと回しながらニッコリと笑った。
「最初の背中への一撃で、アンタの体に毒を仕込んだの。まぁ、初めて使う毒だったから効くかどうかは賭けだったけど…。」
そう言ってフェイクの目の前にチラつかせた小瓶には、紫色の液体が入っており、蓋には〘獅噛製。飲んじゃダメ✩〙と書いてあった。
「即効性の強力な毒で対象の筋肉を麻痺させて動きを封じるものなんだけど、アンタがタフ過ぎて効き始めるまでかなり時間かかっちゃった。」
ポケットに瓶をしまい別の瓶を取り出すと、蓋を開けて中身の白い液体をナイフに垂らすレオン。
「相変わらず、色々と持ち歩いているんだな。」
「当たり前じゃん。相手によって使う毒を変えるのは常識だし。」
そう言って、白い液が滴るナイフをフェイクの首筋に押し当てるレオンに、フェイクは観念したように目をつむった。
「なぁ。ひとつ聞いていいか?」
「何?」
「さっき一瞬アゲハと戦っていた女、サクヤに雰囲気が似ていたな。」
フェイクはそっと目を開くと、どこか遠くを見るような目でそう言った。
「一瞬?……あぁ、楓の事?」
「確か、そんな名前で呼んでたな。」
「楓がサクヤ様に似てるのは当たり前よ。今の楓は、半分サクヤ様だから。」
レオンの言葉に一瞬目を見開いたフェイクだったが、クスリと笑うとそのまま再び目を閉じた。
「そうか…。どうりで似ているわけだ。」
「まぁ、今から死ぬアンタには関係の無いことだけどね。」
レオンはより一層強くフェイクの首筋にナイフを押し当てた。
「なぁ…。」
「あぁー!もうっ!今度は何!」
何度も何度も呼び止めるフェイクに、声を荒らげるレオン。しかし、フェイクは動じずにそっと呟くように言った。
「その毒も人間が作った毒か?」
「だとしたら?」
「お前の毒で死にたい。」
「何?最後の最後に気持ち悪い事言わないでよ。」
冗談だろうと笑い飛ばすレオンだが、フェイクの目は真剣なものだった。
「せっかくお前に殺されるんだから、人間の力じゃなくてお前の力に負けたいんだ。」
フェイクに真剣な眼差しを向けられ、苦虫を噛み潰したような顔になるレオン。
「あ、安心して。これはボクが作った毒だから…。」
「そうか。でも、素直に安心は出来ねぇなぁ。」
「何でよ!」
少し嬉しそうに微笑みながら言うフェイクに、本気でつっこむレオン。
「お前の事だから、死ぬより辛い苦しみを与えながらジワジワなぶり殺しにする毒だったりしねぇかなって。」
「あぁー…、それはどうだろうね。」
フェイクの言葉にクスッと笑ってみせる。
「まぁ、それもお前の力に変わりはねぇからいいんだけどな。」
目をつぶったまま笑うフェイクに、今度はそっとレオンが口を開く。
「じゃあ、ボク達もこの後色々とやらないといけない事があるから…。そろそろいいかな?」
「あぁ。時間をとらせてすまないな。盛大にやってくれ。」
脱力し、横たわるフェイクの首筋にナイフあてがい、切り傷をつける。それだけでレオンの毒は体内に侵入し、対象に効果を発揮するのだ。
「俺が暴れても怪我しねぇ所まで離れてろよ…。」
彼が口にした言葉はこれが最後だった。フェイクは脱力したまま苦しむ素振りすら見せずに息絶え、その体はマナの力を失い、脆く崩れるように風化していった。
「わざわざ苦しむような殺し方…するわけないでしょ…。…バカ。」
誰にも聞こえないような声でそっと呟いたレオンは、カルマやバロンの治療に向かうため立ち上がる。その時、フェイクが残した服に1粒の涙が落ちた事を、他の誰一人として知る者は居ない。
「アンタ1人で、ボク達3人を相手に出来るの?」
「ナメるなよ?以前は確かに俺の方が弱かった…。だが、お前達が人間界に行っている間に、俺の力は飛躍的に強くなった。今では、お前達3人くらい片手でも十分なくらいだ。」
そう言って、右手をヒラヒラと振るフェイク。レオンの背後では、フェイクの態度に機嫌を損ねたカルマが体からマナを溢れさせていた。
「私、人間界で死にかけたの。私の体質知ってるわよね?」
「あぁ。命に危険が及ぶ度にマナの量が増えて、能力が強化されていく…だろ?」
何を今更と言わんばかりに鼻で笑うフェイクを睨みつけながら、カルマはフェイクの前まで歩み寄った。
「強化されたのは貴方だけじゃないの。」
「ふんっ!人間ごときに殺されかけた奴が、いくら強化されても俺には勝てねぇよ!」
フェイクは素早く腰を落とし、カルマの足を払い真上に蹴りあげる。凄まじい威力で切り上げられたカルマの体は空中で何度か回転し、フェイクの目線まで落下する。
「はあぁ!」
再びフェイクの蹴りが炸裂し、今度はレオンの真横をかすめるように吹き飛ばされたカルマの体は背後にある木を何本もなぎ倒してようやく止まった。
「はい。まずは1人終了。」
ニヤリと笑って木々の残骸を見ているフェイクだが、レオン達は顔色ひとつ変えなかった。
「どうした?まさかの事態に反応すら出来ねぇか?」
「ううん。そんなヤワな攻撃じゃ、カルマにはダメージ入ってないだろうなぁって思っただけ。」
フェイクに一瞬だけ同情するような視線を送ったレオンは、やっとカルマが飛ばされた方向を見た。すると、重なるようにして倒れている木々を押しのけ、何事も無かったかのようにカルマが立ち上がった。
「うーん。ちょっと痛かったかな。」
ボロボロになった上着を脱ぎ捨て、七分丈のパンツとTシャツというラフな格好になる。そして、カルマはそのまま地面を蹴りフェイクとの間合いを詰め、その顔面に全力で蹴りを放った。
「……うっ!」
顔を腕でガードしたフェイクだったが、反動でそのまま数メートル後ろに飛ばされる。体勢を立て直し、次の攻撃に備えるフェイクの背後から、今度はバロンの回し蹴りが炸裂した。
「がはっ!」
フルパワーのバロンが放つ蹴りをまともに食らってしまったフェイクの体は、カルマ同様に木々をなぎ倒しながら吹き飛んだ。
「こんな…はずは……。」
口についた血を拭いながらフラフラと立ち上がるフェイクに、バロンは再び蹴りを放つ。しかし…。
「俺を……ナメるなって言ってるだろ!」
突然、フェイクの体から大量のマナが吹き出し、バロンの蹴りを片手で受け止めてしまった。
「なっ…!?」
慌てて足を戻そうとするが掴まれた足はフェイクの手から離れず、そのまま力強く引き寄せられてしまう。
「クソっ!」
引き寄せながら拳を構えるフェイクに、バロンは最大限の防御態勢をとった。
「うおぉぉぉ!」
突き出されたフェイクの拳は、ガードしたバロンの腕に直撃した。その瞬間、バキッという鈍い音をあげながら、バロンの体は物凄い勢いで地面に叩きつけられた。
「ぐわぁっ!」
「バロンっ!」
カルマは咄嗟に駆け出しフェイクの腹部を蹴り上げ、バロンの救出を試みる。
「なんだよ…。その生ぬるい蹴りは。」
しかし、カルマが放った蹴りは、フェイクの左手によって簡単に受け止められてしまう。
「このっ!」
すかさず体をよじり、反対の足でフェイクの首元を蹴りあげる。しかし、その攻撃も受け止められ、カルマは両足を掴まれてしまった。
「これで何も攻撃できねぇな。」
「そんな事ないわ…。」
ニヤリと笑うフェイクを睨みつけて、カルマは拳にマナを集中させる。そして、フェイクの腹部めがけて全力で突き出した。
「ぐふっ!」
「どう?これでもまだ………え?」
悶えるフェイクにもう一度攻撃しようと、拳を構えたカルマの動きが止まる。今の攻撃を食らって悶えていたはずのフェイクが笑っていたのだ。
「本当に残念な奴だなぁ。全力の攻撃が全く通用しねぇんだから。」
カルマの足を掴んで宙ずりにしたまま、フェイクはクスクスと笑う。
「あまりにも可哀想だから、最後に教えておいてやるよ。」
「な、何を?」
聞き返すカルマに不気味な程の笑みを浮かべたフェイクは、掴んだ足を天高く持ち上げた。
「…本当の攻撃ってやつだよ。」
「……!?」
狂気に満ちたフェイクの目に、カルマの背中を冷や汗が伝う。もがいても抜けない足。手を伸ばせば届いてしまう距離で、自分の攻撃は相手に通用せず、相手の攻撃は恐らく致命傷になりかねない。
「まずは蹴りだ。よーく見てろ?これが本当の蹴りってやつだッ!」
フェイクの右足がカルマの腹部にめり込み、内蔵を押し上げる。
「うぐあぁぁぁ!」
激痛と共に嘔吐感が込み上げ、咄嗟に手で口を塞ぐ。
「まだまだだぜ?今度は突きだッ!」
悶えるカルマに、今度はフェイクの拳が襲いかかる。その瞬間、カルマの脇腹から何かが潰れるような鈍い音が鳴り、口から大量の血が吹き出した。
「おぉー。今のはいい感触だったぜ?何かの内臓が潰れたな。」
「かはっ!…はぁ…はぁ…げほっ!………ふふっ。」
血を吐き、嘔吐くカルマは、掠れる意識の中フェイクの後方を見て少し微笑んだ。
「何だよ。死にそうになって遂におかしくなったか?」
「死ぬ?ふふふっ…。私は…死なないわ。死ぬのは……貴方よ…。」
「フンッ!ほざいてろ!直ぐに楽にしてや……うぐっ!」
フェイクの言葉は、突然襲った背中への痛みによって中断された。
「な、何だ!?」
「貴方…。気づかなかったでしょ…?この場から、レオンが消えてる事に。」
喋る度に込み上げてくる嘔吐感を抑えながら、カルマ言葉を続ける。
「私達は…ただの時間稼ぎ…。貴方が本気を出した時、私達じゃ勝てないと思って……げほっ!げほっ!」
言葉の途中で、カルマの口から再び血が溢れ出す。
「カルマ!もういい。喋らないで。」
フェイクの背後から歩み寄るレオンが叫ぶ。
「お前…。ふふふっ。あーはっはっはっ!そのまま隠れて逃げ回っていればいいものを!今更出てきてどうするつもりだ!」
ぐったりとしたカルマを投げ捨て、レオンに襲いかかるフェイク。しかし、フェイクの放った突きを、レオンは容易く受け止めた。
「なっ…!?」
「何?こんな力で威張っていたの?ボクごときに簡単に止められるような、こんな力で。」
煽るように言い放つレオンに、苛立ち出すフェイク。
「たかが1回受け止めたくらいで、調子に乗るんじゃねぇー!!」
再び拳を振り上げるフェイクだったが、突然体の動きが止まり、その場で膝をついてしまった。
「な…何だ、これは…。」
「ボクの戦い方、まさか忘れた訳じゃないよね?」
「ま、まさか!?」
レオンは片手でナイフをクルクルと回しながらニッコリと笑った。
「最初の背中への一撃で、アンタの体に毒を仕込んだの。まぁ、初めて使う毒だったから効くかどうかは賭けだったけど…。」
そう言ってフェイクの目の前にチラつかせた小瓶には、紫色の液体が入っており、蓋には〘獅噛製。飲んじゃダメ✩〙と書いてあった。
「即効性の強力な毒で対象の筋肉を麻痺させて動きを封じるものなんだけど、アンタがタフ過ぎて効き始めるまでかなり時間かかっちゃった。」
ポケットに瓶をしまい別の瓶を取り出すと、蓋を開けて中身の白い液体をナイフに垂らすレオン。
「相変わらず、色々と持ち歩いているんだな。」
「当たり前じゃん。相手によって使う毒を変えるのは常識だし。」
そう言って、白い液が滴るナイフをフェイクの首筋に押し当てるレオンに、フェイクは観念したように目をつむった。
「なぁ。ひとつ聞いていいか?」
「何?」
「さっき一瞬アゲハと戦っていた女、サクヤに雰囲気が似ていたな。」
フェイクはそっと目を開くと、どこか遠くを見るような目でそう言った。
「一瞬?……あぁ、楓の事?」
「確か、そんな名前で呼んでたな。」
「楓がサクヤ様に似てるのは当たり前よ。今の楓は、半分サクヤ様だから。」
レオンの言葉に一瞬目を見開いたフェイクだったが、クスリと笑うとそのまま再び目を閉じた。
「そうか…。どうりで似ているわけだ。」
「まぁ、今から死ぬアンタには関係の無いことだけどね。」
レオンはより一層強くフェイクの首筋にナイフを押し当てた。
「なぁ…。」
「あぁー!もうっ!今度は何!」
何度も何度も呼び止めるフェイクに、声を荒らげるレオン。しかし、フェイクは動じずにそっと呟くように言った。
「その毒も人間が作った毒か?」
「だとしたら?」
「お前の毒で死にたい。」
「何?最後の最後に気持ち悪い事言わないでよ。」
冗談だろうと笑い飛ばすレオンだが、フェイクの目は真剣なものだった。
「せっかくお前に殺されるんだから、人間の力じゃなくてお前の力に負けたいんだ。」
フェイクに真剣な眼差しを向けられ、苦虫を噛み潰したような顔になるレオン。
「あ、安心して。これはボクが作った毒だから…。」
「そうか。でも、素直に安心は出来ねぇなぁ。」
「何でよ!」
少し嬉しそうに微笑みながら言うフェイクに、本気でつっこむレオン。
「お前の事だから、死ぬより辛い苦しみを与えながらジワジワなぶり殺しにする毒だったりしねぇかなって。」
「あぁー…、それはどうだろうね。」
フェイクの言葉にクスッと笑ってみせる。
「まぁ、それもお前の力に変わりはねぇからいいんだけどな。」
目をつぶったまま笑うフェイクに、今度はそっとレオンが口を開く。
「じゃあ、ボク達もこの後色々とやらないといけない事があるから…。そろそろいいかな?」
「あぁ。時間をとらせてすまないな。盛大にやってくれ。」
脱力し、横たわるフェイクの首筋にナイフあてがい、切り傷をつける。それだけでレオンの毒は体内に侵入し、対象に効果を発揮するのだ。
「俺が暴れても怪我しねぇ所まで離れてろよ…。」
彼が口にした言葉はこれが最後だった。フェイクは脱力したまま苦しむ素振りすら見せずに息絶え、その体はマナの力を失い、脆く崩れるように風化していった。
「わざわざ苦しむような殺し方…するわけないでしょ…。…バカ。」
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