アナザーワールド

白くま

文字の大きさ
37 / 49
最終決戦編

第三十六話 【勝利の代償】

しおりを挟む
 割れた結界の破片が降り注ぐなか、宙を舞った剣がアスカの後方で地面に突き刺さる。

「シャーロット…。」

 アスカの声にシャーロットは少し顔を上げ、アスカの腹部めがけて凄まじい速度で貫手を放った。

「うぐっ……!」

 辛うじて避けたアスカだったが、掠めた左腕から血が吹き出す。

「あなた…、何をしたの?」
「………何が?」
「だ、だって…、前のあなたはこんな力…。」

 そこでアスカはシャーロットの異変に気づいた。

「その呪印……、あなたまさか!」

 アスカの声に更に緊張感が増す。彼女が目にしたのは、シャーロットの首元で不気味に光る呪印だったのだ。

「おい、レオン。あの呪印は何だ?」
「小さい頃のシャーロットは一般吸血鬼よりも多いマナを持ってたんだけど、体自体はものすごく弱かったんだ。それも、自分のマナに負けちゃうくらい…。」

 健弥の問いに、レオンは少し悲しそうな目でシャーロットを見ながら言った。

「そこで、自分のマナを制限するための呪印を体に撃ち込むことで、何とか生きれるようになったの。」

 レオンの言葉に健弥は再び呪印へ視線を移すと、少しばかり目を細めた。シャーロットの首筋に描かれた呪印は、怪しい光を放っているのだ。

「あれだけ光っているなら、街にいる時にでも気づいたはずだけどな。」
「それは…。」

 レオンが口を噤んで下を向く。その仕草に何かを隠していることを確信した健弥は呪印について問いただした。

「あ、あの呪印はね。マナを制限する為のものなんだけど、それ以外にも使い方があるの。」
「ほぅ?」
「それは……マナの増幅。」

 レオンは手をギュッと握りしめ、呟くように静かに言った。

「マナの増幅だと?」

 健弥が声を荒らげる。本来、マナというものは人それぞれで、指紋と同じように2つと無いものだ。それ故に、他からマナを譲渡(じょうと)したりという事にはそれ相応の制約やリスクがある。

「シャーロットは何を対価にしてマナを増幅させているんだ?」
「分からない…。でも、検討はつく。」

 健弥がレオンの顔を見ると、レオンもそっと視線を合わせた。そして一瞬顔色を曇らせ、一呼吸置いてから口を開いた。

「今のシャーロットでも自分のマナを全開には出来ないの。なのに、制限を解いた上にマナを増幅なんてさせたら…。」
「確実に体が持たなくなるな。」

 この時点で健弥も検討がついていた。シャーロットはこの一瞬のために自分の体を犠牲にする気だと。しかし、健弥達にはどうすることも出来なかった。目の前で戦うシャーロットはあのアスカを圧倒する程の力とスピードを持っている。ここにいる誰が加勢しても逆に足でまといにしかならないだろう。

「はあぁぁ!」

 物静かなシャーロットから、激しい叫び声が聞こえてくる。そして、その叫び声とともに放たれた攻撃の数々は、次々とアスカの体を傷つけていった。

「はぁ…はぁ…。」

 肩を揺らして息をするアスカにシャーロットは再び駆け寄り、凄まじい威力の蹴りを放つが、アスカは奥歯を噛み締めながら上体をそらしその蹴りをかわした。しかし、シャーロットは蹴りの勢いを利用しそのまま素早く回転すると、反り返って上を向くアスカの腹部めがけて、かかとを振り下ろした。

「ごほっ……!」

 地面へと叩きつけられたアスカは、あまりのダメージに立ち上がれず仰向けに倒れたままだった。

「あなた、強く…なりすぎでしょ…。」
「……そんなことない。けど、時間が無いの。早く決着をつけないと……ゴフッ!」

 アスカに近づき貫手の構えをとろうとしたシャーロットは、突然口から大量の血を吐き出した。

「シャーロット!」

 レオンは慌ててふらつくシャーロットの元へ駆け出した。しかし、シャーロットはそんなレオンへ来ないように訴える様な視線を向け、アスカへと向き直った。

「なるほどね…。強さの秘密はそれだったの。」

 納得したように呟くアスカに近寄ったシャーロットは、見下ろすようにアスカを見ると、静かにその胸元めがけて貫手を放った。

「うぐっ!」

 体を貫通するかのような勢いで突き刺さった手が、血飛沫と共に引き抜かれる。

「こ、これじゃあ、さっきと立場が逆じゃない…。」

 悔しそうに呟くアスカの目を見て、見せつけるように手に着いた彼女の血を舐めるシャーロット。それは、アスカが悠祈にした事と全く同じだったのだ。

「見てなかったくせに……、ほんと…嫌な奴…。」
「……あなたがする事くらい想像がつく。」
「そう…。わ、私も…まだまだ…ね…。」

 アスカはシャーロットの顔を一瞬睨みつけると、力なく目を瞑りそのまま動かなくなってしまった。

「シャーロット…。」

 風化していくアスカを見つめながら立ち尽くすシャーロットにレオンが駆け寄る。

「アンタ、体大丈夫なの?」
「……だ、大丈…がはっ!」

 吐血しながら倒れ込むシャーロットを受け止めたレオンは、そのまま地面に座り込む。

「こんな無茶して…。ちょっとは自分の体を大事にしてよ。」
「……でも、こうでもしないとアスカは倒せなかった…。」

 痛むのであろう腹を押さえながら、シャーロットが呟く。

「それよりも、早く呪印を戻さないと…。」

 レオンはシャーロットの首筋へ手を伸ばしマナを送り込もうとする。しかし、その瞬間シャーロットの呪印は跡形もなく消えてしまった。

「じゅ、呪印が…。」

 抑えてあるマナが吹き出すかもしれないと、一瞬レオンの体は強ばった。しかし、シャーロットの体からマナが溢れることはない。

「……もう、封じるマナすらないのかもね………。」

 レオンにもたれかかったままシャーロットは力なく呟いた。

「……レオン…。可愛げのない私だったけど今までありがとう…。」
「何言ってるの!今までなんて…そんな…。」

 消えていくシャーロットの体を目にして、レオンの口からはそれ以上言葉が出なかった。

「……先に逝くけど、すぐについて来ちゃだめだからね?」
「シャーロット…。」

 表情があまり豊かではなかったシャーロットが、消える瞬間レオンにだけ見せた笑顔は、ずっと一緒に行動してきたレオンが見る中で最高の笑顔だった…。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

処理中です...