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最終決戦編
第四十五話 【最悪の一手】
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ユリエルは、アンロックの胸に刺さっている刀からしばらく目が離せなかった。それは、彼女にとって忘れられない…、忘れてはいけない人の持っていた刀によく似ていた。
「クソッ!誰だって聞いてるんだよ!」
もがくように体を動かすアンロックに、刀を握る少女は笑いながら口を開いた。
「何じゃ?久しく会わんかったら、ワシのマナすら忘れたか?」
ユリエルはアンロックの影から声の主の方を見た。そして、その姿を見た途端、視界が涙で滲んだ。
「か、楓…。」
そう。アンロックの体を貫いたのは楓の刀だったのだ。しかし、ユリエルはふと楓に違和感を感じた。
「久しいのぅ。またこうして外の世界に出られるとは思ってもみなかったわ。」
今、ユリエルの目の前にいる楓は、見た目はもちろん楓だが、しゃべり方が全く違っていた。
「あ、あなた…、誰?」
ユリエルは念のため数歩距離をとり、楓のような少女に訪ねた。すると、少女はユリエルの顔を見るとクスクスと笑って告げた。
「なんじゃ?お主も分からんか?小さい頃あれだけ遊んでやったというのに…。」
「ま、まさか…。」
少女の顔を見てユリエルは目を丸くした。最初は全く気がつかなかったが、よく考えてればユリエルはこの古風な話し方を知っていたのだ。
「サ、サクヤ様…?」
「おぉ!思い出したか!久しぶりじゃのぅ、ユリエル。」
嬉しそうに微笑むサクヤに、ユリエルの頭の中は未だに混乱していた。
「な、なんでサクヤ様が楓の体を…?」
「あぁ、お主は契約の事を知らんから驚くのも無理はないな。」
サクヤはアンロックの体から刀を引き抜くと、ふらつくアンロックに全力で回し蹴りを放った。
「ぐはぁっ!」
アンロックはものすごい勢いで吹っ飛び、机や椅子をなぎ倒すように倒れた。
「さてと、どこまで話したかな…。あぁ、そうそう、楓と結んだ契約の話だったな。」
振り返りながら言うサクヤにユリエルはコクリと頷きながら、同時にその容赦なさに驚いた。
「ワシは楓の持っておったこの刀に封印されていたんじゃ。それを、たまたま楓が手に取り封印を解いた。そして、楓といくつかの契約を結ぶことで、ワシは楓に自分の力を貸してやることにした。」
サクヤは自分の胸についた傷跡に手で触れ、目を細めながら言った。
「楓との契約の中に、楓が死んだら楓の体をワシが貰うというものがあった。ワシが今ここに立っているのは、その契約のおかげじゃ。」
「そう…だったんですか……。」
にっこりと笑うサクヤだったが、ユリエルの心情は複雑だった。目の前で笑っているのは、楓の顔だが楓ではない。楓は自分が殺してしまった。サクヤが微笑む度、ユリエルは楓の体を貫いた自分の手が、意思が、自分の全てが許せなくなった。
「くっ……!」
ユリエルは奥歯を噛み締め、自分への怒りを沈めようとする。しかし、自分の意思とは逆に、体を流れるマナは荒れ狂う一方だった。
「……ユリエル。」
ユリエルの変化にいち早く気づいたサクヤは、ユリエルの体を引き寄せ、抱き締めた。
「ユリエル、お主の事は楓からよく聞いている。ワシの知っているユリエルは、負けん気が強く、お堅い性格でとても可愛げがあるとは言えんかった。じゃが、今のお主は違うようじゃ。人間と一緒に暮らし始めて、良い方向へと成長したのぅ。」
「サ、サクヤ様……。」
楓の体に抱き締められ、ユリエルのマナは少しずづ静けさを取り戻し始めた。
「仲間思いで愛嬌もある。面倒見も良い年上のお姉さんだと、楓は嬉しそうに話しておった。」
「わ、私は……、そんな風に思ってくれている仲間を…この手で………。」
ユリエルは涙を流しながら自分の手を握りしめた。
「ここに来る前、楓はワシにこう言ったんじゃ。『私が死んだら、ユリエルや他の皆の事をよろしく。』とな。ワシは最初、どういうことか分からんかった。じゃが、楓はその後ここに来て予想される全ての事案を紙に書き出して作戦を立てていた。」
「す、全ての…?」
ユリエルは驚いて、思わずサクヤの顔を見上げた。
「あぁ、全てじゃ。そして、その中にしっかりとあったんじゃ。お主が敵に寝返っておる状況も、お主と楓が殺し合わされる状況も。」
「…!?」
「だから、お主はそんなに自分を攻めるでない。」
ユリエルは、驚きのあまり目を見開いたまましばらく動けなかった。ここで起こるであろう状況を、向こうにいる間に全て予想し対策を立てるなど、普通に考えれば不可能な話だ。しかし、ユリエルにはサクヤが嘘をついているなんててことも考えられなかった。
「サ、サクヤ様は、その話を聞くときに楓から他に何か聞きましたか?」
「他か?」
「はい。」
ユリエルは、ひとつの可能性を考えていた。それは、ユリエルと楓が初めて会った晩、ステーキ屋アヴェンタドールで楓が言っていた一言。楓が実は異世界から召喚された存在だということだ。ユリエルは当時、最も自然な回答だと楓を疑いはしなかった。だが、楓の言っていたことは信憑性どころか現実感が全く無い。そんな話を心の底から信じろというのは、難しい話でもあったのだ。しかし、その話がもしも本当なのであれば、自分達の知らない知識や能力を持っていてもおかしくはない。ユリエルはそう思い、もう一度サクヤに詰め寄った。
「何か聞いていませんか?」
「楓は、異世界から来たと言っていた。」
「他には?」
もっと情報はないのかという風に、どんどんサクヤに詰め寄るユリエル。
「あとは、ワシがどうしてそんなに思いつくのかと聞いたら、ふぁんたじーものにはこれくらいあって当然だの、ラスボスに超がつくほどのげすきゃら…?は王道だのと、訳の分からんことを言っておったが…。」
「……。」
サクヤの話した内容を整理するユリエル。正直なところ、楓の話していた内容はユリエルにも理解不能だった。しかし、これで確証に近いものは得ることが出来た。
「楓は…、恐らく本当に異世界から来てる…。」
ユリエルは考え込みながらボソリと呟いた。そして、自分が既に死んでいることや、今ここに入れ替わったサクヤが居ることを含めて、全てにおいて楓の予想通りなのだと思うとユリエルは小さく体を震わせた。
「全く…。なんて子なの…。」
不意に笑みが溢れると共に、全身が脱力していくのが分かる。だが…。
「さっきので俺を殺したつもりか?」
「!?」
突如聞こえてきた声にユリエル達は咄嗟に身構える。すると、机や椅子を押し退けるように、アンロックが立ち上がった。
「あれだけの深手を負わせたのに、まだ動けるのね。」
「あぁ…。だが、びっくりしたぜ。サクヤのマナに似ているとは思っていたが、まさかサクヤ本人が出てくるとはな。」
クククと笑うアンロックに、刀を向けるユリエル。だが、アンロックは身構えることすらしなかった。
「どうしたの?傷が深すぎて構えることすら出来ない?」
「バカめ。構えられないんじゃない。構える必要がないんだよ!」
アンロックの言葉を、ユリエル達は一瞬理解出来なかった。しかし、アンロックが倒れていた場所、倒れていた時間を考えるとすぐ答えに気がついた。
「ま、まさか…、あなた……ボタンを…?」
「あぁ。そのまさかだ。」
そう言ってアンロックが掲げた端末のボタンは、緑色から赤色へと変化していた。
「な、なんてことを…。」
「あっはっはっはっ!!!!!!お前達が悪いんだよ!俺はちゃんと忠告したはずだぜ?ボタンを押されたくなかったら大人しくしとけってなぁ!」
胸から血を流しながらケラケラと笑うアンロック。その傷口から流れ出した血で、アンロックの足元は既に血の海と化していた。
「もう、あいつも長くないわね…。」
眉間にシワを寄せて、サクヤが呟いた。その瞬間、ユリエルは地面を蹴り、アンロックの近くまで跳躍すると、その胸ぐらを掴んで叫んだ。
「早く止めなさい!こんなことをしても、何も意味がないわ!」
「へっ…、起動すればもう、俺にも止められねぇ……。お前達も、俺の死の道連れにしてやる…。」
そう言ってアンロックはユリエルに体を近づけると、その首筋に噛みついた。
「ユリエル!」
走り寄ろうとしたサクヤを、ユリエルは後ろ手に制止する。
「最後の忠告よ。早くこの装置を止めて。」
「何度も、言わせるなよ…。止められねぇって言ってんだろ……。それに…やっとお前の血にありつけるんだ、存分に楽しまないと損だろ…。」
事切れる寸前でも、自分の首に噛みついてヘラヘラと笑っているアンロックを見て、ユリエルは虫酸の走る思いがした。そして、一心不乱に血を啜るアンロックを軽蔑するように見下すと、自ら首を押しつけて言い放った。
「もういいわ……。よく味わいなさい!これが…、あなたを殺す女の味よっ…!」
ユリエルは噛みつかれたまま手刀にマナを込め、既に傷ついて弱くなっているアンロックの胸元にその手を突き刺した。
「ぐふぁっ……!」
アンロックの吐き出した大量の血が、ユリエルの体を一瞬で真っ赤に染めた。しかし、ユリエルはそんなことには構いもせず、突き刺した手でアンロックの体の中をまさぐると、未だに一定のリズムで伸縮を繰り返すアンロックの心臓を手にした。
「まだ心臓がこんなに元気なのは私の血を飲んでるから?」
心臓が膨らみ始めたのを、握りつぶすように押し返す。
「ごほぉ……がはぁ……。」
アンロックが吐き出した血はとうとう、ユリエルの顔と右肩以外の全身を真っ赤に染めた。しかし、これだけの血を吐き出しても、アンロックはまだ生きていた。それは、吐き出した血を補充するかのように、ユリエルから大量の血を吸っているからだ。当然、次第にユリエルの足が貧血で震え始める。
「ユリエル!それ以上は危険じゃ!早くそいつにドトメを刺せ!」
ユリエルの身の危険を悟ったサクヤは即座に駆け寄り、アンロックを引き剥がしにかかった。しかし、その時にはアンロックの体は脱力しきっていて、ユリエルの体から簡単に離れた。
「全く…、無茶をするでないっ!見ているこっちがひやひやしたわ!」
「すみません…。少しでもこいつを、苦しめて…やろうと……。」
大量出血で体力を殆ど失ってしまったユリエルは、サクヤへ倒れこむように気を失うのだった。
「クソッ!誰だって聞いてるんだよ!」
もがくように体を動かすアンロックに、刀を握る少女は笑いながら口を開いた。
「何じゃ?久しく会わんかったら、ワシのマナすら忘れたか?」
ユリエルはアンロックの影から声の主の方を見た。そして、その姿を見た途端、視界が涙で滲んだ。
「か、楓…。」
そう。アンロックの体を貫いたのは楓の刀だったのだ。しかし、ユリエルはふと楓に違和感を感じた。
「久しいのぅ。またこうして外の世界に出られるとは思ってもみなかったわ。」
今、ユリエルの目の前にいる楓は、見た目はもちろん楓だが、しゃべり方が全く違っていた。
「あ、あなた…、誰?」
ユリエルは念のため数歩距離をとり、楓のような少女に訪ねた。すると、少女はユリエルの顔を見るとクスクスと笑って告げた。
「なんじゃ?お主も分からんか?小さい頃あれだけ遊んでやったというのに…。」
「ま、まさか…。」
少女の顔を見てユリエルは目を丸くした。最初は全く気がつかなかったが、よく考えてればユリエルはこの古風な話し方を知っていたのだ。
「サ、サクヤ様…?」
「おぉ!思い出したか!久しぶりじゃのぅ、ユリエル。」
嬉しそうに微笑むサクヤに、ユリエルの頭の中は未だに混乱していた。
「な、なんでサクヤ様が楓の体を…?」
「あぁ、お主は契約の事を知らんから驚くのも無理はないな。」
サクヤはアンロックの体から刀を引き抜くと、ふらつくアンロックに全力で回し蹴りを放った。
「ぐはぁっ!」
アンロックはものすごい勢いで吹っ飛び、机や椅子をなぎ倒すように倒れた。
「さてと、どこまで話したかな…。あぁ、そうそう、楓と結んだ契約の話だったな。」
振り返りながら言うサクヤにユリエルはコクリと頷きながら、同時にその容赦なさに驚いた。
「ワシは楓の持っておったこの刀に封印されていたんじゃ。それを、たまたま楓が手に取り封印を解いた。そして、楓といくつかの契約を結ぶことで、ワシは楓に自分の力を貸してやることにした。」
サクヤは自分の胸についた傷跡に手で触れ、目を細めながら言った。
「楓との契約の中に、楓が死んだら楓の体をワシが貰うというものがあった。ワシが今ここに立っているのは、その契約のおかげじゃ。」
「そう…だったんですか……。」
にっこりと笑うサクヤだったが、ユリエルの心情は複雑だった。目の前で笑っているのは、楓の顔だが楓ではない。楓は自分が殺してしまった。サクヤが微笑む度、ユリエルは楓の体を貫いた自分の手が、意思が、自分の全てが許せなくなった。
「くっ……!」
ユリエルは奥歯を噛み締め、自分への怒りを沈めようとする。しかし、自分の意思とは逆に、体を流れるマナは荒れ狂う一方だった。
「……ユリエル。」
ユリエルの変化にいち早く気づいたサクヤは、ユリエルの体を引き寄せ、抱き締めた。
「ユリエル、お主の事は楓からよく聞いている。ワシの知っているユリエルは、負けん気が強く、お堅い性格でとても可愛げがあるとは言えんかった。じゃが、今のお主は違うようじゃ。人間と一緒に暮らし始めて、良い方向へと成長したのぅ。」
「サ、サクヤ様……。」
楓の体に抱き締められ、ユリエルのマナは少しずづ静けさを取り戻し始めた。
「仲間思いで愛嬌もある。面倒見も良い年上のお姉さんだと、楓は嬉しそうに話しておった。」
「わ、私は……、そんな風に思ってくれている仲間を…この手で………。」
ユリエルは涙を流しながら自分の手を握りしめた。
「ここに来る前、楓はワシにこう言ったんじゃ。『私が死んだら、ユリエルや他の皆の事をよろしく。』とな。ワシは最初、どういうことか分からんかった。じゃが、楓はその後ここに来て予想される全ての事案を紙に書き出して作戦を立てていた。」
「す、全ての…?」
ユリエルは驚いて、思わずサクヤの顔を見上げた。
「あぁ、全てじゃ。そして、その中にしっかりとあったんじゃ。お主が敵に寝返っておる状況も、お主と楓が殺し合わされる状況も。」
「…!?」
「だから、お主はそんなに自分を攻めるでない。」
ユリエルは、驚きのあまり目を見開いたまましばらく動けなかった。ここで起こるであろう状況を、向こうにいる間に全て予想し対策を立てるなど、普通に考えれば不可能な話だ。しかし、ユリエルにはサクヤが嘘をついているなんててことも考えられなかった。
「サ、サクヤ様は、その話を聞くときに楓から他に何か聞きましたか?」
「他か?」
「はい。」
ユリエルは、ひとつの可能性を考えていた。それは、ユリエルと楓が初めて会った晩、ステーキ屋アヴェンタドールで楓が言っていた一言。楓が実は異世界から召喚された存在だということだ。ユリエルは当時、最も自然な回答だと楓を疑いはしなかった。だが、楓の言っていたことは信憑性どころか現実感が全く無い。そんな話を心の底から信じろというのは、難しい話でもあったのだ。しかし、その話がもしも本当なのであれば、自分達の知らない知識や能力を持っていてもおかしくはない。ユリエルはそう思い、もう一度サクヤに詰め寄った。
「何か聞いていませんか?」
「楓は、異世界から来たと言っていた。」
「他には?」
もっと情報はないのかという風に、どんどんサクヤに詰め寄るユリエル。
「あとは、ワシがどうしてそんなに思いつくのかと聞いたら、ふぁんたじーものにはこれくらいあって当然だの、ラスボスに超がつくほどのげすきゃら…?は王道だのと、訳の分からんことを言っておったが…。」
「……。」
サクヤの話した内容を整理するユリエル。正直なところ、楓の話していた内容はユリエルにも理解不能だった。しかし、これで確証に近いものは得ることが出来た。
「楓は…、恐らく本当に異世界から来てる…。」
ユリエルは考え込みながらボソリと呟いた。そして、自分が既に死んでいることや、今ここに入れ替わったサクヤが居ることを含めて、全てにおいて楓の予想通りなのだと思うとユリエルは小さく体を震わせた。
「全く…。なんて子なの…。」
不意に笑みが溢れると共に、全身が脱力していくのが分かる。だが…。
「さっきので俺を殺したつもりか?」
「!?」
突如聞こえてきた声にユリエル達は咄嗟に身構える。すると、机や椅子を押し退けるように、アンロックが立ち上がった。
「あれだけの深手を負わせたのに、まだ動けるのね。」
「あぁ…。だが、びっくりしたぜ。サクヤのマナに似ているとは思っていたが、まさかサクヤ本人が出てくるとはな。」
クククと笑うアンロックに、刀を向けるユリエル。だが、アンロックは身構えることすらしなかった。
「どうしたの?傷が深すぎて構えることすら出来ない?」
「バカめ。構えられないんじゃない。構える必要がないんだよ!」
アンロックの言葉を、ユリエル達は一瞬理解出来なかった。しかし、アンロックが倒れていた場所、倒れていた時間を考えるとすぐ答えに気がついた。
「ま、まさか…、あなた……ボタンを…?」
「あぁ。そのまさかだ。」
そう言ってアンロックが掲げた端末のボタンは、緑色から赤色へと変化していた。
「な、なんてことを…。」
「あっはっはっはっ!!!!!!お前達が悪いんだよ!俺はちゃんと忠告したはずだぜ?ボタンを押されたくなかったら大人しくしとけってなぁ!」
胸から血を流しながらケラケラと笑うアンロック。その傷口から流れ出した血で、アンロックの足元は既に血の海と化していた。
「もう、あいつも長くないわね…。」
眉間にシワを寄せて、サクヤが呟いた。その瞬間、ユリエルは地面を蹴り、アンロックの近くまで跳躍すると、その胸ぐらを掴んで叫んだ。
「早く止めなさい!こんなことをしても、何も意味がないわ!」
「へっ…、起動すればもう、俺にも止められねぇ……。お前達も、俺の死の道連れにしてやる…。」
そう言ってアンロックはユリエルに体を近づけると、その首筋に噛みついた。
「ユリエル!」
走り寄ろうとしたサクヤを、ユリエルは後ろ手に制止する。
「最後の忠告よ。早くこの装置を止めて。」
「何度も、言わせるなよ…。止められねぇって言ってんだろ……。それに…やっとお前の血にありつけるんだ、存分に楽しまないと損だろ…。」
事切れる寸前でも、自分の首に噛みついてヘラヘラと笑っているアンロックを見て、ユリエルは虫酸の走る思いがした。そして、一心不乱に血を啜るアンロックを軽蔑するように見下すと、自ら首を押しつけて言い放った。
「もういいわ……。よく味わいなさい!これが…、あなたを殺す女の味よっ…!」
ユリエルは噛みつかれたまま手刀にマナを込め、既に傷ついて弱くなっているアンロックの胸元にその手を突き刺した。
「ぐふぁっ……!」
アンロックの吐き出した大量の血が、ユリエルの体を一瞬で真っ赤に染めた。しかし、ユリエルはそんなことには構いもせず、突き刺した手でアンロックの体の中をまさぐると、未だに一定のリズムで伸縮を繰り返すアンロックの心臓を手にした。
「まだ心臓がこんなに元気なのは私の血を飲んでるから?」
心臓が膨らみ始めたのを、握りつぶすように押し返す。
「ごほぉ……がはぁ……。」
アンロックが吐き出した血はとうとう、ユリエルの顔と右肩以外の全身を真っ赤に染めた。しかし、これだけの血を吐き出しても、アンロックはまだ生きていた。それは、吐き出した血を補充するかのように、ユリエルから大量の血を吸っているからだ。当然、次第にユリエルの足が貧血で震え始める。
「ユリエル!それ以上は危険じゃ!早くそいつにドトメを刺せ!」
ユリエルの身の危険を悟ったサクヤは即座に駆け寄り、アンロックを引き剥がしにかかった。しかし、その時にはアンロックの体は脱力しきっていて、ユリエルの体から簡単に離れた。
「全く…、無茶をするでないっ!見ているこっちがひやひやしたわ!」
「すみません…。少しでもこいつを、苦しめて…やろうと……。」
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