アナザーワールド

白くま

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最終決戦編

第三十四話 〘強敵…アスカ。〙

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 健弥達と別れ、サン・アンピールに向かう第一部隊と白の4人は、森を抜けた場所にある大きな門まで来ていた。

「この中に柚枝とアンロックが…。」

 楓が門へ手を伸ばし、開こうと力を込めたその時。

「その門は吸血鬼にしか開けないわよ?」

 突然聞こえてきた声に、楓達は咄嗟に上を見上げた。すると、1人の少女が門の上に座って楓達を見下ろしていたのだ。

「チッ!また新手かよ!」

 健太が刀を抜き最前列に出る。

「いきなり抜刀するって、物騒すぎない?」
「何事も先手必勝って言うだろ?」
「それは切りかかってから言うものでしょ?」

 足をばたつかせながら大笑いする少女に、突如光の矢が襲う。

「なら、これでいいんじゃないですか?」

 最後尾から弓を構える和海。しかし、土煙が晴れると門の上に少女は居なかった。

「ど、どこに!?」
 
 和海は辺りを見渡し少女を探す。すると不意に、和海の首筋に何か冷たいものが押し当てられた。

「はい、ストーップ。君たち、この子を殺されたくなければ動かないでね。」

 少女は、いつの間にか和海の後ろに回り込んでいたのだ。

「蒼井!」

 叫ぶ蓮の影で素早く魔法陣を描き始める白。

「…転移っ!」

 マナを込めた魔法陣が光だし、同時に和海の体も光だした。

「なんなの!?」

 困惑する少女を他所に、和海の体は少女の腕の中から姿を消し、一瞬で白が描いた魔法陣へと場所を移した。

「変わった技を使うのね。」
「戦闘で使うのは初めてだけどね。」

 白は苦笑いを浮かべて答えると、すぐさま次の魔法陣を描きだした。そんな白を見た少女は、それを阻止すべく白に襲いかかった。

「させない!」
「くっ…!」

 白の頭上を掠めるように振り抜かれた大鎌に攻撃を阻まれ、後ろへ距離をとる少女。

「お前も吸血鬼だよな?さっきの奴らとどっちが強いんだ?」

 楓達6人の動きに神経を研ぎ澄ます少女に、蓮はそっと尋ねた。

「どっちが強いと思う?まぁ、戦っていたら分かるんじゃないかな?」

 悪戯な笑みを浮かべながら少女は滅茶苦茶なスピードで駆け出し一瞬で蓮との間合いを詰めると、手に持った短刀を振り抜いた。

「っぶねぇ!」

 間一髪で短刀をかわし一歩後ろに下がる蓮に、少女は何度も短刀を振り抜いた。

「なかなかやるわね。私のスピードについてこれるなんて。」
「まぁ、一応この部隊の隊長をしてるからな。これくらいは避けれねぇと笑われちまうからよ。」
「へぇ?隊長さんなんだ。名前は?」

 短刀を振り回しながら、顔色ひとつ変えずに少女は問う。

「斉藤蓮だ。」
「そっか。私はアスカ・アンリエット、よろしくね。」
「吸血鬼とよろしくする気はねぇな。」

 切りかかる蓮の刀をかわし、短刀をふり抜くアスカ。腕で死角になっていたその攻撃に、蓮は一瞬反応が遅れる。

「しまった…!」

 ガードも回避も間に合わず、アスカの短刀が蓮に襲いかかる。

「転移!」

 しかし、短刀が蓮に突き刺さる直前、蓮の体は白の転移によって場所を移し攻撃を回避した。

「また…その技…。」

 悔しさ混じりの目で白を睨みつけるアスカの隙をつき、今度は蓮の方から襲いかかる。

「うおぉぉ!」

 突き出された刀はアスカの胸を捉え、真っ直ぐに突き刺さる。

「ぐふっ…!」

 アスカは激しく吐血し、小さなうめき声を上げながら蓮にもたれかかった。

「これ以上無抵抗の女に刀を振るのは気が引けるが、そうしないとこっちが危ういからな。悪く思わないでくれ。」

 アスカの体から刀を引き抜き一歩後ろに下がった蓮は、ふらつくアスカの体を斜めに切りつける。

「ぐあぁぁぁ!」

 鮮血を撒き散らし悲鳴をあげてよろめくアスカは、再び蓮にもたれかかる。

「く…そ……。」
「もうやめておけ。これ以上その体で戦うのは無理だ。」

 震える手にマナを集めるアスカを諭すように、蓮はアスカの手をそっと押さえる。

「わ、私は…まだやれる…。」
「もう無理だ。諦め……ろ。」

 蓮がアスカの体を起こそうとしたその時、何者かの手がアスカの体ごと蓮の体を背中から貫いた。

「き、貴様…。」
「ふふふっ。だから言ったでしょ?私はまだやれるって…。」

 蓮の背後でアスカが笑う。

「な、なんで…お前が…。」
「私がなんで2人居るかって?ふふふっ…。それより…あなたが持っているのは一体何でしょう?」

 激痛に顔を歪ませながら、蓮は両手に抱えるアスカを見た。

「……っ!?内…宮……。」
「私の術に気づかず大事に抱えてたせいで、お仲間さんはあなたの道連れになったのよ?」

 アスカはクスクスと笑うと、2人の体から腕を引き抜きその場を離れる。

「……何してるの?」
「!?」

 移動した先は、転移を発動しようとしていた白の背後だった。

「その技が1番厄介なの。悪いけどあなたから先に片付けさせてもらうわ。」

 血だらけの右手を構え、アスカは白に向かって一直線に突き出す。

「転移!」

 しかし、すかさず転移の対象を自分に変えて発動し、白はアスカの攻撃を回避した。

「その技…。自分にも使えるの?」
「当たり前でしょ…。…じゃないと……、自分が危険じゃん。」

 肩を揺らして息をする白。他人の時よりも自分を転移させる方がより大量のマナを消費するらしい。

「でも、そんなに何回も使えるってわけじゃなさそうね。」
「…くっ!」

  図星をつかれ奥歯を噛み締める白にじわじわと近づくアスカ。

「俺達のこと忘れてないか?」

  歩を進めるアスカの死角から健太は大剣を振るい、その背後からは和海が追撃の矢を放つ。しかし、アスカは2人の攻撃にしっかりと反応し、次々とかわしていく。

 「確かに早いし威力も高い…けど、その程度じゃ私に当てることは出来ないわ。」
「へっ!そうかよっ!」

 余裕の表情を見せるアスカの懐に、更に素早いスピードで踏み込む健太。そこから繰り出された一撃は、カルマ戦で使った間合いを伸ばす斬撃だった。

「ぐっ……!」

 かわしたはずの攻撃が当たりアスカは慌てて飛び退る。しかし。

「ようこそ矢の嵐へ。」

 アスカが飛び退った先に、今度は和海の能力である黄色い球体が姿を現し、素早い矢が無数に降り注ぐ。

「ぎやあぁぁぁ!」

 もくもくと立ち上る土煙、台地を揺らすような衝撃と轟音、そしてアスカの悲鳴が森中に響き渡る。和海は静かに弓を引き、狙いを土煙の中に向けた。

「……チェックメイト。」

 一直線に放たれた真っ赤な矢は土煙の中へ消えると、辺りの木々を薙ぎ倒す程の威力で大爆発を起こした。

「やりすぎじゃねぇか?」
「ここまでしないとあんな化け物倒せないでしょ?」

 あまりの爆煙に少し引き気味の健太に、弓を下ろしながらそっと呟き辺りを見渡す和海。そして、白の治療を受ける蓮と彩夜の姿を見つけると、安心したように視線を土煙の中へと向けた。

「生きてると思うか?」
「えぇ。多分あれでは殺せないと思うので。」

 和海の言葉に後ろで見ていた楓が刀に手をかける。しかし、その動きに気づいた健太は楓を振り返って言った。

「この隙に秋月は門を開けて中に入れ!ここは俺達で食い止める。」
「で、でも…。」

 楓は倒れている蓮や彩夜に視線を移す。すると、2人を治療している白が、任せてと言わんばかりの視線を楓に向けた。

「こいつくらい何とかしてみせるさ。」
「秋月さん!行ってください。」

 次第に晴れていく土煙。考えている時間は無かった。楓は素早く門まで走り、その硬い扉に手をついた。楓が力を入れるとギギギッと音を立て、門が開き始める。そして、後ろを振り返った楓は仲間の姿を見つめながら門から手を離すのだった。
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